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11.新藤浩介
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その後、二人は何事もなかったように町内のラジオ体操を終え一言も会話を交わすこともなく別れ自宅へ戻る。
途中、祭りの開催を報じる空砲が近くの河川敷から聞こえたが祭りが開催されることを知っている隼人には吉報ですらない。
自室に戻った隼人は勉強机に座ると考え込む、しかし真夏・・・朝とはいえ考え事をしながらがむしゃらにやったラジオ体操で火照った身体に徐々に昇る太陽と共に高くなる外気温、さらにそこに追い打ちを掛けるように夏だぞ!と言わんばかりにそこら中から響く蝉の声が隼人の思考の邪魔をする。
「だー!暑い!暑すぎる!!」
汗もダラダラで上裸になるもこの部屋にエアコンなどという文明の利器はない。
荒々しく立ち上がった隼人は部屋の片隅に置かれた扇風機のスイッチを[強]で入れ目の前に座った。
「(・・・・まさか二回タイムリープして二度も告白されるなんてな・・・もしかして俺はずっとこうやって麻衣の気持ちを無視し続けてたのか・・・?だとしたら俺最低じゃねえか・・・そしてそんな気持ちを無視し続けて28になってあいつが結婚して今更“好きだったのに”ってか?そんな馬鹿な話あるかよ・・・。でも、将来麻衣には新藤浩介って人が現れて・・・その人と結ばれるんだよな。だったら俺は・・・いや、こうやって来たから麻衣は俺に呆れてこうなったのか・・・?ああくそ、腹に決めたってのに今更揺らいでどうする・・・朝改暮変そのものじゃねえかクッソ!!)」
最早何が正解か分からない
扇風機の前に座り風を浴び汗も引いて心地よくなった隼人だが、悩みは消えない
「あ゛ぁ~~~~わ れ わ れ は うちゅう じん だ・・・」
扇風機に向かって声を出し声の変化を楽しむ誰もがやるあの遊びを突然試みる隼人。
でもこの時、“あの男”の言葉を突然思い出す。
【世界にはパラレルワールドというものが存在する。それは数々のお前自身の選択から分岐していく無限の未来の一つひとつを指す。そして私にはお前の“それ”を見ることが出来る。後藤麻衣と結婚する未来も複数あるが・・・お前は全部切り捨てるのか?】
「そうか・・・未来って一つじゃないんだな・・・あの時は冷静に考えられなくなってたし未来は一つじゃないとしても結局自分で辿り着ける未来はその複数のうちの一つだけ・・・でも、麻衣と結婚できる未来も複数あるって言ってた・・・だったら、俺はやっぱり新藤浩介に負けるわけにはいかないのかな・・・。」
グッと覚悟を決めたように見えた隼人だったが、その瞬間脳裏を過るのはあの時の麻衣の幸せそうな顔だ。
「麻衣の幸せを壊して・・・それでいいのか・・・?俺が幸せに出来るとも限らないんだぞ、だってあの未来での俺は・・・小さい会社で正社員ながらも少ない給料で働いてギリギリの生活を送ってるサラリーマンだぞ・・・あの教会での結婚式、豪勢だったよな・・・新藤浩介はかなり稼いでる男なんだろう。俺と比べりゃ天と地だ・・・。だったら麻衣だって金がある方に行くに決まってるよな、そっちの方が生活に困らんもんな・・・ちくしょう勝ち目なんてねぇじゃねえか・・・。」
一人肩を落とした隼人は絶望する。
未来を変えて麻衣と結婚したところで幸せには出来ないかも知れない。
そう考えるだけで結婚なんてしない方がいい。
麻衣が幸せになれるなら麻衣を新藤浩介に渡してしまった方がいい。
