少年Kの軍記物語 「死のクラスマッチ」

大貫めめめ

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脱走と血祭

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 教室のドア付近に辻の生首がころりと落ちた。
 教室内にはそれを見た女子が大きな声で泣きわめきだした。
 「嫌だあああ。なに?辻君も嶺井君も殺されてしまったってこと?私、こんなの信じていないから!絶対に何かのウソよ!夢よ!ドッキリよ!」
 「こんなこと現実にあるはずがないよ。どうして、どうしてこんな演出を私たちに見せるの?こんなのあんまりよ。私、こんなの信じないから。絶対に」
 多くのクラスメイトは目に涙を浮かべ、泣きわめいていたし、その気持ちも建之介は理解できた。
 自分がそんなに関わりがなかったにしろ、同じ仲間が他クラスで殺されたのだ。
 建之介はぞっとした。
 まさに今、自分の近くに死が待っているなんて。
 「みんな落ち着こうよ。冷静になって。目覚めるのよ。これは夢、夢だから。みんなは変な夢に侵されているのよ。ほーら、深呼吸すればきっと安心してこんな夢覚めてしまうわ」
 学級委員の女子、林真知子(はやしまちこ)が大きな声で声をかけ、教室の扉を閉め、死体から注目を反らして、みんなを落ち着かせようとするも、酒井がそれを遮るように叫んだ。
 「落ち着けるわけないでしょ!このクソ陰キャが死ぬなら別に構わないけど、辻君と嶺井君だよ?冷静に死を受け入れられるはずがないでしょ!黙ってろこのブス腐女子が!」
 そう吐き捨てた途端、酒井は右手で拳を作り、林に殴りかかった。 
 酒井の拳は林のこめかみに直撃し、林はその場に倒れた。
 さらに酒井は、近くに座っていた怜真を見ると、怜真の顔に回し蹴りを喰らわせた。
 「痛いっ!」
 怜真はその場で目元を抑えながら倒れこみ、体を丸め込む。
 「お前が死んでろよ!クソ陰キャが!!!私の辻君を返せ!」
 酒井は続けて一人、地団駄を踏んで暴れだす。
 建之介も、これをなんとか止めてやらねばと思っているが、目の前の光景に足がすくんで動けない。
 他にもクラスに男子はいたが、皆、同じように教室の隅でうずくまっていた。
 さらに、先ほどまで泣き喚いていた周りの女子は、そんな酒井のことを見て、我に返ったかのようにその場から離れていった。
 しかし、怜真だけが酒井の近くから動けず、その場でおびえていた。
 酒井はおびえている怜真を再度見て、また蹴りを入れようとすると、先ほどまで教室の隅で壁に寄りかかりながら何かを考えていた小田寅文(おだとらふみ)が、左手で酒井の足をつかんだ。
 「待て。これ以上人に当たるんじゃない。これは団体戦だと言っているだろう?そんな風に仲間割れをするのはかえって自分を痛めつけているということに気づかないのか?」
 寅文は淡々と続ける。
 酒井はそれを聞いてまた叫びだす。
 「何?カッコつけてんの?そういうのが私一番キライなんですけど?はあ?まず私の足に触らないでくれない?一人でこんなこと言ってるなんて超ダサいから」
 「じゃあ、お前のことを好きといった辻という男は、この期に及んで安易な考えを浮かべながら自分から敵陣に突っ込み木端微塵にされたというのに、その男をカッコいいとお前は思うのか?それなら切腹した方がいいと我は思うがな。我はあの男、自分たちの団体が弱いということを他団体に示しに行った雑魚だと認識するぞ。なあ、お前もこれ以上暴れるのはやめて、考えてくれ。あの男を殺した敵は次、どこに攻めようと思うか?間違いなくここだ。団結力がないとばれてしまえば一斉に攻められ、ここは我々の血で満たされてしまうのだぞ!敵はもう来ているのだ!」
 寅文は、そう酒井を怒鳴りつけると、掴んでいた足を床にゆっくりとおろした。
 その際、もう酒井は抵抗しなかった。
 甘やかされて育ったのだろうか、いきなり怒られ、顔中涙でぐちょぐちょに濡らし、すくんでしまっていた。
 酒井が黙ると、クラス内がしんと静まり返った。
 そして、寅文は武器の段ボールをあさり、残っていた日本刀を自分の腰回りにつけた。
 さらに、ピストルを数丁と弾の入った箱を持ち、クラスの男子に配って回った。
 クラスの後ろでうずくまっている人や、座って状況を整理しようとしている人、さらには怯えて顔を伏せながら泣いている人にまで渡していった。
 何故か皆、その拳銃を受け取ることを拒もうとしなかった。
 それよりも、拳銃を渡されることのほうが嬉しかったのかもしれない。
 そして、最後の一丁は、建之介に渡された。
 「これはお主が持っておくといい。お主に死なれると悲しいからな。我の幼馴染はただ一人だけだ」
 「おう、分かったぜ。絶対に生き残ってやるよ」
 実は建之介と寅文は幼いころからの友人であった。
 寅文は家元が剣豪であるため、剣技には特に優れていた。
 建之介がいじめられていた時も自身の木刀で助けてくれていた。
 治安のあまりよくない地域に住む建之介にとって、寅文は憧れの存在だったのだ。
 そんな寅文は、次に教室の真ん中で皆に呼びかけた。
 「お主らに警告する。もうじきすれば必ずここに敵が攻め込んでくる。我はこの日本刀でできる限りの敵と応戦を試みるが、その間に皆はここから逃げ出してほしい。これも生き残るためだ。敵が前の扉から襲撃してきた瞬間に後ろの扉から脱出してほしい。そして、右に曲がってA組の前をかいくぐって階段を使ってでも何とか戦いのない場所に避難してほしい。校庭でも体育館でもどこでもいい。防弾服を着ている人が着ていない人を守るように囲いながらだ。なるべく武器を持っている人たちには戦ってほしいが、無理と感じればとにかく逃げろ。敵に武器と防弾服を渡さないようにするんだ。戦いで仲間が散るのはなるべく避けたいが、この密室で戦えば必ず全滅する。理解していただきたい。他に意見のある者はいるか?」
 こう問いかけられたが、もう寅文の意見を否定する人は誰もいなかった。
 「よし。なら了解ということでいいな。あとは脱出についてだ。大体一つの組が30人と仮定すると、全校生徒はABCDEFGの7組が三学年のおよそ630人になる。この中から20人ということは逃げてばかりでも駄目ということだ。積極的に人を倒しに行かないと自分が狩られてしまうからな。なるべく相打ちは控え、絶対に裏切ることなどはしないようにな。そして、、、」
 寅文がさらに続けようとすると、廊下から扉がバンバンと崩される音がした。
 何発かその音がなった後、遂に教室の扉が銃弾によって貫通されてしまった。
 「くそ、もう戦いのときか、、、では皆、作戦どおりに行くぞ!迎え撃つぞ!」
 座っていた男子たちもその声を聞いて立ち上がり、拳銃を扉に向けて構える。
 さらに女子は後ろの扉から廊下に逃げ出す準備をした。
 「教室の前の扉が倒された瞬間に飛び出せ!敵はここを乗っ取るつもりや!包囲される前に逃げ出せええ!!!」
 寅文がそう叫んだ瞬間に教室の前扉が倒される。
 ドンという音が鳴り、スライドドアが外れて教室に倒れてきた。
 すると、廊下の外で銃を構えた他クラスの生徒が教室内に銃弾を撃ち込んできた。
 「ま、まずい!男は机の陰に潜めて銃撃を続けろ!後ろから脱出するまでの辛抱や。それまで我慢してくれ。また、敵はそんなに照準があっていないからな。頭を狙え!頭を!あと、あまり一度に多く撃ちすぎるな。チャンスが来たときに弾切れになってしまうからな!」
 寅文の掛け声と共に、建之介も銃撃を始めた。
 建之介は入り口から離れた教室の隅から撃っていた。
 そして、建之介が教室の後ろの扉を見ると、女子はほとんど廊下に逃げ出していたが、それを外のほかのクラスに見つかったのか、教室の後ろからも銃弾が撃ち込まれていた。
 「くそっ、ばれてしまったか」
 数人の女子は脱出していたが、何人かは危険な教室に取り残されることになった。
 包囲されてしまったが、不幸中の幸い、敵はまだ教室には侵入してきていなかった。
 外から銃弾を撃たれているだけの状況だが、寅文は入り口の壁にうまく隠れて銃弾が当たらないようにしていた。
 「ある時」を待っているようだった。
 そして、次の瞬間、いきなり銃弾が止んだのである。
 「行けええ!!!皆、突撃だあ!!!」
 すると、寅文が廊下に飛び出して行き、クラスの男子もそれについていくかのように皆で廊下に出て行った。
 建之介は、皆が廊下に出ていくのを教室から見守っていた。
 
