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第二章 千変万化
対サークルクラッシャー
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翌朝、学校に着くとすぐに由乃に「おはよう」と声を掛けた。
返事はない。当たり前だ。あの一件以来、由乃とは未だに仲直りができてないのだから。
本当はすぐにでも謝って仲直りして、一分でも一秒でも早く昨日のあらましを話したいけど、内容が内容なだけに、朝から教室で話すものでもないだろう。
私は逸る気持ちを抑えて、放課後まで待つことにした。
放課後のチャイムと同時に由乃の元へと駆けていくと、早く行こうと由乃の腕を引っ張り、教室から出ようとする私の強引さに負けて、由乃がようやく口を開く。
「ちょっと。腕、痛いんだけど。なんなの?」
「由乃に話したいことがあるの」
「私はないから」
「私があるの」
私のただならぬ雰囲気に何かを察したのか、それ以上の抵抗はなくなった。
上履きから靴に履き替えて学校を出ると、人気の少ない小さな公園へと由乃を誘導する。駅とは正反対にある公園で、ブランコとベンチしかないからか、普段からあまり人が寄りつかない公園だ。
公園には思った通り、誰もいなかった。
私はベンチに腰を下ろすと、由乃に隣に座るよう促した。
私と由乃の間には、人一人分のスペースがある。
「あのね、由乃の知り合いに、年上のお姉さんっていないかな」
慎重に言葉を選んだつもりだった。ただでさえ険悪な雰囲気なのに、こんなところで言葉を間違えたりしたら、本当に取り返しがつかなくなるような気がしたんだ。
「いないと思うけど」
「そう。なら……響って人、知らないかな」
ちょっと攻めた質問だったかもしれない。
だけど、体重は林檎みっつ分で……なんて言えないだろう。言えばふざけてると思われるに違いない。ていうか、私ならふざけてると思うもん。
「知らないけど」
知らないはずないんだけど。
もしかしたら響は、由乃に名前を教えてないのかな。だから話が通じないんだ。
だったらもっと、踏み込んだ質問をしなくっちゃ。
「あ……気を悪くしたらごめんね。由乃ってさ、最近、女の人とえっちなこととか、してない、かな」
これは我ながらかなり踏み込んだ質問だ。下手すれば怒って帰ったっておかしくないくらい、とびきり失礼に値する質問。
だけど、由乃は怒ることなく言葉を詰まらせた。この反応は多分、黒だ。きっと思い当たる節があるのだろう。
私はここぞとばかりに攻戦した。
「もしかして動画とか撮られてない? 私ね、その人のこと知ってるんだけど、由乃以外にも沢山そういう相手がいたよ。もし騙されてるんだとしたら、これ以上深入りしない方がいいよ」
「知ってるって……なんで? なんで愛子が知ってるの? もしかしてその動画、見たの?」
顔面蒼白と言っていいほどに、由乃の顔は真っ青だった。とてもじゃないけど実は私も響とえっちしちゃったんだよね、なんて、言える状況ではないのは明白だ。
「う、ん」
「そう……なんだ……」
二人の間に重たい沈黙が流れる。由乃は今、何を考えているのだろうか。知りたいような、知りたくないような。
言葉に詰まっていると、由乃が堰を切ったように話しだす。
「あのね、私、お姉さんにホテルに誘われたの。そこで初めての経験をして、いっぱい気持ち良くなった。だけどそれが彼氏にばれちゃって……ううん。ばれるはずなんてないのに、隠し撮りされてたみたいで。それに、いるはずのない場所に彼氏がきて、私、今、彼氏に避けられてるんだよね」
現実は、思ってた以上に修羅場だった。これは私が首を突っ込んでいい問題なのだろうか。
兎に角今は、響と由乃の関係を壊さなきゃ。その為にはまず由乃の話に同調して、私も被害者の一人なんだって、私は敵じゃないよって、アピールしとかないと。
「……私も響に撮られたの。あ、その人の名前が響って言うんだけど。動画なんて嫌だったのに、むりやり……。響は色んな女の子とえっちして、自分の性欲を満たす為にそういうことをしてるんだよ。だから由乃ももう、その人と会うのやめた方がいいと思う。私ももう、会うつもりないし」
嘘は言ってないつもりだ。私だって、本当は会いたくない。ただあの時は身体が快感を欲してただけ。響に会いたくて会いに行ったわけじゃない。
「別に愛子まで避ける必要はないんじゃない? お姉さん……響さん? は、愛子のお友達なんでしょう?」
「友達なんかじゃないよ。私も最近、知り合ったの」
「そうなの? なんか共通の知り合いがいると、世間って狭いんだなって感じるよね」
由乃の話に同調したのが良かったんだろう。私はいつの間にか、由乃と普通に会話をしていた。
