いつまでも、走れ走れ異世界トラック

なぐりあえ

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四話

カーチェイスのような何か

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ドワーフのわがままに付き合いサラマンダーに追われてから数日後、僕は平和な日常を取り戻していた。
 ドワーフ共は僕が死ぬ気で手に入れた素材を使い好き勝手にトラックを作っている。その間僕は酒やら肴等を買い出しに領都に出向いている。軽トラでの長距離移動が可能になり買い出しも僕に押し付けられたのだ。全くもって腹立たしい。
 ただそこはゴドウィン、僕に駄賃をくれて好きに使っていいと言ってくれた。なんだかんだ上に立つ者として下の人間の扱いを心得ている。
 何より自費で移動となるとトラックを借りて燃料を買わないといけない。馬車で行くと数日かかる。
 なんだかんだ買い出しを僕は楽しんでいた。ただ道楽の様にトラックをいじくり回す連中のパシリになる事については納得はいっていない。
 そんな裏腹な感情を抱えつつ今日も領都をトラックで走り回っている。
 どうやって説得したか分からないが軽トラは街の中に入れる様になっていた。ゴドウィンが門番に賄賂を渡したのか、アスカさんが領主を脅したのか分からないが聞かない事にしよう。下手なことを言って問題になるのが怖い。沈黙は金、いい言葉だ。
 街中をトラックで走ると嫌でも市民の目が気になる。ただ既にアスカさんが走り回ったおかげで誰もが軽トラを受け入れて何事もなく生活している。子供達は見慣れぬ軽トラを見て走りながら追いかけてくる。
 街中ではトロトロ走っているが子供に並走されると気が気でない。慎重かつ丁寧に僕は運伝してドワーフ共に頼まれた品を調達していく。
 まずは酒屋に行って酒を樽ごと買い付ける。酒樽は重いが何だかんだドワーフの里で重労働を耐えた僕は店員と一緒に軽トラの荷台に載せる事が出来た。眼鏡のひ弱な青年から眼鏡のガリマッチョになったのだ。
 しかし一度調子に乗り酒場でドワーフと腕相撲したが耐える事もできず瞬殺されたのだ。それ以来僕は筋肉自慢はしないと誓った。
 そんな悲しい過去と服の中に眠る筋肉と共に次の目的に向かう。
 次は市場に行き主婦ドワーフの為に果物を買いに来た。本当は工房の買い出しに来ているがどうせ行くならとアレもコレもと頼まれてしまった。そんな主婦からもお駄賃を貰っているので僕は快く引き受けた。何より主婦達は僕に優しい、同じドワーフなのになんでこう工房の奴らは僕に有り難みを感じないのだろう。
 市場でも箱で果物を買い、荷台に積み込んでいく。目を離した隙に子供達が荷台に乗って遊んでいるので優しく諭して降りてもらった。
 子供達は聞き分けが良く、直ぐに降りてまた軽トラの後を追いかけてくる。なんて素直で可愛らしいんだろう。本当にクソドワーフ共は何で子供よりわがままなんだ。
 他にも町に住んで工房を営んでいるドワーフの下へ行き、足りない素材を注文されたり、手紙を渡されたりなど細々とした用事を済ませていく。
 ゴミくそドワーフの地図は曖昧で、
「行けば分かる!」「中央辺りにある!」「住人に聞けばいいだろ!」
