いつまでも、走れ走れ異世界トラック

なぐりあえ

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三話

おいでやすドワーフの里へ

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異世界に来て三日後、そしてそれは異世界をトラックで縦横無尽に爆走して方々を恐怖のどん底に陥れて三日経ったと言う事である。
 僕は未だに留置所にぶち込まれており、しくしくと固い床を涙で濡らしていた。一向にここから出れない。出られないったら出られない。
 ぶち込まれた日は雨風凌げて良かったと想像性のカケラもない事を考えていたが、二日目の朝になるとそれが実に甘い考えであるか実感していた。
 もし留置所が快適なら牢屋に空きなど無く満員御礼でみんなこぞって犯罪を犯して喜んで牢屋の中に入って仲良く暮らしていただろう。
 だが現実はそうでは無い。暗い牢屋の中には僕と隣の牢屋にアスカさんがいるだけだ。
 二日目の晩、暴れた酔っ払いの酔いを覚ますために一時的に牢屋に入れらていたがそれも朝になっていなくなっていた。
 つまり僕達は暴漢の酔っ払い以下なのである。
 それもそのはず積荷の検品をせずに街に持ち込んだのだ。簡単に言えば密輸に相当するらしい。
 もちろん持ち込んだのはただの小麦である。確かに白い粉にはなるが決してやましい物では無い。運送を頼んだ村人がハメない限り安全な物である。
 アスカさんは領主が受け取ったのだからいいだろうと何度も言っているが、その領主が嫌がらせに僕達を長々と牢屋にぶち込んでいるらしい。
 ちなみに門で出会った優しそうな兵士から納税は無事に完了したと聞かされた。
 そこが失敗したのであれば僕達はただトラックで暴走して密輸した阿呆の二人組になってしまっていた。
 ここで問題なのは僕はただ助手席に座っていただけで運転には一切関与していないのだ。それでも兵士的には謎の乗り物で暴走して密輸した二人組になっているのだ。もちろん僕に非がないとは言わない。それでももう少し内訳を変えて欲しい、それだけなのである。
 
 異世界で前科が付きそうになっている現実を受け入れられない僕は牢屋の隅っこでメソメソしていた。
「おーい面会だぞ」
 カンカンと看守に鉄檻を叩かれ僕は顔を上げた。面会?僕達に?
 異世界に来て三日、それのうち二日は牢屋の中。そんな僕達に面会する人間などいないはずだ。
 一人だけ思い当たる人物がいた。村長である。あの後村から追いかけてきた村長なら僕達に面会しに来てもおかしくない。
 僕はここから出れるかもしれない喜びに思わず頬が緩んだ。やはり世は人情である。人に優しくすれば必ずそれは返ってくるのだ。
 カツカツと石畳を歩いてくる音がする。近づく足音に僕は体を揺らして心を躍らせた。そして足音の主は僕の牢屋に前で止まった。
「どうも」
 その姿は村長では無くドワーフであった。
「だれぇぇぇぇ!?」
 何でドワーフが面会に来てるんだよ。完全に知らない人である。
 その容姿はまさにドワーフ。黒いにモサモサした髭に髪の毛、僕よりも背は低いのに腕は太くガッチリしていた。眉毛も目を半分隠すくらい立派なものが生えている。そんなどこからどう見てもドワーフが面会に来てくれた。
「何じゃうるさいのう。ワシはドワーフのゴドウィンだ」
「すいません。青木ヒカルです」
 僕は叫んだ非礼を詫びて鉄檻の前に座った。この際ドワーフだろうがただの髭おっさんだろうが関係ない。ここから出してくれるなら誰でもいいのだ。
「あの門の前にある車輪のついたデカいのはお前のかい?」
「いえ、あれは隣にいるアスカさんの物です」
