インチキ霊媒師のキョウセイ異世界除霊旅

なぐりあえ

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八話

処刑される霊媒師

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次に意識を取り戻したのは檻付きの馬車の中であった。手首は綱で拘束されて動かせない。後頭部はまだズキズキと痛い。
 外を見ると聖都から連れ出されて近くの丘に向かっている様だ。ガタガタとした揺れは舗装されていない道を走っているからだった。
 この辺の地理は少し調べた事はある。あの丘は処刑場だ。まさか直ぐに処刑場送りにするとは恐れ入った。
 あーくそ、アコナイトの奴にハメられた。アイツは全てを俺のせいにして事態の収束を図るつもりだ。
 最後の記憶を思い出すとトライソーンは殺されたのだろう。そしてそれを実行したのは魔物の操った俺になっている。
 それもあの天秤のお墨付きだ。ここからいくらアコナイトが魔物を操ったと言っても誰も信用しないだろう。
 奴は都合の悪い証人と邪魔者の俺を同時に始末する事が出来る。倫理や道徳を無視したなんて素晴らしい作戦なんだ。惚れ惚れするね。
 俺も何処か現実の事じゃ無いと思っていたのだろう。いくら口では暗殺やら処刑なんて言っても所詮はふざけた世界の出来事。そう思っていた。
 だがこれは紛れもない現実。奴は簡単に人殺しをするし、冤罪を仕立て上げてる事も気にしない。これまで詐欺師は見てきたが人殺しは初めてだ見たよ。
 こちらは情報も手札もそして覚悟も何もかも足りなかったんだ。教会の不正を暴くなんて元々無理のある作戦だった。どうした俺、この世界に来て英雄にでもなったつもりか?上手い事悪霊共を言いくるめて調子に乗ってたのか?
 こんな事ならさっさとこの国を出て知らない国で再出発すれば良かった。あー今更そんな事を考えても遅いのは分かっているが後悔が尽きない。
 俺がただただ後悔に苛まれていると馬車が急に止まった。中に乗っている犯罪者にはお構いなしか。
「降りろ!」
 そう騎士から命令され素直に馬車から降りると丘の麓に下ろされた。
「歩け!」
 その命令にも渋々従い騎士に言われるがまま丘を上がっていく。
 木々も草も生えていない石ころだらけの丘をタラタラ上がって行き頂上に着くとデカい石で出来た祭壇が鎮座されていた。祭壇の真ん中は不自然に凹んでおり、何か叩きつけられた跡がある。
 あー、あそこで処刑されるのか。
 祭壇の前に着くと騎士に無理やり座らされ上半身を祭壇に押し付けられた。痛いから!言われればちゃんとするから。
 俺の顔に影が被り、顔を上げるとアコナイトが俺を見下していた。
「罪人ウンスイはその悪行を暴かんとするトライソーン騎士団長をあろう事か異端審問の場で手にかけた。公衆の面前で行われたその凶行は誰が見ても死罪に相応しいものと言える」
 何をコイツは言ってんだか。いけしゃあしゃあと。
「トライソーン騎士団長は最後にウンスイが魔物を操る力があると我々に命を持って伝えてくれた。名誉ある騎士団長の死に女神の祝福があらんことを」
 周りの騎士達は整列してトライソーンの死を悼んでいる。それが形式的にやっているか、本心なのかは分からないが。
「処刑人、前へ」
 アコナイトが処刑人を呼ぶと、頭巾で顔を覆った奴が現れた。怖っ、しかもなんかハンマー持ってるし。えっ?もしかして処刑って撲殺なの?
「処刑人が持っているその鎚は女神ロト様の祝福を受けており。打ち砕かれた者はその邪悪なる肉体も魂も浄化される」
 マジか!やっぱり撲殺じゃん!それ一瞬で済むの!