 などなど人にお使いを頼む姿勢が皆無な役に立たない助言をくれた。
 僕は追いかけてくる子供達に道を聞きながら工房を目指した。本当にゲロゴミクソドワーフより話しが分かる子供達だ。
 子供達に案内のお礼に主婦から貰ったお駄賃を少し渡した。子供達は駄賃を片手にお礼を言いながら走っていった。
 ああ、僕にもあんな時期があったなぁ。お母さんのお手伝いをして貰った駄賃でスーパーのお菓子売り場でお菓子を吟味してた。
 全ての用事が終わった事を確認して僕は街から出た。街を出る時の門番はその昔僕がゲロをぶっかけた人が担当していた。
 僕は目を合わせない様に前方を凝視しながら横切っていく。本当にごめんなさい、許さなくてもいいので僕を睨みつけるのはやめて下さい。他の門番も軽トラをまじまじと見つめてくる。貴方達にはゲロをかけてないでしょ、そんなに見ないでくれよ。
 緊張感溢れるひと時を過ごした僕は里に帰る為に走り出した。何度も乗っているため加速もスムーズになり運転も楽しくなってきた。
 やっぱり街中でトロトロ走るより、誰もいない街道をそれなりの速さで走るのが気持ちいい。
 一人になると気が大きくなり歌いたくなる。
「フンフンいつまでもーフーン、フンフン走れ、走れフーン」
 ああ、素晴らしい。やっぱり僕は一人が好きだ。コンコン。なんてたって自由だ。コンコン。自室も壁が薄いせいか外の音が聞こえてくる。コンコン。この一人でいるひと時がかけがえの無い時間である。コンコン。
 先程から後ろから何か音が聞こえる。僕はバックミラーを見てみると荷台に女の人がいて後部ガラスに叩いている。
「ぎゃああああああ!!!」
 怪奇現象、心霊現象、超常現象。僕は絶叫した。この広い草原でただ僕の悲鳴だけが響いていった。
「すいません、勝手に乗ってしまって」
「い、い、いいえ、大丈夫ですよ、いいお天気だからそういう人もいるでしょう」
 荷台に乗っていたのはしっかりと生きているお嬢様だった。悪霊の類ではないのは分かったが動揺が抑えきれない。冷や汗が止まらない。
 ひとまず助手席に乗せて話を聞く事にした。
「私の名前はビアンカ・マーガレット男爵令嬢です」
「男爵令嬢って事はお貴族様?」
「はい、隣の領の小さな家ですが」
 やばい、たださえ可愛いのにお貴族様となると緊張して何を話したらいいか分からない。どうしよう、何を聞けばいいんだ?好きな教科?僕は国語!
「えっと、それで何で荷台にいたんですか?」
「実は私、逃げているんです」
「逃げる?誰からですか?」
「ゲースク・ズヤーロ伯爵からです」
 誰だそいつ、そもそも貴族の名前なんて誰一人知らない。ここの領主も知らない僕なんだから当たり前か。
「その誰ですか?ゲースクさんは」
「ここの領主です」
 ここの領主でした。
 あー思い出してきた、あの小太りの偉そうなおっさんか。ぼんやりと顔が浮かんできそうでこない。納税して以来うっかり会うのが怖くて屋敷周りは避けていたんだよな。
「あの?貴方の名前をお聞きしても?」
「あ!はい、ヒカルと言います」
「ヒカル様、どうか私を逃してもらえませんか?」
「何処に?」
「隣の領のルーメンデス領です」
 さっきから聞き慣れない名前ばっかり出てくるから何が何だか分からない。そもそも逃していいのか?僕は何らかの罪に問われないのか?