「そうかい、ありがとうな」
 ゴドウィンは隣りの牢屋の前に移りアスカさんに声をかけた。ゴドウィンはトラックに用があるみたいだが何でだろう。
「おい、起きろ嬢ちゃん」
「何だよー」
 アスカさんは眠たそうな声を出している。どうやら今起きたらしい。この環境でしっかり睡眠をとれるなんて羨ましい限りである。
「誰だおっさん?」
「ドワーフのゴドウィンだ、嬢ちゃんに話がある。あの門のそばに置いてある車輪のついた乗り物を売ってくれ」
 ゴドウィンの提案は驚くべきものであった。あの半壊しているトラックを買い取るというのだ。
「なんで?あれボロボロになってるけど」
「それは周りだけじゃろ、あの乗り物の根幹は無事なはずじゃ。ドワーフ仲間でもどういう構造か話し合っているじゃが皆目見当が付かんくての。それなら金を出して買い取ろうってなったんじゃ。ここから出せるくらいの金は用意するつもりじゃがどうだ?」
「乗った!ちゃんと二人分払えよな」
「もちろんそのつもりじゃ」
 なんてありがたい提案なのだろう。そしてアスカさんは僕も救ってくれた。
 そこからはあっという間であった。ドワーフが金貨がずっしりと入った袋を取り出して看守に渡した。保釈金である。
 そして看守に連れられて三日振りの青空の下に出ることができた。ああ自由ってなんて素晴らしいんだ。しかしそんな自由を謳歌する暇もなく僕達はトラックの下へ向かった。ドワーフは見かけによらずせかせかしている。
 トラックは門の外にあるので必然的にあの高圧的な兵士に会う事になった。
 正式な手続きの下釈放されたので何の問題はないがやっぱりアスカさんを睨みつけていた。そして僕まで睨みつけてくる。ゲロを頭からかけたのは本当に悪いと思っているが不可抗力だったし三割いや四割位は貴方のせいだと思うんです。そんな僕の考えを察する事などなく目から光線でも発射しそうなほど睨みつけてくる。
 僕は何か言われる前に目を合わせず足早に通り過ぎた。
 門の近くに放置されていたトラックは無事にそこにあり僕達が捕まった時と同じボロボロの状態であった。太陽の下で確認するのはこれが初めてであり、そのトラックの破壊具合は狼との熾烈な戦闘を物語っていた。上も横も穴だらけでよく僕は生きていられたなと三日経って改めて肝を冷やした。
「ほらこれがトラックの鍵だ」
「いや待て慌てるんじゃない」
 アスカさんはゴドウィンに鍵を渡そうとしたが断られてしまった。
「確かにこのトラックとやらをワシらは買ったが使い方が分からん。なんでお主らには里まで付いてきてこいつの使い方を教えて欲しい。もちろん宿も食事も用意する」
「いいのかよ!それでいいよな!ヒカル!」
「あっはい願ったり叶ったりです」
 ゴドウィンの提案は魅力的であった。正直この街は問題を起こし過ぎて居づらいのだ。僕達を目の敵にしている領主もいる。それなら新天地で心機一転やり直すのがいいだろう。異世界という新天地の新天地に早くも逃げ出すのだ。人生切り替えが肝心である。
「よし、じゃあ動かしてくれ。あそこに見える山にドワーフの里がある」
 ゴドウィンが指差す方向には薄っすらと山が見えた。ここからそれなりに距離があるようだ。
「あー無理だなガソリンがたんねー」
「ガソリン?」
 アスカさんはゴドウィンにガソリンの説明をした。そうかトラックに燃料が必要という常識はここでは通用しない。
「なるほど燃料無しに動くなんてそんな都合のいい事はないか。ちょっと待っててくれ馬を用意する」
 ゴドウィンはとっとこ走って行きしばらくすると馬を二頭連れてきた。競馬に出ているような細身の馬では無く足も胴もガッチリとした荷馬である。
