僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第三章_星満

16.オフの出来事

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 プロ野球はシーズン後半に入った。
 ドルフィンズのクローザーとして定着したお兄さんは、順調にセーブを積み上げている。
 チームも十年振りの四位に浮上しているが、今年もAクラスの三位には届かないだろう。

 それでもお客さんの盛り上がりは大変なもので、去年に比べると観客動員数はかなり上がっていた。
 弁当の売上も多く、アルバイト代も増えたので、お兄さんには感謝しなければっ!

 二学期になり程なくして、高校野球の秋季大会が始まった。
 蛮は新チームのキャプテンに指名されていた。
 エース佐伯投手とのコンビで、今大会も活躍が期待される。

 二学期になってから、僕は一度も覚醒することが無く、毎日ヘロヘロ球を投げていた。
 記録を見直してみると、この期間は納豆とあさりの味噌汁の組み合わせが無かった。
 やはりこの二つに何かが加わらないと覚醒しないのだろう。

 十月になり中間テストが終わった。
 両俣山荘の今季の営業期間も残り少なくなった頃、木村さんから手紙が届いた。
 僕が撮った写真を食堂に展示してくれたのだ。
 食堂で僕の写真を飾る木村さんの後ろ姿が写った写真が同封されていた。
 たった三週間の住み込みだったが、自分の家の食堂のような感じがして懐かしい。
 まだまだ先だが、自分のこの目で展示されている写真を見ることが楽しみだ。

 野球部は蛮と佐伯の活躍もあり、夏の大会に続きベスト16まで勝ち進んだ。
 それ以上勝ち進むには、佐伯の他にもう一人でも頼りになる投手が必要だろう。
 それが僕になるのか、今の控え投手の誰かが成長するのか、現時点では全く計算が立っていない。

 プロ野球のペナントレースが終了した。
 お兄さんは五十一試合に登板して、1勝1敗45セーブ、防御率0.64、奪三振78。
 新人王を獲得できそうな素晴らしい結果を残した。

 しかし、チームの勝率は五割に届かず、予想通り今年もBクラスの四位で終わった。
 チームにしてみると十年振りの四位ではあった。
 この十年間は五位が二回で最下位が八回だったので、お兄さんの活躍で順位を上げることができた。
 と言っても大袈裟ではないだろう。

 十月の終わりにドラフト会議が行われた。
 多城選手の通算100号ホームランをキャッチしたという、お兄さんの後輩は、社会人野球の強豪として知られる、横浜通運の水野捕手だと教えてもらっていた。
 どんな選手なのだろうか?
 と思って社会人野球の結果を見るようにしていたのだが、横浜通運のレギュラー捕手は、今年のドラフトの目玉の一人と言われている、富山捕手が君臨しているので、インターネットで調べてみても水野捕手がどんな選手なのか?
 詳しく知ることができなかった。

 淡々と指名が進み五巡目が終わったが、まだ水野選手の指名は無い。
 本当にドラフト候補なのだろうか?
 と思い始めたその時、「第六巡目選択希望選手、横浜、水野冬樹、捕手、二十一歳、横浜通運」と読み上げられた。

 水野選手のことは知らないが、何故か知り合いが指名されたかのような感覚になった。
 同時に、多城選手の節目のホームランをキャッチした者として、次は僕の番にしないといけないのだろうか?
 という変な感情も沸き起こっていた。

 先日も納豆とあさりの味噌汁の朝食があったのだが、この時は覚醒しなかった。
 二学期になってから、まだ一回も覚醒していない。
 と言うか、五月に一回覚醒して以来、その後は全くダメな毎日だ。
 今年も寒くなってきたので、去年同様キャッチボールは休むことになるだろう。


 日本シリーズも終わり、今年のプロ野球が終わった。
 お兄さんは予想通り新人王を獲得した。
 チームは四位だったが、個人成績は新人王に相応しい数字だろう。
 何かお祝いをプレゼントしたいと思って、姉に相談してみたが、僕と一緒にお祝いする気が無いようで、全く相手にしてもらえなかった。