 バックミラーを見ると兵士が馬に乗ってこちらに向かって来るのが見えた。
「ズヤーロの兵士です!お願いします!ここから逃してください!」
「ええい!分かりました!」
 僕は考えるのをやめた。とりあえず可愛い女の子は助けるのが異世界でのお約束だ。
 軽トラのエンジンを再びかけて走り出した。
「こうやって、シートベルトを着けて下さい」
 ビアンカに運転しながらシートベルトの指導をした。ゆったりとしたドレスを着ていたから分からなかったがビアンカさんは巨乳である。シートベルトが胸の谷間に入り巨乳が強調された。童貞にはいささか刺激が強すぎる。
 前を向いて運転しないといけないのにチラチラと巨乳を見てしまう。あまり凝視するとバレるのでバックミラーを確認するフリをしたり、わざとギアを調整する時に見たりと、あの手この手でチラチラ見た。
 ビアンカさんは後ろを見ながら追い付かれないか心配しているが僕はそれどころじゃない。振り返る時にギアを握っている左腕に巨乳が掠める。
 やばい!軽トラのギアじゃなくて僕の股間のギアを握りたい。バカヤロー。
 生き地獄だ、いや天国か?気が気でない。全神経を左腕に集中させてながらの運転だ。よかった、街道に誰もいなくて。こんな状況で街中を走っていたら事故ること間違いない。
 僕の股間のギアがバレないように不自然に足を寄せて運転していく。
「追いつけないみたいです。ありがとうございます」
「いえ、よかったです」
「どうして?足を寄せているのですか?」
「ああ、軽トラってこういう風に運転もするんです」
「そうなのですね」
 よかった、軽トラを知らないで。今の僕の状況を知られたら軽蔑するだろう。
 僕だって狭い車内で隣の奴がギンギンなら怖くて降りてしまうだろう。だから隠し通すのだ。ビアンカさんが怖がらないように。
 エスコートするのだ、なんてたって僕はセクハラドワーフと違って紳士なのだから。
「それで何でゲースクから逃げてるのですか?」
「ゲースク伯爵と結婚させられるのです」
「結婚!あのおっさんと!」
「ええ、歳は三十程離れています」
 犯罪だろ、どう考えても。それともこの世界では普通なのか?それにしても恐ろしい。
「その結婚が嫌になって逃げてるってこと?」
「はい、マーガレット領は多額の借金があり、私の両親は私を嫁がせる代わりに借金を肩代わりしてもらう算段なのです」
「それはあんまりですね。でも隣の領に逃げてその後どうするのですか?」
「目的地のルーメンデス領には私がお慕いしているメッサジェント様がおります。彼とは婚約も済ませているのですが、ゲースク伯爵が横槍を入れてきたのです」
 話を聞けば聞くほどゲースクのおっさんはゴミクズ野郎なのが分かる。
 そして婚約者がいたのね。まあ分かってましたけどね。こんな可愛い女の子がモテないはずがない。ああ、本当異世界に来ても現実は残酷ね。でも助けますよ、なんてったって紳士ですから。
「分かりました。ルーメンデス領まで送りましょう」
「本当ですか!」
「その前に後ろの荷物をドワーフの里に置いてきてもいいですか?」
「構いません。本当にありがとうございます」
 ビアンカさんは深々と頭を下げた。頭を下げると胸の谷間が見えそうになる。いや、見えた確実に谷間らしきものが見えた。そう信じたい。信じる事の大切なのだ。信じるものが救われるのだ。

ドワーフの里には何事もなく到着した。僕がビアンカさんを連れて来ると野次馬ドワーフがワラワラ出てきて好き勝手に喋っている。
「女だ!」「ヒカルの奴、女を連れてきた!」「しかも貴族みたいだ!」「嘘だろ?あんなガキが女を口説けるわけがねえ!」「そりゃ違いねー」「ガハハ!」
 本当にコイツらは下品だ。ビアンカさんの前でもお構いなしに喋っていやがる。
 アホどもを無視して僕はゴドウィンに事情を話した。
「無理じゃろ」
「え?」
 ゴドウィンはあっさり返事をした。悩む素振りも見せない。
「何で!ビアンカさんは困ってるんですよ?」
「確かにそうじゃがそれは貴族同士の問題じゃ。平民のワシらが首を突っ込んでいい話じゃない」
 その時話を聞いていたアスカさんが話に割り込んできた。
「いいじゃねーか、ちょっと送るだけだろ?」
