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45.欲しい答え。

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「う~ん。じゃあ。コリン的に怪しいって思うのはその教会長? 」
 アンバーがニヤニヤと面白そうな顔をする。
 ちょっと、ムッとした自分に‥はっと‥気付いた。


 (コリンside)
 人に、無意識に「自分が欲しい返事」を期待して、相談する。答えはすでに自分の中にあるのに、他人にも肯定して欲しくって相談する。‥そういうことはよくある。そして、(それなのに! )望むような返事をもらえなくて、落ち込んだり、嫌な気持ちになったり。
 自分で答えが分かっているなら‥「誰も巻き込まずに」納得してればいいのに‥人は、誰か自分以外に背中を押してほしいって思う。失敗した時に、人のせいにする誰かがいて欲しいって思う。
 人間は、ズルくって、弱い。

 僕は、どうして欲しかったんだろう? どうされるのが、僕にとって自然だったんだろう。

 弱い僕は、落ち込んでいる時、ナナフルさんやシークさんに黙って抱きしめて欲しいって思う。「大丈夫だよ」って背中を撫ぜて欲しいって思う。「一緒にいるよ」って言って欲しいって思う。
 でも、ズルい僕は、ザッカさんに「しっかりしろ」って叱って欲しい‥って思う。

 慰めるとか‥。𠮟咤激励するとか‥。
 僕の事見てくれてるんだな、心配してくれてるんだな~。ありがたいな~って。嬉しくなる。

 だけど、アンバーはそのどの反応をするわけでもなく、ニヤニヤとただ僕を揶揄うみたいに笑ってる。
 ‥ムカつく。
 人が凹んでんのに、何楽しそうにしてんのさ!
 って、怒る。
 ‥もっと、親しい友達だったら、そういう会話の続け方もあっただろう。
 だけど、‥アンバーと僕らはそんなに親しいわけでもない。
 それどころか、‥親しいって要素‥そういえばなかった。
 そう気付いたら、「え? 」とも思ったけど、「そりゃ、まあそうだろうな」とも思った。
 改めてアンバーが、仲間じゃないんだなぁって思った。
 ‥別に敵なわけではない。
 アンバーの事分かってるとかいう気はない。
 それどころか、一時は敵だった。
 嫌な雰囲気を纏う‥嫌な奴だって思った。
 今はそんな感じはしない。
 ‥あの時、アンバーは僕の事を敵だって思ってた‥違うな、アンバーは僕の事「玩具だ」って思ってた。
   だけど、今はそうじゃない。一人の人間として、僕らに、アンバーは自分の知っていることを話した。
 別にアンバーに何かを隠す理由がないから。ただそれだけだ。
 アンバーにとって、養父も、職を斡旋した男も、別に義理立てするような相手ではないし、何より、アンバーは洗脳されていない。
 だけど、‥そういえば味方ってわけでもない。
 そもそも、ここにアンバーがいることも、アンバーの意志ではない。
 アンバーを助けたつもり‥なのは僕だけで、‥アンバーは別にそれを望んでいなかっただろう。
 だけど、僕らがここに連れてこなかったら‥アンバーは死んでいたかもしれない。‥否、高確率で死んでいたか、普通に監禁されていただろう。
 だから、アンバーは僕らの質問に答えた。一応の、恩返しって意味かもしれない。ただそれだけで、別に僕らを仲間だって認めて話してくれたわけではない。
 いや、‥違うな。
 ナナフルさんたちの誘導尋問にまんまと引っかかった?? っていうか‥

 ‥他でもない、僕が誓約したんだっけ。

 ただ‥それだけだな。
 アンバーにしたら、僕らに「助けられるような筋合い」はなかったんだ。だから、僕らに恩を感じることなんてない。誘導尋問なんて、精神操作に長けたアンバーには効かない。誓約だって、あれだけの魔術士だ。解除を試みる‥位はしそうなもんだ。だけど、解除の為の攻撃を食らった覚えはない。‥勿論、誓約違反で僕がアンバーを攻撃するって状況にも一度もなっていない。

