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第一章 綺麗なお姉さんと混浴でいちゃいちゃえっち
浮かび上がる黒い気持ち
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朝、目覚ましのアラームで目が覚める。
いつの間に寝たんだろう。目覚ましなんてセットした覚えないのに。
スマホを見ても、由乃からの返信はない。寝ぼけた頭で顔を洗いながら、昨日のことを思いだす。
「んふ、うふふふへ」
私、奏太くんに恋をしているんだわ。恋をして、愛してしまった。心も身体も奏太くんのものになっちゃった。この関係を恋人と呼ばずしてなんと言うでしょう。
『セクシャルハラスメント』
『性的暴行罪』
『痴女』
「……」
ようやく由乃から返信がきたと思ったら。なんていうか……これって、私が責められてるのかな。それとも冗談?
うーん、なんて返そう。
『奏太くんとは、清いお付き合いをしています!』
「よし」
身支度を済ませて外に出ると、いつもより街が輝いて見えた。ああ私って、奏太くんと同じ世界にいるんだ。奏太くんと同じ日本に、都道府県に、時代に生きてる。それってきっと、凄いこと。
教室に入ると由乃がいて、私は背後から「おはよう」と声を掛けた。なかなか反応がないので、今度はぽんと軽く肩に触れながら「おはよう由乃」と声を掛ける。
「ああ愛子、おはよう♡」
良かった、反応がある。やっぱりさっきのは聞こえてなかっただけなんだ。
「おはよー。もう。さっきから声掛けてたのにぃ」
「ごめんごめん。考え事してたのぉ」
チャイムが鳴り、席に着く。授業中も頭の中は奏太くんでいっぱいだった。合鍵は作らないでって言われたけど、会いにくるなとは言われてないもんね。こんなの実質、彼氏と彼女じゃん。私、奏太くんとお付き合いしてるんだ。
でも安心してね。公言なんてしないから。奏太くんは有名人なんだから、私がちゃんと秘密を守らなきゃ。
あ、でも由乃には言っちゃった。由乃も私と奏太くんの関係、祝福してくれてるんだよね?
そうだといいな。えへ。
祝福しないとかないよね。だって、由乃が私に奏太くんを紹介してくれたんだもん。性格に難があるとか、借金があるとか、なんか問題あるのに紹介するとかないよね。ないよね。うん、ない。由乃はそんなことしない。
昼休みになると、私は由乃に奏太くんとの馴れ初めを話し始めた。
奏太くんが、おーいお茶の新しいえむに出てたこと。奏太くんが、おーいお茶の新しいえむで、ふわりん♪ と言ったこと。奏太くんが、意外と近くに住んでたこと。奏太くんに会いに行って、漫画喫茶で声を掛けたこと。奏太くんと、漫画喫茶であんなことやそんなことをして、奏太くんの家でもあんなことやそんなことをしたこと。
包み隠さず全部由乃に打ち明けた。そんなのもう運命じゃんって、由乃なら言ってくれると思ったんだ。
それなのに。
「……愛子、そういうのって、ストーカーって言うんだよ?」
「は?」
どうしてストーカーだなんて言うの?
私の何処がストーカーなのよ。
あ、もしかして。
「嫉妬?」
「は?」
「由乃ってば、もしかして嫉妬してるの?」
「どうしてそう思うの?」
「自分のお気に入りが私に盗られて嫉妬してるんだ」
なあんだそういうことね。そっかそっか、嫉妬してるんだ。ほんと可愛いなぁ由乃は。
「嫉妬っていうか……ストーカー云々は抜きにしても、そういう関係ってセフレって言うんじゃないの?」
「セフレって身体の関係だけでしょ? 私と奏太くんは身体だけじゃなくて、心も繋がってるんだけど」
「え……今の話の何処が心も繋がってるって?」
「奏太くん、私のこと、愛子って」
そうだよ奏太くんは私のこと愛子って呼んでくれたもん。これって私は奏太くんにとって、特別な存在だって言ってるようなもんじゃんねぇ。
「えっちの時しか呼んでくれなかったけど、それは奏太くんが恥ずかしがり屋さんだからで、ほんとはいつも心の中では私を愛子って呼んでるんだよ」
きっと月日を重ねれば、普段から愛子って呼んでくれるようになるはず。どのカップルも付き合いたてなんてこんなもんでしょ?