「いいか?アスカ、貴族が平民の問題に関与しても何も起こらないが、平民が貴族の問題に手を出したら豚箱をぶち込まれる事だってある。それがこの国の常識じゃ。もしワシが許してしまえばワシも捕まりこの工房の連中を路頭に迷わす事になる。ここの責任者としてそれは出来んのじゃ。流れのお前さん達にゃ酷な話かもしれんが分かってくれ」
 ゴドウィンの言葉はよく分かる。領主の権限は凄まじいものだと身をもって知っているからだ。アスカさんも納得のいってない顔をしている。
「だけど……」
「もういいんです、ヒカルさん。みなさん、お騒がせしました。私は自力で関所に向かいます」
「それは危険ですよ」
 僕がビアンカさんを説得しようとしたその時、
「その通りだ、ビアンカ嬢」
 やたらとねっとりして嫌らしくその上人を見下す様な声が工房の入り口からした。僕はこの人物を知っている。
「ゲースク伯爵!何故ここに!」
「何故はこちらのセリフだ。貴方との結婚は決まっているのだ。早く領都に戻り式の準備をするぞ」
 ゲースクの言葉にビアンカさんは本気で怯えている。あんなゲス野郎と結婚したらどんな事をされるか分かったもんじゃない。それはそれはエロい事をされるだろう。そんな事許されない。本当に許せない。
「私は既に婚約者います!」
「そんな約束はとっくに破棄されたわ。ワシは貴方の両親から既に了承を得ている。これは紛れもない事実である」
 二人が言い争っている隙をつき僕は工房の隅に雑に置かれているピッチングマーシンを見た。その隣の箱に特製の玉が入っている。
 僕はゲースクに話し掛けながらピッチングマーシンの下へ歩いていく。
「あのーゲースクさん?お久しぶりでーす」
「そのツラまさか二度も見る事になるとは」 「覚えてくれてたんですね!」
「当たり前だ!私を愚弄しおって!忘れる訳ないだろ!」
 僕は箱の中から球を取り出した。
「いやー本当に悪いと思っているんです。だからこれは僕からの気持ちです」
「何だそれは?」
 僕は球を思いっ切り床に投げつけた。球は衝撃を与えた事により見事に爆発した。ドカーンと工房に衝撃と煙が蔓延する。
「何をする!貴様!」
「ビアンカさん!逃げますよ!」
 ゲースクが慌てふためいている隙に僕はビアンカさんの手を取り工房の入り口に向かって走っていく。
 そして入り口に停めてあった軽トラに乗りこんだ。
「バーカ!バーカ!この軽トラは青木ヒカルが盗んでいくぞ!ゴドウィンおっさん!残念だったな!この軽トラは俺の物だ!おっさんは軽トラを盗まれたアホドワーフだ!あばよ!」
「待て!逃すか!」
 ゲースクが叫ぶが待つ訳ない。
「オメーはコレでも食いやがれ!」
「うお!」
 爆発物をゲースクに向かって投げて僕は急いでエンジンをかけて走り出した。
「ビアンカさん!どっちに行けばいいんですか!」
「えっと、この道を左に」
「分かりました!」
 僕はハンドルをきり、速度を出しながら左折した。
「あの?大丈夫なんですか?」
「大丈夫です!あの爆弾少し威力を落としているので死にはしませんよ!」
「そうじゃなくてヒカルさんです。このままではヒカルさんは投獄されてしまいます」
「大丈夫です。牢屋は一度入ってますし。元々流れって奴でこの世界には住むとこ無しの無一文で来ました。牢屋はご飯もまずいですけど一応貰えるし、雨風凌げるので安心してください」
「……本当にありがとうございます」
「それは無事に関所に着いてからです」
「はい」
 僕はこれまで出した事無い速度で軽トラを運転していく。この後の事は何も考えていない。何だかアスカみたいになってきた。でも悪い気はしない。昔の自分を置き去りにする様に僕は猛スピードで街道を走り抜けていくのだ。
 舗装されていないので時折り軽トラは大きく揺れる。
「きゃ!」
 するとビアンカさんの巨乳も揺れる。僕がどんなにスピードを出しても、僕の煩悩だけは置き去りに出来なかった。
 見たっていいじゃない、だって童貞だもの、チェリボ。
 

ビアンカさんを乗せて軽トラは街道を走り抜けていく。ビアンカさんが言うにはこの道を行けばルーメンデス領への関所がある。僕に出来ることは軽トラで走って行くだけだ。
 追っても来ないだろう。そもそも馬が追い付くはずがない。僕はふっとバックミラーを見た。
 ほら、馬なんかいない。これなら問題なく関所に着きそうだ。ただ薄らと見える動くものは何だ?
