僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第三章_星満

8.再訪問

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 翌朝、今日も天気は良さそうだ。
 朝四時はまだ暗かったが、おにぎりを食べて荷造りを始める頃には明るくなってきていた。
 昨日沢山食べたので、荷物は大分軽くなったように感じる。

 荷造りを終え、僕は山小屋に行って木村さんに挨拶してから出発した。
 秋になったらまた絶対に来よう! と心に誓った。
 今度は木村さんと一緒に撮影して、直接アドバイスをもらいたいとも思っていた。
 個人的には、「天体写真を撮影したい」という最大の目標は達成した。
 今日は全員の目標の、北岳にアタックする。

 両俣山荘は、野呂川の源流になる右俣沢と左俣沢が合流する地点にある。
 それで両俣山荘という訳なのだが、僕たちは北岳を目指し左俣沢に沿って歩き始めた。
 スタートしてから一時間は昨日までと変わらない感じだったが、登山道が沢から離れると、その先はかなりの急登になった。

 標高が高くなってきたのか?
 空気がひんやりして気持ち良かった。

 五時間近く歩いただろうか?
 ようやく北岳の稜線に辿り着いた。
 ここまで来れば山頂まであと僅かである。

 標高三千メートルで空気も薄い。
 昨日より軽くなったとは言えザックも重い。
 それでも前に進むのだ。

 ただただ苦しいだけではない、山頂に着いた時の達成感を知ってしまっていたので、この苦しさにも耐えられるのだっ!
 稜線の登山道脇にザックを置き、ここから山頂まで軽装備でピストンすることにした。
 荷物が軽くなるだけで、足取りも全く違う。

 稜線に出てから30分ほどで北岳の山頂に着いた。
 日本で二番目に高い山の頂上からは、日本一の富士山を始めとして、三位以下の3000メートル峰が、ほぼ全て望める360度の眺望を楽しむことができた。

 野球の試合で勝った時の喜びとは、また違った喜びを感じていた。
 それは自分の力で達成したかどうかの差であろうか?
 野球ではずっと補欠だったので、僕の力で勝った試合なんて全くと言っていいほど無かった。
 勝てば嬉しいことに変わりは無いが、僕はただそのチームに所属しているだけの存在だ。
 それに比べて、今感じている喜びは格別な味わいなのだ。
 ここに立っているのは、紛れもなく僕の力なのだ。
 そして野球と同じように、一緒に喜び合える仲間がいることも嬉しかった。

 登頂したら下山しなければならない。
 帰りのバスの時間もあるので、予定通り行動することも重要だ。

 しかし惜しい……
 もう少しここに居て余韻を味わっていたい……
 そのうち一人で登れるような技術と経験を積み重ねて、またここに来れるように頑張ろう。

 僕たちは登って来た道を戻り、左俣との合流地点でザックを背負い、北岳肩の小屋から草スベリ、白根御池小屋を経由して広河原に到着した。
 時刻は午後四時を回っていた。
 バスで夜叉神峠を越え甲府駅に到着。
 特急かいじで新宿に向かい、横浜市内に戻ってきたのは夜の九時を過ぎていた。

 山の空気とは違い、重くて暑く感じる夜だった。
 上大笹から家まで歩く体力は残っていなかったので、バスを使うことにした。
 それでもバス停から10分は歩くことになる。
 最後の力を振り絞って、ようやく家に辿り着いた。


 翌日、テントなどを学校まで運ばなければいけない。
 バーナーや鍋なども部の道具なので、次回の山行の時にしっかり使えるように、手入れをして部室に保管する。
 次に山岳部のメンバーで行く山はどこになるのか?
 二学期になってからのミーティングが楽しみだ。

 僕は山岳部の活動とは別に、十月になったら個人的に両俣山荘に行きたいと心に決めていた。
 またアルバイトで旅費を貯めなければならない。
 横浜ボールパークの弁当売りのバイトは、ドルフィンズの試合がある日だけなので、短期間で目標額を稼ぐことには向いていない。
 アルバイト誌を物色して、上大笹駅近くの牛丼チェーン店で働くことにした。
 弁当屋の社長には、二学期から授業が忙しくなるので、今季は行けそうもないことを伝えた。
 来年の春にまたお願いします。
 と縁を繋いでおくことはしておいた。


