僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

20.父のこと

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 新人研修が終わり、町田営業所に配属された。
 海老名からだと、小田急線とバスの乗り継ぎで通うことになる。
 午前中は伝票入力や配車の管理などを行い、午後から厚木のグラウンドに向かって練習となる。
 通勤と練習の移動には、比較的恵まれた場所に配属されてラッキーだった。

 社会人野球の大きな大会は、日本選手権と都市対抗がある。
 その予選を戦いながら、地域のカップ戦などもあるので、春から秋にかけては毎月公式戦が組み込まれている。

 僕のような高卒で実績の無い選手は、先ずは練習試合で結果を残してアピールすることが大切だ。
 神奈川県内には強豪チームが多いが、都市対抗や日本選手権の予選で当たりそうなチームとは、なかなか練習試合をすることが無い。
 ワンランク実力の落ちるチームが相手になるが、レギュラーを目指す若手にとっては大切な試合だ。

 練習試合では二年目の富山さんがスタメンで、途中から僕に交代するパターンが多かった。
 守備型の捕手と思っていた富山さんは、相手の実力が少し落ちると、打撃でもパワーを発揮する長距離砲だった。
 リード面でも相手の特徴をよく研究していて、投手陣の信頼も厚い。

 一方僕は、長打は狙わずコンパクトに打って出塁すると、チャンスがあれば盗塁も狙う、今まで通りのスタイルで対抗する。
 守りでは、相手チームのデータどころか、味方チームの投手の特徴も知らないのだが、相手の狙い球が聞こえてしまうのだから、その逆を要求すれば良いのだ。
「水野は大胆な配球をするけど、要求通りに投げると、不思議と打たれないよなぁ」
 なんて、投手陣の間では噂になり始めていた。

 そうは言っても大切な試合では、やはりベテランの根本さんがスタメンを任されることが多く、大学野球も経験している富山さんが二番手だ。
 僕の出番は公式戦ではなかなか巡って来ない状態だ。
 でもやることはいくらでもある。
 相手チームの特徴は勿論、自分のチームの選手の特徴もメモした。
 少し気が早いが、プロ野球を観る時も、ただ楽しんで観ているのではなく、気付いたことはメモする習慣が身に付いてしまっていた。

 社会人とは言え、未成年なので酒は飲めないし、飲んだこともないので美味いのか不味いのかも分からない。
 甘酒が美味いことは知っているが、居酒屋には無い。
 今年のチームで高卒で入社したのは、僕とピッチャーの斎藤だけだし、去年の高卒ルーキーは夏前に早々と誕生日を迎え、二十歳になってしまったので、飲み会でウーロン茶とかコーラを飲んでいるのは、僕と斎藤の二人だけである。

 でも皆で集まってワイワイ話しをするのは嫌いではないし、先輩が注文した酒を少し飲ませてもらったりして、少しずつ酒を飲めるように訓練しようと思って、できる限り参加していた。
 一番の目的は、監督から父の話しを聞くチャンスがあるのではないか?
 そんな期待をしていたのだが、そもそも監督が飲み会に参加することが少なかったし、たまに来ても僕のような新人が監督の近くに座れる訳でもなく、なかなかチャンスは訪れなかった。

 そんなこんなで、秋の都市対抗が終わると三月まで大きな大会は無い。
 ルーキーイヤーの僕の公式戦の出場は、小さなカップ戦のみの十試合で、18打数4安打、四球が7つという地味な結果に終わった。
 あまり注目されていないと思うが、打率は低いが出塁率が高いことと、代走も含めて盗塁を8個決めていることは、自画自賛してもバチは当たらないだろう。
 それから、あまり人には気付かれていないと思うのだが、僕が捕手として出場している時のチーム防御率が1点台なのだ。
 ドルフィンズのスカウトの人にだけ気付いてもらいたいセールスポイントなのだが、相手があまり強くない、地方の小さなカップ戦の成績じゃぁ、誰も評価するはずないか……

 ウチの大学のリーグには、プロのスカウトなんて誰も来ないよ。
 って言っていたカズさんの気持ちが、少し分かったような気がした。
 やはり都市対抗や日本選手権で活躍しないと、プロからは評価されないよなぁ…… 

 今のところ、小さなカップ戦ですら打率は低いのだから、先ずはそこから改善しなければ!
 社会人のスピードとパワーに完全に対応できていないことが原因だろう。
 何せ佐久穂や松翔のエース級の投手と毎回当たっているような感覚なのだ。
 毎日長野県大会の決勝戦を戦っているのと同じだと思えば、一定の成績を残すことは難しい。
 今年の冬は、更にパワーアップすることが目標だ。

 シーズンオフに車を購入することにした。
 電車とバスを乗り継いで、営業所からグラウンドまで移動する時間を短縮して、少しでも多く練習時間を確保する為だ。
 町田営業所から東名横浜インターに乗り、厚木インターで降りると、グラウンドまですぐに行ける。
 それから、休日に香織と遊びに出掛けるのにも有効だろう。
 まだ貯金も無いので三十万円台の、少々くたびれた中古のコンパクトカーを購入した。
 軽のほうがコスパは良いと思ったが、高速道路を利用するし、実家に帰る時も普通車のほうが楽だろうと判断した。

 十二月と一月は全体練習も少ないし練習試合も無い。
 それでも毎日厚木に通って、室内練習場で筋トレに励むことにした。
 変に体を大きくすると、持ち味でもあるスピードが落ちてしまうので、バランス良く鍛えることが重要だろう。
 トレーナーを目指している香織にも相談しながら、練習メニューを考えて実践しているところだ。

 そんなある日、監督がフラリとやってきた。
 なかなか二人で話しをする機会が無くて、ここまで聞けずにいた父のことを聞く大チャンスだ!

「あのぉ…… 母に聞いたんですけど、父との出会いは監督に紹介してもらったって……」
「おぉ! 確かにそうだっ!」
「でも母は父のことを話したくないみたいで、僕は気付いた時から母と二人暮らしで、父のことを何も知らないんですよ。
 母は、まだダメだから監督に聞け。って……」
「そうか…… 美奈ちゃん、まだダメって言ってるんだ……」
 美奈ちゃんって…… そうか、監督からすると、母は美奈ちゃんなんだ。
「俺に聞け。って言ってるなら、俺の口から説明してもいいんだよなぁ……
 君も十九になるし、父親のこと何も知らないで成人するのも可哀そうだしな。
 今日は練習は終わりにして、ちよっと一杯やりに行くかっ!
 って一杯やるのは俺だけなんだけどな」

 この日は厚木営業所に車を停めさせてもらい、本厚木駅近くの居酒屋に移動した。
 父のことを詳しく聞くのは初めてなので緊張していた。
 どんな人なんだろうか?

 父と監督は長野県松本市出身で、松本深見高校の同級生だったそうだ、父の名前は矢口和幸ということだ。
 初めて知った。
 僕は本当なら矢口冬樹だったのか……
 父は山岳部に所属していて、長野県の山々を登っては、写真を撮ることが好きだったそうだ。
 監督は野球部の四番打者で、当時は松翔・長野商工・丸子専修館などの強豪校と互角に戦っていたそうだ。
 そんな時に、父が撮った監督の写真が、地方紙のコンクールで入賞したことがきっかけで仲良くなったらしい。

 その後は二人一緒に慶教大学に進学して、関係性は変わらず、父は山岳部、監督は野球部で活躍していたそうだ。
 そこで上田増尾高校から進学してきて、野球部のマネージャーをやっていた母を父に紹介して、二人は付き合うようになったとのことだ。
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