それでも・・・
俺は・・・
麻衣が・・・
後藤麻衣が・・・
この世の誰より・・・好きだ
気づけば目からポロポロと涙が流れていた。
「くっそ・・・どうしたらいいんだよ。」
その後朝食を食べ、夏休みの宿題に今度こそ真剣に取り組み、昼食を食べ・・・
時刻はあっという間に夕方を迎え夏祭りに向かう時間となった。
「こればっかりは行くしかねえ・・・」
何時間考えても思考はまとまらなかった。
でも、これだけはやらなければならないと決めている。
麻衣との約束はない、あいつは今頃女友達数人で祭りに向かっているか既に楽しんでいるハズ。
とにかくバレないように麻衣たちの後を追って・・・そして麻衣たちに近づくあいつらを遠ざければとりあえずのミッションは成功だ。
「うし、行くか・・・!」
隼人はこの時、自分が怪我することを分かっていた。
「多分勝ち目はねぇな・・・それでも・・・やらなきゃな・・・。」
時刻は18時、祭りも大盛況で大勢の人が集まって来ている。
隼人は出店が立ち並ぶ中、人をかき分け麻衣とその友人達を探していた。
「人が多すぎる・・・ったくどこにいんだ麻衣の奴・・・やっぱこういう時はスマホだよなあ・・・ハハッ」
未来とは本当に便利になったもんだと思いながらもこの世界にはない物、自力で探すしかない。
それから10分程が経過した頃だった。
「きゃああああ!」
人混みの中から一つの悲鳴が上がった。
「クソ!この声は麻衣か!?」
発見できないまま捜索を続けていた隼人が即座に反応し無理やり声の方へ直行する!
「おい!頼むどけてくれ!!」
何人無理やり押して退かせ進んだか分からないが声が聞こえた場所に辿り着いた時にはそこにはもう麻衣の姿はない。
「やられたどこ行った!?」
「さっきの嬢ちゃん達なら変な男に引っ張られてほら、裏の神社の方に行ったぞ・・・そこに階段があるだろ、その上だ。」
出店のおっちゃんが心配そうに教えてくれる。
「お前、あの子達の誰かの彼氏か?こんな祭りの中で目を離しちゃいかんだろ、大事ならしっかり護れ。」
正直に答えればまだ彼氏でも何でもない
だがいちいちこのおっちゃんに説明してる暇はない
「ありがとうおっちゃん、肝に銘じる!!」
隼人はダッシュで後を追い全力で階段を駆け上がった。
「ぜーーーー・・・ぜーーー・・・はぁはぁ・・・」
長く急な階段を駆け上がっただけで体力をほぼ使ってしまった隼人は座り込む。
「あーーーーーしんど・・・きちぃ・・・でも早く行かなきゃ・・・!!」
フラフラの足で立ち上がり歩き出すも呼吸は整わない、しかしそのまま進んだ。
「なぁ嬢ちゃん達俺らと遊ぼうよ・・・金はある、くじも食い物も引き放題食い放題だ、どうだ?」
「ちょっと・・・なんなんですか・・・?やめてください・・・はなして!!」
「麻衣・・・怖いよ・・・どうしよう・・・」
麻衣達は三人の不良と思わしき男達に囲まれていた。
「なぁいいだろ?俺達暇なんだよ、お前らも暇なんだろ?中学生か?」
「高校生ではなさそうだな、まさか小学生か?」
「何でもいいだろ、遊べればそれでいい・・・」
三人が抱き合って固まる中、男達は迫る。
「大丈夫、痛いようにはしねぇって言うこと聞けばよ・・・」
そして一人の男がついに麻衣の髪を掴む。
「俺ら話してんだけど?いつまでそうやってんだよあぁ!?」
恐怖が三人の身体を硬直させ“誰か助けて”とグッと目を瞑ったその時
「うお!?」
一人の男が吹き飛び地面を転がった。
「な、なんだ!?」
「おい、麻衣・・・ここは俺が引き付ける、お前らはさっきの階段を全力で降りて祭りの中に戻れ」
