僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

21.突破口

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 卒業後、監督は横浜通運野球部に入り、プロには行けなかったが、そのまま選手生活を全うして今に至る。
 父はフリーの山岳カメラマンを志し、アルバイトをしながら山に登り、写真を撮り続けていたが、なかなか目が出ず祖父母からは結婚を反対されていたそうだ。

 そんな中、入籍する前に僕が生まれてしまい、何とか結婚を認めてもらえるように、厳冬の北アルプスに撮影登山に行き、大きな雪崩に巻き込まれたらしく、今も行方不明になっている。
 とのことだ。

 捜索隊が発見した父のザックに残されたカメラから、「稜線の果て」という写真集が出版され大ヒットしたらしい。
 そう言えばウチにもあったなぁ……
 子供の頃に見た記憶があるけど凄い風景だった。
 あれは父が撮影したものだったのか。

 生命保険の受取人は母ではなく父の両親。
 写真集の印税も父の両親。
 孫である僕の為にも受け取って欲しい、との申し出があったらしいが、母は「あの人は死んでませんからっ!」と言って一切受け取らなかったそうだ。

 結婚に反対していた祖父母との関係も悪化して、二人で父の帰りを待つ暮らしをしていたが、僕の為に実家に戻る決心をしたということか……
 母も苦渋の決断だったのだろう……

 いや、待てよ。これからは山登りを趣味にする。
 って言ってたなぁ……
 絶対に長続きしないと思っていたけど、上田に引っ越してから毎月のように山登りに行ってるじゃん。
 もしかしたら父を探しに行ってるのだろうか?

 監督の話しによると「あの人は雪崩に巻き込まれて記憶を無くしているけど、どこかの山小屋で住み込みで働いている。絶対に死んでない!」と言っていたらしい。
 母の気持ちも分からないではない。
 仮に香織に同じことが起きたとしたら、僕もそう思うだろう。
 でも流石に19年も経つし、今の日本で正体不明のまま生活するのは難しいのでは?
 残念だけど、やっぱり生きているとは思えないよなぁ……

「監督、父の顔を知らないので、若い時の写真があったら見せて下さいよ」
「おぉ、そうか。今度持って来てやろう。君は美奈ちゃん似だな。和幸は顔もゴツかったけど、体もゴツかったからなぁ」
「そうなんですか、じゃぁ父に似ていたら、違うタイプの選手になっていたかもしれませんね。
 もう少しパワーがあればなぁ…… ってよく思いますよ」
 そうなのだ、僕にもう少しパワーがあれば……
 非力だからファールで逃げて、なんとか四球で出塁しているが、相手の得意な球を一振りで仕留めるパワーがあればなぁ…… 
 でも、今日は父の話しを聞けて良かった。
 自分が目標とした道で、しっかりと実績を残した立派な父親だった。
 その結果を本人が知らないであろうことが残念だが、あの写真集は父が撮ったことを知らなかったのに、子供の頃の僕が見ても感動したのだから、一流の写真家だと言っても誰も反論なんてしないだろう。
 

 三月から日本選手権の予選が始まったが、僕の出番は無い。
 大事な試合で使ってもらえる信頼を得ていないのだから仕方ないが、中学高校と常にレギュラーとして出場していたので、試合に出れないとコンディションを維持するのが難しい。
 急に指名された時に結果を残せなければ、いつまで経ってもレギュラーにはなれないので、気持ちを切らさずにベストな状態を維持する。
 これは意外と難しいことだ。

 打撃には調子の波があるが、守備と走塁は結果を残し易い。
 代走で起用された時は常に先の塁を狙い、マスクを被らせてもらえた時は、絶対に失点しないようにリードすることを心掛けた。
 
 練習試合や地域のカップ戦で少しずつ成果が現れてきた。
 投手陣からも「水野のリードは良い」と評価が上がって来た。
 その声は監督やコーチの耳にも届くようになり、日本選手権・本戦の最終盤の守りで、僕を起用する方針になった。
 投手ならば抑えの切り札と言われるポジションだが、キャッチャーにはそのような言い方は無い。

 非常に重要な役割だが、あまり目立たない……
 やはり打席に立たせてもらい、派手に打って活躍しなければ、なかなかプロのスカウトの目には留まらないだろう。
 だからと言って、この役割で失敗すると、チームの信頼を失い、また出番が無くなってしまう。
 まずはしっかり結果を残して、少しずつ出番を増やしい行くしかないっ!

