この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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21.☆ コリンは約束を守って欲しい。

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 その後、アーバンたちが連行されたり、まあ色々あったわけだけど、そこはシークたちは関わらないことにして、さっさと現場を去った。それも、可及的速やかに‥って感じで。もう、コッソリと‥。ここは今、騎士団によって「危ないから」「立ち入り禁止」になっている土地、「不法で管理地に立ち入っている」って言われるような案件なんだ。
 
 さて、森から離れて、一息‥。
 シークは、さっき以上の‥? さっきとは違う困った状況に立たされていた。

「約束のチューしてください」
 さっきまでの相棒。
 可愛い見かけとは違い、魔法も性格も結構「アレ」なコリンが、自分の前で「ん! 」って強請る様に‥目を瞑っている。
 シークは、固まりながら‥ちょっと頭を整理してみた。
 
 そもそも、あれって‥承諾したっけ?
 確かに、この提案? お願いはコリンから聞いた。
 何だっけ‥「事件が解決した、お祝い」だっけ? ‥そもそも、今までペアとかパーティーは組んだことないけど‥みんなそんなもんなんだろうか?
 お祝い‥。
 そういうのって、「やったな! さっさとギルドに行って賞金貰って来て、いいもんでも食おうぜ! 」とかいって、女の子のメンバーが「私は先にお風呂が入りたいわ~。もう、気持ち悪くってぇ」とか言って「じゃあ、今日は風呂付の宿を取るか! 」とか‥。
 ‥お祝い要素、無いよな。
「お祝いって言葉が嫌なんですか? でも、まあ約束ですから! 」
 ‥お祝いじゃなくても、約束は残るんだ。
 理由不明の約束だけど‥。

 ‥でも、まあ、‥約束なら仕方ない‥のかな?
 約束破った、ってこの先思われるのも、何だし‥。
 ちゅうしたら、いいなら、楽なもん‥だよね?
 軽く、ちゅって‥。
 それだけのことじゃない?


「シークさん」
 コリンは、上を向いて、「ん! 」って瞳を瞑った。
 向き合ったシークさんがちょっと動いたのが雰囲気‥気配で分かって、期待で‥ドキドキした。
 ドキドキしたのに‥
 シークの唇は、ちゅっとコリンの頬に軽く押し付けられただけ。
「え‥」
 不満気に目を開けようとしたコリンの両肩をシークの両手がやや強引につかみ、その胸に抱き込まれる。
「無茶ばっかりして‥! 」
 血を吐くような、‥絞り出すようなシークの声。
「俺がどんなに心配したと‥! 」
「シークさん‥」
 ここで、「いや、でも、僕無敵だし」は‥言っていい様なセリフじゃないんだろうな~。ってコリンはぼんやり思って、そのあと呑気に「シークさんの胸、広~い。暖~かい」って思って‥
 でも、「心配してくれて嬉しい」が一番大きくって「心配させてごめんなさい」って言わなきゃなって‥
 シークの胸から抜け出して、シークを見上げ
「シークさん、ごめ‥」
 開こうとした口を、シークの唇に塞がれた。
 押し付ける様な不器用な、ちょっと乱暴な口づけ。
 開いてた口にシークの熱い舌が入り込んできて、コリンの舌を絡めとられる。
「ん‥んぅ‥」
 ‥ちょっと予期してなかったし‥なんだかんだいって、こういうことに、慣れてないから、っていうか初めてだからどうしていいか分からないし、‥息つぎの仕方がわからないから息も出来ないし‥苦しいっ!
「は‥ぁ。しーくさ‥」
 夢中で口づけに応えて、両腕でシークにしがみついた。
 シークの唇がちゅっと軽い音を立てて離れると‥ずるずると力が抜けて、しゃがみ込みそうになるコリンをシークが両腕を掴んで支える。
「ん‥っ、しーくさん‥好き‥」
 シークを見上げたコリンの頬は高揚し、目は潤んでて、酷く扇情的に見えた。
「‥! っ」
 片腕をコリンの腰にまわし支える。
 もう片腕のたどたどしい手つきで、シークがコリンの涙をぬぐう。
 コリンを見降ろして‥気遣う様にコリンを見たシークの顔は、さっきまでコリンにあんなに激しい口づけをしていたなんて思えない位‥困ったように‥苦笑いしたような‥優しい顔だった。
 息も絶え絶えのコリンとは違い、息すら乱れていない。

 そんな顔に、コリンの今まで張り詰めていた緊張の糸が、ふつりと切れた。

「‥もう会えないって思った‥」
 シークを見上げているコリンのトパーズ色の宝石のような大きな瞳に涙の粒が盛り上がる。
 両腕でシークの首にしがみつく。
「ホントは‥」
 涙が、もう一つ瞳から落ちると、後からあとからあふれてきて、頬を伝う。
「ホントは、僕‥怖くって、でも、僕はもう成人だし、兄さんたちにこれ以上迷惑かけたくないし、父さんたちが無理して神殿に行かせてくれて‥だから、僕、早く一人前になりたくって就職先必死で探した。‥でも‥僕の事、誰もその能力で見てくれる者はいなかった‥! 。
 ‥警察官で僕を相棒に‥って言ってくれた人は、皆がいない時に、僕にいやらしいことしてこようとした‥。相棒だろって。だから、お試し期間で僕の方から断った。‥相棒を組むのが怖くなって、それ以降、相棒は探さなかった。密偵はどうかなって思って話を聞きに行ったら、探偵は‥色仕掛けもするって聞いて‥僕なら、その役目にぴったりだって、密偵じゃなくて、ハニートラップとして使えるって‥。僕そんなの嫌で‥っ! 
 インタビューも同じようなもんだって、‥その時先輩から聞かされた。
 そんな時、あの雑誌社の仕事をしって、ここならって思ったんです‥」
 一度決壊を許した涙のダムは、留まることを知らないんじゃないかって位溢れ続けた。
 シークが、そんなコリンの身体を宥める様に抱きしめた。