「さあ!最後に女神ロト様へ祈りを捧げよう」
 やばい、刑が執行される。
「目を瞑れ!」
 騎士に命令され俺は目を瞑った。別に女神に祈るつもりはない。
 周りが静かになった。この感覚は覚えがある。俺は大きなため息を吐きながら目を開けた。
 そこは処刑場ではなく、何もない真っ白な空間であった。そして目の前には女神が立っていた。
「何の用だ?俺を笑いに来たのか?」
「相変わらず減らず口だな。どうだ人を騙し続けたお前が最後に謀れ処刑される気分は」
 悪趣味な奴だ。そんな事の為に出てきたのか。
「最悪な気分だな。特に最後に拝む面がお前なのが特に」
「この期に及んでまだそんな事を言うか。今なら己の行いを振り返り悔いる事も出来るのだぞ」
「はっ!懺悔の為にわざわざ処刑前に時間を作ったのか?ならお気の毒だな、俺は今まで自分がやってきた事に後悔は無い」
「お前に騙された人間の事を何も思わないのか?」
「奴らは幸せそうにしていた何も問題はない。それはお前ら神でも出来なかった事だ。お前ら神が救えなかった弱者を俺が代わりに救っただけだ」
「それはお前を置いて出て行った母親の事か?」
「気安く俺の過去を語るな」
「それが今のお前の出発点なのだろ」
「ちっ、別に今は何とも思っちゃいない。カルト宗教にハマって金持って出て行った。何処にでもある話だ。その宗教団体も今は崩壊して無くなり、母親も死んだ。それだけだ」
「ならお前が霊媒師を今だに名乗っているのは何故だ?」
「何が言いたい?まさか俺が怪しい宗教にハマりそうな奴を救い出してる聖人だと思ってるのか?」
「お前の心の内はどうなのだ」
「全く違うね。俺はこういう生き方しか出来ないだけだ。学も身分も無え貧乏人が成り上がるにはこれしかないんだよ。母親も何も関係無い」
「それがお前の答えならもう何も言うまい。だが覚えておけ自らの行いは必ず自分自身に帰ってくる事を」
「はあ?だから今処刑されるんだろ?今更何を言って、っておい!勝手に消えるな!」
 白い空間が消えるとやっぱり処刑場であった。
 勝手に呼び出して喧嘩売って好き放題言って帰って行った。ふざけやがる。死んだ真っ先にアイツをぶん殴りに行こう。
「さあ、最後に贖罪の言葉あるか?」
 アコナイトは偉そうに言ってきた。無ぇよそんなもん。
「女神様から必ず裁きが下りますよ」
「下るのはそなたの方だ」
 俺の言葉を軽く受け流したアコナイトは処刑人に合図を送った。
 処刑人が隣でハンマーの試し打ちをしている。ハンマーが岩に向かって振り下ろされると光り輝き岩は粉々になった。
 俺もあんな感じで処刑されるのか。目の前で見せられると血の気が引いてきた。
「女神ロトの名の下、刑を執行せよ」
 アコナイトの宣言し処刑人がハンマーを振り上げた。
 これで俺も終わりか。果たしてここで死んでも日本に帰れるかどうか……
「その処刑!!待ったーーーーー!!」
 何処からか馬鹿でかい声がした。周りの人間もキョロキョロし声の主を探している。
 ドスンと鈍い音が近くでした。音のした方を見る生首が転がっている。
「無事か!ウンスイ殿!」
 知り合いの生首であった。グラジオラスだ。上を見るとリリーらしき人影が遥かに上空にいる。リリーがここまで持ってきて落としたのか。
 突然の出来事に騎士も処刑人もアコナイトも固まって動けない。
「久しぶりですね、アコナイト卿」
 グラジオラスはアコナイトを向き転がりながら挨拶した。
「グラジオラス……トライソーンから聞いていたがまさか本当に……」
 アコナイトの言葉に騎士達が動揺した。
「グラジオラスだって!」「伝説の騎士団長だ」「憧れの人だ、本当に?」
 騎士達もその昔グラジオラスに会ったことがある奴もいるはずだ。その騎士団長様が生首で来たなら色んな意味で動揺するだろう。
「アコナイト卿よ、話は全てトライソーンから聞いた。そしてメリアからも異端審問の状況を聞いた。それを踏まえれば貴方が魔物を操りトライソーンを殺した事は明白だ」
「何を馬鹿な事を言っている!騎士達!悪霊が出たぞ!早く浄化するのだ!」
 アコナイトが必死で命令しているが騎士達の動きは鈍い。どうしたらいいのか分からないのだ。
