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第一章_長嶋一茂
16.裏口入団
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その後、記者会見の為の部屋が用意されていたので、そこで待機するようになった。
そうは言っても、万年最下位のドルフィンズが七巡目で指名した、全く無名の選手である。
一番早く来たのはドルフィンズのスカウトの人だった。
指名の挨拶に来た。
ということなので、記者会見するような雰囲気ではない。
恥ずかしいので帰りたかったのだが、しばらくすると、地元の神奈中テレビと神毎新聞の記者が取材に訪れた。
今後の抱負など、ごく当たり前の形式的なコメントをして、記者会見は終了となった。
記者会見は寂しいモノとなったが、僕のスマホのメールとLINEは、パンクしそうなくらいのお祝いメッセージが届いた。
どこでどう調べたのか?
佐久穂の青木からも届いていた。
「次の対戦を楽しみにしているよ お互いに頑張ろう」
と、書かれていた。
雲の上の存在だった青木から、こんなメッセージが届くとは夢にも思わなかったが、彼もあの時の死球を引きずっていたのだろう。
「新人王は譲らない」と分不相応な返信をしておいた。
十二月早々に、入団発表が行われた。
この場でも僕は全く注目されておらず
「名前が有名人と同じ」
ということだけで、ちょっとだけ質問されたに過ぎなかった。
それはそうだろう。
投手として指名されたが、大学時代に投手として公式戦で投げてないのだから、注目されるはずが無い。
正式に来年から指揮を執ることになった葉山監督のコメントで「秘密兵器は長嶋」との記事が出たのだが、世間の反応は、新人監督の葉山が何言ってるの?
って感じで、全く注目されることは無かった。
葉山監督は本気で僕を秘密兵器として考えているようで、入団発表の翌日から来年のキャンプインまでの、自主トレのメニューを渡された。
寒い時期なので軽めのメニューだろう。
と思っていたが、その考えは甘かった……
年明け早々の入寮まで、このメニューを毎日実践するのは厳し過ぎるだろっ!
ってくらいのハードメニューを黙々と消化しつつ、プロ野球選手になったことを報告する為に、長野に帰省することにした。
新幹線で上田駅に着くと、何よりも先ずは祖父の墓参りに向かった。
亡くなった日の僕の夢の中での説教は、今となっては偶然とは思えない。
まるでこうなる事が分かっていたかのような説教だった。
あの夢を見なければ僕は高校で野球を辞めていたのだ。
本当は今日の報告も、墓参りではなく直接話しがしたかったよ……
家に戻ると、両親と祖母は喜んでいるよりも、本当にプロ野球の世界でやって行けるのか?
心配のほうが先行している様子だった。
家族の反応ってこんなものなのかなぁ……
一番面倒くさいのは、高校の野球部のOB会である。
時期も時期なので忘年会も兼ねて、盛大な宴会が予定されている様子だった。
自主トレが大変なので欠席したかったのだが、今年ばかりはそうは行かないだろう。
染川高校史上初のプロ野球選手が誕生したことで、かなりヒートアップしているらしい。
最近は県大会の決勝まで進出したり、OB会としては嬉しいニュースが続いているので、大変盛り上がっているとのことだ。
僕の勝手でムードを悪くしてはいけないので、顔を出さない訳には行かない……
久し振りに松村・菅沼・オネエ三木にも会いたいし、堀内監督に水野をキャッチャーにコンバートした理由などを聞いてみたかったので、半分嫌々ながらも参加することにした。
忘年会で松村と菅沼に再会した。
この四年間で酒も飲めるようになったので、ボディガードとして横に座ってもらった。
堀内監督に鍛えられて、やたら体格の良いおっさん達が酒を勧めに来るので、断るのが大変だろうと、彼らが代わりに飲んでくれる作戦だ。
そう言えばオネエ三木の姿が見えないけど欠席なのか?
キョロキョロ姿を探していると、女子マネージャーの中に混じって飲んでいる姿を発見した。
完全に女になっている!
この四年間で僕も成長したが、なりたい自分になる。
という観点では、オネエ三木の成長が一番凄いのではないか?
事情を知らないおっさん達にチヤホヤされている姿を見て、こいつはオネエとして生きて行けるな。
と確信した。
堀内監督に水野のコンバートの真意を聞きたかったのだけど、宴会の開始直後にすぐに正体不明なくらい酔ってしまったので、まともに話しをすることができなかった。
まぁ突然僕を投手に指名したり、元々正体不明なところがあるし、この人は感覚で生きている人なんだろう……
と思ったのだが……
「おい長嶋、お前本当なら大学でも投手として成績残せたんじゃないのか?
