この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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52.それがふたりらしさ‥っていうなら、それで‥。

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 ‥一緒にいるだけでいい。
 ‥それって、「別にアンタにゃ何も期待してない」‥って言われてないか??
 それでいいのか? シーク。

 ザッカとアンバーは、なんか二人の世界に入ってるコリンたちをぼんやり眺めた。
 ナナフルをちらりと見ると、微笑ましい‥って感じの微笑を浮かべて二人を見ている。
「‥俺ならナナフルの事、守りたいって思うけどね‥」
 ザッカが、ナナフルに聞こえない位の小声でぼそっと呟くと、アンバーが微かに頷き返した。
 別に仲がいいってわけじゃないけど、男として共感できるとこある、って感じかな。

 っていうか、コリンもコリンだけど、シークもシークだ。
 ‥いくらコリンが凄い魔術士だっていっても、シークだって‥この頃忘れかけてたけど、Sランクの冒険者なのにさ。
 余りにも、あのセリフは情けなくない?

「俺は‥コリンを一生守ることなんて出来ないかもしれない」

 ‥あれを正直で、誠実っていうのかね~。
 まあね、コリンなら「一生君を守るよ」って言ったら怒りそうだけど、それならば「相棒になってくれ、君の欠点は僕がカバーするよ」って言うとかさ~。なんか言い様がある気もする。
 シークって、‥今までモテなかったの、なんかわかる気がした。
 だけど、料理も上手いし、自分でなんでも器用にこなしてるし、‥あんな調子で何となく淡泊だし、今まで何の不自由もなく暮らして来たんだろうな~、とも。

 自分からぐいぐい行くタイプじゃないだろうから、肉食な嫁、ピッタリだと思うよ?

 しみじみザッカがそんなことを思っていたら(所詮他人事だから、ザッカにはそう興味はない)
 アンバーが悪い顔して、
「生命感にあふれてる方が安心、ねえ。それって、シークに対しては、冷静でいられます。ぽ~っとなんかなりません、って言ってんの? 
 恋愛は安心でするもんじゃないぜ? ドキドキ、とかふわ~とか、とろ~っとかそういう安心と真逆にあるもんじゃない? コリンは、苦しいとか、不安‥が嫌だから、そんな自分の気持ちに蓋をして恋愛を避けてるんじゃない? 子供っぽいね、案外」
 コリンを見て、言った。
 コリンが、き、っとアンバーを睨み
「安心と真逆にあるのが恋って‥。それって、そういう刺激に騙されてるだけじゃない? 吊り橋効果じゃないけど‥不安定なものに対する不安感を恋だって勘違いしている。僕なら、橋脚どんだけあるんだって感じの安心安全な単純桁橋で、「結婚しよう! 」って言われる方がいい。ってか、なんで橋の話してるんだ‥ああ、吊り橋効果か‥」
 ‥言った後、首を傾げている。
 確かに話の論点すり替わったよね‥。
 アンバーはあきれ顔で
「うわ~色気ない」
 って大袈裟にため息をついた。
 でも、これには、ザッカもナナフルも小さく頷いた。

 ‥情緒ってもんがないな。

 なんだその、不安定なものを徹底的に否定する感じ‥。
 コリンは、眉を寄せて不満げな顔で
「色気とか、そういう不健全なものがそもそも嫌い。だから、あの時のアンバーも嫌いだった」
 ぼそ、っと呟く。

 ‥色気とかは、不健全扱いなんだ。
 ‥自分がないからって、存在すら全否定ってわけじゃないよな??
 嫌いだから、色気がないように振舞ってるんだよな??
 
 ザッカとナナフルが苦笑いして‥でも、生ぬるい顔でコリンを見ていると、色気たっぷりの微笑を浮かべてアンバーが
「ふうん、俺のこと色気あるって認めてくれてるの? 」
 コリンを見た。
 ‥あ、これ、目を合わせちゃダメな奴。
 ザッカはアンバーから視線を外して、ナナフルを身体ごとアンバーから背を向けさせた。
「まあ‥ねぇ」
 にやにやと感じの悪いアンバーに、コリンは居心地が悪そうだ。だけど、相変わらず顔を背けたりはしない。魅惑の魔法が効かないってホントみたいだ。それをみて、面白がったアンバーが、さらに色気たっぷりな視線をコリンに送る。
「ふうん? 」
 くすくすと笑うお色気麗人に、コリンは激おこだ。
「男なら、腕力で勝負だ! でしょう? 」
 ‥男らしい‥。
 コリンって、そんなに美少女顔だのに、ホントに男らしい。ヒーローっぽい。
 シークはふと、コリンの母親を思い出した。
 ‥ああ、お義母さんの影響を受けてるんだ。
 勿論そんなことは、ザッカもアンバーもナナフルも知らない。コリンにも影響を受けてるって自覚はないかもしれない。
「コリンは、そんなに男らしいのにシークの事好きなんだな」
 アンバーはくすくす笑って、ちょっと視線だけコリンに向けると言った。
 その、ちょっと視線だけで見るってのが、やたら色っぽくて、コリンは、またムカッとした。
「は?! 男らしい人が理想な僕の理想がシークさん‥なんか間違ってる?! 」
 と、喧嘩腰な口調で言うコリンの頭を、こつん、と叩き、ふわり、コリンに目線を合わせるように、優雅な所作でコリンの前にしゃがむ。
「いや、‥そんなに男らしいなら、嫁が欲しいって思うもんなんじゃって思ってね。誰かを守りたい‥って思ったりしないのかなって」
 じっと、コリンの目を見る。
 コリンは、少し考えてから
「守りたい‥とかじゃなくて、一緒にいる為にお互いにお互いを気をつけあいたいって思うものじゃない? 自然に。恋愛じゃないってさっきアンバーは言ったけど、でも、僕はこんなことシークさんにしか思わないよ? 一緒にいたら一番うれしいのもシークさんだし、キスされたいって思う。それって、僕がシークさんに恋してるからじゃない? 」
 アンバーの本心が知りたい‥かの様に、じっとアンバーの目を見つめて、丁寧に言った。
 アンバーが、ふ、と寂し気に微笑むと小さくため息をついた。
 で、そんな二人の後ろでは、‥キスって辺りで赤くなってるシークにザッカがドン引きしている。
 聞いてないような顔して、しっかり聞いてるとか‥ちょっと引くし、キスって聞いただけで赤くなるとか‥どんだけ‥。
 ってちょっとナナフルも苦笑いしている。
 アンバーは、暫く寂し気な顔をしていたが、ばっと立ち上がると、さっきの顔を誤魔化すように、
「‥いや、いい。コリンに色気がないことはよく分かった。たしかに恋だ。お子様レベルだけど、恋だ。
 恋のステップアップはまだまだ先って感じだな」
 明るい声で言った。
 その様子に何か思うところがあったが、
「なんか、失礼なこと言われている気がするな!! 」
 明るく笑って、コリンも「なかった風」にした。