「グラジオラス様!ご無事ですか!」
 今度は遠くからメリアの声が聞こえた。メリアは馬に乗りこちらに向かって駆けて来ている。その後ろには首無しのグラジオラスが別の馬に跨り追っかけて来ている。グラジオラスの後ろにはカクタスが乗っており、事情を知らない人が見れば完全にメリアを追い回している図になる。
 今度は俺の足元からスケルトンが出てきて俺を守るように前に立ってくれた。
 こうなってしまえば騎士達も慌てて剣を構える。だが誰も動き出そうとしない。何が何だが分からず状況が混乱しているからだ。
 メリアの馬が丘を駆け上がり俺の前まで到着した。
「まだしぶとく生きていたのだな」
 メリアは憎まれ口を叩いた。
「そう言うお前も助けに来てくれたんだな」
「当たり前だ、ウンスイ。お前は私を助けてくれたからな」
 メリアは恥ずかしげも無く言い切った。かっこいいじゃないか、照れるぞ。
 遅れてきたグラジオラスの体も到着して転がっている頭を首置いた。
「ウンスイ殿には助けられたからな。ここで戦わねば騎士の名折れだ」
 グラジオラスも実に真っ直ぐな事を言ってくれる。
「ワシもじゃよ。それにお前さんにはワシの罪滅ぼしを見てもらわないとな。勝手に死なれては困る」
「あっ!私もです!ウンスイ様に助けられました!だから助けにきました!」
 カクタスもリリーも俺の前に立ってくれた。
 ああ、そうか。女神の野郎、そう言うことか。自らの行いは自分に返ってくる、って。助けが来るならそう言えよ馬鹿野郎。
 グラジオラスは剣で俺の手首を拘束している綱を切ってくれた。
「ありがとうな、みんな」
 俺がお礼を言うと、
「礼はこの場を切り抜けてからだ」
 メリアはこちらを見ずに答えた。
「そうだな。なんとか生き残ろう」
 絶望的な状況であったが事態はひっくり返った。負ける気はしない。こんなヤベー奴等が味方してくれているからな。
 

「早く奴等を捕えろ!」
 アコナイトは叫んだが騎士達の士気は低い。スケルトンの大群に憧れの元騎士団長、更に同僚であるメリアまでいる。手を出そうにも誰も動けない状況であった。
 騎士達には何の罪は無い、それなら誰も犠牲者を出さずに丸く収まるのがベストだ。こちらとしては手を出さないでくれると助かる。
「こちらとしては危害を加えるつもりはない。冷静に話をしたい」
 俺が騎士達に呼び掛けるが応じる事は無かった。お互い手出ししないこう着状態が続いた。
 しかし一向に手を出さない騎士達にアコナイトは痺れを切らし、服の中から何かを取り出した。
 黒い光が服の中から漏れ出ている。おそらくアレが魔物を操る何かだろう。
 騎士達の足元から黒いオーラが溢れてきた。そしてそこからウジャウジャと魔物が溢れ出てきた。
「アンデットだ!」
 騎士の誰かが叫び、足元のアンデットを剣で切り伏せていく。
 アンデットは騎士達を襲っているのだ。
「奴の言葉に騙されるな!油断させてアンデットで襲っているではないか!」
 また自作自演か。どうする、騎士達も襲われたら戦うしかない。
「アンデットを殲滅するぞ!」
 俺がまごまごしているとグラジオラスが指示を出した。
「はい!」
 その指示にメリアが即答し剣を振った。戦闘に関してはグラジオラスの指示に従おう。
 カクタスのスケルトンも騎士達と共闘してアンデットを襲撃している。だが騎士にとってはアンデットもスケルトンも同じで斬られている。まあ、本体のカクタスでなければ問題ない。
 リリーは戦力にならないので空高く飛んで応援している。
 処刑場は騎士にスケルトン、アンデットも加わり大混戦になった。
 アンデットは隙を見せるとこちらにも来て攻撃をしてくるので油断できない。騎士達も余裕が無いのでそれに気付かない。
 俺自身、リリー同様全く戦力にならないので逃げ回り、迫り来るアンデットをスケルトンが防いでくれて何とか凌いでいる。
 思うように騎士達が俺達を攻撃しないうえに、差し向けたアンデットも撃退されアコナイトは焦っている。もの凄い形相でこちらを睨み付けている。
 するとアコナイトの袖の下がまた光り始めた。今までよりもドス暗く大きな光だ。それと同時に地面から今までのアンデットの三倍はデカい奴が現れた。