「後ろに見えるのは何ですか?何かこっちに向かって来てるような」
 ビアンカさんに後方の確認をしてもらった。
「いけない!あれは走竜です!」
「ソウリュウ?」
「地を走る竜です!ゲースク伯爵は本気で捕まえるつもりです!」
 僕も後ろを確認してみると猛烈な勢いで軽トラを追いかけて来るラプトルみたいな奴らが見えた。走竜の上には兵士が乗っており武器を構えている。
「やばい!」
 僕はギアを上げて更に速度を出した。今までも別にトロトロ走ってたわけじゃない、それでもあの走竜は速く軽トラを追いかけてくる。
「速くね!こっちは車だぞ!」
 そういえば何で里にゲースクがいるのかと考えなかったが、あの走竜で追いかけて来たのか。それくらいアイツは速いんだ。
「小僧は殺して構わん!ビアンカは必ず生かせ!」
 ゲースクは周りの走竜より一回りデカいのに乗って二人乗りで追いかけて来る。操縦は兵士に任せて自分は後ろでギャーギャー騒いでいる。操縦している兵士が可哀想なくらい喚き散らかしている。人間ああは成りたくない。
 走竜は遂に軽トラに追い付いた。僕が乗っている右側を並走してる。兵士は槍を構えてこちらに向かって刺してきた。
「うお!怖い!やめてよ!ひい!だからやめてって!」
 軽トラにガツガツ槍を刺してくる、それに明らかに僕を狙っている。
 ガツ!という音と共に遂に窓ガラスに槍が当たった。ガラスにヒビが入り、これ以上刺されると貫通してしまいそうだ。
「もう知らないからな!」
 僕はハンドルを切り兵士に幅寄せした。だが流石生き物、自分の意思で走竜は避けていく。
「もう!何なんだよ!」
 僕が駄々を捏ねていると軽トラの左側にゲースクの野郎が乗る走竜が追いついた。
「さあ!さっさと止まれ!そして牢屋に行け!」
「誰が止まるか!バーカ!」
「バカだと!誰にものを言っているのか分かっているのか!」
 ゲースクは僕と言い合う為か右側に回ってきた。律儀なやつだ。それとも馬鹿なのか。
「オメーだよ!オメー!オッサンのくせに若い女の子を嫁に貰うな!気持ち悪い!変態伯爵!」
「変態伯爵っ!誰が変態伯爵だ!」
「だからオメーだよ!気持ち悪いから貴族のくせにそんな歳でも結婚出来てないんだろ!」
「結婚しとるわ!ビアンカ嬢は妾になるのだ!」
「より気持ち悪いわ!いい年したおっさんが欲情してんじゃねーよ!さっさと枯れろよ!」
「さっきからワシを馬鹿にしよって!」
「お?反論できないのか?ビビって下の伯爵様も縮み上がってんじゃねーのか?」
「さっさと殺せ!殺してその訳の分からん乗り物を止めるのだ!」
「やってみろ!おら!」
 僕はゲースクに向かって幅寄せした。
「危ない!何をする!」
「幅寄せだよ!またの名は煽り運転だよ!ほら!ほら!」
「危ない!危ない!」
 ゲースクが右側を並走してくれると俺への攻撃が無くていい。今はコイツを煽りつつ関所を目指そう。
「もういい!ワシが直接乗り込んでやる!」
「え!それは危なすぎます!」
「うるさい!」
 ゲースクと兵士が何だか揉めている。乗り込むって本当なのか。
 ゲースクの走竜がピッタリと軽トラに寄せると、ゲースクが荷台に飛び乗ってきた。
「マジかよ!おっさん!」
「当たり前だ!お前はワシが直接やらんと気が済まん!」
 絶対に間違っている。でもゲースクが乗ってきたせいで危険な運転が出来ない。これでも人殺しはしたくない。
「おら!開けろ!」
 ゲースクが後部ガラスをガンガンと叩いている。軽トラの周りには走竜がびっちりと並走している。止まる事もできない。かと言って危険運転も出来ない。
 どうする……ゲースクは死んでもらうしかないのか。でもこんなゲス野郎でも一応人間だ。そこまで罪悪感は無いが自分が人殺しになるのはまっぴらごめんだ。
 覚悟決めるしかないのか……
 ゲースクを見ようとバックミラーを確認するとはるか後方に何かが見えた。何だあれ?
