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九話
女神のキス
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クソデカいアンデットの一撃で辺りには悲惨な光景が広がっていた。あちらこちらからうめき声が聞こえる。
グラジオラスは何処だ?無事なのか?いや、今はそんな事より。
「カクタス!いるか!」
俺が大声で叫ぶと土煙の中からカクタスが現れた。
「ここじゃ!」
「今すぐスケルトンを出して負傷者の救出と搬送!すぐに大聖堂に運んで行け!」
「奴はまだ倒せていないぞ!」
「今は無理だ!とにかくこの場から今すぐ離れて体勢を立て直すのが先決だ!早く!奴が動き出すぞ!」
俺の指示にカクタスは従ってくれた。無数のスケルトンを出して片っ端から倒れている人間を運び出して行く。
「リリーはいるか!」
「はい!」
空からリリーが降りてきた。彼女は無事なのは分かっているから安心して指示ができる。
「グラジオラスを探してくれ。もしかしたらさっきの衝撃で頭が吹っ飛んでるかもしれない」
「分かりました」
リリーはすぐに飛んで行った。
俺の近くに岩の下敷きになっている修道士がいた。足が挟まり動けない様だ。流石のスケルトンも岩を動かす事は出来ない。
「うう、女神様……どうかお救い下さい……」
かなり諦めている様だ。全く祈る前に助けを呼べよ。
「女神様に祈るのはまだ早いっての!」
俺は持っているハンマーで足を押し潰している岩を叩いた。
やはりこのハンマーは凄い。あんだけ大きな岩もあっという間に粉々だ。
「後はスケルトンに助けて貰え」
「ありがとうございます……」
負傷した修道士はスケルトンに運ばれて去って行く。
「ウンスイ!無事だったか!」
戦場のど真ん中にいたメリアは汚れてこそいるが元気そうにこちらに駆け寄ってきた。
「何とかな、それより勝手に指示を出してよかったか?」
「状況も状況だ、仕方ない。グラジオラス様も副団長も見つからないからな。それと奴らが動き始めた」
「デカいのも小さいのもか?」
「どっちもだ。我々は撤退しながら救出が完了するまで時間稼ぎをする」
「分かった。俺も大聖堂で待ってる」
「何を言ってる。お前も戦うんだ。人手が足りない」
「嘘だろ!俺はひ弱な一般人だぞ!」
「女神様の鎚を持っているだろう。それでアンデットを蹴散らしてくれ」
「ならいらない!お前が持てよ!」
「私には祝福を受けた剣がある。それはお前が使え」
そんな口論をしてる最中でもアンデットは容赦なく襲いかかってくる。幸いアンデットの動きはトロく俺でも対処できる程だ。
メリアと一緒に迫り来るアンデットを撃退して行く。俺だって早く逃げたいがこのまま救助者を放置して逃げれば目覚めが悪い。仕方なしに俺はハンマーを振る。肉体労働は専門外なんだよちくしょー。
とにかく今はこの混沌とした状況を安定させないといけない。
「負傷者の救助は終わった!」
カクタスが叫んだ。カスタスの報告と同時にメリアも叫ぶ。
「撤退するぞ!」
俺達は迫り来るアンデットを倒しつつ聖都の大通りを進んでいく。あのデカいのもゆっくりと街を破壊しつつ俺達を追ってくる。
いや、追ってきているのか、それとも大聖堂を目指しているのかは分からない。あれがアコナイトの怨念が取り憑いているのなら大聖堂を目指してもおかしくない。
大聖堂には避難させた市民もいる。とにかく奴が到着するまでに何とかしないと大変な事になる。
街には逃げ遅れた市民がまだまだいた。市民はアンデットを見るなり悲鳴を上げて走っていく。転ぶ者もいてその度に騎士達が立ち上がらせて避難させて行く。これじゃあ撤退が間に合わない。
「メリア!どうする!このままだと追いつかれるぞ」
「市民を置いてく訳にはいかない」
「はぁ、そうなるよなー」
この街中で奴等を足止めしないといけない。幸い、街の外と違って建物があるので守る範囲は狭められる。だが小さいのは幾らでも止められるが大きいのは無理だ。アレをどうするかが問題だ。
「カクタス!忙しいところすまん!来てくれ!」
俺は大声でカクタスを呼んだ。
「なんじゃ!まだ老骨に何かやらせるのか?」
「デカい奴の額付近まで飛べるか?」
「可能じゃが」
「あそこにいるアコナイトと喋れるか試してくれ。今はとにかく避難の時間が欲しい」
「それくらいならいいじゃろ」
カクタスは空を飛びアンデットの額に向かった。それでもスケルトンはせっせと人を運んだり、アンデットの足止めをしてくれている。器用だな。
俺は俺で迫り来る小さなアンデットをハンマーでボカスカ叩いた。やはり本職じゃないのでメリアと比べると全く役には立っていないが。
「アコナイト!聞こえるか!ワシじゃ!カクタスじゃ!」
カクタスが上空でアコナイトに語りかけている。
「カクタスだと……?また私の……邪魔をす……るのか……」
会話が出来る、意識があるのか?
「今すぐ止まれ!聖都を壊す気か!」
「法王の座は……誰にも……渡さん……!渡さん……渡さん……渡さん……」
正気ではないな、会話になってない。
アコナイトはその巨大な腕を振りカクタスを叩き落とそうとしている。カクタスは距離を取り、空を切った腕は周りの建物を瓦礫の山にしていく。
確かに足止めは出来ているが破片がこっちまで飛んでくる。危なっかしいたらない。
「アコナイト!女神様の声を聞け!」
「黙れ……あの街もろとも……殺してやった……のに……まだ……邪魔をするのか……」
あの街ってアナスタシアの街か?それも殺してやった。
「メリア、アナスタシアの街って確かアンデットの大群によって滅ぼされたんだよな?」
「ああ、そうだ。街を襲ったアンデットとはまさか……」
最悪だ。まさかここまで教会が腐っているとは。メリアも驚愕の表情をしている。俺だって今自分がどんな顔しているか分からない。
教会の影響力を保つ為にまさか街一つ滅ぼすなんて正気の沙汰じゃない。おそらくあのアコナイトが持っていたアンデットを操る道具は昔から教会が使ってきたのだろう。民の心が教会から離れそうになればアンデットを襲わせて教会の力によって退治する。とんだマッチポンプだ。
そんな事を考えていると周りにいるスケルトンの動きが止まったのが見えた。これはまずいんじゃないか?