 アンバーは強い。

 攻撃魔法が‥とかそんなことじゃ勿論なくって、‥心が強い。
 過去に僕を攻撃したことを詫びて、助けたことについてお礼をする‥とか、絶対ない。
 助けられたから、お詫びに仲間になりましょう‥とか、絶対に、ない。
 それが、アンバーだ。
 僕は何を思い違いしていたんだろう。

 思いあがった僕は、‥アンバーに同情していたのかもしれない。
 囚われのお姫様を‥助けた気でいた。
 それこそ、正義の味方気取りで、だ。
 でも、‥アンバーが自分の意志でついてきたなら‥、アンバーに「思惑」があるかもしれない。‥そんなこと考えもしなかった。
 油断させて、‥僕らを攻撃するかも。
 そんなこと考えもしなかった。
 ‥もしかしたら、ザッカさんやナナフルさん‥シークさんを危険に晒すことになっていたかもしれない。
 僕は甘すぎる。
 それは、優しさじゃない。‥危機管理が甘いんだ。
 反射神経が自信がないからって、常時自動発動型結界の結界を張る。
 つけてるから‥って安心しきって、‥僕は、後ろに以前よりもっと気を遣わない様になった。
 もしもの時のお守りのつもりが、それにガッツリ頼ってるって‥どうだ。
 恥ずかしい。



「どうした? 」
 アンバーが心配そうに、コリンの顔を覗き込んだ。
「え? 」
「黙り込んだから‥。具合でも悪くなったのか? 」
 コリンは小さく頭を振って否定した。
「‥ちょっと考え事してた」
「教会長をボコる方法? 拉致る段取り? 」
 アンバーが首を傾げる。
「え!? 」
 コリンは、軽く伏せていた顔を勢いよく上げて、アンバーを見た。
 信じられないものを見る‥って顔。
「え? だって、締めあげておいた方がいいだろ? そいつ、間違いなく裏に通じてるよ。ボコられ慣れてないだろうから、ちょっとボコったら、ぽろって吐くかも」
「‥ええ、って、でも‥それは‥」
 確かに、僕を嵌めた奴は倍返しにして仕返ししなきゃ‥って思ったけど‥、別に黒幕だけやりゃいいかな‥って思ってたんだけど‥別に‥関わった者みんな皆殺し‥とまでは‥。
「関わった者、みんな、皆殺しにしとかなきゃダメでしょ。ま、末端からやったら、トカゲの尻尾切りで本体に逃げられる恐れしかないから‥まあ、末端からじわじわと本体に迫っていく恐怖を味わってもらう‥まあ、これかな。逃げられると思うなよ‥って、じわじわと」
 ‥わあああああ。
 ホラーだよ‥。
「そんなのどうやるんだよ‥」
 ごくり、と唾をおもわず飲み込む。
 アンバーを見ると
「さあ」
 あっさり首を傾げられてしまった。
 へ?
「さあ? 」
 さあって言った? 
 何? さあ?
 ポカンとした顔をしたコリンのおでこをアンバーがはは、と笑って小突いた。
「これから考えるんだろ? それを。‥なに感傷にふけってるんだよ。「僕って信じた人に裏切られてた悲劇のヒロイン~」とでも思ってた? 」
 にやり、って笑って、間抜け顔したコリンの頬を両手で包むんで、瞳を至近距離で覗き込む。
「はあ!? 」
 コリンがアンバーを睨み付ける。