 僕にだけしかできない特別なお祝い。
 と考えると、山で撮った写真くらいしか思い付かなかったので、去年の夏に間ノ岳で撮影した、夜明け前の富士山と星空の写真を引き伸ばして、ちょっとお洒落な額に入れてプレゼントした。

 タイトルホルダーになったお兄さんは、シーズンオフとは言え多忙なようなので、姉に頼んで渡してもらうようにした。
 多忙だけど姉と会う時間はあるんだ……
 ふ~ん。頑張れ~。

 数日後
「凄い写真をありがとう! プロが撮った写真かと思った。新人王のトロフィーと一緒に部屋に飾らせてもらうよ」
 とLINEが届いた。
 えへへ、そう言ってもらえると、やっぱり嬉しくなる。

 来年の今頃は、卒業後の進路も決まっているのだろうか……
 剛速球投手としてドラフトで指名されている姿は全く想像できないので、現実的な方向を考えなければならない。
 高校に入学した頃に目標としていた、美しい天体写真を撮ってみたい。
 と言うことは実現できた。
 それに加えて、美しい山の写真も撮れるようになった。
 ここまでは自主的に勉強した知識で撮っていたものだが、本格的に勉強すればプロの写真家になれるものなのだろうか?
 簡単ではないと思うが、ぼんやりとだが、そっちの方向に進んでみたい。

 そんな風に考え始めていたところ、お兄さんの出身大学でもある、横浜情報工芸大学に写真学科があることに気付いた。
 お兄さんは情報デザイン学科卒業だったそうだが、どうしてそこに進んだのか?
 今度詳しく聞いてみたいと思う。

 山岳部の活動は自主トレ期間になったし、横浜ボールパークでの弁当売りのアルバイトもシーズンオフになった。
 去年の冬は旅費を稼ぐ為に牛丼屋でアルバイトをしていたのだが、今年は貯金もあるし、無理して働く必要が無い。
 このオフは去年の夏から撮影した写真を、SNSで発信してみよう。
 と思い立った。

 両俣山荘がある野呂川の沢沿いを登るルートを、もっと多くの人に知ってもらいたい。
 と言う気持ちと、両俣山荘にもっと多くのお客さんに来てもらい、木村さんの写真を見てもらいたい気持ちがあった。

 去年、初めてテント場を利用して、カレーを作った時に撮影した写真、その夜に撮影したテント場と星の写真、等々、ポツリポツリと少しずつ投稿することにした。

 十二月になり、久し振りに納豆とあさりの味噌汁で覚醒した感覚になった。
 蛮を呼びに行き、キャッチボールをしてみると、五月以来の剛速球を投げることができた。

「でぇ~ 星よぉ、俺は今まで160キロの球を受けたことも無いし、打席で遭遇したことも無かったが、今日のお前の球は160キロ出てるんじゃないかと思うぞぉ~ でぇ~」
 なるほど、覚醒している時は、約1.5倍の能力を発揮するから、107キロの球を投げていれば、160キロになる計算だ。
 野球のトレーニングはしていないが、山岳部でトレーニングしているので、僕の基礎体力は間違いなく上がっているだろう。
 素の状態で107キロの球を投げられるようになっていたとしても、何の不思議もない。

 しかし、今回も納豆とあさりの味噌汁以外に、新たなヒントを発見することができなかった。

 年が明けて、僕のSNSの投稿に反応してくれる人の数が増えつつあった。
 今まで通ったことの無いルートだから、次のシーズンには利用してみたい。
 と言った書き込みが多くあり、嬉しくなった。

 両俣山荘は、十名以上の団体客でなければ、基本的に予約無しでも泊まれるが、小屋周辺の最新情報を確認してもらえるように、北岳ヒュッテを通じての連絡方法もアップしておいた。
 僕も両俣山荘のスタッフの一員として、少しは役に立てるのではないか?
 来年の夏はお客さんが増えているといいなぁ……
 などと考えて、一人でニヤニヤしてしまう自分が居た。
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