僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

18.面接

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 夏休みまでは、まだ少し間がある。
 進学を希望している宮沢・山田・市川・大塚は、引退してから受験勉強にシフトして、毎日忙しそうにしている。

 僕は社会人野球に進みたい。
 横浜通運のスカウトの人が試合を見に来てくれたのか?
 何も情報が無いので、少し焦り始めていた。

 他の企業のセレクションとかは無いのだろうか?
 練習に参加させてもらって、僕の力を見てくれる企業は無いのだろうか?
 ネットで調べてみたけれど、なかなか有益な情報は出ていない。
 このまま何も進展しないならば、独立リーグやクラブチームも視野に入れて考えてみようか……

 そんな心配をしていたある日、担任の先生に呼ばれて進路相談室へ行った。
 堀内監督も来ていた。
 何か進展があったのだろう。
 悪い報告だと嫌だなぁ……
 なんて心配もしたが、二人とも笑顔があったので、悪い話しではないようだ。

 どうやら横浜通運で、僕を採用する方針が決まったらしいのだ。
 夏休みになったら、面接と簡単な入社テストがあるので、面接の練習をすることになった。
 それから制服がヨレヨレで汚れも目立つので、クリーニングに出しておくように言われた。

 やった!
 高校に進学する時に、漠然とした目標だった社会人野球に進むことができそうだ。
 ここで活躍すれば三年後にはプロに行ける可能性もある。
 プロになれなくても、横浜通運の社員として働けば、子供の頃のような貧乏生活にはならないだろう。

 このチャンスは絶対モノにしなければならないっ!
 面接では何を言えばいいのだろうか?
 この会社は通過点で、将来はプロになりたいです。
 とか言ってしまうと不合格になったりしないだろうか?
 色々心配なことが多いが、とりあえず基本的な挨拶と礼儀だけは、しっかりできるようにしなければいけない。
 夏休みが始まるまで、放課後は毎日面接の特訓になった。

 夏休みが始まり、いよいよ面接の日になった。
 横浜通運の本社は、横浜ボールパークのある関内駅の近くらしいが、野球部のグラウンドは厚木市内にあり、野球部の寮は海老名駅の近くにあるらしい。
 この日はグラウンドに隣接した、厚木営業所に来るように言われていた。
 面接の後に、チームの練習にも参加することになっているので、下手なプレーはできない。

 家を出発する時から、ガチガチに緊張しているのが自分でも分かる。
 横浜出身だが、厚木まで行く小田急線には馴染みが無い。
 新宿の乗り換えは大丈夫だろうか?
 ちょっとした冒険に出かける気分だ。
 本厚木駅を降りてバス路線を調べる。
 もう少しで到着してしまう。
 心臓はバクバクだ。

 最寄りのバス停を降りて、事前にスマホで調べておいた方向に歩くと、すぐに営業所に着いた。
 受付で訪問した旨を伝えると、応接室に案内された。
 部屋にはスーツ姿の人が二人と、ユニフォームを着た人が一人待っていた。

「し、失礼します。上田染川高校の水野冬樹ですっ! 宜しくお願いいたしましゅっ!」
 あれ? 何か変だったかな?
「まぁまぁ、水野君。そんなに固くならなくても大丈夫だから、もっとリラックスして話しをしよう」
「ひゃ、ひゃい!」
 ヤバい、ちゃんと声が出ないっ!
「横浜通運野球部の監督をやっている胡桃沢です。娘がいつもお世話になっているようだね」
「??? えっ? 胡桃沢、監督。って、香織…… さんの、お父さんなんですか?」
「君のことは娘からよく聞いているよ。実は二年前の準々決勝も見に行ってるんだ。
 まぁその時は佐久穂の青木君を見に行ったんだけどね。染川高校もいいチームだったよなぁ」
 と言うか、頭が混乱していて、話しが入って来ない。
 香織も前もって言ってくれればいいのに、これで不合格になったらどうするんだっ!

「君とは他にも縁があってね。
 子供の頃から知っているんだけど、今回採用することになったのは、そんな事は関係無くて君の実力を評価してのことだから、しっかり頑張ってもらいたい」
 ますます混乱してしまう。
 何で僕の子供の頃のことを知ってるんだ? 