私は信じて疑わなかった。私と奏太くんの関係を由乃なら喜んでくれると思ったのに。どうして、どうして、どうして。
「……きもちわる」
どうして喜んでくれないの?
どうしてストーカーだなんて言うの?
どうしてセフレだなんて言うの?
どうして気持ち悪いなんて言うの?
酷いよ由乃。友達だと思ってたのに。自分が選ばれなかったからって僻んでんじゃねえよブス。
由乃とは口を聞かなくなった。私から謝るつもりはない。だって私は悪くない。私が嬉しいと思ったから、由乃にも話そうと思ったのに。
それなのになんなのよあの態度。失礼にも程がある。自分が紹介した癖に、私に盗られたと思って手の平くるくるくるくるくるくると。
まぁ、男が絡むと女は変わるって言うし、友情より男を取る女なんて山程いるし。由乃はそういう女だったってだけ。
だけど私、由乃がいないと本当にぼっちなんだよね。クラスの人たちも、あいつら喧嘩でもしたのかな程度にしか見てないだろうし。
それなのに由乃はぼっちにならないの。由乃の周りにはいつも人がいて、私がいないのをラッキーと言わんばかりに近付いてくる。誰も由乃のことなんか嫌いじゃないの。誰も私のことなんて気にしてない。
その人、私のこと気持ち悪いって言ったんですけどぉ。
声を大にして言いたくなった。だけど皆、由乃が好きだから、私の言葉なんて響かない。右から左。金魚のフンがなんか言ってるくらいにしか思われないんだろうな。死ね。
一人でいる時間が増えて退屈だったので、本屋さんで雑誌を買った。女子高生が読む雑誌。普段なら絶対に買わないけど、なんとなく買っちゃった。
ぱらぱらぱらと捲ってみると、読者モデルと呼ばれる人達は皆可愛くて目の保養になる。
「こうして勘違い女は生まれる。勘違い女特集」
面白そうな特集を見つけて、一語一句、取り零すことなく朗読する。
「消しゴムを拾ってあげただけなのに、好意があると勘違いされた。ぶつかっただけなのに、私に触りたかったの? と言われた。教科書を貸してあげただけなのに、毎日お弁当を作って持ってくるようになった。目が合ったから会釈をしたら、家の前で待ち伏せされた。ラインに即返したら、それ以来、即返しないと返事が遅いと怒られるようになった。タイムラインで暇だと呟いたら、暇ならデートしようよとラインがきた。手が触れただけで、痴漢と言いふらされた。実は好きな人がいるんだよねと打ち明けたら、ごめんなさいとか言って何故か振られた。一回えっちしただけなのに、彼女面してきた」
勘違いにも色々種類があるんだなぁ。
消しゴムくらい誰だって拾うし。ぶつかっただけで、私に触りたかったの? はやばい。欲求不満かよ。教科書貸したら毎日お弁当作って持ってくるって、愛が重すぎる。目が合ったからって家の前で待ち伏せされるのは怖いなぁ。即返しなきゃ怒られるとか冗談じゃない。暇だと呟いたイコール私とデートしたいってなんて隠語? 手が触れただけで痴漢呼ばわりとか、男性側は冗談じゃないよね。好きな人がいるって、自分のことだと思って勘違いしてんのまじ痛いよ。えっちしただけで彼女面すんの本当にうざい。
「アウトスタで写真を載せたら、そこに女が現れて……。彼女とご飯デートしてたんだけど、ツーショ撮ってアウトスタに載せたら数分後に女がきたんですよね。女とは数回会っただけで、彼女の友達の友達みたいなんですけど、やたらアウトスタでコメントくるなぁ程度で、とくに気にしてなかったのに。(俺の名前)くん、近くにいるんだと思ってきちゃったって、僕に彼女いるの知っててわざわざきますかね?」
うわあ、強烈ぅ。仮に彼女じゃなかったとしても、男と女がサシでご飯してるんだから、そこにとつるのは野暮というかなんというか。アウトスタでリアタイ投稿、こわーい。
「はあ……暇だなぁ」
休みの日にベットの上でゴロゴロと過ごすこの時間の虚しさよ。暇だから私もアウトスタ始めてみようかな。ちょっとは暇潰しになるといいんだけど。
アウトスタをインストールして、あいでぃを考える。あいでぃを考えたあとは名前を考えて、名前を考えたあとは自己紹介を考える。自己紹介を考えたあとはプロフィール画像を載せて、ようやくアウトスタが始められるらしい。
私はとりあえず、勝手におすすめに出てくる人達のページを適当に飛んでみた。
ラーメンの画像ばかりの人、自分が書いた絵を載せてる人、コスプレ画像、友達とのツーショ。本当に色んな人がいるみたい。検索も自由にできるみたいで、好きなアニメで検索すれば、それに関連した画像が出てくるようだ。
下乳と検索すれば下乳が。あ、この子可愛い。
私は夢中になってアウトスタを見た。いいなと思う子がいれば、すぐにフォローをした。
そんなことを繰り返していると、気になる投稿があって手が止まる。
この腕時計、何処かで見たことがあるような。そんなにはっきり見たわけじゃないんだけど、これって奏太くんが付けてた腕時計じゃない?