カクタスを見ると明らかに怪しげなオーラを纏っている。初めて見た時と同じだ。
「アコナイト!貴様!」
カクタスがアコナイトに向かって吠えた。声だけでキレているのが分かる。周りのスケルトンも避難そっちのけでアコナイトに向かって行く。
「カクタス!正気に戻れ!スケルトンを戻せ!市民を助けろ!」
俺も必死で叫ぶがカクタスには聞こえていない様だ。やばいぞ、どうする、スケルトンがいないと怪我人も市民も避難させる事が出来ない。
「カクタス司祭!!」
グラジオラスの声が響いた。声がする方を見るとリリーがグラジオラスの首だけ持って空を飛んでいる。
「グラジオラス様!」
メリアもグラジオラスの生還に喜んでいる。
「カクタス司祭!しっかりして下さい!」
グラジオラスがカクタスに呼び掛けるが全く反応しない。
「リリー殿、私でカクタス司祭を殴って下さい」
「え?いいのですか?」
「とにかく急いで!」
「はっはい!」
リリーはカクタスに近付くと、グラジオラスの髪を掴んで振り回してカクタスを殴りつけた。それもかなり強めに。
「ぐおぉ!」
「カクタス司祭!スケルトンを動かして下さい!怒りに呑まれていけません!」
グラジオラスの説得と暴力にカクタスは正気を取り戻した。
「あ、あ……すまん、ワシとした事が……」
スケルトンは止まり、また怪我人の避難を始めた。これで俺達も避難できる。
「ウンスイ様、お待たせしました」
よかった。いいタイミングでリリーが来てくれた。
「リリーありがとう。グラジオラスもカクタスを正気に戻してくれて助かった。」
「いや、戦力にならず申し訳ない。私の体は岩の下敷きになり動かせない」
「そうだったのか、仕方ない。そっちは後で何とかしよう。今はとにかく大聖堂まで避難するぞ」
「策はあるのか?いくら大聖堂でもあの大きさのアンデットは流石に弱体化しないぞ」
「ある」
俺は断言した。メリアもグラジオラスもリリーも驚いている。
「本当なのかウンスイ!」
「ああ、だけど覚悟を決めろよ、メリア」
「奴を倒す為だ。覚悟はとっくに出来ている」
「言ったな?」
俺はニヤリと笑った。その笑いは仕事で使う微笑みではない、邪悪なものだ。
俺は移動しながら作戦を伝えた。皆の反応は思った通り絶句である。
「どうだ?グラジオラス、これなら倒せそうか?」
「確かに神聖魔法の波状攻撃が効かないのであれば、それしか方法は無いが……」
グラジオラスは歯切れ悪く答えた直後、メリアが怒りながら口を挟んできた。
「いい訳ないだろ!」
「そんなに怒るならメリアには他の策があるのか?」
「そ、それは……」
「今は奴を倒す事を考えろ。後の事は生き残ってからだ」
俺の発言に誰も反論出来ない。反論するなら対案を持って来いよな。
カクタスも足止めしてくれているが、あのままじゃカクタスもいつかやられてしまう。
「カクタス!少しづつでいい大聖堂に誘き寄せてくれ!」
俺は大声でカクタスを呼んだ。カクタスはアコナイトの攻撃を避けながらこちらに来た。
「よいのか?何か策があるのか?」
俺は大聖堂がある方を見た。大聖堂の前にはそ巨体な女神像が建てられている。
「ああ、あの巨大な女神像を倒して奴を下敷きにする」
俺は女神像の目の前にいた。俺がこの聖都に来た時から俺を見ろしてきた巨大な像だ。
今からこいつの足元を破壊してアコナイトにぶつける。
女神像には神聖な力が宿っている。それもこの大きさだ。あのアコナイトもこれを喰らえば無事では済まないだろう。
「なあ、本当にやるのか?」
そんな完璧な作戦にメリアは不安そうな顔をしている。しかしその不安そうな顔が答えだ。いつもならメリアは怒り俺を止める。だが今回はこれ以外に作戦が思い付いてないのだ。だから怒れない。
「これしかない。それとも後ろに避難している人達よりこの女神像の方が大切なのか?」
メリアは女神像の後ろにそびえる大聖堂を見た。その入り口には怪我をして横になっている人や恐怖に震えて寄り添っている人もいる。市民を守る為にボロボロになった騎士達も座り込んでいる。
「……いや、市民の命の方が大切だ。私も覚悟を決めよう」
「これで共犯だ」
「仕方なくだ!断じて信仰を捨てた訳ではない!」
「それでいい」
カクタスはこちらの準備が出来るまで何とかアコナイトを足止めをしてくれている。その間も小さなアンデットはフラフラとこちらに迫って来ている。
今は女神像を中心に陣を取り、アンデットの襲撃に備えている。
こちらの戦力は残り少ない。と言うかほぼいない。これでダメならそれまでだ。何としてもこのデカい像をアコナイトにぶつけなければならない。
リリーはグラジオラスの首を持ち、上から戦場を見える位置にいる。
「リリー!こっちの準備は出来た!カクタスに足止めを止めるよう言ってくれ!」
「はい!」
リリーはカクタスの下へ飛んで行った。
「なあ、本当に他の者に作戦を伝えなくていいのか?」
メリアは不安そうに俺に質問した。
「本当なら説得したいがそんな時間も無いし、反対する奴がいて作戦を邪魔されるかもしれない。だから争いのどさくさに紛れて像を倒す」
今はそれが最善策だと思いたい。土壇場の作戦だ。不測の事態も不備もいくらでもある。それなら今最善だと思う行動をするだけだ。
カクタスとリリーが戻ってきた。カクタスは戻ると同時にスケルトンを出しアンデットの侵攻を防ぐように隊列を作った。
これで最後だ。後は流れに任せよう。こんな時でも俺は絶対に神に祈らない。祈る訳がない。
遂に最後の戦いが始まった。迫り来るアンデットの群れをスケルトンが押さえ付ける。後方から神聖魔法を放ちスケルトンごとアンデットを駆逐しいく。撃ち漏らしたアンデットを騎士達が切り伏せていく。俺も微力ながらもハンマーでアンデットを撲殺していく。
女神像を倒す為にはアコナイトがもっと近付かなければならない。ドスンドスンとアコナイトが向かってくる度に小さな地響きがする。本当に怖い。
地上にいると目測が分からないので今は上から見ているグラジオラスの指示待ちだ。グラジオラスがアコナイトに神聖魔法の一斉射撃を指示したら俺が女神像の台座を壊す合図だ。
まだか?まだ女神像を破壊しちゃ駄目なのか?倒すのにもそれなりに時間は掛かるぞ?女神像の前まで移動する時間も考慮している筈だがいつになったら合図が来る。巨大なアンデットが目の前に来るとその迫力に震え上がる。
「グラジオラス!どうだ!まだか!」
俺は我慢出来ずにグラジオラスに叫んだ。
「まだ距離がある!」
嘘だろ、かなり近い気がするがまだなのか。騎士や修道士もソワソワしている。ほんの数十秒なのに何時間も掛かっている錯覚を起こす。
「今だ!撃って!」
グラジオラスが叫んだ。グラジオラスの合図と共に修道士と司祭が神聖魔法をアコナイトに向かって放つ。アコナイトから白煙が上がり辺りを包む。その隙に俺は女神像の台座を思い切りハンマーで叩きつけた。まずは正面から削っていく。
流石にそこら辺の石ころと違って台座を丈夫で中々砕けない。それでも俺はハンマーを振り続ける。
俺の後ろでは戦闘が続いている。とにかく早く削らないと俺もやばい。
一心不乱に振り続け何とか台座に大きな凹みが出来た。今度は反対側からだ。