「は、はやちゃん!?なんでこんなところに、お祭りは来ないって言ってたじゃん・・・!」
「喋ってる暇はねえ、とにかくさっさと逃げろ・・・浴衣だから動きにくさはあると思うけど頼む、早く逃げろ。」
「で、でも・・・」
「ほら麻衣!早く行くよ!!」
麻衣は他の女の子二人に連れられすぐに逃げていった。
「てめぇ・・・覚悟は出来てんだろうな?」
「正義のヒーローってか?悪いけどボコボコにするわ、何・・・殺しはしねぇよ。」
「いでで・・・飛び蹴りはさすがに効くなあ・・・まぁ大したことはないけど。」
「(チッ、一人はあれで落とせたと思ったけどやっぱダメか!火力が足らん!)」
ここから先はあまりに一方的な展開であった・・・
血だらけで神社の境内に転がる隼人。
「とりあえず・・・これで麻衣があいつらに金を取られて暴力を振るわれて泣く未来は変わった筈だ・・・ゴホッ・・・いででで・・・まぁ何にしてもミッション成功だ・・・!」
地面に転がったまま震える拳を突き上げる。
しかしその瞬間、その拳はそっと小さな両の手に包まれた。
「あ・・・?」
びっくりした隼人だったが体が動かない。
「バカ・・・はやちゃんのバカ・・・こんなになってまで・・・バカだよ・・・!」
そこにいたのは泣きじゃくる麻衣だった。
「お前・・・どうしてここに・・・?逃げろって言っただろ・・・?」
「はやちゃん置いて逃げられる訳ないじゃんバカぁ!!」
手を包む小さな手の力が強まる。
「結局泣くのかよ・・・せっかく・・・泣かせなくて済むと思ったのに・・・」
「また未来の話・・・?」
「あぁ、そうだよ・・・俺はお前と結婚したくてここまで来たんだ。まぁこの時代に来たのはさっきのあいつらからお前を守る為だったんだけどな・・・。」
「私、どんな人と結婚するの・・・?」
「俺は知らない人、でも優しそうで金持ちそうな人だったな・・・その点未来の俺は貧乏サラリーマンだ・・・浩介さんと結婚した方がお前は幸せになれる・・・。」
「こーすけさん?誰それ!私知らないよ。」
麻衣の言葉に隼人は笑う。
「はははっ・・・この先出会うんだろ、そして惹かれ合って結婚するんだよ。」
麻衣は手を離し、ゆっくり隼人の身体を起こした。
「立てる?」
「あ、あぁ・・・。」
手を借りて立ち上がる隼人。
そしてその瞬間、麻衣は隼人を抱きしめた。
「私・・・はやちゃん以外のどんな人もいや、はやちゃんと結婚する。」
「バカ、貧乏な奴と結婚してどうする、幸せになれねーぞ。」
「それでもいい、どんな貧乏でも相手だけは・・・はやちゃんがいい。」
「俺だって・・・はは、しかし幼い麻衣の浴衣姿かわいいな。」
「はっ・・・ちょっ・・・や、やめてよ・・・!この時代のはやちゃん絶対そんなこと言わない・・・!」
ここで隼人は麻衣の首にかかったカメラを発見する。
「なんだ、そのカメラまだ使ってたのか?」
「・・・うん、あの時もやっぱり未来のはやちゃんだったんだね。大切にしてるから・・・。」
「写真、撮ってくれるか?それで俺は未来に戻れる。」
「そっか・・・もう行っちゃうんだ、分かった。でもはやちゃん、未来は私と結婚してよね!」
「バァカ、それはこれからのお前らの仕事だろ?俺はもうここには来られない、これが最後だ。」
隼人の言葉に目の涙を拭う麻衣。
「そうなんだ・・・分かった、じゃあこれから更に鈍感でおバカなはやちゃんにアピールしていくよ!」
「はは・・・よろしく頼む(これでいいのか・・・でも・・・これでいいはずだ・・・!)」
「それじゃ、写真とるよ?」
「ああ・・・!」