 人並み外れた美貌は‥良いことばっかりじゃない。
 今まで、「そんな目」で友達から見られてきたことはなかった。友達は皆「しょうがない奴」ってコリンの事見てくれていた。誰も、「イヤラシイ目」で見て来るものはいなかった。
 見た目だけ‥そんな風に‥思われるのも悔しかった。
 誰よりも勉強して来た。だけど、‥実力が認められることはなくって‥就職試験を受けに行ったら、コリンの実力を見るより先に、見た目だけで‥。
「ちょっと位、実力が落ちても、あの顔だったら使えるな」
 って言った。
「どうせ、顔だけのもんだろう? 」
 って。

 コリンのこと少しでも知っていたら、コリンが甘い性格じゃないって知っている。
 見かけ通りの甘い性格してないって、わかる。
 だけど、知ってもらう為には、相手にまずコリンの話を聞いてもらわないといけない。
 ‥でも、相手はコリンの話を聞こうとはしなかった。
 コリンの顔をみて、デレデレして、誓約士の資格を見て「多少腕が落ちても、あの顔なら」って決めつけた。
 色物としての使い方しか‥コリンに求めなかった。
 ‥人の事信用できないって思った。
 だけど、閉じこもってなんて居られない。
 立ち止まってる時間は自分にはない。
 周りが皆仕事を見つけてくる中で、決まっていない自分に焦って‥
 自分も早く仕事をみつけるんだってやっけになって‥。
 周りの「そんなに焦らなくてもいい、落ち着いて探せ」って心配してくれる言葉が、‥「お前なんてどうせ無理」って言われてるみたいに勝手に聞こえた。‥被害妄想だって分かってたけど、そう思うことで、心を奮い立たせた。無理にでも、自分の心を奮い立たせてなくちゃ、くじけそうだった。
 見掛けは、もう見せない。
 ローブを着始めたのは、‥思えばそれからだった。
 ナナフルの雑誌社にもその恰好で面接に行った。
 ローブを外したのは、面接で「じゃあ、今日からよろしく」って決まった後だった。
 今までの事を話して、ローブを着ていたことを謝ると「大変だったね」って言ってくれて、「目立たない方がいいしね」ってそれに賛同してくれた。

 ナナフルもザッカも‥二人は家族や友達みたいに僕を心配してくれた。
 両親には、二人の立派な息子‥兄たち‥がいて‥だのに僕は兄さんたちみたいに立派じゃなくって‥両親に僕は申し訳がなくって、‥それに兄たちに見返してやりたくって、早く就職しなくちゃって。だけど、就職したら就職したで、早く一人前って認めてもらいたくって‥二人が、僕の事ゆっくり育てようって思ってくれてた‥気付かなかった。
 分かってる。自分が勝手に‥誰も、僕のこと兄と比べてなんていないのに‥一人でから回ってたって。
 だけど‥、僕は一人で‥苦しかったんだ。
 もどかしかったんだ‥。

「コリン」
 シークが優しくコリンを抱きしめ
 ‥ようとしたところで

「コリン!! 」
「コリン!! 」
 二人の先輩たちが慌てて走ってきた。
「ナナフルさん! ザッカさん! 」
 コリンが二人に走り寄ったら、二人はコリンを抱きとめた。
 ザッカは‥怒ってるみたいだ。
「お前、何、無茶してるんだ!! 」
 って、鬼のような形相でコリンに怒鳴ってる。
 ‥そりゃあ‥まあね。
 こりんは、ふにゃっと眉をハの地に寄せた。
「何処にいたんですか! 何処を探してもいなくて、私たちがどんなに心配したかわかってるんですか! 」
 優しい癒し系のナナフルまで、怒ってる。
 ‥怒り方まで「聖女様」みたい。
 こんな時に不謹慎‥って怒られるかもしれないけど、ちょっとほっこりした。
 そして、怒れるザッカの切れ長の目は、コリンの泣きはらした目と、涙の痕を見つけ
「コリン、お前泣いてるのか!? まさか、シーク・ナーサリー貴方が!? 」
 その怒りの矛先はシークに向かった。
 目がもう、三角みたいになってる。心なしか、吊り上がってるようにも‥見える。
 ‥こ‥怖い‥。
「違うよ!! シークさんは僕を助けてくれたんだ! 」
 コリンは慌ててシークの前に立った。
「シークさんは悪くなんて、‥何も悪くないよ! 泣いてるのも、僕が勝手に‥」
 泣いてることが、急に恥ずかしくなって言葉がしりすぼみになってしまった。
 ‥いや、そう。ホントに。勝手に取り乱して、勝手に泣いて、‥結果シークさんが泣かせたって思われる‥。
 ホント、どうしよう。
「本当に!? 」
 コリンと視線を合わせて、念を押す、聖女様‥ナナフル。
 その目が「嘘ついてないでしょうね?! 」って言ってるみたいに見える。‥人間ウソ発見器になれるね。ナナフルさん。きっと、この人に嘘なんてつけないんだろう。この人の恋人になった人は、浮気とかきっと隠せないんだろう。じっと見られたら‥自分から自白しそうだもん。
 だけど、僕は大丈夫。嘘とかついてない。
 コリンは、しっかりナナフルの目を見て、頷いた。
「シークさんは、僕が世界で一番、信頼できる人で、‥世界で一番好きな人なんだ。シークさんが僕に酷いことなんてしない。僕が‥シークさんと居て、嫌な思いすることなんて絶対にない! 」
 はっきりと、言う。

「コリン‥」

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