この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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37.アンバーの生い立ちと、悪いの魔術士の供給方法

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 ガシャガシャって玄関で鍵の開く音。
「帰ってる? 」
 って澄んだ声が玄関から聞こえる。
 ちょっと遠慮がちな、優しい声。
 ぴくって、コリンが弾かれた様に玄関を見て、満面の笑みを浮かべる。
 声を聞いただけで、そこにいるのが誰かなんて、もう分かってる。
 嬉しそうに、そのまま玄関に走り寄る。
「あ、ナナフルさん! おかえりなさい~! 」
 まるで、小さな子供の様だ。
 暫くすると、見掛けに寄らず人見知りなコリンが全幅の信頼を寄せている彼の「母親」の腕をぐいぐい引っ張って一緒に仲良く話しながら部屋に戻って来た。
 部屋の空気が一気にふわっと軽くなったような錯覚を覚える。
 さっきまでの何だか重苦しい雰囲気の残る一角の男どもが、のそりとその頭を上げる。事務所のローテーブルで食事を終え、今はコーヒーを飲むザッカとシークとアーバンだ。
 ザッカは、ナナフルに、「お帰り」と、微かに目元を緩めた。
 それは、相変わらず他の誰に対する表情とも違った優しい顔で、シークもおもわず笑顔になる。(← 相変わらず他の人には分からないレベルの変化)
「これ、悪い魔術師のアンバーです~」
 コリンは、首を傾げるナナフルの視線の先にアンバーがいるのを察して、アンバーを立たせながら説明した。
「‥悪い魔術士って紹介どうなんだよ。え! ‥‥美人ですね。俺、アンバーって言います」
 急に立たされて、しかも、その雑な紹介に不満顔でコリンを睨み付けたアンバーは、しかし、目の前に立つ麗しい青年‥ナナフルに気付き目を見開いた。
 自分を引っ張るコリンを後ろに退けると、しゃきんと立ち上がり、背筋を伸ばして挨拶する。
 表情なんて、さっきまでの不貞腐れた表情じゃない。ちゃんと、青少年って感じの爽やかな笑顔を浮かべている。ちゃんとしてたら、元々容姿の整ったアンバーは、立派な美青年になる。ちょっと影があって、色気過多な雰囲気だから、「いい青年」って感じでは無いんだけどね。
「おい‥」
 あまりにも態度が違うんじゃないか‥。
 睨むコリンと、アンバーにむかっとした顔を向けるザッカ。
 ナナフルは、目の前で繰り広げられる茶番に一瞬驚いたような表情をしたものの、
「ふふ、初めまして。ナナフル・レインです」
 丁寧にお辞儀をしてふわりと微笑むと、「失礼」と断って、コートをハンガーにかける。
 アンバーの目は、その間もずっとナナフルに釘付けで、ザッカの表情は目に見えて不機嫌に変わっていった。そんな三人の様子を苦笑いして見ているのはシークで、コリンはそんなことには気付きもしないで、ナナフルを見上げながら
「ナナフルさん。出掛けてたんですね! 」
 無邪気に話しかけた。
「ええ。私の方は私の方で出来ることをしておこうと思って」
 ナナフルがコリンに頷くと、シークがナナフルの分のお茶を淹れて持ってきた。
 ‥シークさん、気が利く。
 コリンは尊敬のまなざしをシークに向けた。
 ‥やっぱり好き。
 ザッカは、シークからお茶を受け取ると、机に置き自分の席の横をちゃっかりナナフルに勧めながら
「調べ事? 」
 ナナフルに確認した。ナナフルは頷き椅子に座りながら、
「ええ。黒幕の正体‥黒幕にたどり着くまでの情報を整理しておこうと思ってね」
 茶封筒をザッカに手渡した。
 コリンが、なるほどなるほど、と何度か頷きながら、
「丁度黒幕側‥敵側の人間を連れて来てるから、本人に聞いてみたらいいんじゃないですか? 何か知ってるかもしれないですよ。黒幕の事‥」
 アンバーを見た。
「‥まあ、嘘はつかないだろう」
 ザッカが浅く頷くと、コリンはころころと楽しそうに笑いながら
「嘘ついたら、誓約の規定違反で痛い目に遭いますしね! 」

 ‥とんでもないことを言った!