 夏の終わり頃から、都市対抗の予選が始まったが、二番手捕手の富山さんの打棒が冴えてきた。
 これまでは、格下の相手の時は長打力を発揮していたが、最近は大事な試合でもロングヒットを量産するようになっていた。
 先発は富山さん、二番手は根本さんと序列が変わったが、僕はあまり打席に立つ機会は無く、終盤に守備に就くという役割が定着しつつあった。
 やはり守備だけではなく、打撃でも活躍しなければレギュラーを獲得することは難しい。

 十月になった。
 都市対抗の予選を勝ち抜き、本戦までの間に少しスケジュールが空いた。
 都市対抗で、どうやってもっと出番を増やそうか?
 少し焦る気持ちを持ちながら練習に取り組んでいた時、カズさんから驚くべき連絡が入った。

「水野、急で悪いんだけど三日後に会えないかなぁ?」
「いいですよ。丁度予選と本戦の合間で試合も無いし、先に他の約束しちゃってるんですが、ちよっと調整してカズさんと会いますよ。
 で、何処に行けばいいですか?」
「ドルフィンズの二軍練習場がある、久里浜球場に十一時までに行きたいんだけど、間に合うように俺の部屋まで迎えに来てくれないか?」
「いいですけど、何しに行くんですか?」
「実は、入団テストを受けさせてもらえることになったんだ」
「!!! マジっすかっ? …… どうしたらテストを受けられるようになったんですかっ?
 凄いですっ! いやっ! 絶対に迎えに行きますよっ!」
「おぉ。悪いな。つか、興奮して事故らないように運転してくれよ。あとな、例のサインボールも持って来いよ」
 
 去年の春に会った時に、あんまり活躍すると、ドルフィンズ以外のスカウトにも注目されて、他のチームからドラフトされる可能性があるから、ドルフィンズだけに知られるように、テストしてもらえる方法を考えてみる。
 なんて構想を語っていたけれど、本当に実現するとはっ!
 一体どんな手を使ってテストしてもらえるようになったんだろうか? 

 この日、先に約束していたのは香織だったのだが、一緒にテストを見に行きたいと言うので、連れて行くことにした。
 実はカズさんに会わせるのは初めてだった。
 テストの前に余計な気を使わせたくなかったが、先に約束していたしなぁ……
 逆にリラックスしてもらえるといいかなぁ?

 カズさんのアパートの前まで迎えに行き、挨拶もほどほどに久里浜に向けてスタートした。
 やっぱり緊張しているのか?
 カズさんはいつもより口数が多かった。

「水野、俺は今までお前に負け続けて来た。
 高校ではセカンドのレギュラーを奪われ、俺が卒業した後の県大会決勝進出も、学校の歴史を塗り替える快挙だった。
 目標としていた社会人野球へも進んで、プロへの道筋もしっかり切り開いたし、お前には勝てないと思っていたよ」
「カズさん、何言ってるんですか、勝ち負けとは違いますよ」
「いやいや、男として負けてると感じてるんだよ!
 でもな、今日は必ず合格して、一足早くドルフィンズで待ってるよ」
「そうですよ! 来年僕がプロになれるかどうかなんて、今の時点では全くの白紙だし、カズさんが男として一歩リードじゃないですかっ!」
「まぁ野球に関してはそうなんだが、それだけじゃない!
 俺は車の免許すら無いのに、お前は車を買って、助手席に可愛い彼女を乗せて、いつもいつも一歩前を進んでいるんだよっ。
 後輩なのに。ホント、ムカつくわっ!」

 これだけ喋れれば大丈夫だろう。
 それよりも今日テストをやってもらえるようになった経緯が知りたい。
 来年も入団テストをやってもらえるなら、僕は今まで通りあまり目立たない役割でチームに貢献して、ドルフィンズだけに知られる存在になりたいのだ。
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