「グラジオラス!削れた!」
俺は移動しながらグラジオラスに叫んだ。
「総員退避!女神像の後ろまで下がれ!カクタス司祭は足止めを!」
グラジオラスが大声で指示を出す。スケルトンは壁になりアンデットの侵攻を体を張って止めにはいる。
一人また一人と退避していく中俺は女神像の台座をハンマーで削っていく。通り過ぎる騎士と修道士は何をしてるのかと驚愕の顔をしているが何も言ってこない。おそらくこちらの意図が分かっているのだろう。
ただ自身の手で女神像を破壊する訳にもいかないので黙って見ているだけだ。
「ウンスイ!どんな様子だ!倒れそうか?」
退避してきたメリアが俺の下へきた。
「今やってる!だけどこの台座硬いんだよ!」
アンデットは柔らかいが台座は硬い。何度も振るうちに手が痺れていく。さっきより明らかに叩く力もペースも落ちている。て言うかこのハンマー威力落ちてないか?明らかにさっきより削れていない。肩で息をして満身創痍であるが振り続けるしかない。
「貸せ!」
その時メリアがハンマーを奪った。そしてハンマーを振り台座に叩きつけた。
「いいのか?」
「うるさい!共犯だ!」
半ばヤケクソの様に返事をしたメリアはハンマーを一心不乱に振っていく。
「アコナイトは十分近付いた!倒してくれ!」
グラジオラスが空から叫ぶ。だが倒すと言ってもまだまだ時間が掛かる。とにかく早く壊さないと。
俺はそこら辺に落ちていた剣を拾い、その剣で台座をバシバシ叩いた。ハンマーより削れないがやらないよりはマシだ。
カクタスも必死でアンデット共の足止めをしてくれているが完全に防げていない。溢れ出したアンデットが俺に近付いてきた。
ヤバいと思ったその時、俺の横を光線が掠めた。
振り返ると修道士が立っていた。
「女神像を倒すのでしょう!援護しますから!」
修道士の手は震えていた。アンデットへの恐怖か、女神様への背信なのかは分からない。ただ俺の為に立ち上がってくれた。
周りを見ると騎士達がボロボロになりながらも俺達の周りを取り囲みアンデットから攻撃を守ってくれている。
「メリア!まだ倒せないのか!」「やってくれ!」「早くしろ!」
騎士達はメリアを応援してくれている。それに応えるようにメリアはハンマーを振っていく。
「もう止められんぞ!まだか!」
カクタスも叫んでいるがまだ女神像は倒れない。手の空いてる者で必死に女神像を押しているがびくともしない。
遂にアコナイトが女神像の前まで来た。このままでは間に合わない。早く倒さないと。
「リリー!私をアコナイトの所へ連れていってくれ!」
グラジオラスがリリーに叫んだ。リリーは迷う事なく巨大なアンデットの額部分にいるアコナイトの下へいく。
グラジオラスはアコナイトに近付くと首だけなのに勢い良く飛び出してアコナイトの喉元に噛み付いた。
「ぐおおお!グラジオラス!また私の邪魔をするのか!」
アコナイトの叫び声が聞こえてると巨大なアンデットはその場で立ち止まり、その巨大な腕でグラジオラスを引き剥がそうとしている。
だがグラジオラスは首だけであり、手も巨大過ぎるあまり全く引き剥がせない。
とにかくグラジオラスが時間を稼いでいる隙に女神像を倒さないといけない。俺も女神像を押すのに加わり残っている力を振り絞った。
「うおおお!!倒れろ!」
騎士も修道士も誰もが必死で女神像を押していると、
――ズズズ
何か大きな物がズレる様な音がした。俺達は必死に押し込んだ。
――ズズズッズズズッ!!
さっきよりも大きな音が台座から聞こえる。
「倒れるぞ!退避!」
俺は叫んだ。その声を聞き押していた人達は一斉にその場から離れる。アンデットから守ってくれていた騎士達も離脱していく。
女神像から距離を取るとゆっくりと倒れていくのが見えた。リリーもカクタスも宙を浮き離脱していく。
「グラジオラス様!お逃げください!」
メリアがグラジオラスに向かって叫んだ。
グラジオラスがアコナイトの喉元から口を離した。
「さらばだ、アコナイト」
グラジオラスの首は落ちながらそう言った。
アコナイトはグラジオラスにかまけていた為目の前まで迫る女神像に気付いていなかった。
気付いた時にはもう遅い。その巨大な両手で倒れてくる女神像を支えようと手を伸ばすと触れた瞬間焼ける様な音と共に白煙が上がる。
「ぐわおおおああああああ!!!」
アコナイトの絶叫が聖都に響き渡った。
「くたばれ!アコナイト!」
俺は叫んだ。どうせ誰にも聞こえない。
アコナイトは女神像を支える事が出来ない。ゆっくりと倒れる女神像に押しつぶされ、凄まじい衝撃音と揺れを伴って倒れた。
物凄い風と白煙が俺達を襲った。周囲の窓ガラスは割れあちらこちらで何かが崩れる音がする。この状況では正直立っているのもやっとだった。
白煙と土煙が風によって流されるとそこには巨大なアンデットおろかアンデットの大群も消え去っていた。
勝ったのか?どうなんだ?
「グラジオラス様!」
メリアはハンマーを携えて倒れた女神像に向かって走っていく。他にも続々と騎士達が集まりグラジオラスの捜索をした。
瓦礫の山をかき分け必死で探している。
そんな時に鈍く黒く光るペンダントの様な物を見つけた。おそらくこれがアンデットを呼び出した代物だろう。
それを思い切り踏み付けると簡単に砕けた。光ることもなくなり、ただ砕けたペンダントになった。
これで二度とアンデットを呼び寄せる事は出来ないだろう。
「グラジオラス様!ご無事ですか!」
メリアの泣き出しそうな声が聞こえた。声が聞こえる方へ行くと人集りができている。メリアの膝にグラジオラスの首が乗せられていた。
「メリア……聖都は……守られたか?」
グラジオラスの声はか細く消え入りそうだ。
「はい、アンデットは消え去りました」
「そうか、よかった……」
グラジオラスの首から白い煙が上がっている。これは悪霊が消える時に出るものだ。
「ウンスイ殿は……いるか?」
グラジオラスが俺を呼んだ。
「ここにいるぞ」
「貴方のおかげで……騎士として死ぬ事が出来た……私を救ってくれて本当にありがとう……」
「もう死んでいいのか?」
「ああ、民を守れて……仇を討ち、頼もしい騎士達がいるんだ……思い残すことは無い」
「そんな!グラジオラス様!」
メリアは泣いている。
「メリア……それから騎士団よ……これからも民を守ってくれ……女神様の下へ先に行く」
そう言い残すとグラジオラスは白い煙となり消えて行った。その煙は風に流されて何処かへ誘われる様に空高く流れて行った。
これでようやく終わった。そう思うと膝の力が急に抜けてその場で座り込んだ。
はぁ、肉体労働なんてするもんじゃないな。やっぱり俺は口だけ動かして生きていきたい。
そんな事を思っていると背後から偉そうな声が聞こえた。
「ウンスイ!ここにいたのか!」
振り返ると神聖騎士達とはまた違った鎧を身につけた兵士を数人引き連れた枢機卿のフィザリスが立っていた。
「ウンスイ!貴様を聖都襲撃の容疑で拘束する!」
フィザリスは俺に向かってそう言い放った。
そんなこんなで俺はまた異端審問に掛けられる事になった。容疑はアンデットを聖都に誘き寄せて襲撃し、更に女神像を倒した事らしい。
