僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第三章_星満

23.不思議な縁

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 十二月になり入団発表が行われた。
 僕はドラフト八位指名ながら、高校では野球部ではなく、山岳部に所属していた異色のルーキーとして話題になっていた。
 普通なら注目されない無名の選手だったのだろうが、話題になるのはプロとして上々のスタートだと言えよう。

 入団発表で背番号も発表されたのだが、驚愕の発表となった。
 背番号18を背負うことになったのだ。
 18番は葉山監督が現役時代に付けていたエースナンバーだ。
 次にエースと呼ばれるに相応しい選手が現れるまで、誰も継承せず空いていた番号なのだが、本当に僕でいいのだろうか?

 この番号を背負う以上、来年からすぐに活躍しないとファンが黙ってないだろうなぁ……
 とは安易に想像できるが、納豆としじみの味噌汁があれば何とかなるだろう……

 年明け早々に、僕と蛮は寮に入ることになった。
 僕にはお兄さんが使っていた部屋が割り当てられた。
 この部屋はお兄さんの前は、セットアッパーとして活躍している崎山さんが使っていたらしく、出世部屋と言われている様子だ。
 僕がその流れを止める訳には行かない。

 僕の隣の部屋は水野さんだ。
 蛮はその隣の部屋になった。
 近くに知っている人が居るので安心だ。
 入寮早々に自首トレも始まった。
 山岳部で鍛えていた上、納豆としじみの味噌汁があれば、通常の1.5倍の能力を発揮できるので、同期の大卒選手にも負けずにメニューを消化することができた。

「でぇ~ 星よぉ~ 待ってくれよぉ~ でぇ~」
 蛮の体力も凄いのだが、ここに来ている選手の体力は常人とはかけ離れている。
 ヘロヘロになりながらも同じメニューに付いて来ている蛮も常人とは違う。

 高校生である僕と蛮は、自主トレが休みの日は学校に行って補習を受けることになった。
 二月になればキャンプで学校には行けなくなるので、これは仕方ないことなのだろうが、私立高校から来ている選手は補習なんて無い様子である。

 う~ん……
 何か損している気がするが、ザックにペットボトルを満載して、何度も通った坂道にも来れなくなると思うと、山頂から下山する時の不思議な気持ちと似た感情が起きてくる。
 紅陵高校に通った三年間で、僕は大きく成長したし、大きく変わることができた。
 この坂道が今の僕の原点になっているような気がした。

 一月の後半になり、隣の部屋の水野さんも寮に戻って来た。
 去年の成績は打率こそ低かったものの、一番打者として定着して、52盗塁を決めて盗塁王を獲得し、お兄さんに続き二年連続でドルフィンズから新人王が誕生したのだ。
 今年は僕が狙う番だけど、果たしてどうなることか……

 水野さんは、実家の長野県上田市でシーズンオフを過ごしてきたらしいが、寮に戻って来た瞬間に、休むこと無く僕の部屋をノックしてきた。
「ミツル君! ちょっといいかい?」
「あぁ、はい。水野さんお帰りなさい、これから宜しくお願いします」
「おぉ、宜しくなっ。てか、矢口和幸って知ってるだろっ?」
「? は、はい。僕の山と写真の師匠ですけど、水野さんは何で知ってるんですか?」
「あぁ、それがさっ、俺の父さんなんだよっ!」
「えぇ~っ! だって矢口さんって山小屋でずっと独身生活をしていたイメージでしたけど、どう言うことなんですかっ? ついこの前、結婚して木村から矢口になるって聞いたばっかりですけどっ!」
「俺も、つい二~三年前まで知らなかったんだけど、山で遭難して行方不明になってたらしくてさ、もう二十年も行方不明じゃぁ生きてる訳ないよな…… って思ってたんだけどさ」
「マジっすかっ? そう言われてみると、何となく仙人みたいな雰囲気もありましたけど……」
「母ちゃんがさ、遭難して記憶を失っているだけで絶対生きてる。 って信じてたみたいで、俺が中学生の頃から山登りに行って探してたみたいなんだよ」
「あっ! それじゃぁ僕が両俣山荘に最後に泊まりに行った時に、帰りにすれ違った人が水野さんのお母さんだったんですかね?」

 何と言うことだろう。
 ドルフィンズに入団する前から、僕とお兄さんと水野さんは不思議な縁で繋がっていた。
 更に話しをしていくと、水野さんは中学二年になる時に、横浜から長野県に引っ越しして行き、その後お兄さんの高校の後輩になったのだが、それまでは僕と蛮の小中学校の先輩だったことが分かったのだ。
 なるほど、香織先輩とは幼馴染になる訳か。