でも、奏太くんはえすえぬえすはやってないって。
コメントなんてない、画像のみの投稿。腕時計の他には、居酒屋で撮ったご飯、難しそうな本、新品のカフェラテのペットボトル。自己紹介は未記入のまま。名前は彼方。プロフィール画像は夕日。
これだけで奏太くんだと断定するには、弱すぎる。
だけど気になる。もし奏太くんじゃなかったとしても気になる。ああでも奏太くんじゃなかったらどうしよう。浮気になっちゃうよぉ。フォローはまだ女の子しかしてないのに、この人のこともフォローしたい。
浮気じゃないよ、浮気じゃないよ。
私は恐る恐るフォローボタンをタップした。
ああ、フォローしてしまった。奏太くんと同じ腕時計というだけで。
きっと私はこれからも、これは浮気じゃないよと言いながら、奏太くんと同じものを持つ人をフォローしてしまうのだろう。
彼方くんは最近アウトスタを始めたっぽくて、誰もフォローしてなかった。フォロワーは私だけ。毎日投稿してるわけではなく、なんなら数ヶ月に一度のペース。私がフォローをしたところで、次に投稿されるのはいつになるのか分からない。
退屈しのぎにテレビを付けると、奏太くんのしいえむが流れる。
『ふわりん♪』
こうもタイミングがいいと、なんだかうしろめたさを感じちゃうな。
お腹が空いたのでコンビニに行こうと外に出ると、頭上に大きな看板が目に入った。そこには奏太くんが主役級に映っていて、縦文字で、ふわりん♪ と書いてある。
これって、おーいお茶の新しいえむの看板だよね?
どうしてこんなに、おーいお茶が宣伝されてるの?
昨日まではなかったはずなのに、こんなに大っぴらに奏太くんの顔を載せるなんて、奏太くんに人気が出たらどうすんのよ。
私だけの奏太くんなのに、私だけじゃない、皆の奏太くんになっちゃう。
そんなのは絶対駄目。嫉妬で頭がどうにかなりそう。
私の背後でミーハーなブスが「あの人、格好良い」と言っている。
ほらね、これだから嫌なのよ。あの人誰? ってなるじゃない。ググればえーぶい男優だって分かるじゃない。えーぶい男優だって知ったら動画を見るじゃない。動画を見たらムラムラするじゃない。ムラムラしたらそれをおかずにするじゃない。最低、最悪、死ねよお前ら。奏太くんは私の彼氏なんだから、お前らの性欲の捌け口なんかにすんな。
ああいうのって、何処に電話すれば撤去してくれるのかな。一分でも一秒でも早く、全部撤去してほしい。こんな公衆の面前に奏太くんを晒すなんて信じられない。あんたら奏太くんにちゃんと聞いたのかよ。おーいお茶の宣伝をしたいので、此処と此処と此処と此処に貴方の顔を載せた看板を設置してもいいですかって聞いたのかよ。
別にしいえむだけで良かったじゃん。なんで余計なことまでするのかなぁ。
他にもないかあちこち歩き回ったけど、駅前にもあったから誰もいない深夜の時間帯を狙って、真っ赤なペンキをぶっかけてやった。他にもちらほらあったけど、駅前の看板が一番大きくて目立つから、何よりも先に汚してやった。
いつの間に寝たんだろう。目覚ましなんてセットした覚えないのに。
スマホを見ても、由乃からの返信はない。寝ぼけた頭で顔を洗いながら、昨日のことを思いだす。
「んふ、うふふふへ」
私、奏太くんに恋をしているんだわ。恋をして、愛してしまった。心も身体も奏太くんのものになっちゃった。この関係を恋人と呼ばずしてなんと言うでしょう。
『セクシャルハラスメント』
『性的暴行罪』
『痴女』
「……」
ようやく由乃から返信がきたと思ったら。なんていうか……これって、私が責められてるのかな。それとも冗談?
