僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第三章_星満

13.星の球団

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 それからしばらく過ぎた月曜日に、お兄さんと姉と三人で食事に行くことが決まった。
 話しのネタになると良いと思って、僕は宝物の多城選手のサインボールを持って行くことにした。

 月曜日は試合が無いことが多いので、お兄さんは休みだし試合が無ければ姉も休みになる。
 僕は学校に行ってから、制服のまま関内駅に向かった。

 お兄さんが今年からドルフィンズのクローザーとして投げるようになったのは、誰にも打てない魔球クラスのナックルボールを投げることができるからなのだが、そのボールを投げられるようになったのは、大学二年生の時だったらしい。

 きっかけは、姉と初めて会った日に何か閃くことがあったそうなのだが、詳しいことは「企業秘密」ということだ。
 その時に「満」という弟、つまり僕が居ることを教えてもらったそうだ。

 大学三年、四年でナックルを武器に勝ち続ければ、もしかしたらプロのスカウトの目に留まる可能性もあったが、子供の頃からドルフィンズファンだったお兄さんは、ドルフィンズだけにドラフト指名される方法が無いものか?
 考え抜いて思い付いたのが、球場でアルバイトをして球団関係者と縁を作って入団テストをしてもらうように働きかけることだった。

 ところがシャイな性格のお兄さんは、なかなか球団関係者との縁を作ることができずにいた。
 そんな時に僕がアルバイトに来るようになって、球団関係者どころか選手とまで気軽に挨拶する様子を見て、僕の真似をして元気よく声出しするようにしたらしい。

 僕とお兄さんのコンビで、弁当屋の雰囲気が活気づいてムードが盛り上がっているのは、通路を通る選手にも伝わっていたようで、夏場以降はお兄さんも選手と仲良くなっていたそうだ。

「それでさ、シーズン終了後の秋季練習に、このボールを持って出掛けたんだよ」
 そう言って、お兄さんが取り出したボールには「一茂君 プロ野球選手になれるように 頑張れ」と書かれていた。
 あれ、僕の持っているボールと似ているっ!
「俺さ、多城さんのプロ入り初ホームランを偶然キャッチしてさ、これはそのボールの代わり書いてもらったサインボールなんだよ。
 秋季練習の時に、多城さんにこのボールを見てもらって、プロ野球選手になれるように頑張ってきたので、僕のボールを打ってみて下さい。ってお願いしてみたんだ。そうしたら、こうなった」

 いやいや、普通はそうしても、こうならないだろっ!
 てかっ、僕の持っているボールも見てもらおうっ!
「お兄さん、そうとは知らずに今日は僕も宝物を持ってきました」
 僕のボールにも「満君 プロ野球選手になれるように 頑張れ」と書かれていた。
 お兄さんは目を見開いたまま、固まってしまった。
「このボールは、多城さんの200号ホームランを偶然キャッチして、そのボールと交換に書いてもらったサインボールです」
「マジかっ! 満君は野球をやってるのかい?」
「いいえ、中学の時までは野球部でしたけど、下手糞で補欠だったので、高校では山岳部に入りました」
「そうか…… 実は俺の後輩が多城さんの100号ホームランをキャッチしててな。
 やっぱりサインボール書いてもらって、そいつは今年のドラフト候補になると思うんだけど、もしかしたら君も野球やっていたら、何か縁があるんじゃないかと思ったんだけどな……」

 ここで姉が呟いた。
「何か、アストロ球団みたいな話しね」

 アストロ球団とは、体のどこかにボール型の痣がある超人が九人集まって活躍する、往年の野球マンガのことである。
 父の部屋の本棚には、父が子供の頃から集めていた野球マンガがずらりと並んでいて、姉も僕も野球マンガには詳しい。
 と言うか、姉は完全にオタクと言って良いだろう。