目立つ成績を残して、意中の球団以外からドラフトされるのが嫌で、わざと試合に出なかっただろう」
おいおい、何で知ってるんだよ、このおっさん……
「まんまと裏口入団できて良かったじゃねぇか」
裏口入団とは失礼なっ! 実力で入団したんですよっ!
「来年は水野も入るんだろ?」
いや、そうなれば良いと思うけど、何なんだ、この酔っ払いのおっさんは……
こんな田舎の弱小公立高校ではなく、高校野球に力を入れている私立で監督になれば、全国に知られる名将になれるのでは?
「俺はここが好きなんだよ」
そう言って眠ってしまったが、次は酒の席ではないところで、改めて聞いてみたいと思った。
年が明けて、すぐに入寮となった。
今では球界を代表するクローザーになっている、崎山投手が使っていた部屋が割り当てられた。
どうやら本気で僕を秘密兵器として期待しているらしい。
同期入団の新人合同自主トレが始まった。
大学時代は打撃投手をやりながら、日々のトレーニングを怠ることは無かったし、入団発表直後に葉山監督から渡された自主トレメニューを、手抜きすることなく実践してきたので、体力的には問題無いだろう。
と思っていたのだが、他の新人選手の体力は化け物のようで、僕は常に最後尾で付いて行くのが精一杯の状態になった。
プロ野球の選手になれる人の体力は、やはり次元が違うのだ。
積んでいるエンジンが高級スポーツカーと軽トラックほどの差があるのだ。
付いて行けてるだけでも評価して欲しい……
そんな状態だったので、キャンプは二軍スタートとなった。
二軍では体力トレーニング中心のメニューが組まれた。
先ずは一年間戦える体力を身に着けることが課題とされた様だった。
実戦形式の練習では、ナックルは封印するように言われた。
味方打者の調子を崩してはいけない。という理由からなのだが、ナックルを投げなければアピールする場面が無いのでは……
どうやって結果を残して一軍に昇格すれば良いのか?
普通に投げているだけなら、僕の球は130キロ程度の打ちごろの球でしかない。
二軍キャンプで途方に暮れていると、葉山監督から直々に通達が来た。
万年最下位のドルフィンズは、今年も敵地で開幕するが、本拠地横浜ボールパークの開幕戦のクローザーとして起用する予定だから、焦らずに二軍で体力作りをするように。
とのことだった。
今年の本拠地開幕の相手は紳士球団だ。
クローザーで起用する。
ってことは勝ってることが前提ではないか?
もしかしたら、僕の出番なんて無いんじゃないか?
長年ファンをやっているので、僕の心配は正しい心配だと思うのだが、今年からはファンではない。
チームを信じてデビュー戦に向けて準備をして行こう。
そうは言っても、万年最下位のドルフィンズが七巡目で指名した、全く無名の選手である。
一番早く来たのはドルフィンズのスカウトの人だった。
指名の挨拶に来た。
ということなので、記者会見するような雰囲気ではない。
恥ずかしいので帰りたかったのだが、しばらくすると、地元の神奈中テレビと神毎新聞の記者が取材に訪れた。
今後の抱負など、ごく当たり前の形式的なコメントをして、記者会見は終了となった。
記者会見は寂しいモノとなったが、僕のスマホのメールとLINEは、パンクしそうなくらいのお祝いメッセージが届いた。
どこでどう調べたのか?
佐久穂の青木からも届いていた。
「次の対戦を楽しみにしているよ お互いに頑張ろう」
と、書かれていた。
雲の上の存在だった青木から、こんなメッセージが届くとは夢にも思わなかったが、彼もあの時の死球を引きずっていたのだろう。
「新人王は譲らない」と分不相応な返信をしておいた。
十二月早々に、入団発表が行われた。
この場でも僕は全く注目されておらず
「名前が有名人と同じ」
ということだけで、ちょっとだけ質問されたに過ぎなかった。
それはそうだろう。
投手として指名されたが、大学時代に投手として公式戦で投げてないのだから、注目されるはずが無い。
正式に来年から指揮を執ることになった葉山監督のコメントで「秘密兵器は長嶋」との記事が出たのだが、世間の反応は、新人監督の葉山が何言ってるの?
って感じで、全く注目されることは無かった。
葉山監督は本気で僕を秘密兵器として考えているようで、入団発表の翌日から来年のキャンプインまでの、自主トレのメニューを渡された。
寒い時期なので軽めのメニューだろう。
と思っていたが、その考えは甘かった……
年明け早々の入寮まで、このメニューを毎日実践するのは厳し過ぎるだろっ!
ってくらいのハードメニューを黙々と消化しつつ、プロ野球選手になったことを報告する為に、長野に帰省することにした。
新幹線で上田駅に着くと、何よりも先ずは祖父の墓参りに向かった。
亡くなった日の僕の夢の中での説教は、今となっては偶然とは思えない。
まるでこうなる事が分かっていたかのような説教だった。
あの夢を見なければ僕は高校で野球を辞めていたのだ。
本当は今日の報告も、墓参りではなく直接話しがしたかったよ……
家に戻ると、両親と祖母は喜んでいるよりも、本当にプロ野球の世界でやって行けるのか?