 ゴドウィンとアスカさんはテキパキと馬でトラックを牽引する準備を始めた。トラックの下からフックを出して牽引用の器具とロープで結ぶ。器具は二頭の馬に繋がれておりこれで引っ張ってもらうようだ。
 ゴドウィンは馬を操り出発した。馬がトラックを牽引する奇妙は光景である。僕とアスカさんはトラックに乗り、アスカさんはハンドル操作をする。牽引されていてもハンドル操作は必要らしい。
 一方ゴドウィンはと言うと運転席の屋根の上に座っていた。フロントガラスからゴドウィンの太い両足が垂れ下がっているのが鬱陶しい。
 馬による移動はかなりゆっくりであった。先日のトラックでの暴走を経験した僕にとってこの速度はむず痒くいつまでも近付かない遠方の山を見るたびにため息を吐きたくなった。アスカさんはガッツリあくびをしている。
 なるほどドワーフがトラックに興味ある訳だ。速度も遅いが途中で荷馬を休ませる必要がある。餌や水を確保できる場所が無ければ馬はへばってしまう。馬を休ませる場所がありそこに着くたびに休憩している。川で水をガブガブ飲み、その辺の草をモシャモシャ食っている。
 そんなゆっくりとしたペースで進んでいくと当然のように日は傾き始めた。
「あそこにある村で一泊する」
 ゴドウィンは屋根の上から僕らに言った。ようやく今日の移動が終わるのだ。そして何よりご飯が食べれる。
 この世界では昼食を食べる習慣がない。朝食べて夜暗くなると仕事が終わりそこから晩御飯を食べる。留置所に居る時も一日二食であったがそれは犯罪者に食わせる昼食なんぞねぇって事だと思っていた。
 毎日三食食べていた僕とアスカさんはすっかりお腹を空かせていた。アスカさんはお昼過ぎからすっかり黙ってしまっている。アスカさんはお腹が減ると不機嫌になるのだ。
 村に着くとゴドウィンは馬を預けて宿をとってくれた。何から何までやってくれる頼れるドワーフである。
 三人で宿の食堂で早めの晩御飯を食べた。外はまだ明るい為早めと言ったがあくまで僕基準でありこの世界では普通の時間である。
 僕とアスカさんは異世界に来て初日に食べた肉料理ぶりのまともな食事にありついた。その肉料理も酔っ払いに絡まれて最後まで食べ切れなかったので最後まで味わって食べる異世界料理はこれが初めてである。
 ただの食事なのに泣きそうなほど美味しい。あまりにも美味しそうに食べる僕にゴドウィンはジュースも注文してくれた。ありがとう、今日は心優しいドワーフ、ゴドウィンの優しさに甘やかさればっかりである。
 食事が終わると早々にベッドに入り早朝の出発に備えた。まともなベッドもこちらでは初めてであり布団の温もりを堪能した。まあ牢屋よりマシってだけで自宅の布団と比べるとかなりゴワゴワしていて心地がいいとは言えないがこの際贅沢は言わない。
 それよりも同じ部屋にアスカさんも寝ている事にドギマギしていた。隣のベッドで女性が寝てるなんて交際経験のない僕には刺激が強すぎる。微かな寝息が聞こえてくる。そこで寝ている事を嫌でも意識してしまう。
 寝返りをうつとアスカさんは僕の方を向いて寝ていた。長いまつ毛に、グゴー!ピンク色の唇、こうして見るとなんて、グゴゴー!可愛らしい女性なんだろう。決してやましい気持ちは無い。ただジッと見続けたくなる、ググゴーゴー!ようなそんな気持ちであった、グーグーゴー!!
 ゴドウィン!うるさい!イビキがうるさい!おっさんの盛大なイビキが僕の純情を踏み躙る。
 宿代を安く済まそうとして二人部屋に三人が寝る事になった。ゴドウィンは床で寝ると言いありがたくベッドを使わせてもらったがこんなのはあんまりだ。こんな経験僕にはもう無いかもしれないのに何で邪魔をするだ。アスカさんの寝息くらい聞いてもいいじゃないか。ていうかアスカさんも何で寝ていられるの?
