僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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終章_一之瀬大気

最終回.その先を目指して

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 ベースを一周してホームまで戻ると、巻が待っていてハイタッチを交わした。
 でも満面の笑みではなく、何か言いたそうな顔をしている。
 そう言えば松翔の試合でも、満塁ホームラン打ったのに何か変な顔してたっけ……
「おい、ヒデミチ、今のホームランって、松翔との決勝戦でお前が打ったホームランに似てなかった?」
「大気さんもそう思いましたか? 何か大気さんの声が聞こえたような気がしたら、急に全部がスローモーシヨンになって…… あの時もそうでしたけど、今のも同じ感じでした」
「これって長嶋さんが言ってる超能力なんじゃないかって……」
「僕もそう思いました」
 二人の意見が一致した。
 どうしてそんなことになるのかは知らないけれど、僕たちが打者とセカンドランナーになった時、そして二人の気持ちが一つになった時に、ホームベースとセカンドベースの間の空間に何やら不思議な現象が起きるのでは……


 試合終了後に、長嶋さんのところに二人で行った。
 まだ確信するには事例が少なすぎるが、再現させるためにはチームの協力も必要になるので、報告しておいたほうが良いだろう。
 という判断だ。
「マジかっ! それが本当なら大気も支配下に復活できるだろうし、明日から再現できるか実験してみるぞっ」

 翌日のフリーバッティング、長嶋さんの発案で、巻の順番の時に僕がセカンドベースに立った。
 そして念じてみた。
「打て~…… ヒデミチ打て~……」

 しかし巻の声は全く返って来ることもなく、回りの空気感も変わらず、スローモーションになるような気配は全く起きなかった。

 逆も試してみた。
 僕がバッターで巻がセカンドランナーだ。
 しかし巻の声は聞こえることもなく、何も起きなかった。

 もしかしたら、試合形式の緊張感がある場面でしか発動しないのでは……?
 ってことで、翌日は紅白戦でも試してみたのだが、全くの不発に終わった。

 その後のフリーバッティングやシートバッティング、紅白戦でも毎日のように試してみたのだが、全く再現することもなく、あれは気のせいだったのかなぁ……
 などと諦めムードも漂い始めた。
 

 やがてオープン戦が始まったのだが、紅白戦よりも緊張感があるし、もしかしたら何か起きるかもしれない。
 って淡い期待もあったのだが、何も起きることもなく無情にも時間だけが経過して行くのだった。

 オープン戦も終盤になり開幕が近付いてきたある日、多城監督に通告された。
「大気、今日の試合で結果が出なかったら、とりあえず二軍に合流してもらうことになった。
 もうすぐ開幕だし、育成選手は公式戦では使えないからな」

 ごもっともなご意見です。
 こちらとしてもこうも結果が出ないと、一軍のベンチの居心地が悪くなってきているところではあった。

 チャンスは中盤の六回に訪れた。
 満塁で巻に打順が回ったのだ。
「セカンドランナー一之瀬!」
 多城監督が僕を代走に起用してくれた。
 これが最後のチャンスだ!
「ビデミチ頼む! ここで打ってくれないと、もしかしたらお前とこうして野球するのも最後になるかも……」
「聞こえましたよ! 大丈夫です! 打ちますっ!」



 巻が満塁ホームランを打ったので、僕は支配下選手に復帰することになった。
 そうは言っても、まだ不確実で成功率100%という訳には行かなかった。
 何となく分かったことは、ただ闇雲に打ってくれ~
 と願うのではなく、「チームの為に」とか「誰かの為に」とか特別な強い思いがあると成功するらしい。

 高校野球のようなトーナメントなら、負けたら終わりなので願いも強くなるが、長いペナントレースで毎日強く願うってそんなに簡単ではないだろう……
 もちろん毎日勝ちたいと思ってやるとは思うけど、ここで打たないと甲子園に行けなくなる。
 ってレベルの思いが毎日維持できるんだろうか……


「そんなの簡単じゃん! お前ドルフィンズのファンだったんだろ。 チャンスで多城さんに打順が回ったら、毎回祈ってたんじゃないの? 凄ぇ弱くて優勝なんて無縁のチームだったけど、ここで打って欲しい! 勝って欲しい! 俺が子供の頃は毎日思ってたけどなぁ……」
 長嶋さんに言われて少しだけ気が楽になった。
 そう願ってくれているファンの為に、自分がそれを叶える側に居られるのだ。
 願いの強さに差なんて無かった。
 毎日「勝って欲しい!」って思って応援していた。
 あの頃と同じ気持ちで念じれば良いんじゃないか?
  