「ビアンカさん!後ろに何かいませんか?」
「ワシがいるだろ!」
「いやアンタじゃなくて、もっと後ろ!」
「あれは!」
 ビアンカさんが確認する前にゲースクが振り向いて何かを見た。ゲースクはわなわな震えている。何が追いかけ来るんだ?
「忘れもせんぞ!あの乗り物にワシは!」
 徐々に大きくなるそれは、
「おーい!ヒカル!無事か!」
「アスカさん!」
 アスカさんがトラックで追いかけて来てくれた。
「ガハハ!囲まれとる!」「情けないのう!」
 その声は、
「ゴミクズセクハラゲボクソドワーフ!」
 トラックの屋根にドワーフ達が乗っている。更にピッチングマーシンまで載せているじゃないか。
「ほれ!発射!」
 ピッチングマーシンから爆発物が放たれる。軽トラの周りで爆発が起きた。その爆発で走竜は驚き混乱している。
 その隙にアスカさんは軽トラとの距離を詰める。そして軽トラの右側に並んだ。
「悪い!ピッチングマーシン載せるのに手こずった!」
「それよりいいんですか!ゴドウィンさんは許してくれたんですか!」
「ガハハ!安心しろ!ワシらも盗んで来た!」
「え!」
「アスカが追いかけるって聞かないもんでの!」
「一丁盗みの片棒を担いだわけよ!」
「これでワシらも仲良く豚箱送りじゃ!」
 ありがとう、僕のせいでみんなが罪を被るなんて。
「そういう訳だから、また一緒に豚箱に行こうぜヒカル!」
「はい!」
「周りのトカゲ共はワシらが相手してやるからヒカルは嬢ちゃんを送ってやれ!」
「そんでお礼代わりに乳でも揉んでやれ!」
「いいのう!それ!ワシが揉みたいのう!」
「黙れ!セクハラドワーフ!」
 最悪の言葉を交わしてドワーフ達は爆発物を走竜に向かって投げていく。
 軽トラの周りを囲む走竜はいなくなった。
「よし!このまま突っ走ります!」
「はい!お願いします!」
「ワシを忘れるな!」
 荷台からゲースクが叫んできた。そういえばコイツがいるのを忘れてた。でももう怖くない突っ走って行くのみ。
 前方に何か見えてきた。
「あれが関所です!」
「関所って橋なの!」
 関所は大きな川を跨ぐように造られた橋であった。なるほど、川の隔てて領土が分かれているのか。
「よし、このまま直進します!」
 ゴールはもう直ぐだ。後はあの橋を越えればいいだけだ。でも待って。なんかあの橋動いてない?
「関所ははね橋なんです!」
「それを早く言ってよ!」
 どうする!速度を出し過ぎている。このままブレーキをかけてもいいが確実に荷台にいるゲースクが吹っ飛ぶ。それじゃあただじゃ済まないだろう。
 急カーブをするか!いやそれでもゲースク吹っ飛んでしまう。
 川にはいるか!川の深さが分からない。
 なら答えは一つだ。
「しっかり掴まってて下さい!このままつっこみます!」
「え!」
「口も閉じて!」
「お前!本気か!止まれ!止まれ!」
 僕は更に加速して上がりかけているはね橋に突っ込んでいく。勢いよく橋に乗り込み、斜めになって行く橋の上を駆け上がる。
「おら!イッケェェェェ!!」
 橋の先から発射された軽トラは宙を飛ぶ。その瞬間時間がゆっくりと流れて行くのを感じた。ああ、これがゾーンってやつか?こんなの初めて!