 これなら少し高くても二つ目の部屋を取るべきだった。
 いや待て、よく考えたらそうなると男女で部屋を分ける事になるはず。僕とゴドウィンが相部屋になるのは確実だった。僕はゴドウィンと泊まる時点でこのイビキからは逃れられない運命であった。何が心優しいドワーフだ。
 僕はアスカさんよりゴドウィンに意識がいってしまい寝るに寝れない長い夜を過ごすことになった。
 

早朝、睡眠不足の僕はフラフラと食堂に行き朝食を食べた。他二人はしっかり睡眠をとったのか美味しそうに朝食を食べている。
 うつらうつらとしながらスープを口に運びパンを頬張った。正直味は覚えてない。何を食べているのか分からない。
 曖昧な朝食を済ませた僕はトラックに乗った。しっかりとシートベルトで体を固定して外に落ちないようにした。僕が座る側の扉は狼との争いで吹き飛んでおり風通しが良くなっている。
 こんな状況で寝れるのかと心配したがそれからの記憶はない。トラックのシートはこの世界のどのベッドよりも居心地がいい。早朝の涼しい風も僕に睡魔を運んできた。
 気付かぬうちに夢の中であった。
 僕はトラックで草原を走りながらラーメンを食べた、バター塩ラーメンである、僕が食べているチキンの香りに釣られてゴドウィンが馬の大群を引き連れながら追いかけてくる、僕は華麗なドリブルからのアスカさんにパイナップルをスルーパスした、今の僕ならそれくらい朝飯前だ、アスカさんはパイナップルを高圧的な兵士にダンクシュート!USA!USA!スタジアムに歓声が響く、アスカさんの勝利者インタビューが始まる、
「おい、ヒカル、おい!もう直ぐ着くぞ」
 アスカさんに揺さぶられながら目を開けると昨日遠くに見えた山がすぐそこある。
 寝ていたおかげで退屈な移動はあっという間に終わった。もう何の夢を見たのか覚えていない。
 里から少し離れた所にある馬宿にトラックを停めてゴドウィンは馬を預けにいった。ゴドウィンがいない間にトラックはドワーフ達に囲まれた。
 どのドワーフも目を輝かせトラックを観察している。そして口々にトラックについての考察を話し始めた。
「これが噂の」「どうやって動いているのか」「魔法を施しているのか?」「この装置は何の意味が」
 僕達はワラワラと集まったドワーフに囲まれてトラックから降りれない。
 そこへドスドスとゴドウィンがやってきた。
「おう!お前らこれが噂のトラックだ。工房まで運ぶぞ」
 ゴドウィンの掛け声におう!と反応したドワーフ達は馬に取り付けていた器具を持って引き始めた。数人のドワーフはトラックの後ろに周り押している。
 なんて原始的な方法で運ぶのだろう。
「おい!お前も引っ張れ!」
 一人のドワーフが僕をトラックから引き摺り下ろしてロープを持たせた。ロープを握ると手を擦りむきそうになるくらい擦れた。
「これを使いな!」
 慌ててアスカさんが軍手を貸してくれた。それをはめてドワーフ達とトラックを引っ張る。
 アスカさんは運転席でハンドル操作をしている。頑張る僕を見て手を振ってくれた。ああ女の子に応援されるっていいなぁ。僕は俄然やる気が出てきた。
 工房は街の入り口近くにあり、そこにみんなで引っ張り込んだ。工房内は暑く僕は汗だくになりながら引っ張り続けた。
「よーし、もういいだろう」
 やっと終わった。ゴドウィンの掛け声と共に僕はドスンと床に座ってしまった。他のドワーフ達は元気に別の作業を始めた。
「お疲れヒカル」
 アスカさんはトラックから降りてきて僕を労ってくれた。僕は震える手で親指を立てて精一杯見栄を張った。
「よ、余裕ですよー」
「はっ!無理すんなって」
 アスカさんにはお見通しであった。いや誰が見てもぼくが満身創痍なのは見るだけで分かる。それでも女の子の前では見栄を張るのがバカな男ってもんだ。そうです僕は馬鹿なんです。
 アスカさんは僕の手を掴んで立たせてくれた。アスカさんにお礼を言って僕達はゴドウィンの下へ向かった。
「お前さん達ありがとうな」
「それでこれからどーすんの?」
