Dream Again

1.二十年の後悔

よく晴れた7月3日、　多くの人が賑わう教会では結婚式が執り行われている。

聖堂の中を美しくウェディングドレスに身を包んだ新婦が友人達に盛大に祝われる中

一人遠くから静かに長椅子に座ったまま新郎を見つめる一人の男がいた。

「誰だよ・・・あいつ・・・結局俺は麻衣に告白も出来ないまま終了か・・・！」

静かに涙を流すその男の名は真島 隼人、新婦 後藤麻衣とは小学生の頃から近所の友達として

家族ぐるみの付き合いがあり幼い彼女とはよく遊び、共に成長し共に歩んできた。

時には進路の相談や家族の愚痴、そんなことまで互いに気軽に話せる友人以上の関係。

そんな20年過ごしながらも隼人自身は小学生の頃から既に麻衣に好意を抱いていた。

しかし、隼人はそれを一度も言葉にすることはなかった。

安心していた、麻衣もきっと俺が好きだからこんなことにはならない筈だと・・・。

「なんで・・・こんなことに・・・」

座ったまま項垂れ静かに隼人は涙を流す。

結婚の噂は前から聞いていた、嘘だと思っていた。

でも招待状が届いた時にはもう・・・全てが手遅れだった。

全てに絶望しこれまでの人生を激しく後悔した。

「ちょ、ちょっと隼ちゃん！？大丈夫！？」

その時、突如声を掛けてきたのは後藤麻衣本人であった。

「具合悪いの・・・？」

心配そうに身をかがめ心配な表情を見せる麻衣に隼人は笑う。

「いや、違うんだ・・・麻衣が結婚が嬉しすぎてさ・・・おめでとう、麻衣。浩介さんと幸せになってな。」

それを聞いた麻衣は安心したように一緒に笑った。

「うん！ありがとう！すっごい優しい人なんだ、幸せになるね！」

《ねぇ麻衣写真撮ろうよー！》

遠くから聞こえた友人の声に麻衣はすぐに気が付いた。

「あ、ごめんあっちで遥香とか呼んでるからもう行くね！」

そうとだけ言うと麻衣は静かに去っていく。

それを優しい笑顔で見送った遥斗も立ち上がり麻衣には黙ってそのまま聖堂を出た。


ー教会(ロビー)ー

「・・・・誰だよ浩介って、クソ・・・麻衣・・・俺はお前のことが・・・！」

柱に背を預けそのままズルズルとしゃがみ込む隼人。

せめて祝いの言葉が言えただけでも上出来だと、そう思った。

「人生やり直せたらいいのにな・・・やり直してぇ・・・そしたらあの席に居たのは浩介じゃなくて俺になれたのかな・・・。」

過ぎて行った時間を取り戻すことなど出来ないと隼人自身も分かっている。

しかし、あまりにも長い時間を無駄にしてしまった上、結局想いの一つも伝えられぬまま。

あーあ・・・チャンスはいくらでもあったのになあ・・・・。

全部ビビって逃げてきた結果がこれか・・・あまりにもダサすぎる。

隼人は立ち上がった。

せめて最後にもう一度祝いの言葉だけでも言って帰ろうとそう思った。

ふぅと大きく息を吐き扉に両手を置いたその時だった。

「行ってどうする？」

後ろから聞こえた謎の声にハッと振り返るとそこには先ほどまでいなかったはずの男性が自分を見つめ立っていた。

年の頃は何歳ぐらいだろう？２０，３０，４０・・・どの年代でもあり得そうな不思議な顔つきの男だ。

「えっと・・・？」

困惑する隼人が固まっていると男は静かに隼人の右肩に手を置いた。

「私は行ってどうすると聞いたんだ、彼女と会って何がしたい？男の癖に悲劇のヒロインごっこでもしたいのか？」

笑顔でそういう男に隼人も困惑しながら答える。

「ああ、いえいえ急用が出来たので最後に祝いの言葉でも言ってから帰ろうかなと・・・。」

「ふん、嘘が下手だな・・・えーとお前の名前は・・・？」

突如男は胸から出席者名簿を取り出しまじまじと見つめる。

「おーあったあった、真島隼人ね・・・28歳かうんまぁ若くも年老いてもいない。それで？お前は何がしたい、正直に言ってみなさい。」

男の言葉に固まる隼人。

「何がしたいって・・・そうだな、もう帰ってゲームでもしたいかな・・・現実逃避に・・・ハハッ・・・！」

はぁあ・・・と分かりやすくため息と呆れた表情を見せる男。

「質問を変えよう、後藤麻衣と何がしたいんだ？」

「な、何って・・・したいことなんてもうないよ、今日叶わなくなったし・・・。」

愚図ったように言う隼人に真剣な表情で男はまた聞く。

「叶うか叶わないかなんて聞いていない、お前は麻衣と・・・何がしたいんだ！？」

男の圧力に気圧されながらも隼人は小さく答えた。

「け・・・っこん・・・」

「声が小さい！もっとはっきり言ってみろ！」

隼人もいい加減怒りを示し始める。

「何なんだよあんた！こんな時にこんな場所でそんなこと言える訳ないだろ！バカなのか！？」

「いいから、ここの時は止めてある、何を言っても誰にも聞こえない！はっきり言ってみろ！」

その言葉に隼人は一瞬頭のおかしい男かと思ったが他の周囲の音が何一つ聞こえなくなっていることに気が付いた。

「あんた・・・・一体・・・！？」

「俺もそう気は長くない、早くしろ」

謎の焦りとこの人ならもしかしたらという藁にもすがるような僅かな期待を感じた隼人は精一杯の声で叫ぶ！

「俺は後藤麻衣と・・・結婚したい！！」

その瞬間、男は嬉しそうに笑った。

「よく言った、私も暇なんだ・・・お前の夢に付き合ってやる。」

「は・・・・？」

惨めな男の運命の歯車は・・・ゆっくりと動き始める・・・。