僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第三章_星満

3.山岳部

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 僕たちは体育館の裏の人目に付かない場所でキャッチボールを始めた。
 最初は肩慣らしで緩い球を投げていたつもりだったが、蛮は焦ったようだった。
「でぇ~ 星ぃ~、いきなり全力で投げたらダメだぁ~、少し肩慣らししてから投げないと肩を痛めるぞぉ~ でぇ~」

 マジか…… 僕は肩慣らしのつもりで緩く投げているのに、全力で投げていると思われているのか?
「蛮、今までが肩慣らしだよ。次は本気で投げてみるぞ」
 そう予告して、僕なりの全力投球をしてみた。
 投げている僕の感触はいつもと変わらない。
 球技のセンスが無いので、全力で投げても100キロは出ないと思う。
 良くても80キロから90キロが精一杯だろう。ところが……

「うぉ~! 速いぞぉ星よぉ~! ウチのエースの長谷川先輩よりも速いぞぉ! でぇ~」
 マジか? と言うか、ちょっとだけ予想はしていたので、やっぱりそうか。
 って感じではある。さっきの3000メートル走と言い、今日は何かがおかしいのだ。

 その後も何球か投げたが、蛮は嬉しそうにキャッチしていた。
「凄いぞぉ~! 俺は前から言ってたじゃないかっ! お前は実は凄いピッチャーなんだよっ!
 俺はお前と一緒に甲子園に行きたいんだっ! でぇ~」

 以前に蛮が言っていた通り、何日に一回の周期で凄い速球を投げる日がある。
 というのは、どうやら本当のことのようだ。
 自分では何も感触は変わっていないのだが、蛮の喜び方に嘘は無いだろう。
「でぇ~ 星よぉ~、今日の放課後は野球部に来てくれよっ! お前の速球を皆に見せたいんだっ! でぇ~」

 やはりそうきたか…… 
 でも現状のまま野球部に入部しても、試合がある日に速球を投げられなければ意味は無いし、僕の希望としては山岳部のほうに重心を置きたいのだ。
「蛮、実は今日の体育の時間に3000メートルのタイムを計ったんだよ。
 そしたら陸上部の米田と同じペースで走れちゃってさ、なんだか今日の俺はいつもより凄いんじゃないかと思って……
 それでキャッチボールをしてみたんだけど、そんなに速かったか?」
「おぉ! 間違いなく130キロ以上は出ていたぞぉ~ でぇ~」
「そっか、でもさ、お前も知ってると思うけど、毎日速球が投げられる訳じゃないだろ。
 速球だけじゃなくて、今日は走るのも速くなってるじゃん。
 自分では特別手応えみたいなものが無くてさ、なんで凄いことになってるのか、原因が分からないんだよ。
 野球部の人の前で投げるとしたら、原因が分かってからにして欲しいな」
「……」
「例えば昨日の夜は何を食べて、何時に寝て、今朝は何時に起きたから睡眠時間は何時間で、朝は何を食べて、天気は晴れで、気温は何度で、体温は何度で……
 とかさ、何かの条件に当てはまると凄いことになるんじゃないかなぁ?
 だからさ、今日から日記を書くことにするよ。
 それで、明日から授業が始まる前に必ずキャッチボールをしよう。
 次に速球が投げられた時と、今日の条件と比較してみて、共通点を絞って行こうと思うんだよ」
「なるほどぉ~ 分かったぞ~ それなら昼休みもキャッチボールしないか?
 星の今の状態が継続するのは何時間くらいなのかも記録したほうがいいだろう。でぇ~」

 蛮の優れているところが、こういった部分だと思う。
 野球部の練習に来て欲しい。
 という自分の要望が受け入れられなかった直後に、冷静に次の最善手を提案することができるのだ。
 僕の頭では、どうしたらこの状態になるのか?
 その原因を調べるところまでしか考えが及ばなかったところ、いつまで継続するのかも調べておこう。
 と、常に先読みして考える能力は、野球だけではなく実生活でも役に立つに違いない。


 昼食後に再び蛮とキャッチボールをすると、いつもの僕のヘロヘロ球に戻っていた。
 覚醒した状態は半日は続かない。
 ということらしい。

 午前の授業中に、行動パターンと体調や天気を記入できる表を作ってみた。
 昨夜食べたのは、鳥のから揚げとキャベツとコンソメスープ……
 寝たのは日付が変わる頃で起きたのは七時くらいか?
 朝は納豆と海苔と梅干とあさりの味噌汁。
 体調は普通、天気は晴れ。
 まぁ最初はこんな感じで記録してみるか。
 