パシャリ 二人は並んで2ショットで写真を撮る。
その瞬間隼人の意識が闇へと沈み最後の旅が終わった・・・。
途中、祭りの開催を報じる空砲が近くの河川敷から聞こえたが祭りが開催されることを知っている隼人には吉報ですらない。
自室に戻った隼人は勉強机に座ると考え込む、しかし真夏・・・朝とはいえ考え事をしながらがむしゃらにやったラジオ体操で火照った身体に徐々に昇る太陽と共に高くなる外気温、さらにそこに追い打ちを掛けるように夏だぞ!と言わんばかりにそこら中から響く蝉の声が隼人の思考の邪魔をする。
「だー!暑い!暑すぎる!!」
汗もダラダラで上裸になるもこの部屋にエアコンなどという文明の利器はない。
荒々しく立ち上がった隼人は部屋の片隅に置かれた扇風機のスイッチを[強]で入れ目の前に座った。
「(・・・・まさか二回タイムリープして二度も告白されるなんてな・・・もしかして俺はずっとこうやって麻衣の気持ちを無視し続けてたのか・・・?だとしたら俺最低じゃねえか・・・そしてそんな気持ちを無視し続けて28になってあいつが結婚して今更“好きだったのに”ってか?そんな馬鹿な話あるかよ・・・。でも、将来麻衣には新藤浩介って人が現れて・・・その人と結ばれるんだよな。だったら俺は・・・いや、こうやって来たから麻衣は俺に呆れてこうなったのか・・・?ああくそ、腹に決めたってのに今更揺らいでどうする・・・朝改暮変そのものじゃねえかクッソ!!)」
最早何が正解か分からない
扇風機の前に座り風を浴び汗も引いて心地よくなった隼人だが、悩みは消えない
「あ゛ぁ~~~~わ れ わ れ は うちゅう じん だ・・・」
扇風機に向かって声を出し声の変化を楽しむ誰もがやるあの遊びを突然試みる隼人。
でもこの時、“あの男”の言葉を突然思い出す。
【世界にはパラレルワールドというものが存在する。それは数々のお前自身の選択から分岐していく無限の未来の一つひとつを指す。そして私にはお前の“それ”を見ることが出来る。後藤麻衣と結婚する未来も複数あるが・・・お前は全部切り捨てるのか?】
「そうか・・・未来って一つじゃないんだな・・・あの時は冷静に考えられなくなってたし未来は一つじゃないとしても結局自分で辿り着ける未来はその複数のうちの一つだけ・・・でも、麻衣と結婚できる未来も複数あるって言ってた・・・だったら、俺はやっぱり新藤浩介に負けるわけにはいかないのかな・・・。」
グッと覚悟を決めたように見えた隼人だったが、その瞬間脳裏を過るのはあの時の麻衣の幸せそうな顔だ。
「麻衣の幸せを壊して・・・それでいいのか・・・?俺が幸せに出来るとも限らないんだぞ、だってあの未来での俺は・・・小さい会社で正社員ながらも少ない給料で働いてギリギリの生活を送ってるサラリーマンだぞ・・・あの教会での結婚式、豪勢だったよな・・・新藤浩介はかなり稼いでる男なんだろう。俺と比べりゃ天と地だ・・・。だったら麻衣だって金がある方に行くに決まってるよな、そっちの方が生活に困らんもんな・・・ちくしょう勝ち目なんてねぇじゃねえか・・・。」
一人肩を落とした隼人は絶望する。
未来を変えて麻衣と結婚したところで幸せには出来ないかも知れない。
そう考えるだけで結婚なんてしない方がいい。
麻衣が幸せになれるなら麻衣を新藤浩介に渡してしまった方がいい。
それでも・・・
俺は・・・
麻衣が・・・
後藤麻衣が・・・
この世の誰より・・・好きだ
気づけば目からポロポロと涙が流れていた。
「くっそ・・・どうしたらいいんだよ。」
その後朝食を食べ、夏休みの宿題に今度こそ真剣に取り組み、昼食を食べ・・・