「積もる話しは入社した後にするとして、どうだい? 早速練習に参加してみないかい?
 ここで話しをしているよりリラックスできるんじゃないかい?」
「ひゃ、ひゃい。お願いしましゅっ!」
 練習に参加するのも緊張するが、予想外の事が多すぎて頭がパニックだ。
 ここで話しをしているよりもマシだろう。

 先ずはブルペンでキャッチボールからスタートしたが、最初の二~三球でレベルの違いが理解できた。
 今まで青木投手や松村先輩の速球を見てきたが、それは打者としての目線であり、捕手として受ける感覚は全く違うものだった。
 しかもキャッチボールレベルなのに、綿田や後藤よりも速いし、何よりも球質が全く違う。
 ズシリと重い球なのだ。
 本気で投げたらどんな球なのだろうか?
 捕れるのだろうか?

 続いてフリーバッティングだ。
 一年生の頃から木製バットで練習していたので、金属バットとは違う感覚は理解しているつもりだ。
 それなりに自信はあったのだが、やはり球質の重さを感じる。
 どうしても差し込まれてしまい、いい当たりを打つことができなかった。

「まぁ最初はそんなもんだ。すぐに対応できるようになるから、焦る必要はないよ」
 本当だろうか?
 今日は面接でも練習でも、精神的ダメージが凄すぎる……

「大学生は卒業前に少しは練習に参加してもらうんだけど、高校生は学業優先だから卒業までは来てもらうことはないと思う。
 来年の入社式までは、自主トレメニューを渡すから、しっかりトレーニングして来て欲しい。
 今日はご苦労さん。期待しているよっ!」
「えっ? 筆記試験とかやらなくていいんですか?」
「なんだい? やりたいのかい? 君の学校の成績を見たけど、多分問題ないだろう。
 やっておくとしたら、パソコンが使えるように慣れておくといいかな?
 表計算ソフトとか使えるようにしておいてもらいたいな」
「あ、はい。勉強しておきます」
「今日は娘に会って行くのかな?」
「えっ? そ、それは内緒です……」
「アハハ! 俺は細かいことには口出しはしないけど、一生懸命いい娘に育てたつもりだから宜しく頼むよ!」
「ひゃ、ひゃい。こちらこそ宜しくお願いしましゅ」

 どうやら進路は決まった様子だが、予想外の展開で気持ちの整理が追い付かない。
 会社の面接には合格した様だが、父親目線の面接としてはどうだったのだろうか?
 そっちのほうが気になるところだ。

 香織が決勝戦を観に来た理由も分かった。
 あの時もそうだったが、事前に言ってくれれば、こっちとしても心の準備ができるのにっ!
 どうも最近は振り回されっぱなしだ。
 そのうちやり返してやらねばっ!

 この日は横浜ボールパークで試合があるので、香織と一緒に観戦する予定になっている。
 彼女が小学生の頃から野球が好きだったことも、今日の出来事で全て繋がった。
 デートで野球観戦という選択肢があるのはありがたい。
 遊園地に行ったり映画を観たりするのも悪くないが、野球は自分でプレーするのも楽しいし、観戦するのも楽しいのだ。
 彼女が野球好きで良かった。

 この日は横浜市内のビジネスホテルに泊まった。
 翌日は夕方までショッピングに付き合ったり、人気の店のスイーツを食べに行ったり、彼女が考えたプランで一緒に過ごした。
 会う前は、イロイロ文句を言ってやろう。
 と思っていたのだが、一緒に過ごしていると、そんなことは忘れてしまうほど楽しかった。

 上田に戻り、横浜通運に内定が決まったことを母に報告した。
「あのさ母ちゃん、野球部の監督が胡桃沢監督って言うんだけど、子供の頃から俺のこと知ってるって」
「! 本当かいっ? 胡桃沢君が監督のチームに入るんだっ!」
「何だよ、胡桃沢君って…… 知り合いなの?」
「あたしが慶教大学の野球部のマネージャーやってた時の四番バッターだったんだ。
 あんたのお父さんとは、胡桃沢君に紹介してもらって初めて会ったんだよ」
「へぇ…… それで?」
「う~ん…… あとは胡桃沢君に聞いてよ。まだダメだわ……」

 何か少しだけ謎が解けて、真実に近付いたような気がした。
 続きは来年の春までの楽しみにしておこう。
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