うーん、なんて返そう。
『奏太くんとは、清いお付き合いをしています!』
「よし」
身支度を済ませて外に出ると、いつもより街が輝いて見えた。ああ私って、奏太くんと同じ世界にいるんだ。奏太くんと同じ日本に、都道府県に、時代に生きてる。それってきっと、凄いこと。
教室に入ると由乃がいて、私は背後から「おはよう」と声を掛けた。なかなか反応がないので、今度はぽんと軽く肩に触れながら「おはよう由乃」と声を掛ける。
「ああ愛子、おはよう♡」
良かった、反応がある。やっぱりさっきのは聞こえてなかっただけなんだ。
「おはよー。もう。さっきから声掛けてたのにぃ」
「ごめんごめん。考え事してたのぉ」
チャイムが鳴り、席に着く。授業中も頭の中は奏太くんでいっぱいだった。合鍵は作らないでって言われたけど、会いにくるなとは言われてないもんね。こんなの実質、彼氏と彼女じゃん。私、奏太くんとお付き合いしてるんだ。
でも安心してね。公言なんてしないから。奏太くんは有名人なんだから、私がちゃんと秘密を守らなきゃ。
あ、でも由乃には言っちゃった。由乃も私と奏太くんの関係、祝福してくれてるんだよね?
そうだといいな。えへ。
祝福しないとかないよね。だって、由乃が私に奏太くんを紹介してくれたんだもん。性格に難があるとか、借金があるとか、なんか問題あるのに紹介するとかないよね。ないよね。うん、ない。由乃はそんなことしない。
昼休みになると、私は由乃に奏太くんとの馴れ初めを話し始めた。
奏太くんが、おーいお茶の新しいえむに出てたこと。奏太くんが、おーいお茶の新しいえむで、ふわりん♪ と言ったこと。奏太くんが、意外と近くに住んでたこと。奏太くんに会いに行って、漫画喫茶で声を掛けたこと。奏太くんと、漫画喫茶であんなことやそんなことをして、奏太くんの家でもあんなことやそんなことをしたこと。
包み隠さず全部由乃に打ち明けた。そんなのもう運命じゃんって、由乃なら言ってくれると思ったんだ。
それなのに。
「……愛子、そういうのって、ストーカーって言うんだよ?」
「は?」
どうしてストーカーだなんて言うの?
私の何処がストーカーなのよ。
あ、もしかして。
「嫉妬?」
「は?」
「由乃ってば、もしかして嫉妬してるの?」
「どうしてそう思うの?」
「自分のお気に入りが私に盗られて嫉妬してるんだ」
なあんだそういうことね。そっかそっか、嫉妬してるんだ。ほんと可愛いなぁ由乃は。
「嫉妬っていうか……ストーカー云々は抜きにしても、そういう関係ってセフレって言うんじゃないの?」
「セフレって身体の関係だけでしょ? 私と奏太くんは身体だけじゃなくて、心も繋がってるんだけど」
「え……今の話の何処が心も繋がってるって?」
「奏太くん、私のこと、愛子って」
そうだよ奏太くんは私のこと愛子って呼んでくれたもん。これって私は奏太くんにとって、特別な存在だって言ってるようなもんじゃんねぇ。
「えっちの時しか呼んでくれなかったけど、それは奏太くんが恥ずかしがり屋さんだからで、ほんとはいつも心の中では私を愛子って呼んでるんだよ」
きっと月日を重ねれば、普段から愛子って呼んでくれるようになるはず。どのカップルも付き合いたてなんてこんなもんでしょ?