アコナイトがやらかした事を全て俺に被せる様だ。まあ、そうでもしないと教会は崩壊しかねない。短絡的な考えだがな。
俺は異端審問が始まるまで個室に閉じ込められている。最近ボロ屋敷でしか寝泊まりしていなかったので、簡易的ではあるがベットがあるのは嬉しかった。
疲れもあるからなのか拘束されているのにも関わらず俺は熟睡した。
何だか外が騒がしい。せっかくゆっくり寝ているのに誰が騒いでいるんだ。
扉の向こうでドタドタ誰かが来るのが分かる。その足音は俺の部屋の前で止まった。
そして突如ノックもせずに扉が開いた。扉を開けたのはフィザリスだ。
「これはこれはフィザリス卿。ご機嫌いかがですか?狭い部屋で申し訳ないですがゆっくりしていってください」
「うるさい!それより外の市民をどうにかしろ!」
フィザリスの顔は怒りで真っ赤になっており汗もダラダラと滝の様に流れている。
「どうにかしろと言われましても、私はずっとここで寝ていたので何のことやら?」
「お前を解放しろと大聖堂に市民が詰め掛けているんだ!あろうことか騎士や修道士までもだ!」
当然の結果だろう。あの状況で全てを俺のせいにするのは無理がある。
「とにかく外に出て説明して場を収めろ!」
フィザリスは鼻息荒く俺に命令する。
「説明とは教会が怪しげな物を使い、アンデットを操っていた事ですか?」
「そんな証拠は無い!」
「証拠なんて必要無いのですよ?肝心なのは外から見た時にどう見えるか、誰もが納得できるかです」
「何が言いたいのだ」
「今この状況では私が喋った事が真実になるのです」
フィザリスは黙ってしまった。この状況では俺の言い分が全て通る。嘘も本当も。この教会を生かすも殺すも俺次第と言うわけだ。
「今や教会は崩壊寸前です。市民の心は離れ、アンデットを操る力も失われた。聖都を象徴する女神様像も今や瓦礫の山です」
「それはお前が倒したのだろう!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。それに関しては私も悪いと思ってます。だから取り引きをしましょう」
「取り引きだと……?」
「そうです、教会の崩壊を免れ、貴方が法王になれる得しかない取り引きです」
俺が笑顔でそう言うとフィザリスはごくりと唾を飲み込んだ。
俺はフィザリスと取り引きをした後市民の前に出て説明した。
俺はフィザリス卿の指示の下、教会内の悪事を探っていた事を。御使いとして目立つ事で敵を炙り出していた。
そして黒幕がアコナイト法王とトライソーン騎士団長と分かり告発しようと準備を進めていると、それが奴等にバレて捕まってしまった。
聖都での決戦直後に俺が拘束されたのは他に敵がいる可能性がある為匿っていたのだ。
と言うのが俺がフィザリスの為についた嘘である。これで少なくともフィザリスが吊るされる事は無くなった。その後教会がどう変わっていくのかは残っている奴等次第だ。俺の知った事ではない。
俺が出した交換条件はメリアを神聖騎士団の騎士団長にする事。アナスタシアの街を復興させる事。そして俺が復興の担当者となる事だ。
俺は聖都から遠く離れてそこで過ごす事になる。フィザリスは俺が聖都から離れてくれるし、俺も教会から距離を空けれる。どちらにとっても良い事づくめだ。
そういうわけで俺は今アナスタシアの街にいる。
廃墟だらけであったこの街だがカクタスのおかげでありえないスピードで復興している。教会から人件費や建築費として資金がたんまり出たおかげでもある。教会が貯め込んできた資金をこれでもかとつかわせてもらってる。
少しづつ住居ができて人が戻ってきている。特に大きく他の街と違うのはそこら辺にスケルトンが歩き回っていたり、ぷかぷかと浮かんでいる幽霊があちこちにいる事だ。
悪霊と言われてきた奴等がこの街に集まって来ている。リリーが旅をしながら見つけた悪霊をこの街へ招待しているのだ。
生きている人達もこの街では悪霊を怖がらない。それを分かってこの街に移り住んで来たのだ。まあ物好きな奴等だ。
「順調に復興しているな」
俺はスケルトンを操るカクタスに声を掛けた。
「ああ、本当にお前さんには何から何まで世話になる」
「まあ、爺さんと約束しちまったから。しょうがなくだ」
「照れるでない」
「はいはい」
教会から讃美歌が聞こえてきた。この街の教会にはアイリスが赴任した。正確には俺を追って来たのだ。少々面倒臭いが事情を知る者で固めた方が都合がいいだろう。
「心温まる歌声じゃ……何だが……召されそうじゃ……」
カクタスが薄らと光が輝いている。
「うわあぁ!!カクタス!召されるな!召されるな!」
俺は急いでカクタスの腕を引いて讃美歌が聞こえない所まで走った。
しばらく走ると讃美歌は聞こえなくなりカクタスも光らなくなった。
「ふー危うく召されるところじゃった」
「死ぬなら復興が終わってからにしろ!」
「すまん、すまん」
ここに住む悪霊共にも教会には近寄るなと言い聞かせておこう。カクタスまた復興作業に戻って行った。
街をぷらぷらしていると街の外に荷馬車の列が見えた。先頭にはメリアが乗っている。
「久しぶりだなウンスイ」
「ああ、騎士団長様も元気そうで」
「やめろ、騎士団長なんて柄じゃないんだ」
「それより何でメリアが?騎士団長なんだろ?」
「とにかく人手が足りないのだ。教会もゴタゴタ続いているし、騎士達も怪我から復帰してない。だからこうして私もあちこちに派遣されてる訳だ。まあ、書類仕事より性に合ってるから問題ないがな」
くっ、せっかく面倒臭い奴を騎士団長にして聖都に縛りつけたと思ったのに何でフラフラしてるんだ。
「何だ?何か企んでいるのか?」
「別に」
「そうだ、お前に見せたい物がある。運搬しがてら見てくれ」
「何だ?」
メリアが乗る荷馬車に乗り込み、メリアの横に座った。
メリアが紙を広げるとそこには一人の騎士の絵が描かれていた。
「グラジオラスか?」
「そうだ、聖都にグラジオラス様の石像を立てることにした」
グラジオラスの熱心なファンであるメリアだがまさか石像まで立てるとは恐れ入った。
「それとこれもだ」
メリアがそう言うともう一枚の紙を広げた。そこには自身の首を抱えているグラジオラスの絵が描かれていた。
「まさかこっちのグラジオラスも石像にするのか?」
「ああ、グラジオラス様は生前素晴らしいお方だったが、今は悪霊になり彷徨っている騎士の方が有名なのだ。だからその汚名を払拭すべく聖都を救った英雄としてこの石像を立てるのだ」
メリアの思いは分かった、だが……
「教会からは反対されただろ?」
「ああ、いい顔はしていなかった。だが今は強くは出れない。だから聖都の復興に合わせて即急に作るつもりだ」
メリアも真っ直ぐだけじゃなくてセコイ真似も出来るようになったのか。
街の中心部に着きメリアは積荷を下ろしていく。積荷は資材に食材と至れり尽くせりだ。
「これが資金だ。大切に使えよ」
メリアから大きな革袋を渡された。
「分かっているって……あれ?少なくないか?」
「ああ人件費を削った」
「何で!」
「お前がただで人助けをする訳無いだろ?だから調べてみると復興作業はカクタス司祭に任せて人件費を浮かせてるらしいな?」