時刻はあっという間に夕方を迎え夏祭りに向かう時間となった。
「こればっかりは行くしかねえ・・・」
何時間考えても思考はまとまらなかった。
でも、これだけはやらなければならないと決めている。
麻衣との約束はない、あいつは今頃女友達数人で祭りに向かっているか既に楽しんでいるハズ。
とにかくバレないように麻衣たちの後を追って・・・そして麻衣たちに近づくあいつらを遠ざければとりあえずのミッションは成功だ。
「うし、行くか・・・!」
隼人はこの時、自分が怪我することを分かっていた。
「多分勝ち目はねぇな・・・それでも・・・やらなきゃな・・・。」
時刻は18時、祭りも大盛況で大勢の人が集まって来ている。
隼人は出店が立ち並ぶ中、人をかき分け麻衣とその友人達を探していた。
「人が多すぎる・・・ったくどこにいんだ麻衣の奴・・・やっぱこういう時はスマホだよなあ・・・ハハッ」
未来とは本当に便利になったもんだと思いながらもこの世界にはない物、自力で探すしかない。
それから10分程が経過した頃だった。
「きゃああああ!」
人混みの中から一つの悲鳴が上がった。
「クソ!この声は麻衣か!?」
発見できないまま捜索を続けていた隼人が即座に反応し無理やり声の方へ直行する!
「おい!頼むどけてくれ!!」
何人無理やり押して退かせ進んだか分からないが声が聞こえた場所に辿り着いた時にはそこにはもう麻衣の姿はない。
「やられたどこ行った!?」
「さっきの嬢ちゃん達なら変な男に引っ張られてほら、裏の神社の方に行ったぞ・・・そこに階段があるだろ、その上だ。」
出店のおっちゃんが心配そうに教えてくれる。
「お前、あの子達の誰かの彼氏か?こんな祭りの中で目を離しちゃいかんだろ、大事ならしっかり護れ。」
正直に答えればまだ彼氏でも何でもない
だがいちいちこのおっちゃんに説明してる暇はない
「ありがとうおっちゃん、肝に銘じる!!」
隼人はダッシュで後を追い全力で階段を駆け上がった。
「ぜーーーー・・・ぜーーー・・・はぁはぁ・・・」
長く急な階段を駆け上がっただけで体力をほぼ使ってしまった隼人は座り込む。
「あーーーーーしんど・・・きちぃ・・・でも早く行かなきゃ・・・!!」
フラフラの足で立ち上がり歩き出すも呼吸は整わない、しかしそのまま進んだ。
「なぁ嬢ちゃん達俺らと遊ぼうよ・・・金はある、くじも食い物も引き放題食い放題だ、どうだ?」
「ちょっと・・・なんなんですか・・・?やめてください・・・はなして!!」
「麻衣・・・怖いよ・・・どうしよう・・・」
麻衣達は三人の不良と思わしき男達に囲まれていた。
「なぁいいだろ?俺達暇なんだよ、お前らも暇なんだろ?中学生か?」
「高校生ではなさそうだな、まさか小学生か?」
「何でもいいだろ、遊べればそれでいい・・・」
三人が抱き合って固まる中、男達は迫る。
「大丈夫、痛いようにはしねぇって言うこと聞けばよ・・・」
そして一人の男がついに麻衣の髪を掴む。
「俺ら話してんだけど?いつまでそうやってんだよあぁ!?」
恐怖が三人の身体を硬直させ“誰か助けて”とグッと目を瞑ったその時
「うお!?」
一人の男が吹き飛び地面を転がった。
「な、なんだ!?」
「おい、麻衣・・・ここは俺が引き付ける、お前らはさっきの階段を全力で降りて祭りの中に戻れ」
「は、はやちゃん!?なんでこんなところに、お祭りは来ないって言ってたじゃん・・・!」
「喋ってる暇はねえ、とにかくさっさと逃げろ・・・浴衣だから動きにくさはあると思うけど頼む、早く逃げろ。」