これで由乃と響が接触しないようになればいいんだけど。
本当は奏太くんとの昨日のあらましを話したかったけど、それは今じゃない気がするからと、私は話すのを先延ばしにしようと思った。
夜になると、私は響にラインを送っていた。
勿論、密会のお誘いメールではない。これは抗議だ。
『由乃から話、聞いた。由乃に彼氏がいるの、分かっててわざと彼氏にばらしたの?』
返信は、ものの数分もしないうちにきた。
『あらあら、正義感の強いこと♡ そうだって言ったら、どうするのかな? ♡』
はてなのあとにハートを付けてくる辺りがこちらをおちょくっているように感じて、自分の意志とは関係なく強めの舌打ちが出る。
私は感情の赴くままに、今この瞬間の気持ちを次々と連投していた。
『もしかしてクラッシャーなんですか? 人間関係壊すの、大好きなんですか?』
『いい加減にしてください。由乃は私の友達です。友達を傷付けるような人とは私も仲良くしたくありません』
『由乃にはもう、連絡しないで』
言いたいこと全部言ってやった。
今度は返信がくるまでほんの少し、時間が掛かっていた。
『あはー。そうなの私、クラッシャーなの。ぶっ壊してやるのが好きで好きで堪らないのぉ♡』
やっぱりそうなんだ。こいつはわざと人間関係が壊れるようなことをして、他人が壊れていく様を見てるのが好きな変態なんだ。
『友達を傷付けるような人とはえっちしたくありません』
心做しか、ボタンをタップする指に力が入る。
『いいじゃん、えっちしようよ。愛子ちゃんだって、私の舌でいっぱい気持ち良くなったじゃん!』
響に対する怒りが、噴水のように溢れてきて止まらない。
『私と貴女がえっちしたことは由乃に話してません』
だってほら、さっきから私ってばずっと敬語口調になってるし。これってかなり頭にきてる証拠だよね。
『ありゃりゃ、話してないなんて秘密の関係だあ♡ きゃ、えっち♡』
正直。いや、かなり頭にきた。煽り方が天才すぎる。私の嫌いなタイプだわ。
もう許さない。こうなったら全面戦争だ。
『黙れブス』
目には目を歯には歯を。煽りには煽りを。一撃必殺、黙れブス。
どうだ参ったか。あーはっは。
幼稚な煽りを送ったからか、響からの返信がぴたりと止まってしまった。既読は付いてるはずなのに。
これはもう、私の完全勝利と言っても過言ではないだろう。
勝手に首を突っ込んどいて、自己満足に浸ってる。正義のヒーロー気取り。
私は満面の笑みでスマホを胸元に握り締めたまま、深い眠りへと沈んでいった。
返事はない。当たり前だ。あの一件以来、由乃とは未だに仲直りができてないのだから。
本当はすぐにでも謝って仲直りして、一分でも一秒でも早く昨日のあらましを話したいけど、内容が内容なだけに、朝から教室で話すものでもないだろう。
私は逸る気持ちを抑えて、放課後まで待つことにした。
放課後のチャイムと同時に由乃の元へと駆けていくと、早く行こうと由乃の腕を引っ張り、教室から出ようとする私の強引さに負けて、由乃がようやく口を開く。
「ちょっと。腕、痛いんだけど。なんなの?」
「由乃に話したいことがあるの」
「私はないから」
「私があるの」
私のただならぬ雰囲気に何かを察したのか、それ以上の抵抗はなくなった。
上履きから靴に履き替えて学校を出ると、人気の少ない小さな公園へと由乃を誘導する。駅とは正反対にある公園で、ブランコとベンチしかないからか、普段からあまり人が寄りつかない公園だ。
公園には思った通り、誰もいなかった。
私はベンチに腰を下ろすと、由乃に隣に座るよう促した。
私と由乃の間には、人一人分のスペースがある。
「あのね、由乃の知り合いに、年上のお姉さんっていないかな」
慎重に言葉を選んだつもりだった。ただでさえ険悪な雰囲気なのに、こんなところで言葉を間違えたりしたら、本当に取り返しがつかなくなるような気がしたんだ。
「いないと思うけど」
「そう。なら……響って人、知らないかな」
ちょっと攻めた質問だったかもしれない。
だけど、体重は林檎みっつ分で……なんて言えないだろう。言えばふざけてると思われるに違いない。ていうか、私ならふざけてると思うもん。
「知らないけど」
知らないはずないんだけど。
もしかしたら響は、由乃に名前を教えてないのかな。だから話が通じないんだ。
だったらもっと、踏み込んだ質問をしなくっちゃ。
「あ……気を悪くしたらごめんね。由乃ってさ、最近、女の人とえっちなこととか、してない、かな」
これは我ながらかなり踏み込んだ質問だ。下手すれば怒って帰ったっておかしくないくらい、とびきり失礼に値する質問。
だけど、由乃は怒ることなく言葉を詰まらせた。この反応は多分、黒だ。きっと思い当たる節があるのだろう。