 ってか、言ってることは、本心なんだろうな~。
 お子様レベルって‥、恋にもレベルがあるのか‥。
 あれか? それも天性の才能って奴か?
 僕には‥恋の才能すらないのか??

 落ち込むわ~。

 自分にはなく、人には当たり前にあるってことに気付いた時が、一番落ち込む。
 努力で何とか出来るならするけど、‥その人は努力とかじゃなくって、まるで当たり前みたいにそれをする。
 たとえば、スキップ。
 あれって、あがけばあがくほど出来ない。
 出来る人からすれば、「何やってるんだ? 」って思うんだろうけど、‥出来ない。出来るって感覚が分からない。
 器用に世の中渡っていってるなって人はいるけど、‥僕には出来ない。
 出来ないけど、出来ないって言ってちゃどうにもならないから、毎日、出来ないって言わないように、一生懸命生きている。ドキドキしながら、生きている。吊り橋の話さっきしたけど、それどころじゃない。‥時には、一枚板を渡した谷を渡る様に生きてる。
 
 そんな中、シークさんは、本当に、堂々としているように見えた。才能があって、センスがあって、だけどそれだけじゃなくって、努力家で。
 自分の足で、丈夫な道を歩いている。時には獣道だって、踏みしめながらかき分けながら、生きてる。
 才能があってセンスもあるのに努力家だから、いつでも自信をもって生きていくことが出来ている。
 僕とは違う。
 僕の、繕い繕い‥虚勢をはって生きてる人生とは違う。
 そんな強さに魅かれた。眩しいって思った。これは、離しちゃいけないって思った。それで、無理矢理付いて行こうって‥。
 一緒にいたら、それだけじゃなくって、優しかったり、可愛かったり、‥料理が上手かったり。
 ‥もっと好きになった。
 守って欲しい? そんなことは思ったことがない。守られてるって思ったら、弱くなる。だけど、後ろに居てくれるって思ったら、安心する。‥強くなれる。それは、守られてるって言うのだろう。だけど、僕はそれ‥守って欲しい‥を口に出すわけにはいかないんだ。

「コリン見てると、人生は修行って感じするね。‥確かに、人生は甘くない。危ないことはいっぱいある。おんぶにだっこはダメだろうけど、‥お互いを守りたいって思うのは良いことだと思うよ。自分より、自分が愛する人の方が守りたいって思うじゃない」
 ふわっと笑ったのは、ナナフルだった。
 コリンがナナフルを見る。
「お互い、好きだから守りたい。好きだから一緒にいたい。
 恋の最終形態だと思うけど? 
 楽しいことしたい、とか、それもそれであってる。恋に正解はないし、恋に間違いもない。
 自分が楽しいってことが一番って思うんなら、でも、それはちょっと正解じゃないのかもしれないけどね」

 デートするのも自分が楽しむため。気持ちいいことも、自分がしたいからする‥
 じゃなくって、それが一番なんじゃなくって‥
 したいって気持ちは、自分本位なもんだけど、その時「相手は‥」って一番に‥自然に考えちゃうのが恋なんじゃないかな?

 ナナフルさんの言葉が心に刺さった。
 今までの自分は確かに、自分本位の恋をしてきた。
 一緒にいたいって自分の気持ちを押し付けて来た。だけど‥シークさんがさっき、シークさんも僕と一緒にいたいって言ってくれた。
 ホントに嬉しかったんだ。

「真面目か‥」

 アンバーがぼそっと呟いたのが聞こえたが、そこは、全力で無視した。
 真面目。
 大いにいいじゃないか。
 器用さも、センスもない僕に真面目にする以外にどうしろというんだ。
 シークさんも真面目で、ナナフルさんも真面目。ザッカさんも真面目だぞ! そういうアンバーも真面目か真面目じゃないって二択なら真面目‥って方だよね。(いや、どうだろう)だけど、‥いい奴だと思う。

 ‥それで、いいんだと思う。
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