私は信じて疑わなかった。私と奏太くんの関係を由乃なら喜んでくれると思ったのに。どうして、どうして、どうして。
「……きもちわる」
どうして喜んでくれないの?
どうしてストーカーだなんて言うの?
どうしてセフレだなんて言うの?
どうして気持ち悪いなんて言うの?
酷いよ由乃。友達だと思ってたのに。自分が選ばれなかったからって僻んでんじゃねえよブス。
由乃とは口を聞かなくなった。私から謝るつもりはない。だって私は悪くない。私が嬉しいと思ったから、由乃にも話そうと思ったのに。
それなのになんなのよあの態度。失礼にも程がある。自分が紹介した癖に、私に盗られたと思って手の平くるくるくるくるくるくると。
まぁ、男が絡むと女は変わるって言うし、友情より男を取る女なんて山程いるし。由乃はそういう女だったってだけ。
だけど私、由乃がいないと本当にぼっちなんだよね。クラスの人たちも、あいつら喧嘩でもしたのかな程度にしか見てないだろうし。
それなのに由乃はぼっちにならないの。由乃の周りにはいつも人がいて、私がいないのをラッキーと言わんばかりに近付いてくる。誰も由乃のことなんか嫌いじゃないの。誰も私のことなんて気にしてない。
その人、私のこと気持ち悪いって言ったんですけどぉ。
声を大にして言いたくなった。だけど皆、由乃が好きだから、私の言葉なんて響かない。右から左。金魚のフンがなんか言ってるくらいにしか思われないんだろうな。死ね。
一人でいる時間が増えて退屈だったので、本屋さんで雑誌を買った。女子高生が読む雑誌。普段なら絶対に買わないけど、なんとなく買っちゃった。
ぱらぱらぱらと捲ってみると、読者モデルと呼ばれる人達は皆可愛くて目の保養になる。
「こうして勘違い女は生まれる。勘違い女特集」
面白そうな特集を見つけて、一語一句、取り零すことなく朗読する。
「消しゴムを拾ってあげただけなのに、好意があると勘違いされた。ぶつかっただけなのに、私に触りたかったの? と言われた。教科書を貸してあげただけなのに、毎日お弁当を作って持ってくるようになった。目が合ったから会釈をしたら、家の前で待ち伏せされた。ラインに即返したら、それ以来、即返しないと返事が遅いと怒られるようになった。タイムラインで暇だと呟いたら、暇ならデートしようよとラインがきた。手が触れただけで、痴漢と言いふらされた。実は好きな人がいるんだよねと打ち明けたら、ごめんなさいとか言って何故か振られた。一回えっちしただけなのに、彼女面してきた」
勘違いにも色々種類があるんだなぁ。
消しゴムくらい誰だって拾うし。ぶつかっただけで、私に触りたかったの? はやばい。欲求不満かよ。教科書貸したら毎日お弁当作って持ってくるって、愛が重すぎる。目が合ったからって家の前で待ち伏せされるのは怖いなぁ。即返しなきゃ怒られるとか冗談じゃない。暇だと呟いたイコール私とデートしたいってなんて隠語? 手が触れただけで痴漢呼ばわりとか、男性側は冗談じゃないよね。好きな人がいるって、自分のことだと思って勘違いしてんのまじ痛いよ。えっちしただけで彼女面すんの本当にうざい。
「アウトスタで写真を載せたら、そこに女が現れて……。彼女とご飯デートしてたんだけど、ツーショ撮ってアウトスタに載せたら数分後に女がきたんですよね。女とは数回会っただけで、彼女の友達の友達みたいなんですけど、やたらアウトスタでコメントくるなぁ程度で、とくに気にしてなかったのに。(俺の名前)くん、近くにいるんだと思ってきちゃったって、僕に彼女いるの知っててわざわざきますかね?」
うわあ、強烈ぅ。仮に彼女じゃなかったとしても、男と女がサシでご飯してるんだから、そこにとつるのは野暮というかなんというか。アウトスタでリアタイ投稿、こわーい。
「はあ……暇だなぁ」
休みの日にベットの上でゴロゴロと過ごすこの時間の虚しさよ。暇だから私もアウトスタ始めてみようかな。ちょっとは暇潰しになるといいんだけど。
アウトスタをインストールして、あいでぃを考える。あいでぃを考えたあとは名前を考えて、名前を考えたあとは自己紹介を考える。自己紹介を考えたあとはプロフィール画像を載せて、ようやくアウトスタが始められるらしい。
私はとりあえず、勝手におすすめに出てくる人達のページを適当に飛んでみた。
ラーメンの画像ばかりの人、自分が書いた絵を載せてる人、コスプレ画像、友達とのツーショ。本当に色んな人がいるみたい。検索も自由にできるみたいで、好きなアニメで検索すれば、それに関連した画像が出てくるようだ。
下乳と検索すれば下乳が。あ、この子可愛い。
私は夢中になってアウトスタを見た。いいなと思う子がいれば、すぐにフォローをした。
そんなことを繰り返していると、気になる投稿があって手が止まる。
この腕時計、何処かで見たことがあるような。そんなにはっきり見たわけじゃないんだけど、これって奏太くんが付けてた腕時計じゃない?
