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第27話 新しき世界
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「究極痩身魔法!」
彼女の要望通り、カナデが痩せる魔法を使うと、フェアリナの二の腕が一気に引き締まり、よりキュッとした見事な括れが出来上がった。頬骨も少し痩けたような気がする。確かに痩せてはいるが、いつもの陽気なフェアリナらしさはないなと、カナデは苦笑した。
「カナデ君、見て見て! 私細いよ? これで玉の輿確定だよ?」
どういう理由でそれが確定したのかはわからないが、フェアリナはすごく嬉しそうだ。しかし、薄ピンク色の髪が、いつもより艶がないようにも見える。大丈夫なのだろうか。カナデは少し不安になった。
「やっぱり今までのお前のほうが良くないか? 肌や髪の艶だって悪いし、目にも光がない。無理してるっていうのが良くわかる」
「何言ってるの、カナデ君? 全然無理なんてしてないよ。私はこれで幸せなんだよ。だってだって、痩せてるのは可愛いんだよ。可愛いは正義なんだよ? 正義はいつだってハッピーエンドなんだよ?」
彼女がそれで本当に幸せなら、カナデは何も思わない。しかし、今のカナデの目にも、とてもそうは映らなかった。
「痩せすぎは不健康なだけで、何か大事なものを失うだけだと思うぞ? 今はそれでいいかもしれないけど、歳とったらつけたくても肉なんてつかなくなるんだから」
「私は歳なんて取らないもん」
「子供の言い訳か」
「エヘッ。でもね、カナデ君。女の子は今が大事なの。今が可愛ければそれでいいの。男のカナデ君にはわからないかもしれないけど」
珍しく自分の意見を曲げようとしないフェアリナ。彼女の中でそれほど美意識が高いということなのだろう。しかし、全ては魔法で手に入れた現実だ。それが儚いものであることを、彼女に伝えなければならなかった。
「なあ、フェアリナ。この世界の魔法は、現実に起こり得ることを、いかに想像出来るかなんだったよな。想像できるものであれば、発動出来る。そして発動された魔法の効果は、現実の世界に依存する。間違いないよな?」
「そうね。この世界の魔法は、現実のあなた自身の意志の力が生み出した産物と言えるよ」
――OK。
彼女がそう思っているのなら、話が早い。
「うん、そういうことだ。つまりね、今僕が発動したこの魔法も、現実のフェアリナの性格や体質に依存するということなんだ。だから、意志が弱いと……その……戻るみたいだよ?」
「戻るって、何が? 若さとか?」
ぷくーっと膨らみ始めるフェアリナ。彼女はまだ気づいていないようだ。
「だから、意志が強い人間でなければ、リバウンドをする」
「リバウンド? 何それ?」
幸福というお花畑の中で、今、彼女の足元は徐々に枯れ、茶色く変色していっているはずだ。そうしてフェアリナの姿は徐々に水分を吸ったようにどんどん大きくなっていった。
「あれ、何? 何か変?」
フェアリナの声質まで少し低くなっていっている。まるで大人になったかのように錯覚でもしているのだろうか。彼女の表情は、いまだ喜びに満ちるばかりだ。
「わーい! 胸もおっきくなってるよ、カナデ君!」
フェアリナはやたら嬉しそうに、自らの胸を両手で揉んで見せる。カナデは素直に喜べなかった。大きくなっているのが、胸だけではなかったのだから。
「いや、胸だけじゃないぞ。よく見ろ、フェアリナ。お前の身体の全てを」
「えっ? カナデ君、そんなに見られたら恥ずかしいよ」
何故か顔を赤らめるフェアリナ。いや、そういう意味じゃないのに。
「……って、あれれ?」
そこでようやく気づいたのだろう。フェアリナは自分の身体の変化に、徐々にその表情を曇らせ、やがては蒼褪めていく。
「な……何、カナデ君。何か私の身体、何か変だよ?」
「だから戻ったんだよ。元あるお前の姿に」
「へっ……?」
慌てて全身を触り始めるフェアリナ。