心配のほうが先行している様子だった。
家族の反応ってこんなものなのかなぁ……
一番面倒くさいのは、高校の野球部のOB会である。
時期も時期なので忘年会も兼ねて、盛大な宴会が予定されている様子だった。
自主トレが大変なので欠席したかったのだが、今年ばかりはそうは行かないだろう。
染川高校史上初のプロ野球選手が誕生したことで、かなりヒートアップしているらしい。
最近は県大会の決勝まで進出したり、OB会としては嬉しいニュースが続いているので、大変盛り上がっているとのことだ。
僕の勝手でムードを悪くしてはいけないので、顔を出さない訳には行かない……
久し振りに松村・菅沼・オネエ三木にも会いたいし、堀内監督に水野をキャッチャーにコンバートした理由などを聞いてみたかったので、半分嫌々ながらも参加することにした。
忘年会で松村と菅沼に再会した。
この四年間で酒も飲めるようになったので、ボディガードとして横に座ってもらった。
堀内監督に鍛えられて、やたら体格の良いおっさん達が酒を勧めに来るので、断るのが大変だろうと、彼らが代わりに飲んでくれる作戦だ。
そう言えばオネエ三木の姿が見えないけど欠席なのか?
キョロキョロ姿を探していると、女子マネージャーの中に混じって飲んでいる姿を発見した。
完全に女になっている!
この四年間で僕も成長したが、なりたい自分になる。
という観点では、オネエ三木の成長が一番凄いのではないか?
事情を知らないおっさん達にチヤホヤされている姿を見て、こいつはオネエとして生きて行けるな。
と確信した。
堀内監督に水野のコンバートの真意を聞きたかったのだけど、宴会の開始直後にすぐに正体不明なくらい酔ってしまったので、まともに話しをすることができなかった。
まぁ突然僕を投手に指名したり、元々正体不明なところがあるし、この人は感覚で生きている人なんだろう……
と思ったのだが……
「おい長嶋、お前本当なら大学でも投手として成績残せたんじゃないのか?
目立つ成績を残して、意中の球団以外からドラフトされるのが嫌で、わざと試合に出なかっただろう」
おいおい、何で知ってるんだよ、このおっさん……
「まんまと裏口入団できて良かったじゃねぇか」
裏口入団とは失礼なっ! 実力で入団したんですよっ!
「来年は水野も入るんだろ?」
いや、そうなれば良いと思うけど、何なんだ、この酔っ払いのおっさんは……
こんな田舎の弱小公立高校ではなく、高校野球に力を入れている私立で監督になれば、全国に知られる名将になれるのでは?
「俺はここが好きなんだよ」
そう言って眠ってしまったが、次は酒の席ではないところで、改めて聞いてみたいと思った。
年が明けて、すぐに入寮となった。
今では球界を代表するクローザーになっている、崎山投手が使っていた部屋が割り当てられた。
どうやら本気で僕を秘密兵器として期待しているらしい。
同期入団の新人合同自主トレが始まった。
大学時代は打撃投手をやりながら、日々のトレーニングを怠ることは無かったし、入団発表直後に葉山監督から渡された自主トレメニューを、手抜きすることなく実践してきたので、体力的には問題無いだろう。
と思っていたのだが、他の新人選手の体力は化け物のようで、僕は常に最後尾で付いて行くのが精一杯の状態になった。
プロ野球の選手になれる人の体力は、やはり次元が違うのだ。
積んでいるエンジンが高級スポーツカーと軽トラックほどの差があるのだ。
付いて行けてるだけでも評価して欲しい……
そんな状態だったので、キャンプは二軍スタートとなった。
二軍では体力トレーニング中心のメニューが組まれた。
先ずは一年間戦える体力を身に着けることが課題とされた様だった。
実戦形式の練習では、ナックルは封印するように言われた。
味方打者の調子を崩してはいけない。という理由からなのだが、ナックルを投げなければアピールする場面が無いのでは……
どうやって結果を残して一軍に昇格すれば良いのか?
普通に投げているだけなら、僕の球は130キロ程度の打ちごろの球でしかない。
二軍キャンプで途方に暮れていると、葉山監督から直々に通達が来た。
万年最下位のドルフィンズは、今年も敵地で開幕するが、本拠地横浜ボールパークの開幕戦のクローザーとして起用する予定だから、焦らずに二軍で体力作りをするように。
とのことだった。
今年の本拠地開幕の相手は紳士球団だ。
クローザーで起用する。
ってことは勝ってることが前提ではないか?
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