 二学期になり、また納豆とあさりと朝のキャッチボール生活が始まった。
 月曜と木曜の山岳部のトレーニングも夏休み前と変わらず、すっかり生活の一部になっている。

 新しいパターンは牛丼屋のアルバイトだ。
 月曜と木曜は部活が終わった夕方七時から夜九時までの二時間、それ以外の日は夕方五時から夜九時までの四時間。
 九月の一ヶ月だけで五万円近く稼いだ。

 十月の二週目から中間テストなので、アルバイトは休むことにした。
 テストは月火水の三日間である。
 僕はテストが終わった木金の授業をサボって、このタイミングで両俣山荘に泊まりに行こうと計画した。
 二泊させてもらって土曜日に帰って来れれば良いだろう。
 交通費と宿泊費も足りているし問題は無い。
 木村さんの都合だけが心配だ。

 両俣山荘には固定電話が無く、深い谷間なので携帯も通じにくいようで、予約の受付は系列の山小屋の北岳ヒュッテに連絡することになっていた。
 僕は夏休みに泊まりに行って、木村さんと約束した旨を伝えて、仮予約ということで二泊することにした。
 木村さんの都合が悪い場合はスマホに折り返し連絡してもらえるようにお願いした。

 これで準備はOKだ。
 十月の前半は中間テストに集中しよう。
 結果が良くなければ、親の信頼を失うことになる。
 学校をサボって山に行っても良いと認めてもらうには、一定以上の成績を残す必要があるだろう。

 そんな訳でテストは頑張ったのだが、次の日から学校はサボる予定なので結果を知るのは来週になってからだ。
 結果を心配するよりも、両俣山荘に行けることが嬉しいのだ。
 悪い結果だったら、その時に次の一手を考えれば良い。

 テスト期間は午前中で学校は終わるので、最終日に帰宅してから荷造りをした。
 夏休みの時と違って、テントは不要なので荷物は少ない。
 その代わり防寒対策はしっかりしないといけないので、衣類の荷物は増えることになるが、重量は大したことないので、体力的には問題はなさそうだ。

 翌朝、夏休みの時と同じように、早朝スタートで甲府に向かった。
 甲府からのバスの乗り換えも経験済みなので迷うことはない。
 夜叉神峠の山々は紅葉が始まっていてカラフルになっていた。
 横浜の街は秋の気配は感じるようになったが、こんなに鮮明に秋を感じることができるのも、山登りを始めた恩恵だろう。

 広河原から北沢峠行のバスに乗り、野呂川出合で下車、両俣山荘までは一本道だ。
 山岳部の仲間と一緒に歩くのも楽しいが、一人で黙って歩くのも悪くない。
 様々な思考が浮かんでは消え、今夜から何が起きるのだろうか?
 想像するだけでワクワクしてしまう。

 夏休みは二時間の道程だったが、今日は荷物も軽かったし、自分のペースで歩いていたので少し早く到着した。
 一度来ただけの場所なのに、何だか懐かしい感じがした。
「こんにちは。予約している星ですっ!」
「おぉ! ミツル君、来たかいっ。待ってたよ。
 今日はソロで来るから、ちょっと心配してたんだけど、早かったねぇ。疲れただろう?」
 一度泊まっただけ、いや、その時もテントで泊まったので、山荘に泊まるのは初めてなのに、木村さんは温かく迎えてくれた。

 今夜から二泊して、一緒に写真を撮りたいと思っていたのだが、木村さんの計らいで、明日は北岳の山頂を越えて系列の北岳ヒュッテに一緒に泊まりに行く予定を組んでくれていた。
 シーズン最終盤の平日なので予約客も少ないらしく、明日は他のスタッフの皆さんにお願いして、僕と一緒に北岳ヒュッテに泊まってくれることにしたとのことだ。

 この日は食堂のテレビとカメラを接続して、木村さんの撮った写真を観たり、夏休みに僕が撮った写真を観たりして、アドバイスをしてもらった。
 人数は少なかったけれど、何人かの宿泊客も僕の写真を褒めてくれて嬉しかった。
 大画面で観る木村さんの写真は迫力が違う。
 いつか、僕にもこんな写真が撮れるようになるのだろうか……
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