「へっ……? 何これ……まさか……私?」
顔面蒼白のフェアリナ。カナデは正直に告げることしか出来なかった。
「それがリバウンドだ。元ある体重よりも更に大きく、そして重くなる。そして同時に周囲の人の目も重く鋭いものになるだろう」
「てか、全然元の姿じゃない! カナデ君、何、これ、ひどい……」
実際、フェアリナの身体は以前の二倍ほどの体積へと膨れ上がっていた。それに気づいた彼女は、慟哭し、身も世もない状態だっただろう。
「お前の意志が強ければ、一部の女子生徒たちみたいに痩せたままだっただろう。でも、フェアリナは欲に負けたんだ。仮にもし痩せていても、また余計に甘いものを摂取して、さらに動かなくなるだろう? 魔法は全てを見抜いていたんだ。だから僕はお前には使いたくなかった」
フェアリナは顔を真っ赤にし、目くじらを立て憤る。女神様がそんな姿になったのでは、確かに怒り狂うのも理解は出来る。だが、それを彼女は望んだのだ。
「そんなこと、先に言ってよ! この詐欺師! ペテン師! レベル1」
フェアリナがカナデに罵声を浴びせてくるが、レベル1と言われても、一向に劣等感を抱くことはなかった。むしろ今では誇らしくもある。それで自分より高いレベルの人間を倒せるのだから。
「どうにかしてよ! カナデ君がやったんでしょ? 私がこのままでもいいの? こんな姿でもいいの?」
「まあ、僕は別に面白ければいいんだけどね。ただ残念なのは、お前がラファエリアのアイドルになる姿を永遠に見られないことだな」
「カナデ君のせいでしょ?! 私もアイドルなりたかったよ。アイドルで女神で美少女魔法使いって、もてはやされたかったよ。でも、こんな姿じゃ無理じゃない。ひどい、あんまりだよ……」
フェアリナは、いよいよ目に涙を浮かべている。まさかここまでショックを受けるとは、カナデも思ってもみなかった。
「私は女神よ。女神様なのよ? それがどうしてこんな姿に……」
膝を地面につき、フェアリナは泣きながらもがっくりと項垂れる。カナデは少し彼女が可哀相になった。
――仕方ない。
「まあ、元に戻る方法がないわけではないんだけど。試してみる?」
ガバッと顔を上げ、フェアリナはカナデにすがりついてくる。
「すぐ! 今すぐ、その魔法を!」
「でも、注意事項があって……」
「いいから、やって、もうどうなってもいいから」
カナデの言葉を制し、フェアリナは餌を与えられた猫のように、飛びついてくる。
――やるしかないか。
フェアリナにとって、気休めに終わってしまうかもしれないけれども。カナデは再び彼女に向けて両手をかざし、個室の異空間を想像した。
「オイルマッサージ!」
フェアリナの顔が上気し、息を乱しながらも軽い喘ぎ声を上げている。仕方ない。エステとは気持ちいいものだ。決してカナデのテクニックがすごいからではない。
やがてぐったりと横たわるフェアリナの姿が、みるみる細くなっていく。流石エステ。一時的な効果は抜群だ。
――そう、一時的には。
またそれを告げなければならないことに、カナデは心苦しさを覚えた。
「この魔法は、一時的に細くなるんだけど、耐久時間がそんなにない。だからここぞというピンポイントで使用すると効果的だな」
「え? ずっとじゃないの? 話が違う」
いや、まだ話してないし。むしろ言う前に遮られたし。
「残念ながら、やはりこの魔法も、対象となる相手の意志の強さに依存する」
「そ……そんなぁ……」
「……ってもう戻りだしてるし、意志よわっ。フェアリナはどんだけ意志弱いん?」
その言葉で傷ついたのか、フェアリナは珍しく激昂した。
「死ねー! 私をこんな姿にしたカナデは死ねー! 死んでしまえー!」
フェアリナは、とうとう大粒の涙を流して泣き崩れ、やがては精神崩壊し始めたようだ。
罪悪感に苛まれるカナデ。ちょっとした悪戯心が、彼女をここまで追い込むとは思ってもみなかった。申し訳ないと思いながらも、周囲を見ると、いつの間にか人だかりが出来ていた。本格的な痴話喧嘩と思われているのだろう、周囲の視線もかなり痛いものだ。