「トラックについて説明してもらいたいが今は他のもんが物珍しさから集まって来てるから少し待ってくれんか」
「いいぜ、それじゃあ少し観光してくる」
僕達はゴドウィンを残して工房を後にした。
 工房の外は涼しく僕の熱った体を冷やしてくれた。生き返る。
 ドワーフの里は全体的に空気も悪く匂いも臭く暑かった。建物の構造は大して変わらないが彼方此方の煙突からモクモクと煙が吹き出している。そして何処にいてもカンカン、カンカン金属を叩く音がしている。
 ああ、だから馬じゃなくてドワーフ達でトラックを運んだのか。おそらく匂いも音も馬が嫌がるのだろう。街で見かけた馬車がこの里では一台も通っていない。みんな荷車で物を運んでいる。
 僕は疲労からか空腹を感じた。太陽は上から照らしており丁度お昼時である。
「アスカさん、ご飯にしませんか?」
「そうだな、昼飯は食いたいよな」
 アスカさんも賛同してくれて二人でご飯を食べれる所を探した。やはり僕らは日本人、一日二食では足りないのだ。
 二人で里を散策しながらいかにもご飯が出てきそうな看板を見つけてその店に入った。店内の客は少なく僕らを入れて五人しかいない。
 店員のドワーフに案内されて席についた。メニュー表など無くその日に出せる料理を出すスタイルらしい。
 出てきたのは干し肉とカチカチのパンとスープであった。正直店で出す料理なのか疑問だが周りのドワーフは何の抵抗もなく黙々と食べている。
 店員は普通の人間である僕達を物珍しそうに見ていた。アスカさんは店員に声をかけてこの里について話してもらった。
 まず料理に関してだがそもそも食事を楽しむ文化が無いらしい。あくまで食事は生きる為の燃料補給程度の認識であった。それよりも夜に飲む酒がドワーフにとっての楽しみである。食事はその付け合わせに過ぎない。そんな生活をしていると早死にしそうだがそれは仕方がない事であった。
 この里の近くに鉱山がありそこから鉱石を採ってきてこの里で加工する加工業によって暮らしている。加工する際に出る煙や鉱石による土壌汚染によりこの地では作物が育たず牛や馬も飼えない。そうなると他の場所から食べ物を持ってくる他ない。
 必然的に料理は輸送する時に生物は傷んでしまうので干して加工した物を出すしかない。飲み水もこの里では貴重であり他所から待ってくる事も困難である。それならと日持ちする酒を皆好んで飲むようになった。
 この里のドワーフは皆鉱山に人生を左右され過ぎではないか。そんな生活幸せなのか。
 そんな疑問は当たっており里での生活に耐えきれなくなったドワーフは街に出て商売をしているらしい。もしかしたらゴドウィンもその一人なのかもしれない。
 ドワーフと里の歴史を教えてもらった僕達は店員にお礼を言い工房に戻ることにした。観光しようと考えていたが食堂を探す時に分かったが、この里は何にも無い。鍛冶場しかない。
 何処に行ってもカンカンカンカン鳴っており僕はこの騒音から逃げる為早く里から出たかった。
 
 工房に戻ると相変わらずトラックに人集りができていた。ドワーフにとってトラックは珍しいだけでは無く興味深い研究対象なのだろうか。
 ゴドウィンが僕達に気付いてのしのしと歩いてきた。
「おぉ、もういいのか?」
「あんま見るとこの無くても」
「はっは、そりゃそうだろう」
 アスカさんは正直過ぎるから発言するたびにヒヤヒヤするがゴドウィンは笑って受け入れた。アスカさんはドワーフと相性がいいのかもしれない。
「よし、じゃあトラックについて解説してくれ」
「はいよ、言っとくけどそんなに知らねーからな」
 アスカさんはトラック下へ行ってしまった。僕はどうしようかと考えた。とりあえず工房は暑いから外に出てそれから決めよう。そう思った矢先誰かに腰を叩かれた。
「おい、兄ちゃん。暇してんなら手伝ってくれや」
 僕は見知らぬドワーフに連行されてしまい、工房内のあらゆる雑用をした。もしかしてみんな仕事してないから僕がやる羽目になってるのではないか?