 デカいアンデットはその腕を振り回して無差別に攻撃していく。もうなり振り構ってられないのかデカい奴で俺達を倒す気らしい。
「アンデットがスケルトンも攻撃しているぞ!奴は力を上手く扱えないようだ!」
 アコナイトはそれらしい事を言って自分は関係ないとアピールしている。
 デカい奴はこちらに腕を振り回しながらノシノシと向かってくる。
「カスタス司祭!スケルトンで足止めを!」
 グラジオラスの指示にカクタスは直ぐさま答えてデカい奴の足元にスケルトンを召喚した。多くのスケルトンに足を掴まれたデカいのは身動きが取れず、必死に群がるスケルトンを引き剥がそうとしている。
 スケルトンに気を取られている隙にグラジオラスは膝裏を斬りつけた。
 アンデットに靭帯やら筋肉があるのかは分からないが、デカいのはバランスを崩して地面に倒れ込んだ。
 後はスケルトンが両手足に掴み掛かり、メリアがアンデットの首を両断した。
 すごい連携だ。思わず拍手したくなる。そんな事を思っているとまたもやアコナイトがデカい奴を召喚した。
 いい加減しつこいな。騎士達も流石に俺が召喚してないと分かってきてる様でアコナイトの方をチラチラ見ている。
 と言っても普通サイズのアンデットは相変わらず騎士を襲っているし、怪しいからって法王を取り押さえる訳にもいかない。不毛な消化試合の様な戦闘が続いた。
 そうなると我慢が出来ないアコナイトは今日一凄まじい光を放った。もうあんだけ自分から黒い光がビカビカ出てたら言い逃れは出来んだろ。
 アコナイトを中心に黒いオーラが溢れ出す。それもかなりの大きさだ。さっきのよりもっとデカい奴を召喚するらしい。
 騎士達もアコナイトから距離を取りその行く末を守っている。
 しかしその後の事態はアコナイトも予想外なものだったらしい。
 アコナイトから発せられる禍々しい光は不自然に点滅してどうにも言うこと聞いていない様だ。
「何だ!どうなっている!止まれ!止まれ!」
 アコナイトも必死で制御しようとするが止まらない。アコナイトの周りの黒いオーラはアコナイトを包んでいく。
「何だこれは!助けろ!早く!」
 アコナイトは完全に黒いオーラに飲み込まれた。
「死んだのか?」
 俺はポツリと小声で漏らしたがそんな事はなかった。
 黒いオーラの中から馬鹿でかい頭が飛び出した。更にそれに見合うだけの腕が伸び地面を押し退けて黒いオーラの中から出てこようとする。
 上半身が出ると今度は足が出てきて遂に立ち上がった。
 完全に立ち上がったアンデットは建物の十階相当の高さを誇った。
「全員退避!!」
 グラジオラスが叫んだ。確かにあれはヤバい。まともに戦う事は出来ないだろう。
 騎士達はグラジオラスの命令なのに素直に従った。皆颯爽と退避して丘を下っていく。
「カクタス!こっちもデカいの出せないか!」
「無理じゃな。ワシは骨を操れるだけだ」
 カクタスに提案してみたがダメらしい。それなら一度俺達も逃げるしかないか。
「我らも逃げるぞ!」
 グラジオラスも俺達に退避を促した。よかった、戦うとか言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしてた。戦闘に関してはグラジオラスは冷静な視点を持っている。
 俺も逃げようと丘を下っていくと処刑人が倒れているのが見えた。おそらくアコナイトのアンデットによって殺されたのだろう。騎士と違って戦いの心得は無かったらしい。
 しかしその手には俺を撲殺しようとしていたハンマーがある。死人から物を奪うのはポリシーに反するが今はそんな事を言ってる場合じゃない。女神の槌ならあの馬鹿でかいアンデットにも効くかもしれない。
 俺はハンマーを手に取り丘の下まで下って行った。
 幸いな事にあのアンデットの動きはゆっくりでこちらを追って来ない。何処別の方向に歩みを進めている。
「あいつは何処に行くんだ?」
 奴の向かう方向を見るとそれは聖都であった。
「奴は聖都に向かっているぞ!」
 メリアが叫んだ。
「何でだ?」
「分からん。だがこのまま進んでいけば聖都に到達してしまう」
 どうして聖都に向かっている?気まぐれか?