――潮時かな。
これ以上はまずいと思い知ったカナデは、1つフェアリナに優しくアドバイスをしてあげることにした。
「なあ、フェアリナ。この魔法はあくまで状態変化の魔法なわけだ。最初にかかったのは、グッドステータスを与えるもの。そして今はそれがバッドステータスが付与されている。フェアリナは補助魔法や回復魔法のスペシャリストだろう? だったら、バッドステータスの解除くらい簡単なお仕事じゃないか?」
「へっ……?」
その瞬間、フェアリナの動きがピタリと止まった。カナデの言葉の意味を、少しずつ理解していっているのだろうか。順番に指を数え、流れをぶつぶつと呟いている。
「あっ……何だ……そういうことね。たっ、ただの状態変化の魔法だよね。さ、最初から、し、心配なんてしてなかったんだからね」
動揺と安堵が入り雑じった反応に、可笑しくて、カナデは吹き出しそうになる。
「やっぱり私がこんな姿になるなんて、何かの間違いだったのよ。私は女神、みんなの憧れの女神様なんだから」
フェアリナの表情はいつの間にか、にやけ始める。これが嘘だとしたら、カナデは今度こそ、まっすぐに飛ばない魔法で、粉々にされてしまうかもしれない。
――大丈夫。
理論的には間違いないのだから。
「状態異常解除」
嬉々とした表情で、フェアリナが詠唱すると、彼女の身体は目映いほどの白い光に包まれ、やがてはいつも通りの健康的な彼女が姿を現した。
「あははー、軽い軽い。私は何てスリムなの?」
自画自賛しながら、その場でフェアリナは飛び跳ねる。大きめの胸が上下に揺れる姿は、女神らしくいつ見ても神々しい。
「丸く収まって良かったな、フェアリナ」
「エヘッ。丸くはしばらく禁句にしないとだね」
フェアリナにとっては、よっぽどの地獄だったのだろう。でも、嬉しそうで何よりだ。それにカナデの視線は、1つの場所に釘付けになる。あえて避けようとしながらも、見てしまうのは男の性《さが》なのか。元通りになった彼女の身体だったが、胸だけはエステの効果でちょっぴり大きくなったままなのは、しばらく内緒です。
彼女の要望通り、カナデが痩せる魔法を使うと、フェアリナの二の腕が一気に引き締まり、よりキュッとした見事な括れが出来上がった。頬骨も少し痩けたような気がする。確かに痩せてはいるが、いつもの陽気なフェアリナらしさはないなと、カナデは苦笑した。
「カナデ君、見て見て! 私細いよ? これで玉の輿確定だよ?」
どういう理由でそれが確定したのかはわからないが、フェアリナはすごく嬉しそうだ。しかし、薄ピンク色の髪が、いつもより艶がないようにも見える。大丈夫なのだろうか。カナデは少し不安になった。
「やっぱり今までのお前のほうが良くないか? 肌や髪の艶だって悪いし、目にも光がない。無理してるっていうのが良くわかる」
「何言ってるの、カナデ君? 全然無理なんてしてないよ。私はこれで幸せなんだよ。だってだって、痩せてるのは可愛いんだよ。可愛いは正義なんだよ? 正義はいつだってハッピーエンドなんだよ?」
彼女がそれで本当に幸せなら、カナデは何も思わない。しかし、今のカナデの目にも、とてもそうは映らなかった。
「痩せすぎは不健康なだけで、何か大事なものを失うだけだと思うぞ? 今はそれでいいかもしれないけど、歳とったらつけたくても肉なんてつかなくなるんだから」
「私は歳なんて取らないもん」
「子供の言い訳か」
「エヘッ。でもね、カナデ君。女の子は今が大事なの。今が可愛ければそれでいいの。男のカナデ君にはわからないかもしれないけど」
珍しく自分の意見を曲げようとしないフェアリナ。彼女の中でそれほど美意識が高いということなのだろう。しかし、全ては魔法で手に入れた現実だ。それが儚いものであることを、彼女に伝えなければならなかった。
「なあ、フェアリナ。この世界の魔法は、現実に起こり得ることを、いかに想像出来るかなんだったよな。想像できるものであれば、発動出来る。そして発動された魔法の効果は、現実の世界に依存する。間違いないよな?」