 額から滝のように流れる汗、荷物を持つたびに軋む腕の筋肉、子鹿の様に震える両足。
 肉体労働、ああ肉体労働、肉体労働
 最後の方は口からヨダレを垂らしながら働いていた気がする。それが汗なのかヨダレなのか分からない程なので外見的には特に問題ない。
「ありがとうな兄ちゃん」
 僕を強制連行していった畜生ドワーフからお礼を言われた僕は涼しさ求めて工房の外に出た。
 外の木陰で僕は糸が切れたマリオネットの様に木に寄りかかり、腕も足も力無く地面に投げ出した。
 木はいい。僕に仕事を押し付けないし、休んでいても文句を言わない。背もたれ代わりにしても僕をドッシリと受け止めてくれる。木と働きたい。木と結婚したい。木と共に暮らしたい。
 僕がヤバめの現実逃避をしていると解説が終わったアスカさんが外に出てきた。
「ふー涼しいー、おっヒカル大丈夫か?死んでんのか?」
「はい、僕は死体です」
「はっは、それよりこの里には温泉があるってさ、入りに行こうぜ」
 温泉?アスカさん提案は実に魅力的であった。
 別に下心はない肉体労働の後の温泉はさぞかし気持ちいいだろう。ああ、本当に気持ちがいいだろうなー。
 僕は先程までの無気力な人間から立ち直り生気に満ち溢れていた。
 僕達は温泉に向かう途中服屋に入り着替えを買った。いつまでも同じ服を着てる訳にはいかない。温泉に出てからも汗臭い服を着るなんてナンセンス。
 いざ決戦の地、公衆浴場にやってきた。
「んじゃ、後で」
 アスカさんは女湯に向かった。
 分かっていた。別にがっかりはしていない、もしかしたら混浴なんて事もみたいな淡い期待はあったが、手を出そうとかそんな犯罪的な事は断じてするつもりはない。
 更衣室で服を脱ぎ手拭いだけを持って浴室に入った。
 まだ仕事終わりの時間には少し早く温泉には僕しかいなかった。他人と入ると緊張するのでこれは嬉しかった。
 まず湯船に入る前に小さな温泉でお湯を汲み身体を洗った。四日ぶりに体を洗った僕はベタベタした汚れを隅から隅まで洗い流した。
 頭からお湯をかぶるとそれだけで疲れが流されていく感じがする。
 入念に手拭いで体を擦り体の垢を落としていく。
 さあ最後はお待ちかね湯船に入り足を伸ばした。
 ああ、気持ちいい。やはり日本人は風呂である。誰もいないので足を思い切り伸ばせる。自宅の風呂では味わえない開放感。まさに極楽。
 一日の疲れや体のコリがとろっとろに溶かされていく様な不思議な感覚である。
「ふー」
 誰もいない為僕は気が大きくなったのか、大声と共に息を漏らした。
「気持ちいいなヒカル」
 壁の向こうからアスカさんの声が聞こえた。どうやら壁を挟んで女湯になっているらしい。
「そうですねアスカさん」
 冷静に返答しているが僕は嫌でもアスカさんの入浴を想像してしまう。浴室は静かで耳を澄ますと壁の向こうでチャプチャプとお湯を弾く音が聞こえる。
 全神経を研ぎ澄ませて僕はアスカさんから発せられる音を聞いた。
 そこにはお湯の音以外にアスカさんの口から漏れる吐息さえも聞こえてきた。恥ずかしながら青木ヒカルのヒカルくんは興奮して、アスカさんから情報を全て受信できる様に電波塔のように天高くそびえ立った。
「ガハハ!」
 浴室に野太い笑い声が響いてきた。もちろんドワーフだ。
 仕事を終えたドワーフが汚れを落としにやってきたのだ。こいつらはいつも僕の純情を土足で踏み荒らす。
 ドスドスと何人ものドワーフが浴室に入ってきた。皆筋骨隆々で手拭い片手に全裸である。
 出際良く皆身体を洗っていく。その間も誰一人黙ろうとしない。
 お湯をザバザバ掛けているのに全員が喋り続けるので自然と声が大きくなり浴室に反響する。
 浴室の床はあっという間に黒いお湯で染まっていった。それだけでドワーフの仕事がいかに過酷か分かるようである。
 体を洗い終えたドワーフが湯船に入ってきた。
「おう!兄ちゃん一番風呂かい!よかったじゃねえか」
「は、はい」
 ドワーフは大きな声でフレンドリーに話しかけてきた。
 そして僕は嫌でも見てしまった。ドワーフのドワーフを。
 ドワーフは背は低いのに下のドワーフはあまりに立派なモノであり、僕はその衝撃にガン見してしまった。
 次々に入ってくるドワーフ皆立派な一点モノを豪快にぶら下げていた。
「おう兄ちゃん、小さいのう、ガハハ」
 デリカシーのないドワーフがいた。流石にドワーフの中でも配慮がない発言なのか隣のドワーフにボコっと殴られていた。
 僕のヒカルくんは現在全力である。それでもドワーフの感想としてはそれである。
 電波塔なんて言ってすいませんでした。僕のはラジオのアンテナです。これでも全力なんです。
 僕のアンテナは電波を受信することを諦めスルスルと収納され小さくなった。

 僕は風呂から出て待合室でアスカさんを待っていた。もうアスカさんの事など想像できず、ドワーフの立派な一本槍ばかり頭にこびり付いて離れない。
 ドワーフの野郎どもは僕の純情を踏み躙った挙句、強烈なトラウマで植え付けてきた。末代まで呪ってやる。
 ドワーフの里壊滅計画を練っている間にアスカさんが出てきた。肌は赤く染まり実に健康的かつ血色のいい女の子になっていた。
 逆に今までが何処か不健康だったのかもしれない。そういえばアスカさんは仕事帰りに異世界に来て、その日のうちに街から村への往復をしていた。その後の牢屋での生活に二日に渡る旅、しっかり休んでいなかったはずだ。
 アスカさんの満足そうな顔を見て、体を休ませる事が出来て本当によかったと思った。
 こんなに頑張っている人がいるのに邪な考えを持っていた自分が恥ずかしい。
「よし、じゃあゴドウィンがとってくれた宿に行くぞ」
 僕はアスカさんと公衆浴場から宿に向かった。街の入り口の近くにあり工房からも直ぐの場所に宿はあった。
 先程邪な考えを恥じた僕だが、ここである事に気付いた。
 あれ?もしかしてアスカさんと相部屋?