私はここぞとばかりに攻戦した。
「もしかして動画とか撮られてない? 私ね、その人のこと知ってるんだけど、由乃以外にも沢山そういう相手がいたよ。もし騙されてるんだとしたら、これ以上深入りしない方がいいよ」
「知ってるって……なんで? なんで愛子が知ってるの? もしかしてその動画、見たの?」
顔面蒼白と言っていいほどに、由乃の顔は真っ青だった。とてもじゃないけど実は私も響とえっちしちゃったんだよね、なんて、言える状況ではないのは明白だ。
「う、ん」
「そう……なんだ……」
二人の間に重たい沈黙が流れる。由乃は今、何を考えているのだろうか。知りたいような、知りたくないような。
言葉に詰まっていると、由乃が堰を切ったように話しだす。
「あのね、私、お姉さんにホテルに誘われたの。そこで初めての経験をして、いっぱい気持ち良くなった。だけどそれが彼氏にばれちゃって……ううん。ばれるはずなんてないのに、隠し撮りされてたみたいで。それに、いるはずのない場所に彼氏がきて、私、今、彼氏に避けられてるんだよね」
現実は、思ってた以上に修羅場だった。これは私が首を突っ込んでいい問題なのだろうか。
兎に角今は、響と由乃の関係を壊さなきゃ。その為にはまず由乃の話に同調して、私も被害者の一人なんだって、私は敵じゃないよって、アピールしとかないと。
「……私も響に撮られたの。あ、その人の名前が響って言うんだけど。動画なんて嫌だったのに、むりやり……。響は色んな女の子とえっちして、自分の性欲を満たす為にそういうことをしてるんだよ。だから由乃ももう、その人と会うのやめた方がいいと思う。私ももう、会うつもりないし」
嘘は言ってないつもりだ。私だって、本当は会いたくない。ただあの時は身体が快感を欲してただけ。響に会いたくて会いに行ったわけじゃない。
「別に愛子まで避ける必要はないんじゃない? お姉さん……響さん? は、愛子のお友達なんでしょう?」
「友達なんかじゃないよ。私も最近、知り合ったの」
「そうなの? なんか共通の知り合いがいると、世間って狭いんだなって感じるよね」
由乃の話に同調したのが良かったんだろう。私はいつの間にか、由乃と普通に会話をしていた。
これで由乃と響が接触しないようになればいいんだけど。
本当は奏太くんとの昨日のあらましを話したかったけど、それは今じゃない気がするからと、私は話すのを先延ばしにしようと思った。
夜になると、私は響にラインを送っていた。
勿論、密会のお誘いメールではない。これは抗議だ。
『由乃から話、聞いた。由乃に彼氏がいるの、分かっててわざと彼氏にばらしたの?』
返信は、ものの数分もしないうちにきた。
『あらあら、正義感の強いこと♡ そうだって言ったら、どうするのかな? ♡』
はてなのあとにハートを付けてくる辺りがこちらをおちょくっているように感じて、自分の意志とは関係なく強めの舌打ちが出る。
私は感情の赴くままに、今この瞬間の気持ちを次々と連投していた。
『もしかしてクラッシャーなんですか? 人間関係壊すの、大好きなんですか?』
『いい加減にしてください。由乃は私の友達です。友達を傷付けるような人とは私も仲良くしたくありません』
『由乃にはもう、連絡しないで』
言いたいこと全部言ってやった。
今度は返信がくるまでほんの少し、時間が掛かっていた。
『あはー。そうなの私、クラッシャーなの。ぶっ壊してやるのが好きで好きで堪らないのぉ♡』
やっぱりそうなんだ。こいつはわざと人間関係が壊れるようなことをして、他人が壊れていく様を見てるのが好きな変態なんだ。
『友達を傷付けるような人とはえっちしたくありません』
心做しか、ボタンをタップする指に力が入る。
『いいじゃん、えっちしようよ。愛子ちゃんだって、私の舌でいっぱい気持ち良くなったじゃん!』
響に対する怒りが、噴水のように溢れてきて止まらない。
『私と貴女がえっちしたことは由乃に話してません』
だってほら、さっきから私ってばずっと敬語口調になってるし。これってかなり頭にきてる証拠だよね。
『ありゃりゃ、話してないなんて秘密の関係だあ♡ きゃ、えっち♡』
正直。いや、かなり頭にきた。煽り方が天才すぎる。私の嫌いなタイプだわ。
もう許さない。こうなったら全面戦争だ。
『黙れブス』
目には目を歯には歯を。煽りには煽りを。一撃必殺、黙れブス。
どうだ参ったか。あーはっは。
幼稚な煽りを送ったからか、響からの返信がぴたりと止まってしまった。既読は付いてるはずなのに。
これはもう、私の完全勝利と言っても過言ではないだろう。
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