 放課後、山岳部の部室に出向いた。
 全体練習は月曜日と木曜日だ。
 今日は木曜日なので全体練習の日である。

 何を練習するのか?
 というと、山登りをするのではなく、水を入れたペットボトルをザックに入れて、それを背負ってドンドコ商店街まで小走りで往復したり、他の運動部がやっているような筋トレをやって、山登りに必要な体力作りをするのだ。
 その他にはテントの設営の練習や、天気図の見方を勉強したり、地図の見方を勉強する。

 全体練習が無い火・水・金は自主練習なのだが、ほとんど誰もやってない様子だ。
 つまり週の半分は帰宅部でOKという訳だ。
 土日に日帰りで三浦半島の山に練習登山に行くことがあるようだが、今年はまだ予定が決まっていないみたいだ。

 そもそも三浦半島の近場の低い山にはあまり興味は無くて、長野や山梨の北アルプスや南アルプスや八ヶ岳連峰に行ってみたいのだ。
 山岳部も競技としてインターハイに出場することを目的として活動している高校もあるが、紅陵高校は単に山が好きなので、行ってみたい山に行く為に体力作りをしたり、技術や知識を取得する為に活動している。
 毎年目標とする山を決めて、全員で登頂する為に努力する。
 そんなスタイルで活動しているところが僕の性にも合っている。

 今年の目標は南アルプスの北岳ということだ。
 富士山に次ぐ日本で第二位の標高を誇る高山だ。
 一人では行ける気はしないが、顧問の先生や仲間と一緒なら行ける気がする。
 
 小中と続けてきた野球を辞めて、何故登山をしたいと思うようになったのか?
 実は僕には野球の他に天体写真を撮影する趣味があるのだ。

 星を眺めるようになったのは、野球がきっかけであった。
 小さなラジオを持って自宅の屋根に上がって、寝転びながらナイター中継を楽しんでいた。
 空には七夕の星が見頃になる季節である。
 織姫星と言われている、こと座のベガが天空の真上近くにあるのだが、それがある日突然ユラユラと動き出したのだ! 

 他の星も何となくではあるがユラユラしているように感じたが、このベガだけは生きているように動いているのだ。
 目の錯覚だろうと思い、目を閉じてみたり、町の風景を見たりしてからベガを見ると、やはりユラユラと動いて見える。

 後で調べてみて分かったことは、気流の関係でそのように見えることがあるそうだ。
 星がチカチカ瞬いているのもその関係らしい。
 専門用語で言うと、シーイングが良いとか悪いとか言うみたいだ。
 シーイングが悪いと、チカチカが激しくなるらしい。
 とは言え、チカチカ瞬いている、といったレベルではなく、ユラユラ動いているように見えたことが衝撃で、僕は星に興味を持ったのだ。

 なんと言っても名前が「星満」なのだから、満天の星空に魅かれるのは運命みたいなものなのだろう。
 そうしているうちに、ただ眺めているだけではなく、写真を撮ってみたい。
 と思うようになって、お年玉を貯めて高感度デジカメと三脚を購入した。

 それで撮影してみたものの、横浜の夜の空は明る過ぎて、満足の行く星の写真は撮れなかった。
 本に掲載されているような写真は、山奥の暗い夜空で撮影したものが多い。
 日周運動で星が線にならずに点のままで撮るには、30秒くらい露出できるが、横浜で30秒露出すると、昼間のような写真になってしまうのだ。

 では10秒にするとどうなるのか?
 それでは露出時間が短いので星が写らない。

 暗い山奥に一人で行くのは無理だ。
 でも山奥に行かなければ綺麗な星の写真は撮れない。
 そこで思いついたのは、高校に進学したら山岳部に入部して、部活動として山に登りに行く。
 ということだった。

 野球が嫌いになったので辞める訳ではない。
 野球よりもやりたいことができたから、そっちに行くのだ。
 蛮のように野球センスがあって、中学生の頃から強豪高校の野球部に注目されていたとしたら、そりゃぁ僕だって甲子園に行ってみたい気持ちはあるので、多分野球を続けていたのではないだろうか? 

 でも現実は違う。
 僕には野球センスが無いので、こうしてペットボトルをザックに入れて、山に登る為にトレーニングをやっているのだ!
 北岳に登るだけではないのだ。
 カメラと三脚も持って行かなければならない。
 他の部員よりも体力は必要になるはずである。
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