バレていた。教会からたんまり貰った人件費はほとんど使わずに貯め込んでいたのだ。例えバレても教会も強くは言うまいとたかを括っていたがまさかメリアにバレるなんて。
「大丈夫だ、抜いたお金はしっかりと人件費として有効活用させてもらう」
「何に使うんだ?」
「ここから馬で四日程の街で悪霊が出たらしい。騎士としては放っておく訳にはいかない」
「おい、ちょっと待て」
「行くぞウンスイ。人件費分は働いてもらうぞ」
俺は問答無用で馬車に押し込まれた。そしてわざわざ街の人間に見せ付けるように馬車は走っていく。
街の少女がメリアに声を掛けた。
「メリア様!ウンスイ様とお出かけですか?」
「ああ、ウンスイと一緒に悪霊を助けに行く」
「ウンスイ様!メリア様!いってらっしゃい!」
その声を聞きどんどんと人が集まって来た。
「ウンスイ様!ご無事で!」「いってらっしゃい!」「帰って来るまでに復興を進めておきます!」
こうなると俺は笑顔で手を振るしかない。
「こうなる事を分かってたな?」
俺が笑顔で手を振りながらメリアに苦言を呈した。
「お前の真似をしただけだ。恨むなら自分の行いを恨め」
メリアは笑顔で答えた。こいつも随分とやるようになった。
どうやら俺もまだまだこのふざけた世界でインチキ霊媒師として働く様だ。
グラジオラスは何処だ?無事なのか?いや、今はそんな事より。
「カクタス!いるか!」
俺が大声で叫ぶと土煙の中からカクタスが現れた。
「ここじゃ!」
「今すぐスケルトンを出して負傷者の救出と搬送!すぐに大聖堂に運んで行け!」
「奴はまだ倒せていないぞ!」
「今は無理だ!とにかくこの場から今すぐ離れて体勢を立て直すのが先決だ!早く!奴が動き出すぞ!」
俺の指示にカクタスは従ってくれた。無数のスケルトンを出して片っ端から倒れている人間を運び出して行く。
「リリーはいるか!」
「はい!」
空からリリーが降りてきた。彼女は無事なのは分かっているから安心して指示ができる。
「グラジオラスを探してくれ。もしかしたらさっきの衝撃で頭が吹っ飛んでるかもしれない」
「分かりました」
リリーはすぐに飛んで行った。
俺の近くに岩の下敷きになっている修道士がいた。足が挟まり動けない様だ。流石のスケルトンも岩を動かす事は出来ない。
「うう、女神様……どうかお救い下さい……」
かなり諦めている様だ。全く祈る前に助けを呼べよ。
「女神様に祈るのはまだ早いっての!」
俺は持っているハンマーで足を押し潰している岩を叩いた。
やはりこのハンマーは凄い。あんだけ大きな岩もあっという間に粉々だ。
「後はスケルトンに助けて貰え」
「ありがとうございます……」
負傷した修道士はスケルトンに運ばれて去って行く。
「ウンスイ!無事だったか!」
戦場のど真ん中にいたメリアは汚れてこそいるが元気そうにこちらに駆け寄ってきた。
「何とかな、それより勝手に指示を出してよかったか?」
「状況も状況だ、仕方ない。グラジオラス様も副団長も見つからないからな。それと奴らが動き始めた」
「デカいのも小さいのもか?」
「どっちもだ。我々は撤退しながら救出が完了するまで時間稼ぎをする」
「分かった。俺も大聖堂で待ってる」
「何を言ってる。お前も戦うんだ。人手が足りない」
「嘘だろ!俺はひ弱な一般人だぞ!」
「女神様の鎚を持っているだろう。それでアンデットを蹴散らしてくれ」
「ならいらない!お前が持てよ!」
「私には祝福を受けた剣がある。それはお前が使え」
そんな口論をしてる最中でもアンデットは容赦なく襲いかかってくる。幸いアンデットの動きはトロく俺でも対処できる程だ。
メリアと一緒に迫り来るアンデットを撃退して行く。俺だって早く逃げたいがこのまま救助者を放置して逃げれば目覚めが悪い。仕方なしに俺はハンマーを振る。肉体労働は専門外なんだよちくしょー。
とにかく今はこの混沌とした状況を安定させないといけない。
「負傷者の救助は終わった!」
カクタスが叫んだ。カスタスの報告と同時にメリアも叫ぶ。
「撤退するぞ!」
俺達は迫り来るアンデットを倒しつつ聖都の大通りを進んでいく。あのデカいのもゆっくりと街を破壊しつつ俺達を追ってくる。
いや、追ってきているのか、それとも大聖堂を目指しているのかは分からない。あれがアコナイトの怨念が取り憑いているのなら大聖堂を目指してもおかしくない。
大聖堂には避難させた市民もいる。とにかく奴が到着するまでに何とかしないと大変な事になる。
街には逃げ遅れた市民がまだまだいた。市民はアンデットを見るなり悲鳴を上げて走っていく。転ぶ者もいてその度に騎士達が立ち上がらせて避難させて行く。これじゃあ撤退が間に合わない。
「メリア!どうする!このままだと追いつかれるぞ」
「市民を置いてく訳にはいかない」
「はぁ、そうなるよなー」
この街中で奴等を足止めしないといけない。幸い、街の外と違って建物があるので守る範囲は狭められる。だが小さいのは幾らでも止められるが大きいのは無理だ。アレをどうするかが問題だ。
「カクタス!忙しいところすまん!来てくれ!」
俺は大声でカクタスを呼んだ。
「なんじゃ!まだ老骨に何かやらせるのか?」
「デカい奴の額付近まで飛べるか?」
「可能じゃが」
「あそこにいるアコナイトと喋れるか試してくれ。今はとにかく避難の時間が欲しい」
「それくらいならいいじゃろ」
カクタスは空を飛びアンデットの額に向かった。それでもスケルトンはせっせと人を運んだり、アンデットの足止めをしてくれている。器用だな。
俺は俺で迫り来る小さなアンデットをハンマーでボカスカ叩いた。やはり本職じゃないのでメリアと比べると全く役には立っていないが。
「アコナイト!聞こえるか!ワシじゃ!カクタスじゃ!」
カクタスが上空でアコナイトに語りかけている。
「カクタスだと……?また私の……邪魔をす……るのか……」
会話が出来る、意識があるのか?
「今すぐ止まれ!聖都を壊す気か!」
「法王の座は……誰にも……渡さん……!渡さん……渡さん……渡さん……」
正気ではないな、会話になってない。
アコナイトはその巨大な腕を振りカクタスを叩き落とそうとしている。カクタスは距離を取り、空を切った腕は周りの建物を瓦礫の山にしていく。
確かに足止めは出来ているが破片がこっちまで飛んでくる。危なっかしいたらない。
「アコナイト!女神様の声を聞け!」
「黙れ……あの街もろとも……殺してやった……のに……まだ……邪魔をするのか……」
あの街ってアナスタシアの街か?それも殺してやった。
「メリア、アナスタシアの街って確かアンデットの大群によって滅ぼされたんだよな?」
「ああ、そうだ。街を襲ったアンデットとはまさか……」
最悪だ。まさかここまで教会が腐っているとは。メリアも驚愕の表情をしている。俺だって今自分がどんな顔しているか分からない。
教会の影響力を保つ為にまさか街一つ滅ぼすなんて正気の沙汰じゃない。おそらくあのアコナイトが持っていたアンデットを操る道具は昔から教会が使ってきたのだろう。民の心が教会から離れそうになればアンデットを襲わせて教会の力によって退治する。とんだマッチポンプだ。
そんな事を考えていると周りにいるスケルトンの動きが止まったのが見えた。これはまずいんじゃないか?