「え! 」
 ‥痛い目! なにそれ、怖い。聞いてませんけど!!
 ‥まあ、‥法的に強制力があるだけじゃ、海千山千の極悪人が言うこと聞くわけないわな‥。
 そうだよな‥。物理的にも強制力あるよね‥。そんなこと思いもしなかった‥。そもそも、シークの事言えない「誓約に捕まった」って分かった時から‥認めた時から、俺は抵抗する気なんてハナっからなかった。
 法的強制力に加えて物理的強制力‥。
 ‥コリンの本性知ってるだけに、怖すぎるんだけど!!
「そりゃそうですよ~。僕、なめられるの嫌いですから~」
 コリンが、ちらっとアンバーを見て、ころころと‥面白そうに笑った。
 ‥恐ろしい。他の誰より恐ろしい。
 あからさまに顔色が悪くなるアンバーと、‥アンバーからそっと目を逸らすシーク。
 ‥ザッカにとっては、どうでもいいことだから、「ふうん」で終わりなんだけどね。それどころか「痛い目ってどんなだろ。ちょっと見てみたい」なんて考えたりさえもしていた。
 ナナフルが、そんなザッカに苦笑しながら(← 付き合いが長いから、ザッカが考えていることがわかってしまう)
「では、質問します」
 インタビューを始めた。
 インタビューするのは、「聞かないと分からない事」だけ。出身地その他の情報はすでに集めてある。それを踏まえての、(だけど、それが正しいという確証はないので、その都度確認していく)質問だ。
 時間が惜しいのか、初めっから
「‥アンバー・ラッセン。貴方は、雇い主について何か知っていますか? 」
 飛ばしていくつもりらしい。
 アンバーを見て、「回りくどい質問は必要ないな」と判断したらしい(後、嘘言ったら怖いって、理解してるみたいだし。‥ホント、誓約士‥コリン様様だ。仕事が楽だ‥)
 アンバーは、小さく首を振ると
「いいや? 小遣い稼ぎを持ち掛けられただけだ」
 即答した。
 嘘は言っていないらしい。隠してもいないらしい。だって、アンバーには何の変化も見られなかった。


「俺が魔術を教えられた大人が、魔力の衰えを理由に引退して、その後を俺がそのまま継いだって感じだな」
 その後のアンバーは聞かれるままに、‥聞かれる以上の事を話すことはなかったが‥話し続けた。
「魔術を教えた大人‥師匠みたいな感じ? 」
 コリンも‥別に情報収集って目的でもなく、気になるままに質問を挟んだりしている。
 はっきりいって、邪魔である。だけど、「確実に邪魔! 」ってなったら、ナナフルもコリンを追い出すんだろうけど、今のところは「アンバーがリラックスして喋りやすいかも」って位の感覚で、コリンの同席を認めている。‥いつでも追い出す準備は万端だけどね☆
 コリンの質問にアンバーは小さく首を振って
「そんな良いものでもないな。‥俺の両親を殺した奴だ。俺に魔力があったから弟子にされた」
 思った以上に衝撃な事実を、まるで大したことでもないかのように告白した。

 両親を殺した奴?