「あの人の強い気持ちによるものです」
 答えを出してくれたのはずっと空中で応援してくれたリリーであった。
「あの大きなアンデットからは執着の様な強い気持ちが溢れています」
「気持ちってアレにそんなもんあるのか?」
「おそらく中に取り込まれた人のものです」
「中に取り込まれたって……アコナイトか!」
「おそらく……」
 リリーの考察が本当ならアコナイトは聖都に戻ろうとしているのか。法王という地位への執着か、聖都こそ自分の居場所という思いか分からないが。
 どちらにしてもあんなのが聖都に行けば甚大な被害は免れない。
「我らも聖都に行こう!ウンスイ!後ろに乗れ!」
 メリアは馬に乗り込んだ。俺も乗るのかよ。だがそうも言ってられない。俺は必死でメリアの後ろに乗り込み何とか馬に跨った。
 グラジオラスもいつの間にか馬に乗り込んでおり出発の準備は整っている。
 二頭の馬は平地を駆け抜け聖都に向かう。上にはカクタスとリリーが付いて来ている。
 とにかく今はあのアンデットよりも早く聖都に行き撃退の準備をしなければならない。

とにかく急いで聖都に向かう俺達。周りにも馬で逃げている騎士達がいる。
「メリア!そちらにいるのは本当にグラジオラス様なのか!」
 一人の騎士が馬に乗りながら近付いて来た。
「ああ、間違いない。本物のグラジオラス騎士団長だ」
 メリアが言い切るとその騎士は涙を流した。
「本当にお会いできるなんて……私は昔騎士団長に村を救ってくれた恩があります」
 すると他の騎士も口々にグラジオラスへの恩や憧れを語り出した。
 その中でも一人鎧が違う騎士がグラジオラスに声を掛けた。
「ご無沙汰しております。グラジオラス騎士団長」
「お前はカンパニュラか!随分と歳をとったな」
「覚えていて下さったのですね」
「勿論だ。新人ながら誰よりも訓練を積んでいたからな」
「先程はグラジオラス騎士団長と知りながら剣を振り誠に申し訳ありませんでした。副団長としてここに謝罪します」
 カンパニュラは深く頭を下げた。
「いや、仕方ない。法王の命で騎士としての仕事をしただけだ。それに俺はこの通りデュラハンだ。気にするな」
「ありがとうございます」
「それよりもあのアンデットをどうするかが先決だ。聖都では防衛出来るか?」
「分かりません。なんせ聖都まで魔物は来たことが無いので」
「だろうな、私の時代も防衛装備は聖都に無かった」
「はい、騎士達と神聖魔法を使える者だけで何とかしなければなりません」
「奴が聖都に着くまで少しだが猶予がある。先に聖都に行き迎撃隊の編成を急いでくれ。それと市民の避難もだ」
「分かりました。グラジオラス様のどうするのですか?」
「奴に少し攻撃を仕掛ける。情報収集だ」
 そう言うとグラジオラスは集団から離れてアンデットの下へ駆けて行った。
「ウンスイはどうする?私は聖都に行き戦いに備える。お前に出来る事はあるか?」
 メリアがそんな事を言うとは思っていなかった。そのまま聖都に連れてかれてこき使われるかと思っていた。今の俺にはあのアンデットに出来る事なんて何も無いだろう。このまま戦闘は騎士達に任せて逃げるのも手だ。しかし……
「確かにああなったら説得も何も出来ないだろう。だがあのデカい奴の中にアコナイトがいるなら別だ。一発ぶん殴らないと気が済まない」
「分かった。このまま聖都に向かう」
 メリアは俺を馬に乗せたまま聖都に向かって駆けていく。俺達に残された時間はそれ程多くない。

 聖都に着いてからはバタバタと忙しかった。市民を大聖堂に避難させ、戦力になりそうな人材を集めた。
 その間俺はやる事もないので街の外で見張りをしてアンデットの様子を伺ってたり、とりあえず拾っておいたハンマーを振ってみたりした。
 こんなハンマーは中々の物でそこそこの石も簡単に粉砕してくる。
 これで俺も戦えるかと言うとそれは無い。まずあのデカいのに近付くのは怖すぎる。護身用程度にしかならないだろう。
 そんな事を考える俺の横にはリリーとカクタスもいる。二人は今聖都に入ると余計な混乱と誤解が生まれる為外で俺と待機となった。
 一応カクタスが出すスケルトンにもハンマーを持たせてみたが、女神の祝福とやらで持つ事が出来なかった。
「カクタス、あれはいつ頃ここに着くと思う?」
「正確には分からんが半刻もせずに着くだろう。避難も終わっておらんし状況はあまり良くないな」
「聖都には神聖な力が溢れてんだろう?それでどうにかならないか?」