「で、でも・・・」
「ほら麻衣!早く行くよ!!」
麻衣は他の女の子二人に連れられすぐに逃げていった。
「てめぇ・・・覚悟は出来てんだろうな?」
「正義のヒーローってか?悪いけどボコボコにするわ、何・・・殺しはしねぇよ。」
「いでで・・・飛び蹴りはさすがに効くなあ・・・まぁ大したことはないけど。」
「(チッ、一人はあれで落とせたと思ったけどやっぱダメか!火力が足らん!)」
ここから先はあまりに一方的な展開であった・・・
血だらけで神社の境内に転がる隼人。
「とりあえず・・・これで麻衣があいつらに金を取られて暴力を振るわれて泣く未来は変わった筈だ・・・ゴホッ・・・いででで・・・まぁ何にしてもミッション成功だ・・・!」
地面に転がったまま震える拳を突き上げる。
しかしその瞬間、その拳はそっと小さな両の手に包まれた。
「あ・・・?」
びっくりした隼人だったが体が動かない。
「バカ・・・はやちゃんのバカ・・・こんなになってまで・・・バカだよ・・・!」
そこにいたのは泣きじゃくる麻衣だった。
「お前・・・どうしてここに・・・?逃げろって言っただろ・・・?」
「はやちゃん置いて逃げられる訳ないじゃんバカぁ!!」
手を包む小さな手の力が強まる。
「結局泣くのかよ・・・せっかく・・・泣かせなくて済むと思ったのに・・・」
「また未来の話・・・?」
「あぁ、そうだよ・・・俺はお前と結婚したくてここまで来たんだ。まぁこの時代に来たのはさっきのあいつらからお前を守る為だったんだけどな・・・。」
「私、どんな人と結婚するの・・・?」
「俺は知らない人、でも優しそうで金持ちそうな人だったな・・・その点未来の俺は貧乏サラリーマンだ・・・浩介さんと結婚した方がお前は幸せになれる・・・。」
「こーすけさん?誰それ!私知らないよ。」
麻衣の言葉に隼人は笑う。
「はははっ・・・この先出会うんだろ、そして惹かれ合って結婚するんだよ。」
麻衣は手を離し、ゆっくり隼人の身体を起こした。
「立てる?」
「あ、あぁ・・・。」
手を借りて立ち上がる隼人。
そしてその瞬間、麻衣は隼人を抱きしめた。
「私・・・はやちゃん以外のどんな人もいや、はやちゃんと結婚する。」
「バカ、貧乏な奴と結婚してどうする、幸せになれねーぞ。」
「それでもいい、どんな貧乏でも相手だけは・・・はやちゃんがいい。」
「俺だって・・・はは、しかし幼い麻衣の浴衣姿かわいいな。」
「はっ・・・ちょっ・・・や、やめてよ・・・!この時代のはやちゃん絶対そんなこと言わない・・・!」
ここで隼人は麻衣の首にかかったカメラを発見する。
「なんだ、そのカメラまだ使ってたのか?」
「・・・うん、あの時もやっぱり未来のはやちゃんだったんだね。大切にしてるから・・・。」
「写真、撮ってくれるか?それで俺は未来に戻れる。」
「そっか・・・もう行っちゃうんだ、分かった。でもはやちゃん、未来は私と結婚してよね!」
「バァカ、それはこれからのお前らの仕事だろ?俺はもうここには来られない、これが最後だ。」
隼人の言葉に目の涙を拭う麻衣。
「そうなんだ・・・分かった、じゃあこれから更に鈍感でおバカなはやちゃんにアピールしていくよ!」
「はは・・・よろしく頼む(これでいいのか・・・でも・・・これでいいはずだ・・・!)」
「それじゃ、写真とるよ?」
「ああ・・・!」
パシャリ 二人は並んで2ショットで写真を撮る。
その瞬間隼人の意識が闇へと沈み最後の旅が終わった・・・。
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