「いやいや、流石の多城さんも、ホームランを700本も800本も打てないだろうから、アストロ球団にはならないだろうなぁ」
 てか、お兄さんも詳しいっ!
 お兄さんの実家にも、往年の野球マンガがずらりと並んでいるらしい。
 なるほど、姉と気が合う訳だ。

「あんた、明日も学校でしょ、もう遅いからそろそろ帰りなさいよ」
「そうだな、高校生には遅い時間かなぁ……」
 どうやら僕は邪魔者になってきたようだ。
 僕が覚醒した状態になると、凄い速球を投げられる話しをしてみようかと思ったけど、それはまたの機会にして、今日はおとなしく退散することにしよう……


 気候も良くなり、蛮とのキャッチボールが再開していたある日、見知らぬお姉さんが通りかかった。
「あら、蛮君、朝から練習してるのね。君は本当に野球が好きなんだねぇ」
「でぇ~ 胡桃沢先輩ぃ~ おはようございますぅ~ 今日はこんなに早くからどうしたんですかぁ~ でぇ~」
「今日は午後から学校に行かなきゃならないので、その前に監督と打合せに来たのよ」
「でぇ~ 早くからご苦労様です。練習メニュー軽目にしておいて下さいぃ~ でぇ~」
「それは無理!」

 そう言って、お姉さんは野球部の部室の方向に歩いて行った。
「蛮、今のは誰?」
「あれは紅陵高校野球部の伝説のマネージャーだった胡桃沢香織先輩じゃ~
 今は大学でトレーナーになる為の勉強をしてるんだが、今年から野球部のトレーニングのメニューを考えてくれてるんじゃ。
 あと怪我をしないように、ストレッチとか準備運動の指導もしてくれている」
「へぇ、あんな可愛い女性が指導してくれるなら、野球部に入ってもいいかなぁ……」
「バカ、外見だけで判断したらダメじゃぁ~ あのトレーニングは鬼のメニューだぞっ。
 あれを考えるあの人は鬼なんじゃないかと思うぞぉ~ でぇ~」
「お前がそう言うなら、かなりヤバいトレーニングなんだろうなぁ……」
「胡桃沢先輩は俺たちの小学校と中学校の先輩でもあるから、頭が上がらんのじゃ~ でぇ~」

 どれほどのトレーニングなのか、野球部の練習を見学しに行こうかなぁ。
 登山にも効果がありそうなら、山岳部の練習にも取り入れてみたい。

 五月の連休明けに、納豆とあさりの味噌汁の朝食があり、その時は覚醒して速球を投げることができた。
 それからしばらくして、またまた納豆とあさりの味噌汁の日があったが、その日は何も起きなかった。
 相変わらず何が原因なのか分からないまま、甲子園を目指す神奈川県予選が始まってしまった。

 去年のエース、長谷川先輩が卒業して、今年から蛮とコンビを組むのが同じ二年生の佐伯だ。
 球のスピードは大したことないのだが、絶妙のコントロールと頭脳的なピッチングが持ち味だ。
 二年生バッテリーの活躍に、三年生が上手く絡み今年の野球部は強かった。

 胡桃沢先輩が考えたトレーニングの効果も出ているのだろうか?
 走攻守全ての面で、例年と比較してワンランク上のチームに仕上がっている感じがする。
 五回戦で駒大藤沢に負けたものの、過去最高タイ記録のベスト16に勝ち残ったのだ。

 四番を任されていた蛮は打ちまくったが、連戦が続く夏の予選で、最後は佐伯が力尽きて負けてしまった。
 しかし、強豪ひしめく神奈川県大会で、無名の公立校がベスト16に躍進したことは話題となった。

 もし僕が覚醒する原因を解明できていたら、と思うと申し訳ない気持ちで一杯になってしまうのはいつものことだ。
 表向きは野球部とは何の関係も無い山岳部員なのに、毎回こんな気持ちになるのは、何だか納得行かない気もする。
 でも蛮の為に、何とか来年までに謎が解けるように頑張らないと……
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