 寅文は、敵のリロードのタイミングを見計らって刀を振り回しに行ったのであった。
 たちまち外から攻撃してきた敵は寅文の餌食となった。
 リロード中の敵の首を何も躊躇せずに切り刻んでいく。 
 さらに、寅文には一発も銃弾が当たらないのである。
 このリロードの隙を突かれた敵は、最強の剣豪に一掃されてしまった。
 外はたちまち血の匂いで溢れ、斬られる鈍い音や銃声が飛び交っている。
 しかし、そんな中、B組だけは向かうところに敵はいなかった。
 もうすでに廊下は墓場となってしまったのだ。
 さらに、健之介が後ろ側を見ると、女子は全員廊下に避難していた。
 「はあ、はあ、よかったあ」
 息を切らしながら寅文がB組に入ってくる。
 帯刀は赤く、血の色で濡れていた。
 その刀で敵を狩り殺してきたのかと思うと、ゾッとするが、自分が寅文の仲間で良かったと思った。
 「もう外は大丈夫なのか?」
 健之介が聞いた。
 「ああ。今は問題ない。なんとかA組とC組までは捌くことができたみたいだ。しかし、何か違和感があるがな。どうして、A組からの攻撃が少なかったことは疑問に思う。どうして女子が全員あんなに容易に逃げ出すことができたのか。普通ならもっと教室内で殺されていても不思議ではないんだが」
 そう寅文が話すと、A組からいきなり悲鳴が聞こえてきた。
 「いやあああああああああああ!!!!!!!助けてええええ!!!」
 甲高い女子、ライブ会場やコンサートでよく聞く例の叫び声である。
 「間違いない、B組の女子だ。行くぞ!」
 「待ってよ。そんなこと言って、いきなり攻めて行っていいのか?お前が返り討ちにあって捕まったりしたらもう終わりだよ!」
 寅文が一人で教室を出ていこうとするのを健之介は止める。
 しかし、説得はうまくいかなかった。
 「助けに行かなくていいのかよ?奴らは教室で殺しを働いているに違いない。殲滅するなら今がチャンスだ。お前も来い。銃がなければ成功しない。必ず成功させる。全員助け出してやるんだよ。嫌いな奴でも仲間は仲間だからな」
 「分かった。お前が言うなら仕方ないな。OK。手を貸すぜ。絶対助け出すぞ」
 そう言うと、建之介は立ち上がった。
 そして時計を見ると、もう10時、一時間半が経過していたのであった。
 
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