 その間、顔はずっと近い。
 もう、キスでもするのかって程近い。

 べり、って無表情なシークが、アンバーの両手からコリンを引っ張り出して、自分の背中に隠す。

「シークさん! 別に僕はアンバーになんか負けませんよ! アンバー! また扇動攻撃か! 僕を怒らせて冷静さを失わさせようっていう手‥もう、その手には引っかかりませんからね!!(←いや、まんまと怒って冷静さを失っている。しかも、アンバーにはコリンを怒らせるつもりなんか無かったのに‥にも関わらずだ)」
「はは! そんだけ元気になったら、もう心配ないな! 信じてた者に裏切られる‥ってことは、確かにつらいけど、別に信じてた者全部、自分のこれからの人生にも関係ある者なわけでもない。
 強くなれ。コリン。
 目の前で落ち込んでる人がいたら慰めるべし、慰めるのが普通じゃない?? 冷たくない? とでも思った? 
 俺に突き放されたからっていちいち、「アンバーなんか友達じゃない‥」っていじけて、落ち込んでる暇はないぞ! 」

 何も言ってないのに。
 なんでアンバーは分かったんだろう。
 顔に出てるのかな‥だとしたら、恥ずかしいな。
 ってか‥ええ、ホントに!?

「‥いや、カマかけてみただけだけど、当たってたぽい? 
 何、コリン、俺に突き放されて寂しかったの? ショックだったの? 慰めて欲しかったの? 抱きしめて、大丈夫だよ~俺が付いてるよ~って言って欲しかったの?
 ‥君がお望みなら、抱きしめるだけとは言わず、一晩中ずっと傍ににいて慰めてあげるけど? 」 

 って、いやに色気のある表情でアンバーがコリンを見つめた。
 け! 
 魔性の魅力。
 この前も言ったけど、僕には効かないからな! 
 コリンが、シークの背中にきゅっと抱き着いて、シークの背中からちょっと顔だけ出して、あかんべをする。
 アンバーが笑う。

「別に誰かを頼ったって恥ずかしくない。泣き言を聞いてもらったって、背中を押して欲しくて甘えたって構わない。だけど、本当の友達っていうのは、そんな都合のいいだけの存在にしちゃダメだ。
 一緒に泣いて、一緒に悩んで、喧嘩して、カッコ悪い所見せあって。
 俺には、親の記憶はないし、村での生活全部嘘っぱちで作られたものだったけど、友達はいたんだ。一緒に魔術の練習したり、馬鹿やったり。悪戯したり。寂しくって泣いたり‥。
 ‥今は洗脳されちゃってるかもしれないけどな‥」

 最後は顔を伏せて、自嘲気味な微笑を、口元にだけほんのり浮かべ‥ちょっと寂しそうな顔をした。
 でもすぐに顔をあげ、そんな表情を散らすと、

「全部終わらせられたなら、‥またあいつらと住みたいな。あいつらの洗脳、コリンなら解けるんだろ? 」

 ふふ、って相変わらず、無駄に色っぽい顔で笑う。
 覚えた。アンバーのこの表情。照れ隠しだ。あと、コリンを揶揄ってるの。(全然コリンには効いてないけど)
 シークの背中から出て来てアンバーの前に立つと、コリンが微笑む。

「‥僕には、光属性の魔法なんてほんのちょっとしか出来ない。あの時、アンバーのかすり傷を治した‥あれがせいぜいだ。
 でも、‥同級生には、たぶん光属性の魔術士だっていた‥と思う。自分の事に精一杯すぎて、周りを見てこなかったから分からないけど。
 ‥僕‥学生時代、なにを一人であがいてたんだろ‥」

 ちょっと困った様な‥照れた様な、恥ずかしそうな‥顔。
 ‥うわ、ナニコレ。めちゃ、可愛いんだけど‥。
 てれてれって頬をちょっと赤面させた美少女が目の前で目を伏せてる‥とかって‥。(コリンは美少年というより美少女顔。性格はだいぶアレだけど、顔だけだったら‥)
 
 ちゅー待ちですかっっ!!

 と、その欲望を、コリンの両方のほっぺをつねり上げることで誤魔化すアンバー。
 コリンの後ろでシークは、「キモチワカル」って同情を込めた視線をアンバーに送るのだった。
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