僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第三章_星満

21.進路変更

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 予想外の展開に驚いていたが、今日の主役は僕だった。
 一同ブルペンに移動して、軽くアップを開始した。
 大丈夫だ、今日も覚醒している感触がある。
 軽く投げていても、蛮の捕球動作で分かるし、プロの三人も興味津々の様子が伝わってくる。

「でぇ~ 星ぃ~ そろそろ本気で投げてみてもいいんじゃないかっ? でぇ~」
「よしっ! 分かったっ!」

 僕は全力で投げ込んだ。
 覚醒していなければ、多分100キロを少し超える程度のスピードなのだろうけど今は違う。
 軽く150キロは出ているに違いない。
 スピードガンを構えていた野口さんの顔がパッと明るくなった気がした。

 その後、十球ほど投げたところで、ストップが掛かった。
 どうやらテストはこれで終了のようだ。
 もう六十歳くらいになるであろう野口さんが、子供の様にピョンピョン跳ね回って興奮している。
「星君っ! 凄いよ君っ! 最後の一球は160キロ出たよっ!」
「ちょっと待って下さいよ、俺にも受けさせて下さいよ」
 と水野さんが言うので、もう少しだけ投げることになった。

「速いね。現役最速と言われている、広島の青木さんより速いんじゃないかな?」
 打席でも青木投手と対峙したことがある水野さんが言うのだから間違いないだろう。
 僕が野球をやっているところを始めて見たお兄さんも、驚きの表情を隠せなかった。

「ミツル君、こんなに凄い球を投げられるのに、何で野球部に入らなかったんだい?
 君と中田君のバッテリーなら、もしかしたら神奈川を勝ち抜いて甲子園まで行けたんじゃないかなぁ?」
「それはそうなんですけど、実はいつでも投げられた訳ではなくて、たまに覚醒することがあったんですよ。 普段は100キロ程度のヘロヘロ球しか投げられなかったので、野球部に入っても戦力にならないと思ってました」
「長嶋さん、それでも星は覚醒する条件を探す為に、相当な努力をしたんですよぉ~ でぇ~」
「なるほど。それじゃぁ覚醒する条件を見つけることができたから、俺に連絡してきた。って訳かい」
「そうなんです。本当はもう少し早く見つけられれば、蛮と一緒に甲子園を目指せたんですけど……
 でも蛮の事を野口さんが追ってくれていたので、少し救われました」
「で、どうしたら覚醒するんだい?」
「えぇと、それは企業秘密です」

 そんな会話をしているところに、多城さんが現れた。
「おぉ! ミツル君、久し振りだね。 話は全部聞いたよ。
 野口さん、どうでしたか? ミツル君は戦力になれそうですか?」
「驚いたよっ! この選手を知っているのはウチだけなんだよねぇ? 多城君の記念のホームランボールをキャッチした選手が、凄い選手に成長してウチに集まってくるなら、1000本くらい打って欲しいものだよっ!」
「そりゃぁ無理だし、たまたま偶然そんな結果になっているだけで、一茂も冬樹もミツル君も、これまでの努力の結果、才能が開花してるんだから、俺なんか関係ないですよ」

 そうは言っても、多城さんに憧れて頑張ってきたのだから、関係ないことはない。
 まぁ僕の場合は実力以外に頼る部分が大きいのだが……
 
 この日はナイターで試合がある為これで解散になった。
 まだ夏休み中なので、二学期になったら野口さんが正式に学校に挨拶に来てくれることになった。
 詳細が決まったら再度連絡してもらうことになったが、ほんの二時間前とは全く違う状況になってしまい。
 僕と蛮は足が地に着かないような感じになっていた。

 これは現実なのだろうか?
 二人して同じ夢を見ているのではないのだろうか?
 本当にプロ野球選手になれるのだろうか?
 嬉しいことには違いないのだが、何だか急に不安になってきた。
 蛮もいつもと違う雰囲気になっていた。
 お互い無口のまま、上茶谷駅に着いた。

「蛮、今日は何だか疲れたから、このまま帰って昼寝でもするよ……」
「でぇ~ 星ぃ~ 俺も同じだぁ。何だろう、今日のことは本当にあったことなんだよなぁ……
 う~ん、何か信じられんのだが、本当のことであって欲しいのぅ でぇ~」