「そうね。この世界の魔法は、現実のあなた自身の意志の力が生み出した産物と言えるよ」
――OK。
彼女がそう思っているのなら、話が早い。
「うん、そういうことだ。つまりね、今僕が発動したこの魔法も、現実のフェアリナの性格や体質に依存するということなんだ。だから、意志が弱いと……その……戻るみたいだよ?」
「戻るって、何が? 若さとか?」
ぷくーっと膨らみ始めるフェアリナ。彼女はまだ気づいていないようだ。
「だから、意志が強い人間でなければ、リバウンドをする」
「リバウンド? 何それ?」
幸福というお花畑の中で、今、彼女の足元は徐々に枯れ、茶色く変色していっているはずだ。そうしてフェアリナの姿は徐々に水分を吸ったようにどんどん大きくなっていった。
「あれ、何? 何か変?」
フェアリナの声質まで少し低くなっていっている。まるで大人になったかのように錯覚でもしているのだろうか。彼女の表情は、いまだ喜びに満ちるばかりだ。
「わーい! 胸もおっきくなってるよ、カナデ君!」
フェアリナはやたら嬉しそうに、自らの胸を両手で揉んで見せる。カナデは素直に喜べなかった。大きくなっているのが、胸だけではなかったのだから。
「いや、胸だけじゃないぞ。よく見ろ、フェアリナ。お前の身体の全てを」
「えっ? カナデ君、そんなに見られたら恥ずかしいよ」
何故か顔を赤らめるフェアリナ。いや、そういう意味じゃないのに。
「……って、あれれ?」
そこでようやく気づいたのだろう。フェアリナは自分の身体の変化に、徐々にその表情を曇らせ、やがては蒼褪めていく。
「な……何、カナデ君。何か私の身体、何か変だよ?」
「だから戻ったんだよ。元あるお前の姿に」
「へっ……?」
慌てて全身を触り始めるフェアリナ。
「へっ……? 何これ……まさか……私?」
顔面蒼白のフェアリナ。カナデは正直に告げることしか出来なかった。
「それがリバウンドだ。元ある体重よりも更に大きく、そして重くなる。そして同時に周囲の人の目も重く鋭いものになるだろう」
「てか、全然元の姿じゃない! カナデ君、何、これ、ひどい……」
実際、フェアリナの身体は以前の二倍ほどの体積へと膨れ上がっていた。それに気づいた彼女は、慟哭し、身も世もない状態だっただろう。
「お前の意志が強ければ、一部の女子生徒たちみたいに痩せたままだっただろう。でも、フェアリナは欲に負けたんだ。仮にもし痩せていても、また余計に甘いものを摂取して、さらに動かなくなるだろう? 魔法は全てを見抜いていたんだ。だから僕はお前には使いたくなかった」
フェアリナは顔を真っ赤にし、目くじらを立て憤る。女神様がそんな姿になったのでは、確かに怒り狂うのも理解は出来る。だが、それを彼女は望んだのだ。
「そんなこと、先に言ってよ! この詐欺師! ペテン師! レベル1」
フェアリナがカナデに罵声を浴びせてくるが、レベル1と言われても、一向に劣等感を抱くことはなかった。むしろ今では誇らしくもある。それで自分より高いレベルの人間を倒せるのだから。
「どうにかしてよ! カナデ君がやったんでしょ? 私がこのままでもいいの? こんな姿でもいいの?」
「まあ、僕は別に面白ければいいんだけどね。ただ残念なのは、お前がラファエリアのアイドルになる姿を永遠に見られないことだな」
「カナデ君のせいでしょ?! 私もアイドルなりたかったよ。アイドルで女神で美少女魔法使いって、もてはやされたかったよ。でも、こんな姿じゃ無理じゃない。ひどい、あんまりだよ……」
フェアリナは、いよいよ目に涙を浮かべている。まさかここまでショックを受けるとは、カナデも思ってもみなかった。
「私は女神よ。女神様なのよ? それがどうしてこんな姿に……」
膝を地面につき、フェアリナは泣きながらもがっくりと項垂れる。カナデは少し彼女が可哀相になった。
――仕方ない。
「まあ、元に戻る方法がないわけではないんだけど。試してみる?」
ガバッと顔を上げ、フェアリナはカナデにすがりついてくる。