「多少弱体化はするだろうが、なんせあの大きさじゃ」
「効果は期待できないと……」
 アレに近付く事は困難だから、やるとしたら神聖魔法とやらで遠距離から倒すのか?見たことないからどんなもんか分からない。
 ん?あれはグラジオラスか?偵察から帰って来たのか。
「避難の状況はどうだ!」
 グラジオラスは開口一番、市民の心配をした。
「全然だ。それより何か分かったか?」
「奴の足元に無数のアンデットがいる。それらもこちらに向かっている。それと額付近にアコナイトらしき人影が見えた」
 額付近は流石に見えないが足元に何かいる様に見える。
「私はカンパニュラに報告に行く!カクタス司祭は奴等の足止めをお願いします!」
「任された」
 グラジオラスは馬と共に大聖堂へと駆けて行った。
「さて、悪霊になって聖都を守るとは思わなかったのう」
 カクタスが呟くと同時に地面から大勢のスケルトンが現れた。向こうにはアンデットの大群、こちらにはスケルトンの大群。
 少しすると先陣を切るアンデットが聖都を襲撃した。聖都を守る形でスケルトンが応戦する。お互いを素手で潰し合うその様はまさに地獄絵図だ。
「待たせた!」
 後ろからグラジオラスの声が聞こえた。振り返ると騎士達や修道士、司祭を連れている。
 スケルトンが時間稼ぎしてくれたおかげで何とか編成が間に合った様だ。
「ウンスイ殿、状況は?」
「今のところ抑えられてるけどデカいのが来たら勿論無理だろ。小さいのもどんどん数が増えてるからここが突破させるのも時間の問題だ」
 俺は冷静に戦況を伝えた。
「グラジオラス!スケルトンの事は気にするでない。もろとも神聖魔法でやれ!」
「分かりました!」
 カクタスの意見を聞きグラジオラスは作戦を皆に伝える。
「聞いた通り、スケルトンは味方だが構わず奴等ごと魔法を当てろ!撃ち漏らしたアンデットを騎士達で殲滅させる!まずはデカいのが来るまで戦況を安定させるぞ!」
「「はっ!」」
 グラジオラスの命令を聞き騎士達は一斉に動き出した。
 騎士達が盾と剣を構えて、その後ろで司祭達が魔法を放つ。ここに来て初めて魔法を見るが光線の様なものが手から放たれている。
 それがアンデットに当たると蒸発した様にアンデットは消滅していった。
 次々放たれる光線にアンデットは消滅していくが同時にスケルトンも消滅する。そのポッカリと空いた隙間からアンデットが迫ってくる。
 それを前衛の騎士達が剣を振り倒していく。勿論グラジオラスもメリアも戦闘に参加している。俺は後ろの方で眺めているだけだ。ここまで来ることは無いだろうが護身用のハンマーは肌身離さず持っている。
 押し寄せるアンデットの大群を即席部隊で蹴散らしていくが、誰も安心していない。目の前にはどんどん近付いてくる巨大なアンデットがいるからだ。
 グラジオラスの言った通り額付近に何か人の様なモノが見える。
「魔法部隊は巨大なアンデットに一斉に魔法を放て!騎士は防御に専念しろ!」
 グラジオラスの指示により魔法部隊は巨大な奴に次々と魔法を放っていく。幾つもの光線がアンデットに当たり、焼けるような音が聞こえてくる。魔法が当たった箇所から白い煙が上がり、その煙が巨大なアンデットが見えなくなるほど包んでいく。
 執拗に魔法を放ち、徹底的に塵一つたりとも残さない。そんな気概を感じた。
「撃ち方やめ!」
 グラジオラスの指示で魔法部隊の動きを止めた。
 煙に包まれた巨大なアンデットはどうなったんだ。これで終われば楽でいいのだが。
 煙が風に流れその全容が現れた。
「無傷だと……」
 誰かがそう呟いた。俺だって思った。奴に攻撃が通用した様には全く見えない。
 今までただ歩くだけで何も行動を起こさなかったデカいアンデットが片腕を振り上げた。
 やばい!俺は直感した。そう思った瞬間大声を出した。
「逃げろ!逃げろ!逃げろ!退避だ!やばいのが来る!」
 大声を出しながら俺は走って逃げていく。俺に命令権は無いがそう叫ばざるおえなかった。
 背後がどうなっているかは分からないただがむしゃらに走っていく。
 背後から凄まじい轟音と地面からの衝撃が俺を襲った。小石が背中に飛んできて痛い。土煙が俺を追い越して行く。
 転びそうながらも何とか体勢を立て直して俺は振り返った。
 そこには騎士も修道士もスケルトンも、小さなアンデットすらも皆平等に無惨に倒れていた。
 
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