 そうだゴドウィンは里に自宅があるはずで宿には泊まらない。それなら宿には僕とアスカさんだけである。それならもしかして……
 宿に着いた。一人部屋だった。ゴドウィンは気を利かせてくれた。ありがとうございます。やっぱりドワーフは敵です。人類の敵です。そして僕は馬鹿です。
 部屋は二階にありアスカさんの部屋と隣同士になっている。それでも隣同士というだけでドギマギしている自分が憎い。あまりにもちょろ過ぎる。
 部屋に着替えた服を置いてアスカさんと一緒に一階の食堂で夕食を食べにいった。
 食堂は泊まらなくても利用できるらしく工房にいたドワーフが既に酒を飲みながらワイワイやってた。ドワーフは何処にいても騒がしい。みんな風呂上がりなのだろう汚れが落ちていてサッパリしている。
「嬢ちゃん!兄ちゃん!こっちだ」
 ゴドウィンは既に席に座ってお酒を飲みながら僕達を呼んだ。
「よ!本日の主役!」「酒持って来い!」「こっちにつまみ!」
 僕達の登場によりドワーフ達は更に盛り上がった。何がそんなに楽しいのだろう。今日は平日じゃないのか?
 ゴドウィンがいる席に座ると酒を持たされた。そしてゴドウィンが音頭をとる。
「それじゃあ新たな産業の可能性に乾杯!」
「「乾杯!」」
 急に何か始まった。どうやらトラックの技術を活かした何かを産業にするらしい。でも関係なく騒いでいる気がするのは僕だけであろうか。
 僕は未成年なのでジュースを飲みチマチマとつまみを食べた。これが夕食なのか怪しいがこれしかない。ここまでは確実に体を壊すので早急に対策を考えなければならない。
 一方アスカさんは楽しく飲んでいる。ドワーフ達はアスカさんにあれこれお酒を薦めて、アスカさんはそれを豪快に飲んでいく。
「姉ちゃん!いい飲みっぷりだね」
「どれも美味いからな」
「じゃあこっちの酒はどうだい」
「ありがとう!いただきます!」
 アスカさんの顔は既に真っ赤になっており出来上がって様に見える。
 次々に出される酒は全てアスカさんの胃袋に吸い込まれていく。
「いやードワーフはいいな!セクハラする奴がいなくて」
 アスカさんの声もドワーフに合わせてかなり大きくなっている。
「当たり前じゃ!酒の席は酒を楽しまんとな」
「そうだそうだ、女とはベッドで楽しむもんだ」
「ちげーねぇ」「ガハハ」
 正直それもセクハラだと思う。しかしアスカさんはご機嫌だ。街で飲んだ時胸を鷲掴みにしたおっさんと比べたらドワーフなんて可愛いものなんだろう。
 謎の宴会は夜遅くまで続いて僕は先に退散した。耳元でみんな騒ぐから耳がおかしくなりそうだ。
 二階に上がって部屋の中に居ても宴会の声は聞こえてくる。
「あれ?坊主は何処だ?」「さっき女と出てったぞ」「そんなわけあるかい」「ガハハ」
 やっぱりドワーフは皆殺しにしよう。生きていちゃいけない奴らなんだ。そう決意した一人寂しい夜であった。
 
 
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【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

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