カクタスを見ると明らかに怪しげなオーラを纏っている。初めて見た時と同じだ。
「アコナイト!貴様!」
カクタスがアコナイトに向かって吠えた。声だけでキレているのが分かる。周りのスケルトンも避難そっちのけでアコナイトに向かって行く。
「カクタス!正気に戻れ!スケルトンを戻せ!市民を助けろ!」
俺も必死で叫ぶがカクタスには聞こえていない様だ。やばいぞ、どうする、スケルトンがいないと怪我人も市民も避難させる事が出来ない。
「カクタス司祭!!」
グラジオラスの声が響いた。声がする方を見るとリリーがグラジオラスの首だけ持って空を飛んでいる。
「グラジオラス様!」
メリアもグラジオラスの生還に喜んでいる。
「カクタス司祭!しっかりして下さい!」
グラジオラスがカクタスに呼び掛けるが全く反応しない。
「リリー殿、私でカクタス司祭を殴って下さい」
「え?いいのですか?」
「とにかく急いで!」
「はっはい!」
リリーはカクタスに近付くと、グラジオラスの髪を掴んで振り回してカクタスを殴りつけた。それもかなり強めに。
「ぐおぉ!」
「カクタス司祭!スケルトンを動かして下さい!怒りに呑まれていけません!」
グラジオラスの説得と暴力にカクタスは正気を取り戻した。
「あ、あ……すまん、ワシとした事が……」
スケルトンは止まり、また怪我人の避難を始めた。これで俺達も避難できる。
「ウンスイ様、お待たせしました」
よかった。いいタイミングでリリーが来てくれた。
「リリーありがとう。グラジオラスもカクタスを正気に戻してくれて助かった。」
「いや、戦力にならず申し訳ない。私の体は岩の下敷きになり動かせない」
「そうだったのか、仕方ない。そっちは後で何とかしよう。今はとにかく大聖堂まで避難するぞ」
「策はあるのか?いくら大聖堂でもあの大きさのアンデットは流石に弱体化しないぞ」
「ある」
俺は断言した。メリアもグラジオラスもリリーも驚いている。
「本当なのかウンスイ!」
「ああ、だけど覚悟を決めろよ、メリア」
「奴を倒す為だ。覚悟はとっくに出来ている」
「言ったな?」
俺はニヤリと笑った。その笑いは仕事で使う微笑みではない、邪悪なものだ。
俺は移動しながら作戦を伝えた。皆の反応は思った通り絶句である。
「どうだ?グラジオラス、これなら倒せそうか?」
「確かに神聖魔法の波状攻撃が効かないのであれば、それしか方法は無いが……」
グラジオラスは歯切れ悪く答えた直後、メリアが怒りながら口を挟んできた。
「いい訳ないだろ!」
「そんなに怒るならメリアには他の策があるのか?」
「そ、それは……」
「今は奴を倒す事を考えろ。後の事は生き残ってからだ」
俺の発言に誰も反論出来ない。反論するなら対案を持って来いよな。
カクタスも足止めしてくれているが、あのままじゃカクタスもいつかやられてしまう。
「カクタス!少しづつでいい大聖堂に誘き寄せてくれ!」
俺は大声でカクタスを呼んだ。カクタスはアコナイトの攻撃を避けながらこちらに来た。
「よいのか?何か策があるのか?」
俺は大聖堂がある方を見た。大聖堂の前にはそ巨体な女神像が建てられている。
「ああ、あの巨大な女神像を倒して奴を下敷きにする」
俺は女神像の目の前にいた。俺がこの聖都に来た時から俺を見ろしてきた巨大な像だ。
今からこいつの足元を破壊してアコナイトにぶつける。
女神像には神聖な力が宿っている。それもこの大きさだ。あのアコナイトもこれを喰らえば無事では済まないだろう。
「なあ、本当にやるのか?」
そんな完璧な作戦にメリアは不安そうな顔をしている。しかしその不安そうな顔が答えだ。いつもならメリアは怒り俺を止める。だが今回はこれ以外に作戦が思い付いてないのだ。だから怒れない。
「これしかない。それとも後ろに避難している人達よりこの女神像の方が大切なのか?」
メリアは女神像の後ろにそびえる大聖堂を見た。その入り口には怪我をして横になっている人や恐怖に震えて寄り添っている人もいる。市民を守る為にボロボロになった騎士達も座り込んでいる。
「……いや、市民の命の方が大切だ。私も覚悟を決めよう」
「これで共犯だ」
「仕方なくだ!断じて信仰を捨てた訳ではない!」
「それでいい」
カクタスはこちらの準備が出来るまで何とかアコナイトを足止めをしてくれている。その間も小さなアンデットはフラフラとこちらに迫って来ている。
今は女神像を中心に陣を取り、アンデットの襲撃に備えている。
こちらの戦力は残り少ない。と言うかほぼいない。これでダメならそれまでだ。何としてもこのデカい像をアコナイトにぶつけなければならない。
リリーはグラジオラスの首を持ち、上から戦場を見える位置にいる。
「リリー!こっちの準備は出来た!カクタスに足止めを止めるよう言ってくれ!」
「はい!」
リリーはカクタスの下へ飛んで行った。
「なあ、本当に他の者に作戦を伝えなくていいのか?」
メリアは不安そうに俺に質問した。
「本当なら説得したいがそんな時間も無いし、反対する奴がいて作戦を邪魔されるかもしれない。だから争いのどさくさに紛れて像を倒す」
今はそれが最善策だと思いたい。土壇場の作戦だ。不測の事態も不備もいくらでもある。それなら今最善だと思う行動をするだけだ。
カクタスとリリーが戻ってきた。カクタスは戻ると同時にスケルトンを出しアンデットの侵攻を防ぐように隊列を作った。
これで最後だ。後は流れに任せよう。こんな時でも俺は絶対に神に祈らない。祈る訳がない。
遂に最後の戦いが始まった。迫り来るアンデットの群れをスケルトンが押さえ付ける。後方から神聖魔法を放ちスケルトンごとアンデットを駆逐しいく。撃ち漏らしたアンデットを騎士達が切り伏せていく。俺も微力ながらもハンマーでアンデットを撲殺していく。
女神像を倒す為にはアコナイトがもっと近付かなければならない。ドスンドスンとアコナイトが向かってくる度に小さな地響きがする。本当に怖い。
地上にいると目測が分からないので今は上から見ているグラジオラスの指示待ちだ。グラジオラスがアコナイトに神聖魔法の一斉射撃を指示したら俺が女神像の台座を壊す合図だ。
まだか?まだ女神像を破壊しちゃ駄目なのか?倒すのにもそれなりに時間は掛かるぞ?女神像の前まで移動する時間も考慮している筈だがいつになったら合図が来る。巨大なアンデットが目の前に来るとその迫力に震え上がる。
「グラジオラス!どうだ!まだか!」
俺は我慢出来ずにグラジオラスに叫んだ。
「まだ距離がある!」
嘘だろ、かなり近い気がするがまだなのか。騎士や修道士もソワソワしている。ほんの数十秒なのに何時間も掛かっている錯覚を起こす。
「今だ!撃って!」
グラジオラスが叫んだ。グラジオラスの合図と共に修道士と司祭が神聖魔法をアコナイトに向かって放つ。アコナイトから白煙が上がり辺りを包む。その隙に俺は女神像の台座を思い切りハンマーで叩きつけた。まずは正面から削っていく。
流石にそこら辺の石ころと違って台座を丈夫で中々砕けない。それでも俺はハンマーを振り続ける。
俺の後ろでは戦闘が続いている。とにかく早く削らないと俺もやばい。
一心不乱に振り続け何とか台座に大きな凹みが出来た。今度は反対側からだ。
「グラジオラス!削れた!」
俺は移動しながらグラジオラスに叫んだ。
「総員退避!女神像の後ろまで下がれ!カクタス司祭は足止めを!」
グラジオラスが大声で指示を出す。スケルトンは壁になりアンデットの侵攻を体を張って止めにはいる。
一人また一人と退避していく中俺は女神像の台座をハンマーで削っていく。通り過ぎる騎士と修道士は何をしてるのかと驚愕の顔をしているが何も言ってこない。おそらくこちらの意図が分かっているのだろう。
ただ自身の手で女神像を破壊する訳にもいかないので黙って見ているだけだ。
「ウンスイ!どんな様子だ!倒れそうか?」
退避してきたメリアが俺の下へきた。
「今やってる!だけどこの台座硬いんだよ!」