 開幕前の最後のオープン戦でも結果を出すことに成功して、僕の開幕一軍も決定した。


 巻はセカンドのレギュラーとして起用される運びとなった。
 僕は巻の打席でセカンドにランナーが居るケースで、絶対に得点したい場面での代走として起用される方針だ。
 代走からそのままショートの守備固めとして試合終盤の守りでも貢献できる方向で考えているらしい。




 開幕して二ヶ月が過ぎようとしていた。
 チームは首位争いをしている状態なので、数年ぶりに良いスタートが切れたと言える。

 恐怖の九番打者として定着した巻も打率三割をキープしている。
 何故九番かと言うと、四番の星さんに代走を使うことはできない。
 九番打者ならば星さんをセカンドに置いて打順が回ることがないので、苦肉の策で決めたようなのだが、巻の出塁率が高いので一番の水野さん、二番のセンターを守る梶浦、三番の元キャッチャーで今年からサードを守ることになった中田さん、そして四番の星さんと続く上位打線との繋がりが良く得点力がアップしているのだ。

 僕は予定通り代走から巻のヒットで得点に絡む働きができている。
 ランナー一塁で巻の打席になった場合、僕が盗塁してから巻が打つパターンもあって、代走で5個盗塁も決めている。
 元々守備には定評があったので、その後の守備固めから入ったショートでも、安定した守りで投手を助けることができていると思う。

 守備固めに入った後の打席でも、プロ入り二本目のヒットを打てたことが嬉しかった。
 代走に出るのは試合の後半が多かったので、なかなか打席は回ってこないけれど、数少ないチャンスを生かしてもっともっと打撃でも活躍したいと思っている。



 チーム状態が良いので、ルーキーのアフロをテスト的に先発させることになった。
 ここで彼がローテーションに加わるようなことになったら、益々勢いが付いてこのまま首位戦線を突っ走ることになるかも……

 アフロが先発する日に、高校の先輩でもある長嶋さんと水野さんの計らいで、高校の監督の堀内監督を招待した。
 試合前に特別にブルペンで調整しているアフロと面会しているらしい。

 長嶋さんと水野さんに誘われて、僕と巻もブルペンに挨拶に向かった。
「監督、今日はわざわざ遠くからありがとうございます」
「おぉ長嶋と水野かっ! 水野、今日は諸星をしっかりリードしてやってくれよっ!」
「こいつにリードなんて関係ありませんよ。どうせ構えたところに来ないし、勢いだけで行けるところまで行かせますよ」
「まぁその通りだな。おっ、そっちの二人は中央高校の一之瀬と巻か、お前ら二人で一人バロロームってヤツだろっ、今日は諸星の為に打ってやってくれよ!」
「何訳分かんないこと言ってんスか! バロローンって……」
「何だ長嶋、バロムワンを知らんのか? 後でネットで調べておけよ」

 噂には聞いていたが賑やかなおっさんだ、バロムワンとか何のことだか分からないけど、僕も後で調べてみよう……

「今年は諸星はまだまだだな。俺の予想だと新人王は巻なんじゃないかと思うぞ」
「えぇ…… 監督、俺の事応援してくれないんですか?」
「馬鹿野郎、応援してねぇ訳じゃねぇよ。 お前は今日は投げさせてもらえるけど、まだまだプロの体力になってねぇから、活躍するのは来年以降だよ。 今年は巻が新人王ななる予感がする。カギを握っているのは一之瀬だな。一之瀬のサポートがあってこその活躍だ」

 えっ? 何か核心を突いてるじゃん!

「一之瀬はもう新人王の資格が無いのが残念だけど、そのうちいいことがありそうな気がするから、地道に頑張れよっ! 巻が新人王獲れたら、ドルフィンズが優勝するような気がするんでな……」



 ブルペンでの会話のことが何か引っ掛かる。
 巻が居るからこそ僕が生き残ってるのは事実なんだけど、何だか損な役回りだよなぁ……
 思えば多城さんのホームランボールを捕った時から、この役回りが決まっていたのだろうか……

 そんなことを考えていた時、長嶋さんが近付いてきた。
「堀内監督、変なおっさんだろ?」
「はぁ…… まぁ…… でも鋭いとこありますよね」
「そうなんだよ。 あのおっさんの言うことって案外当たるんだよ。 俺と水野がドルフィンズに入るのも当てたし……」
「それじゃぁ、ヒデミチが新人王になったら、優勝しちゃいますかねぇ?」
「かもな。 それよりも、お前にも何かいいことがあるって言ってたじゃん。 あのおっさん、もっと先まで何か見えてるんじゃないかって思うんだよなぁ……」
「それって超能力ですか?」
「あぁ、お前の好きな透視能力とは違うけど、こういうのも透視能力って言うんじゃねぇの?」


 なるほどね。
 まぁ結果はどうなるか分からないけれど、先ずは巻が新人王になれるように頑張ってみるか!
 そうしたら優勝しちゃって、その先に待っている何かを楽しみに念じてみようか!
「ヒデミチ頼んだぞっ! ここで一発打ってくれっ!」

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