 アンバー以外の視線がアンバーに集まる。
「両親を殺した? 」
 その気になる問題発言を反芻したのは、コリンだった。
 だけど、ここではコリンが適任だっただろう。急にナナフルが口を挟んだら、委縮して話しにくくなるかもしれない。だから、ここも見守るだけにとどまった。
 アンバーは、何でもない‥寧ろ「どうかしたのか? 」とでも言いたげな‥顔でこてりと首を傾げた。
「ああ、‥まあでも、戦いはどちらが悪いもないからな。負けたら、終わりだ。俺の両親は奴に負けた。‥それは仕方が無いことだ」
 ‥と、本当に「何でもない」って顔で言う。
「戦い‥アンバーのご両親は攻撃系の魔術士だったの? 」
 攻撃系の魔術士との戦いで敗れて‥殺されたってことは、殺された側も魔術士だとか剣士だったって事だ。そうじゃなかったら、「攻撃系の魔術士に襲われて殺された」ってなって「仕方が無い」とはならないだろう。その上、「アンバーに魔力があったから弟子にされた」ってことは‥両親のいずれもが魔術士がだったってことだ。じゃないと、「アンバーには魔力がある」って一瞬で判断されない。両方魔術士だと、子供は確実に魔術士になる。(片方が魔術士だった場合、子供に魔力があるかどうかは、半々なんだ)
「ああ‥両方とも冒険者として働いてた魔術士だったんだ」
 アンバーが頷く。
「冒険者‥」
 と呟いたのは、シークだったが、それは余りに小さかったので、誰も気に留める様子はなかった。
 アンバーは、ぽつりぽつり‥と身の上話を始めた。
「奴は、攻撃型の魔術士だった。もう、最初の一撃から両親の負けは決まってたよ。‥力の差が歴然だったんだ。魔術士だった両親にはそれが瞬時に分かった。
 だから、親父はおふくろと俺に逃げろって叫んでそいつに激突していった。
 おふくろは‥防御系の魔術士だったおふくろは‥、人の魔力をよむのが得意だった。だから、「逃げても無駄だ」って‥親父よりももっと正確に分かったんだ。ありったけの防護膜を俺にかけて、親父の防護に走った。
 無駄だったけど。‥一瞬で勝負はついた。
 ‥俺は、そいつに一矢報いようと思って、咄嗟に見様見真似で攻撃魔法を撃ったんだけど、‥勿論かなわず‥気が付いた時には、そいつの家だった。‥拉致されたんだ。保護された‥ではなく、拉致だ。そいつは、俺を魔術士として育てて、いずれは大金を稼ぐような魔術士にするって言っていた。俺は‥そいつの元で魔術を習いこまされながら、いつかは俺はコイツを殺すって誓ったんだ。
 泣きながら睨み付ける俺を‥そいつは「やってみろ」って言って笑ってた。
 そいつは‥そいつの名前はロングって言ったな‥、依頼を受けて魔術を使う傍ら俺に魔術を教えていた。その依頼を持ってきていたのは、口利き屋と呼ばれてる男で、ロングの外に何人かの魔術士に仕事を斡旋していた。
 ロングが年をとって‥ある日、ホントに急に‥徐々にではなくホントに急に、だ‥急激に体力が落ちて、見る見るうちに寝たきりになった。
 憎い憎いと思って来た奴だったけど‥そんな姿を見てたら、‥俺はなんか、復讐するのが馬鹿馬鹿しくなった。
 でも、今まで育ててもらったお礼に‥ってロングの面倒を見るのも、なんか違うな‥って思ってたら、ロングの恋人って名乗る女が来て、そいつの世話をこぞって焼き始めた。
 初めは嫌がっていたそいつも、諦めたのか、その女の世話を素直に受けるようになっていった。‥そうしないと生きていくことすら出来ないって‥堪忍したんだろうな。俺に世話になる気もなかったみたいだし、俺も世話する気なんてなかったしな。‥そうなったら、俺がここにいる意味はねえな、って思ってその家を出たんだ。
 そんな俺に仕事を回してきたのが‥例の口利き屋だった。‥まるで、こんな日が来ることを分かっていたかのように‥仕事を回して来たよ」
 いや、‥奴には分かってたんだろうな、と最後に呟くように付け加えた。
 それこそ、時期まで正確に‥。それこそが奴の仕事だったんだろう。

 衝撃の告白に、誰も何も言えなかった。
 ‥重い。重すぎる。
 アンバーに比べたら、自分たちは平和に暮らして来たな‥と思ったのは、ザッカとナナフル・コリン。
 シークには少々思うところがあった。
 
「‥どうした? シーク」
 三人とは明らかに違う表情で黙り込むシークをザッカが訝し気に見た。
「‥俺と同じだなって思って」
 コリンがはっとして、シークを見た。
 ‥確かに、シークも‥
 ザッカとナナフルは、はっとして
「ああ‥」
 眉を寄せた。
 シークの生い立ちについては、ギルドの仲間から調べた。
「俺も、目の前で両親を攻撃型魔術士に殺された」
 シークはアンバーに視線を合わせて言った。アンバーは、ちょっと目を見開き、でも、直ぐに首をコテンと傾げ
「奇遇だな、‥ってか、よくあることだよな。だって、奴らは、そうやって魔術の才能のある孤児の子供をつくるのが目的だからな」
 ってさも当たり前の事かの様に、言った。
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