 あれ?向こうのはね橋上がってなくね?このままだと下に落下しね?大丈夫なのこれ?いやもう飛んでるし引き返せないし。いけるよね?いけるよね?いけるよね!
 ドスン!向こう側の橋に着地した衝撃で軽トラが大きく揺れた。
 僕はまだまだゾーンに入っている。僕はビアンカさんの巨乳を凝視した。ゆっくりとブルンブルン揺れるたわわなオッパイを僕はしっかりと目に刻みつけて堪能した。
 軽トラは向こうの橋に着地したがしっかり運転しないとハンドルが持ってかれそうになる。必死にハンドルにしがみつき橋の上を走行する。
 そしてようやく川の向こう側に着きゆっくりと軽トラの速度を落として駐車した。汗びっしょりで息も荒い。
「ふー……生きてる」
「そうですね……生きてますね」
「ひひ」
「ふふ」
「はっはははは」
「ふっふふふ」
 二人して訳も分からず笑ってしまった。もうテンションがおかしくなっているのだろう。マジで死にそうになったんだから笑うくらいいいだろう。
 二人で愉快に笑っているのに軽トラの周りを兵士が取り囲んだ。
「何だ!お前達は!」
 それもそうか、こっちは別の領になるのだ。僕達は不法侵入したみたいだ。僕はとりあえず軽トラから降りて手を上げて無抵抗のアピールをした。
「ビアンカ!ビアンカなのか!」
 兵士の中からやたらとイケメンが出て来た。誰が見ても貴族と分かる格好しているイケメンはビアンカさんの下へ走って行く。
「メッサジェント様!」
 あーやっぱりねこいつが婚約者ね。会えてよかった。でも公衆の面前で抱き合うのはよした方がいいかな。
「心配していたんだ。いつまで経っても君が来なくて。関所まで来たら向こうは橋を上げるし」
「ご心配おかけてしてすいません。実はゲースク伯爵に捕まっていて。でもこちらのヒカルさんにに頼んでここまで連れて来てもらえたんです」
 ビアンカさんは僕の方を見てそう伝えた。
「ありがとうございます。貴方のおかげでこうしてビアンカと再会する事が出来ました」
「そうだ!メッサジェント様!ヒカルさんはゲースク伯爵に反抗して私を送り届けてくれたのです。このままではヒカルさんは捕まってしまうのです。どうしたいいでしょう」
 ビアンカさんは優しいな。こんな感動的な場面で僕を心配してくれるなんて。
「その事なら多分大丈夫だ。君を助ける為にゲースク伯爵の事を色々調べてみたら、どうやら不正会計の痕跡があってね。王国に税を納めていない可能性が出てきた。この事を国王陛下に報告すればゲースク伯爵はその地位を追われるだろう」
「と言うことは!」
「ああ、ゲースク伯爵への罪は無くなることになる」
 ぼけーと聞いていたらとんでもない話が出てきた。僕は牢屋にぶち込まれなくて済むのか。話題のゲースクは軽トラの荷台で気絶してそれどころではないが。
「よかったですね!ヒカルさん!」
「あっはい!ありがとうございます」
 僕は深々と頭を下げた。
「いや、お礼を言いたいのはこちら側だよ。何かお礼をさせて欲しい」
「いえ、あの、じゃあ荷台にいるゲースクを引き取って下さい。このままじゃ帰れないので」
「はっは、君は欲が無いね。分かった今はそれで納得するから後で必ず連絡をくれたまえ」
 イケメンはビアンカさんを連れて行ってしまった。兵士達は荷台からゲースクを下ろしてえっちらほっちら運んでいく。
 これで僕の依頼は終わった。軽トラに乗り込み橋に向かって方向転換する。向こう側のはね橋はゆっくりと降りてきて渡れるようになった。
 橋の向こう側にはアスカさん達が僕を待ってくれている。僕は軽トラをノロノロ走らせて橋を渡っていく。バックミラーを見るとビアンカさんがこっちを見て手を振っている。僕は窓から手を出して振り返した。
 何を勘違いしたのかアスカさんやドワーフ達が僕に向かって手を振っている。まあ、お貴族様とは付き合えないし、あっち側が僕にはお似合いだろ。
 
 帰り道はアスカさんのトラックの助手席に僕は乗っていた。
