魂色物語

ガホウ

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第一章 燻る火種と冒険の始まり

第十一話 僕の戦い

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 ディールが鳥野郎と戦闘している間、レイもまた猿野郎と戦闘を繰り広げていた。
 レイは猿野郎に投げ飛ばされた後に壁に衝突して倒れていたがどうやら化け物たちの向こう側でディールが敵の注意を引き留めてくれているようだった。

「(ディールが化け物たちを止めている間に僕は一旦ここから離れないと。……そうだ!あっちの部屋には何もないらしいからこっち側の化け物たちの寝室に逃げ込もう)」

 レイはディールと激励の言葉を交わした後に化け物たちの寝室へと入る。扉をすぐに閉めて部屋の中を観察する。部屋の中はホールよりかは多少狭いようだが想像していたよりも広い。部屋の奥にはベッドが2つあり、その間にはランタンの照明が置かれている。それ以外には部屋の角には観葉植物、壁には絵が飾られている。レイは武器になりそうなものを探すが中々見当たらない。

「駄目だ……。使えそうなものはどこかにないのか?早くしないと猿の化け物が来てしまうよ」

 部屋の中を見渡していると背後の扉が開き猿の化け物がゆっくりと不気味な笑い声をあげながら中に入ってきた。

「キキッ!キキキキ!そうじゃのそうじゃのもう逃げ場はないのぉ。ゲネタには悪いが一足先にご馳走を”全部”頂くとするかのぉ。どこからいこうかのぉ頭かのぉそれとも腹からかのぉ?」
「どうしよう。もうやって来たのか!……もう戦うしかないんだ。覚悟しろ!猿の化け物‼」
「威勢だけは一丁前じゃのぉ。儂らに勝てるわけないのにのぉ!」

 レイは短剣を構えると猿の化け物と一定の距離を保つ。一方の猿の化け物はじわじわとレイの方に歩いて距離を縮めている。

「(あの尻尾が厄介だ……どうにかしてあの尻尾を無力化しないと)」

 猿の化け物は痺れを切らしてレイへと飛びかかる。猿の化け物の前腕による引っ掻き攻撃を間一髪躱したレイはそのまま横から猿の化け物へと斬りかかる。しかし、斬りかかろうとしたレイの腕を猿の化け物の尻尾がはたいてレイは尻餅をついてしまう。倒れたレイに猿の化け物は追撃するがレイは尻餅をついた状態で後転してその攻撃を躱す。
 その後もレイはなんとかして攻撃を入れようとしているが猿の化け物の攻撃を躱すので精一杯だった。気づけばレイは部屋の角に追い詰められていた。

「不味いぞ……もう逃げ場がなくなった。次の攻撃はもう避けられない。どうしよう……!」
「もう鬼ごっこは終わりじゃのぉ」

 レイは後ろにあった観葉植物の植木鉢の鉢の部分を持って植物の先端を猿の化け物に向かって突進する。

「こうなれば突撃だァ!」
「なんじゃなんじゃ?」

 猿の化け物に突き付けられた観葉植物はその枝を猿の化け物の胴体に次々とへし折られていく。枝や幹を失いただの植木鉢になってしまった。それよりも不味いのは猿の化け物の目の前に来てしまったことである。レイは猿の化け物によって殴られて部屋の真ん中へと吹き飛ばされてしまう。殴られた箇所が腹部だったこともあり激痛がレイを襲いその場にうずくまってしまう。

「ぐっ!……ゥゥゥッ!」
「まだ元気があるのかのぉ」
「まだだ!喰われてたまるか!」

 レイは腕に抱えていた植木鉢を力いっぱい猿の化け物に投げつける。投げられた植木鉢を猿の化け物が払い落とそうとしたその時、家が少しだけ揺れて猿の化け物は体勢を崩して植木鉢が頭部に直撃する。

「(何だ今の揺れは?まさかディールがやったのか?!それよりも今がチャンスだ!)」

 植木鉢が直撃したことにより猿の化け物は混乱状態にあった。レイはその隙を突いて猿の化け物に斬りかかる。レイの攻撃によって猿の化け物は全身に浅いが確実に傷を負った。猿の化け物は血を流して痛みで悲鳴をあげる。

「痛いのぉ!痛いのぉ!よくもやってくれたのぉ!」
「どうだい化け物?これが誇り高き【エイリレ流剣術】だ!」
「舐めるのもいい加減にしてほしいのぉ。どうやら本気でやらないとダメじゃのぉ!」
「(誇り高きとか言っちゃったけど僕、まだ2年しか習ってないから基本の最後まで知らないんだよね……)」

 激昂した猿の化け物はレイの方を睨みつけると尻尾をユラユラと揺らし始めた。危険を察知したレイは短剣を構える。ユラユラと揺れている尻尾は次第に速さが増していく。瞬きをした次の瞬間……目の前に広がる無数の尻尾がレイに向かって突き攻撃を繰り返していた。

「一体何だこれは!尻尾がいっぱいある。……いや、とんでもない速さのせいで複数あるように見えるだけだ。何とかして見切らな……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ほれぇほれぇ!キキッ!キキキ死ねい!」

 レイは尻尾の連続攻撃を躱しきれず直撃を受けてしまう。まるで金属のような硬さの尻尾がレイの身体を打ち抜いていく。痛みで意識が遠のきそうな中でレイはふと昔のことを思い出していた。