 多城選手の節目のホームランをキャッチした三人が、それぞれ意識することなく、影響し合いながらドルフィンズに集結した。
 過去二年でチームの成績も上がってきた。
 今年はどんな一年になるのだろうか?
 否が応でも期待が高まってしまう。


 二月になりキャンプが始まった。
 僕と蛮は二軍スタートになった。
 僕が本格的な野球を理解していないので、蛮がサポート役となり、開幕までに様々な知識を体に覚え込ませることが課題となった。

 中学までずっと野球をやっていたし、今までファンとして観てきたので、ルールは大体理解していると思う。
 本当にレアケースになると、間違って理解しているルールもあるかもしれないが、それはこれから勉強すれば良い。

 問題は投手として基本的なことができていないことだ。
 例えば牽制球だ。
 どうするとボークになるのか?
 投手経験が無かったので、そこから勉強しなければならない。

 クイックモーションで投げたことも無かった。
 ランナーが出れば盗塁を警戒しなければならないが、今までは普通にキャッチボールをしていたので、クイックで投げたことが無かったのだ。
 やってみると難しい……
 コントロールは無茶苦茶になるし、スピードも出ない。
 繰り返し練習して身に付けるしかない。

 投手は投げるだけではない。
 打球が一塁方向に飛んだら、一塁ベースカバーに走らなければならない。
 これは反射的に動かなければ、打者走者の足が速いと内野安打になってしまう可能性が高い。

 それだけではない。
 ランナー一塁でライト前に抜けた場合、反射的に一塁に向かった後に、抜けたと分かったらすぐに三塁後方のベースカバーに走らなければならない。
 ライトからの三塁送球のバックアップだ。
 打球が右中間を抜けた場合は、一塁ランナーがホームを狙って走ってくる可能性があるので、ホームベース後方へバックアップへ走ることになる。

 このような動きは、高校野球を経験していれば身に付いていて当たり前の動きなのだが、中学の野球部の補欠だった僕には、なかなか理解するのが難しい動きだった。考える時間は一瞬だ。
 自分が次に何をするべきなのか?
 体が勝手に動くような反復練習が必要だった。

 次に問題になるのは打撃だ。
 ランナーが居れば、投手は送りバントをするケースが多い。
 ところが僕にはバント経験が無かったのだ。
 と言うか試合で打席に立たせてもらったことが、ほとんど無かったのだ。
 数少ない打席も、三振した記憶しか無い。

 アドバンテージがあることには気付いた。
 覚醒している時の僕は、150キロの球が100キロに感じるのだ。
 100キロの球なら何とかバントくらいできそうなものだが、中学生レベルの僕の実力では、それも大変難しいことだった。

 野球に限らず、サッカー、バスケ、バレーボール等、あらゆる球技が苦手なのだ。
 それに道具が絡んでくる、野球、テニス、卓球は更に苦手だ。
 ボールではないがバドミントンもダメだ。

 バットやラケットにボールを当てるセンスが無いのだろう……
 走ることや、ジャンプすることは、平均をかなり上回る数字が出ているので、運動神経は悪くないと思うのだが……

 そう考えると「ボールを投げる」という行為に関しては、よくぞここまで成長したものだ。
 などと我ながら感心する。
 覚醒していない状態でも、100キロを超えるスピードで、狙った場所に投げていることは奇跡的だ。
 毎日の積み重ねで身に付けた実力である。

 だとすると、毎日バント練習すれば、何とかなるのではないだろうか?
 前向きに努力して行こう。
 そんな風に考えていたところ、蛮からとんでもない提案をされた。

「でぇ~ 星よぉ~ お前が覚醒している時は、通常の1.5倍の能力を発揮できるなら、80メートル飛ぶ打球が、120メートルになるんじゃないのかぁ? でぇ~」
 なるほど、今まで速球を投げることしか考えてなかったが、それは一理ある。
「120メートル飛ばせば、ほとんどの球場でホームランが打てるぞぉ~ でぇ~ メジャーリーグで活躍している大仁田みたいに、二刀流を目指したらどうなんだぁ~ でぇ~」
 そう言われて、打撃練習にも時間を割いたのだが、ちゃんとバットに当たらないので、100キロに感じるボールを50メートル飛ばすことすら難しいことが分かった。

 二刀流は来年以降の課題として、先ずは投手としての基本的な動作と、バントはしっかりできるようにすること。
 それから変化球をマスターすることに重点を置いて、キャンプ生活を過ごすことになった。
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