 軽トラは燃料切れで牽引してもらっている。その軽トラの荷台にはドワーフ達が乗りワイのワイの騒いでいる。
「いやーよかった、覚悟はしてたけど豚箱行きは嫌だったんだ」
「そうですねアスカさん、あの貴族には感謝しないと」
「なあ、ヒカルはよかったのか?」
「何がですか?」
「ヒカルはお嬢ちゃんを送っただけで何も貰ってないだろ?タダ働き同然じゃん」
「あーそうですね。まあカッコつけたかっただけです。それにあの貴族から何か貰えるらしいんで大丈夫です」
「そうか、それならよかった」
「それにトラックで暴走するのも何だか楽しかったんで」
「ははっ!そうだな!気持ちよかっただろ!」
「はい、自分でも信じられないです」
「楽しんだならいいか」
「そうですね……」
 あ、何だか眠気が……ずっと緊張の糸が張ってたけど急に切れた……意識が、
「かっこよかったぜ、ヒカル」
「うん?……はい?」
 アスカさんが何か言ってる。けど眠くて……

 その後の事はよく覚えていない。次に目覚めたのは工房の前で、僕がぐっすり寝ているところをゴドウィンがぶっ叩いて無理矢理起こされた。
「馬鹿共!」
 トラックを持ち逃げしたメンバー全員がゴドウィンに怒られた。罰として工房の雑用をしばらくやらされた。まあ、牢屋に入るよりマシだし僕らが悪いのは決まっているので真面目に従った。
 ただその雑用がいつも僕がやっている事であった。僕の仕事って罰だったのか?それともゴドウィンが気を遣ってくれたのか?何だか分からないまま僕はモヤモヤした感情を抱えつついつもの仕事をこなした。
 後日ゲースクは脱税の容疑で捕まった事を知った。そんなゴタゴタで僕たちは未だ捕まっていない。貴族に逆らった罪だがその貴族がいないなら立件出来ないのだろう、ざまーみろ。
 そして同時期にビアンカさんから手紙が来た。逃亡の手助けしてくれたお礼と無事メッサジェントと結婚できると言う報告である。それと一緒にメッサジェントからお礼の金貨が送られてきた。
 懲罰組はみんなで喜んだがゴドウィンがボコボコになったトラックの修繕費に充てると言って殆どを持っていってしまった。
 残った金貨は迷惑料として酒場で工房のみんなに酒を振る舞った。元々泡銭だし、お金の為に働いた訳じゃないから気にしない事にした。
 僕はお酒が飲めないので豪華な料理を隅っこで堪能している。そこにドワーフ達が絡み酒をしてきた。
「美人さんを逃して残念だったな!」「それよりヤッタのか!トラックの中では二人っきりだったろ!」「なんだ!ヒカルが遂にヤッタのか!」「な訳ないだろ!ヒカルだぞ!」「ガハハ!」
 素晴らしい思い出を汚しやがって。全員くたばりやがれ。
 僕はしれっとドワーフの皿の肉に辛味ソースを大量にかけて移動した。僕はアスカさんの下へ向かった。その途中後ろからドワーフが盛大に咽せる声が聞こえた。いつまでも大人しくしてると思うなよ。
「おう!ヒカル!楽しそうじゃねーか!」
「はい、ご機嫌です」
「それはよかった。今度また貴族を見つけたら、送り届けようぜ」
「そうですね、その後はまた宴会しましょう」
「お?ヒカルの奢りか?」
「もちろんです!」
「かっこいいぞー!ヒカル!」
 その夜は遅くまで宴会が続き、僕が就寝する為部屋に戻っても下から愉快な声が聞こえる。だけどそんな声も今は心地よかった。
 
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異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

異世界転移物語

月夜
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このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

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