でも、奏太くんはえすえぬえすはやってないって。
コメントなんてない、画像のみの投稿。腕時計の他には、居酒屋で撮ったご飯、難しそうな本、新品のカフェラテのペットボトル。自己紹介は未記入のまま。名前は彼方。プロフィール画像は夕日。
これだけで奏太くんだと断定するには、弱すぎる。
だけど気になる。もし奏太くんじゃなかったとしても気になる。ああでも奏太くんじゃなかったらどうしよう。浮気になっちゃうよぉ。フォローはまだ女の子しかしてないのに、この人のこともフォローしたい。
浮気じゃないよ、浮気じゃないよ。
私は恐る恐るフォローボタンをタップした。
ああ、フォローしてしまった。奏太くんと同じ腕時計というだけで。
きっと私はこれからも、これは浮気じゃないよと言いながら、奏太くんと同じものを持つ人をフォローしてしまうのだろう。
彼方くんは最近アウトスタを始めたっぽくて、誰もフォローしてなかった。フォロワーは私だけ。毎日投稿してるわけではなく、なんなら数ヶ月に一度のペース。私がフォローをしたところで、次に投稿されるのはいつになるのか分からない。
退屈しのぎにテレビを付けると、奏太くんのしいえむが流れる。
『ふわりん♪』
こうもタイミングがいいと、なんだかうしろめたさを感じちゃうな。
お腹が空いたのでコンビニに行こうと外に出ると、頭上に大きな看板が目に入った。そこには奏太くんが主役級に映っていて、縦文字で、ふわりん♪ と書いてある。
これって、おーいお茶の新しいえむの看板だよね?
どうしてこんなに、おーいお茶が宣伝されてるの?
昨日まではなかったはずなのに、こんなに大っぴらに奏太くんの顔を載せるなんて、奏太くんに人気が出たらどうすんのよ。
私だけの奏太くんなのに、私だけじゃない、皆の奏太くんになっちゃう。
そんなのは絶対駄目。嫉妬で頭がどうにかなりそう。
私の背後でミーハーなブスが「あの人、格好良い」と言っている。
ほらね、これだから嫌なのよ。あの人誰? ってなるじゃない。ググればえーぶい男優だって分かるじゃない。えーぶい男優だって知ったら動画を見るじゃない。動画を見たらムラムラするじゃない。ムラムラしたらそれをおかずにするじゃない。最低、最悪、死ねよお前ら。奏太くんは私の彼氏なんだから、お前らの性欲の捌け口なんかにすんな。
ああいうのって、何処に電話すれば撤去してくれるのかな。一分でも一秒でも早く、全部撤去してほしい。こんな公衆の面前に奏太くんを晒すなんて信じられない。あんたら奏太くんにちゃんと聞いたのかよ。おーいお茶の宣伝をしたいので、此処と此処と此処と此処に貴方の顔を載せた看板を設置してもいいですかって聞いたのかよ。
別にしいえむだけで良かったじゃん。なんで余計なことまでするのかなぁ。
他にもないかあちこち歩き回ったけど、駅前にもあったから誰もいない深夜の時間帯を狙って、真っ赤なペンキをぶっかけてやった。他にもちらほらあったけど、駅前の看板が一番大きくて目立つから、何よりも先に汚してやった。
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