「すぐ! 今すぐ、その魔法を!」
「でも、注意事項があって……」
「いいから、やって、もうどうなってもいいから」
カナデの言葉を制し、フェアリナは餌を与えられた猫のように、飛びついてくる。
――やるしかないか。
フェアリナにとって、気休めに終わってしまうかもしれないけれども。カナデは再び彼女に向けて両手をかざし、個室の異空間を想像した。
「オイルマッサージ!」
フェアリナの顔が上気し、息を乱しながらも軽い喘ぎ声を上げている。仕方ない。エステとは気持ちいいものだ。決してカナデのテクニックがすごいからではない。
やがてぐったりと横たわるフェアリナの姿が、みるみる細くなっていく。流石エステ。一時的な効果は抜群だ。
――そう、一時的には。
またそれを告げなければならないことに、カナデは心苦しさを覚えた。
「この魔法は、一時的に細くなるんだけど、耐久時間がそんなにない。だからここぞというピンポイントで使用すると効果的だな」
「え? ずっとじゃないの? 話が違う」
いや、まだ話してないし。むしろ言う前に遮られたし。
「残念ながら、やはりこの魔法も、対象となる相手の意志の強さに依存する」
「そ……そんなぁ……」
「……ってもう戻りだしてるし、意志よわっ。フェアリナはどんだけ意志弱いん?」
その言葉で傷ついたのか、フェアリナは珍しく激昂した。
「死ねー! 私をこんな姿にしたカナデは死ねー! 死んでしまえー!」
フェアリナは、とうとう大粒の涙を流して泣き崩れ、やがては精神崩壊し始めたようだ。
罪悪感に苛まれるカナデ。ちょっとした悪戯心が、彼女をここまで追い込むとは思ってもみなかった。申し訳ないと思いながらも、周囲を見ると、いつの間にか人だかりが出来ていた。本格的な痴話喧嘩と思われているのだろう、周囲の視線もかなり痛いものだ。
――潮時かな。
これ以上はまずいと思い知ったカナデは、1つフェアリナに優しくアドバイスをしてあげることにした。
「なあ、フェアリナ。この魔法はあくまで状態変化の魔法なわけだ。最初にかかったのは、グッドステータスを与えるもの。そして今はそれがバッドステータスが付与されている。フェアリナは補助魔法や回復魔法のスペシャリストだろう? だったら、バッドステータスの解除くらい簡単なお仕事じゃないか?」
「へっ……?」
その瞬間、フェアリナの動きがピタリと止まった。カナデの言葉の意味を、少しずつ理解していっているのだろうか。順番に指を数え、流れをぶつぶつと呟いている。
「あっ……何だ……そういうことね。たっ、ただの状態変化の魔法だよね。さ、最初から、し、心配なんてしてなかったんだからね」
動揺と安堵が入り雑じった反応に、可笑しくて、カナデは吹き出しそうになる。
「やっぱり私がこんな姿になるなんて、何かの間違いだったのよ。私は女神、みんなの憧れの女神様なんだから」
フェアリナの表情はいつの間にか、にやけ始める。これが嘘だとしたら、カナデは今度こそ、まっすぐに飛ばない魔法で、粉々にされてしまうかもしれない。
――大丈夫。
理論的には間違いないのだから。
「状態異常解除」
嬉々とした表情で、フェアリナが詠唱すると、彼女の身体は目映いほどの白い光に包まれ、やがてはいつも通りの健康的な彼女が姿を現した。
「あははー、軽い軽い。私は何てスリムなの?」
自画自賛しながら、その場でフェアリナは飛び跳ねる。大きめの胸が上下に揺れる姿は、女神らしくいつ見ても神々しい。
「丸く収まって良かったな、フェアリナ」
「エヘッ。丸くはしばらく禁句にしないとだね」
フェアリナにとっては、よっぽどの地獄だったのだろう。でも、嬉しそうで何よりだ。それにカナデの視線は、1つの場所に釘付けになる。あえて避けようとしながらも、見てしまうのは男の性《さが》なのか。元通りになった彼女の身体だったが、胸だけはエステの効果でちょっぴり大きくなったままなのは、しばらく内緒です。
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