 夏休み最終日になった。
 今年は激動の夏休みだった。
 序盤は両俣山荘で住み込みのアルバイト。
 中盤は宿題や夏期講習。
 終盤は山岳部の活動としじみの味噌汁。
 夏休みになった頃は、大学に進学して写真の勉強をしようと思っていたものが、今はプロ野球のドラフト候補になっている。
 自分でも全く予測していない事態になった。

 大学受験はしなくても良くなりそうだが、勉強は続けようと思う。
 あさりとしじみの区別くらいできないままで大人になるのは問題だろう……
 これ以外にもまだまだ知らない大切なことがあるに違いない。
 勉強しなさいっ! って両親から言われ続けてきたことが、身に染みた夏休みだった。

 九月になり、野口さんが正式に学校に挨拶に来る日程が決まったようだ。
 蛮は良いとして、山岳部所属の僕が指名されるのが、学校側としては不思議に思っただろうが、このままドラフトで指名されれば、本校初のプロ野球選手の誕生となる。
 しかも同時に二人なのだから、不思議がるより喜んでおこう。
 という反応になったようだ。

 このことは、一部の教員の機密事項になっているらしく、生徒の間では特に噂になるようなことにはなっていない。
 僕も蛮も、本当に指名されるのか半信半疑なので、皆に報告しておいて、いざ本番!
 となった時に指名されなかったりすると格好悪いので、二人だけの秘密にしておくことにした。


 まだ確実とは言えないものの、進路が決まったので、受験勉強をしなくて良くなったことは、精神的にはかなり助かったっ!
 そうは言っても卒業はしないとヤバいので、中間テストは頑張った。

 中間テストが終わったところで、両俣山荘に泊まりに行くことにした。
 来年、大学生になったら行こうと思っていたが、本当にドラフト指名されれば大学生にはならないし、この季節に行けるのは、この先何年か無理なのではないか?
 進路変更したことも、木村さんに報告しなければいけない。
 と思ったからだ。

 土曜日は宿泊客が多いだろうし、金曜日に行くことにした。
 一年生の時も、こうしてズル休みして行ったっけ……
 あの時は初めてのソロ登山で心細かったけれど、今は経験を積んだので自信を持って行くことができるようになった。
 これから更に経験を積んで、今まで行ったことの無い山域にも行きたい。
 二ヶ月前までは、真剣にそんな風に思っていたのだが、まさかの急転直下だ。

 夜叉神峠の紅葉を二年振りに見た。
 横浜で見る街路樹の紅葉とは、色の濃さや深みが違って見える。
 山深いので、何重にも重なって見えるからだろうか。

 広河原からバスを乗り継ぎ、通い慣れた野呂川沿いの道を歩くと、両俣山荘が視界に入った。
 住み込みで働いていた時は、重い荷物を背負ってここまで来て、山荘が見えた時は嬉しかったなぁ……
 なんて記憶が甦った。

「こんにちはっ! 今日はお世話になりますっ!」
「おぉ! ミツル君、いらっしゃい。 今年はもう来ないかと思っていたけど、来てくれて嬉しいよ。
 まぁ上がってゆっくりしなよ」

 いつものように、木村さんが優しく出迎えてくれた。
「木村さん、今日はご報告したいことができたので泊まりに来ました」
「な、何だよ、改まって…… まぁ急がなくても時間はあるから、夕食の後でもいいじゃないかっ。
 一休みしたら久し振りに近所を散策してくるといいよ」

 そうだな。
 ここの景色もしばらく見れないし……
 僕はカメラを片手に紅葉の写真を撮りながら、左俣と右俣の合流点の辺りまで散歩した。

 夕食後に、本格的に写真を勉強する為に進学する予定だったけれど、プロ野球のドラフトで指名されるようになったので、プロ野球選手になることにした。
 と説明した。

 木村さんの他にも、何人かスタッフが居たが、全員頭の上に「?」マークが点灯している様子だった。
 う~ん、そりゃぁそうか……
 高校の山岳部員が突然プロ野球でドラフト指名されると言ってもなぁ……
 何の説明にもなってないか……

 納豆としじみの味噌汁で、剛速球投手に変貌する。
 なんて説明しても誰も信じてくれないだろうし、これは企業秘密だから無闇に人には言わないほうが良いだろう。

 自分でも気付かなかったけれど、実はピッチャーとして凄い潜在能力があったところ、登山の為にトレーニングしていた効果で、知らないうちにピッチャーとしての能力も鍛えられていて、その才能が開花した。
 と説明すると、一同納得はしてくれた様子だった。
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