アンデットは柔らかいが台座は硬い。何度も振るうちに手が痺れていく。さっきより明らかに叩く力もペースも落ちている。て言うかこのハンマー威力落ちてないか?明らかにさっきより削れていない。肩で息をして満身創痍であるが振り続けるしかない。
「貸せ!」
その時メリアがハンマーを奪った。そしてハンマーを振り台座に叩きつけた。
「いいのか?」
「うるさい!共犯だ!」
半ばヤケクソの様に返事をしたメリアはハンマーを一心不乱に振っていく。
「アコナイトは十分近付いた!倒してくれ!」
グラジオラスが空から叫ぶ。だが倒すと言ってもまだまだ時間が掛かる。とにかく早く壊さないと。
俺はそこら辺に落ちていた剣を拾い、その剣で台座をバシバシ叩いた。ハンマーより削れないがやらないよりはマシだ。
カクタスも必死でアンデット共の足止めをしてくれているが完全に防げていない。溢れ出したアンデットが俺に近付いてきた。
ヤバいと思ったその時、俺の横を光線が掠めた。
振り返ると修道士が立っていた。
「女神像を倒すのでしょう!援護しますから!」
修道士の手は震えていた。アンデットへの恐怖か、女神様への背信なのかは分からない。ただ俺の為に立ち上がってくれた。
周りを見ると騎士達がボロボロになりながらも俺達の周りを取り囲みアンデットから攻撃を守ってくれている。
「メリア!まだ倒せないのか!」「やってくれ!」「早くしろ!」
騎士達はメリアを応援してくれている。それに応えるようにメリアはハンマーを振っていく。
「もう止められんぞ!まだか!」
カクタスも叫んでいるがまだ女神像は倒れない。手の空いてる者で必死に女神像を押しているがびくともしない。
遂にアコナイトが女神像の前まで来た。このままでは間に合わない。早く倒さないと。
「リリー!私をアコナイトの所へ連れていってくれ!」
グラジオラスがリリーに叫んだ。リリーは迷う事なく巨大なアンデットの額部分にいるアコナイトの下へいく。
グラジオラスはアコナイトに近付くと首だけなのに勢い良く飛び出してアコナイトの喉元に噛み付いた。
「ぐおおお!グラジオラス!また私の邪魔をするのか!」
アコナイトの叫び声が聞こえてると巨大なアンデットはその場で立ち止まり、その巨大な腕でグラジオラスを引き剥がそうとしている。
だがグラジオラスは首だけであり、手も巨大過ぎるあまり全く引き剥がせない。
とにかくグラジオラスが時間を稼いでいる隙に女神像を倒さないといけない。俺も女神像を押すのに加わり残っている力を振り絞った。
「うおおお!!倒れろ!」
騎士も修道士も誰もが必死で女神像を押していると、
――ズズズ
何か大きな物がズレる様な音がした。俺達は必死に押し込んだ。
――ズズズッズズズッ!!
さっきよりも大きな音が台座から聞こえる。
「倒れるぞ!退避!」
俺は叫んだ。その声を聞き押していた人達は一斉にその場から離れる。アンデットから守ってくれていた騎士達も離脱していく。
女神像から距離を取るとゆっくりと倒れていくのが見えた。リリーもカクタスも宙を浮き離脱していく。
「グラジオラス様!お逃げください!」
メリアがグラジオラスに向かって叫んだ。
グラジオラスがアコナイトの喉元から口を離した。
「さらばだ、アコナイト」
グラジオラスの首は落ちながらそう言った。
アコナイトはグラジオラスにかまけていた為目の前まで迫る女神像に気付いていなかった。
気付いた時にはもう遅い。その巨大な両手で倒れてくる女神像を支えようと手を伸ばすと触れた瞬間焼ける様な音と共に白煙が上がる。
「ぐわおおおああああああ!!!」
アコナイトの絶叫が聖都に響き渡った。
「くたばれ!アコナイト!」
俺は叫んだ。どうせ誰にも聞こえない。
アコナイトは女神像を支える事が出来ない。ゆっくりと倒れる女神像に押しつぶされ、凄まじい衝撃音と揺れを伴って倒れた。
物凄い風と白煙が俺達を襲った。周囲の窓ガラスは割れあちらこちらで何かが崩れる音がする。この状況では正直立っているのもやっとだった。
白煙と土煙が風によって流されるとそこには巨大なアンデットおろかアンデットの大群も消え去っていた。
勝ったのか?どうなんだ?
「グラジオラス様!」
メリアはハンマーを携えて倒れた女神像に向かって走っていく。他にも続々と騎士達が集まりグラジオラスの捜索をした。
瓦礫の山をかき分け必死で探している。
そんな時に鈍く黒く光るペンダントの様な物を見つけた。おそらくこれがアンデットを呼び出した代物だろう。
それを思い切り踏み付けると簡単に砕けた。光ることもなくなり、ただ砕けたペンダントになった。
これで二度とアンデットを呼び寄せる事は出来ないだろう。
「グラジオラス様!ご無事ですか!」
メリアの泣き出しそうな声が聞こえた。声が聞こえる方へ行くと人集りができている。メリアの膝にグラジオラスの首が乗せられていた。
「メリア……聖都は……守られたか?」
グラジオラスの声はか細く消え入りそうだ。
「はい、アンデットは消え去りました」
「そうか、よかった……」
グラジオラスの首から白い煙が上がっている。これは悪霊が消える時に出るものだ。
「ウンスイ殿は……いるか?」
グラジオラスが俺を呼んだ。
「ここにいるぞ」
「貴方のおかげで……騎士として死ぬ事が出来た……私を救ってくれて本当にありがとう……」
「もう死んでいいのか?」
「ああ、民を守れて……仇を討ち、頼もしい騎士達がいるんだ……思い残すことは無い」
「そんな!グラジオラス様!」
メリアは泣いている。
「メリア……それから騎士団よ……これからも民を守ってくれ……女神様の下へ先に行く」
そう言い残すとグラジオラスは白い煙となり消えて行った。その煙は風に流されて何処かへ誘われる様に空高く流れて行った。
これでようやく終わった。そう思うと膝の力が急に抜けてその場で座り込んだ。
はぁ、肉体労働なんてするもんじゃないな。やっぱり俺は口だけ動かして生きていきたい。
そんな事を思っていると背後から偉そうな声が聞こえた。
「ウンスイ!ここにいたのか!」
振り返ると神聖騎士達とはまた違った鎧を身につけた兵士を数人引き連れた枢機卿のフィザリスが立っていた。
「ウンスイ!貴様を聖都襲撃の容疑で拘束する!」
フィザリスは俺に向かってそう言い放った。
そんなこんなで俺はまた異端審問に掛けられる事になった。容疑はアンデットを聖都に誘き寄せて襲撃し、更に女神像を倒した事らしい。
アコナイトがやらかした事を全て俺に被せる様だ。まあ、そうでもしないと教会は崩壊しかねない。短絡的な考えだがな。
俺は異端審問が始まるまで個室に閉じ込められている。最近ボロ屋敷でしか寝泊まりしていなかったので、簡易的ではあるがベットがあるのは嬉しかった。
疲れもあるからなのか拘束されているのにも関わらず俺は熟睡した。
何だか外が騒がしい。せっかくゆっくり寝ているのに誰が騒いでいるんだ。
扉の向こうでドタドタ誰かが来るのが分かる。その足音は俺の部屋の前で止まった。
そして突如ノックもせずに扉が開いた。扉を開けたのはフィザリスだ。
「これはこれはフィザリス卿。ご機嫌いかがですか?狭い部屋で申し訳ないですがゆっくりしていってください」
「うるさい!それより外の市民をどうにかしろ!」
フィザリスの顔は怒りで真っ赤になっており汗もダラダラと滝の様に流れている。
「どうにかしろと言われましても、私はずっとここで寝ていたので何のことやら?」
「お前を解放しろと大聖堂に市民が詰め掛けているんだ!あろうことか騎士や修道士までもだ!」
当然の結果だろう。あの状況で全てを俺のせいにするのは無理がある。
「とにかく外に出て説明して場を収めろ!」
フィザリスは鼻息荒く俺に命令する。
「説明とは教会が怪しげな物を使い、アンデットを操っていた事ですか?」
「そんな証拠は無い!」
「証拠なんて必要無いのですよ?肝心なのは外から見た時にどう見えるか、誰もが納得できるかです」