 ◆◇◆

 ――2年前。

 レイは今日から剣術の稽古をしてもらうことになった。しかし、レイは剣術の稽古に乗り気ではなかった。レイは先生と対話する。

「先生、なんでわざわざ剣の稽古なんてしないといけないんですか?ただ野蛮なだけじゃないですか?」
「レイお坊ちゃま。武の道はただいたずらに力をふるうだけの暴力とは違い、野蛮などではないですよ。武術も座学と同じように学んで身につければ自分の力になり、いずれ誰かのためになる。実に深いものなのです」
「それ、本当ですか?信じがたいのですが……」
「本当ですとも。それに武術はただ武器を振ればいいという訳ではないのです。技術を学び、その仕組みや体の動かし方を理屈として考えることでようやく習得することが出来るのです」
「なるほど。つまり、勉強と似ているんですね!少しだけ興味が出てきました」
「それは良かったです。今から教える【エイリレ流剣術】はかつて自分よりも遥かに強力な敵と戦うために王国内で編み出された剣術なのです。そして、この剣術には幾つかの構えが存在します」
「【エイリレ流剣術】って難しいんですか?」
「そうですね。フォルワ四大剣術の1つですからエイリレ王国の兵士たちの中では広まっていますのでメジャーですし難しくはないです。しかし、先ほど少しだけ出てきた”構え”の全種をマスターしている人は多くはないですね。普通の兵士は皆、基本の構えしか覚えることが出来ませんので」
「どんな”型”があるんですか?」
「【エイリレ流剣術】には大きく分けて3種類の構えがあります」

 先生は構えについて教えてくれた。
 まず1つ目が基本の型である【剛の構え】。これは攻めに使われる構えで重い一撃を主としている。剣を自分の振るいやすい位置で構えるだけなので細かい技などは後回しだと言われた。
 2つ目が【柔の構え】。しなやかな剣戟でたくさんの手数で素早く相手を切り刻む攻撃を主としている。剣を緩く下向きに構える。この構えの技はレイに合っていたのか、すぐに覚えることが出来た。
 そして習得が最も難しいとされているのが3つ目の【流の構え】。相手のすべての攻撃を剣1つで受け流して反撃の一閃を与えるのを主としている。これまでは相手に正対させる構えであったが、これは相手に対して半身で剣を持たない腕を腰の後ろに置いておく構えである。

「どの構えも極めることが出来れば強力です。特に【流の構え】を極めることが出来ればたとえ相手がどれだけ強かろうとすべての攻撃を無力化することが可能になります。これには尋常ではない程の集中力や鍛練が必要ですがね」

 ◆◇◆

 レイはこの状況を打破するために猿の化け物の攻撃を受けながらも構えの姿勢をとる。

「(稽古では一度も成功したことがないけれど、もうこれしかない……【流の構え】だ!)」
「キキキ!もうそろそろ終わりじゃのぉ!」

 猿の化け物の攻撃は確かにレイを捉えていたが少しづつその攻撃が弾かれ始める。レイは【流の構え】の基本の技である”流し”を戦いの中で体得し始めていた。

「あいつの攻撃が見えてきた!もう少しで完全に見切れる」
「キキキキキキ!キキッ!」
「……‼今だ!」

 レイは自らの心臓を真っ直ぐ狙ってきた尻尾を受け流し沿わせながら斬った。見事に尻尾は切り落とされて猿の化け物は痛みでその場で暴れまわる。

「キッキャッギャァァァ!!!儂の自慢の尻尾がぁぁッ!」
「これではもうあなたの技は使えないね」
「調子に乗るなよぉ。お前はただの食料なんじゃァ!」
「次で仕留めてみせる!」

 尻尾を失った猿の化け物の引っ掻き攻撃は苛烈さを増していくがさっきまでの尻尾による攻撃程の威力も速さもないのでレイは簡単に受け流してカウンターを決めていく。どんどんと傷が増えていく猿の化け物だが止まる様子がない。一度距離を取ってベッドのある位置まで下がる。猿の化け物は飛びかかって距離を詰めてくる前にレイは一芝居打つ。

「なんだあれ!壁の絵が動いた!」
「なにぃ?!」

 猿の化け物が騙されて後ろを向いた隙にレイは後ろのベッドの上から枕を取り、投げつける。

「キキッ!二度も同じ手に引っかかると思うな!」

 猿の化け物は易々と枕を鋭い爪で切り刻んだ。切り刻まれた枕からまき散らされた大量の羽毛が宙を舞い猿の化け物の視界を奪う。

「なんじゃなんじゃ?前が見えんぞぉ!」
「終わりだぁぁ!!!」

 レイは枕を投げつけたと同時に前に飛び出していたのだった。レイの短剣は猿の化け物の胸元を突き刺し勢いのまま壁に衝突した。レイは短剣を抜き取りもう一度距離を取る。どうやら猿の化け物はまだ息があるようだ。

「……キキキ……キキッ。まだじゃのぉまだじゃのぉまだ終わりじゃないのぉ」
「なんてしぶとい化け物なんだ。でも今ならあれが使えるはずだ。くらえぇー!」

 レイは袋から爆破石を取り出して投げる。爆破石は猿の化け物を直撃して壁ごと吹き飛ばした。レイも壊れた壁から猿の化け物を追いかける。
 2階の廊下に出ると階下のホールではディールが飛び回っている鳥の化け物を追いかけていた。ディールがレイと猿の化け物に気づいて声をかける。

 「レイ!猿野郎!何が起きたんだ?」
 「ディール!一気に決めよう!」
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