「何が言いたいのだ」
「今この状況では私が喋った事が真実になるのです」
フィザリスは黙ってしまった。この状況では俺の言い分が全て通る。嘘も本当も。この教会を生かすも殺すも俺次第と言うわけだ。
「今や教会は崩壊寸前です。市民の心は離れ、アンデットを操る力も失われた。聖都を象徴する女神様像も今や瓦礫の山です」
「それはお前が倒したのだろう!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。それに関しては私も悪いと思ってます。だから取り引きをしましょう」
「取り引きだと……?」
「そうです、教会の崩壊を免れ、貴方が法王になれる得しかない取り引きです」
俺が笑顔でそう言うとフィザリスはごくりと唾を飲み込んだ。
俺はフィザリスと取り引きをした後市民の前に出て説明した。
俺はフィザリス卿の指示の下、教会内の悪事を探っていた事を。御使いとして目立つ事で敵を炙り出していた。
そして黒幕がアコナイト法王とトライソーン騎士団長と分かり告発しようと準備を進めていると、それが奴等にバレて捕まってしまった。
聖都での決戦直後に俺が拘束されたのは他に敵がいる可能性がある為匿っていたのだ。
と言うのが俺がフィザリスの為についた嘘である。これで少なくともフィザリスが吊るされる事は無くなった。その後教会がどう変わっていくのかは残っている奴等次第だ。俺の知った事ではない。
俺が出した交換条件はメリアを神聖騎士団の騎士団長にする事。アナスタシアの街を復興させる事。そして俺が復興の担当者となる事だ。
俺は聖都から遠く離れてそこで過ごす事になる。フィザリスは俺が聖都から離れてくれるし、俺も教会から距離を空けれる。どちらにとっても良い事づくめだ。
そういうわけで俺は今アナスタシアの街にいる。
廃墟だらけであったこの街だがカクタスのおかげでありえないスピードで復興している。教会から人件費や建築費として資金がたんまり出たおかげでもある。教会が貯め込んできた資金をこれでもかとつかわせてもらってる。
少しづつ住居ができて人が戻ってきている。特に大きく他の街と違うのはそこら辺にスケルトンが歩き回っていたり、ぷかぷかと浮かんでいる幽霊があちこちにいる事だ。
悪霊と言われてきた奴等がこの街に集まって来ている。リリーが旅をしながら見つけた悪霊をこの街へ招待しているのだ。
生きている人達もこの街では悪霊を怖がらない。それを分かってこの街に移り住んで来たのだ。まあ物好きな奴等だ。
「順調に復興しているな」
俺はスケルトンを操るカクタスに声を掛けた。
「ああ、本当にお前さんには何から何まで世話になる」
「まあ、爺さんと約束しちまったから。しょうがなくだ」
「照れるでない」
「はいはい」
教会から讃美歌が聞こえてきた。この街の教会にはアイリスが赴任した。正確には俺を追って来たのだ。少々面倒臭いが事情を知る者で固めた方が都合がいいだろう。
「心温まる歌声じゃ……何だが……召されそうじゃ……」
カクタスが薄らと光が輝いている。
「うわあぁ!!カクタス!召されるな!召されるな!」
俺は急いでカクタスの腕を引いて讃美歌が聞こえない所まで走った。
しばらく走ると讃美歌は聞こえなくなりカクタスも光らなくなった。
「ふー危うく召されるところじゃった」
「死ぬなら復興が終わってからにしろ!」
「すまん、すまん」
ここに住む悪霊共にも教会には近寄るなと言い聞かせておこう。カクタスまた復興作業に戻って行った。
街をぷらぷらしていると街の外に荷馬車の列が見えた。先頭にはメリアが乗っている。
「久しぶりだなウンスイ」
「ああ、騎士団長様も元気そうで」
「やめろ、騎士団長なんて柄じゃないんだ」
「それより何でメリアが?騎士団長なんだろ?」
「とにかく人手が足りないのだ。教会もゴタゴタ続いているし、騎士達も怪我から復帰してない。だからこうして私もあちこちに派遣されてる訳だ。まあ、書類仕事より性に合ってるから問題ないがな」
くっ、せっかく面倒臭い奴を騎士団長にして聖都に縛りつけたと思ったのに何でフラフラしてるんだ。
「何だ?何か企んでいるのか?」
「別に」
「そうだ、お前に見せたい物がある。運搬しがてら見てくれ」
「何だ?」
メリアが乗る荷馬車に乗り込み、メリアの横に座った。
メリアが紙を広げるとそこには一人の騎士の絵が描かれていた。
「グラジオラスか?」
「そうだ、聖都にグラジオラス様の石像を立てることにした」
グラジオラスの熱心なファンであるメリアだがまさか石像まで立てるとは恐れ入った。
「それとこれもだ」
メリアがそう言うともう一枚の紙を広げた。そこには自身の首を抱えているグラジオラスの絵が描かれていた。
「まさかこっちのグラジオラスも石像にするのか?」
「ああ、グラジオラス様は生前素晴らしいお方だったが、今は悪霊になり彷徨っている騎士の方が有名なのだ。だからその汚名を払拭すべく聖都を救った英雄としてこの石像を立てるのだ」
メリアの思いは分かった、だが……
「教会からは反対されただろ?」
「ああ、いい顔はしていなかった。だが今は強くは出れない。だから聖都の復興に合わせて即急に作るつもりだ」
メリアも真っ直ぐだけじゃなくてセコイ真似も出来るようになったのか。
街の中心部に着きメリアは積荷を下ろしていく。積荷は資材に食材と至れり尽くせりだ。
「これが資金だ。大切に使えよ」
メリアから大きな革袋を渡された。
「分かっているって……あれ?少なくないか?」
「ああ人件費を削った」
「何で!」
「お前がただで人助けをする訳無いだろ?だから調べてみると復興作業はカクタス司祭に任せて人件費を浮かせてるらしいな?」
バレていた。教会からたんまり貰った人件費はほとんど使わずに貯め込んでいたのだ。例えバレても教会も強くは言うまいとたかを括っていたがまさかメリアにバレるなんて。
「大丈夫だ、抜いたお金はしっかりと人件費として有効活用させてもらう」
「何に使うんだ?」
「ここから馬で四日程の街で悪霊が出たらしい。騎士としては放っておく訳にはいかない」
「おい、ちょっと待て」
「行くぞウンスイ。人件費分は働いてもらうぞ」
俺は問答無用で馬車に押し込まれた。そしてわざわざ街の人間に見せ付けるように馬車は走っていく。
街の少女がメリアに声を掛けた。
「メリア様!ウンスイ様とお出かけですか?」
「ああ、ウンスイと一緒に悪霊を助けに行く」
「ウンスイ様!メリア様!いってらっしゃい!」
その声を聞きどんどんと人が集まって来た。
「ウンスイ様!ご無事で!」「いってらっしゃい!」「帰って来るまでに復興を進めておきます!」
こうなると俺は笑顔で手を振るしかない。
「こうなる事を分かってたな?」
俺が笑顔で手を振りながらメリアに苦言を呈した。
「お前の真似をしただけだ。恨むなら自分の行いを恨め」
メリアは笑顔で答えた。こいつも随分とやるようになった。
どうやら俺もまだまだこのふざけた世界でインチキ霊媒師として働く様だ。
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第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
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異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
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完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/蠱惑の魔剣/牙狼の王ノルド
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