この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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105.そういう手だったのか!!

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 アンバーとシークは暫く、コリンが走り去ったその場に立ち尽くしていた。
 ぽかーんって顔、ってのはこういう顔をいうんだろうな、ってお互いの顔をチラ見して思った。
「‥ってか、俺からしたら、シークも大概恋愛してない‥と思うぞ」
 暫くして、ようやく口を開いたアンバーがシークの方を向くでもなく、ぼそっと呟いた。
「‥今更もうどうでもいいけど、一応聞こう」
 もそもそ、と歯切れの悪い返事を返すシークも、アンバーの方を向いてはいなかった。
「普通、殴りかかってくるだろ。あの場はショックで立ち去ったとしても、俺がひとりで現れて「お前の恋人とキスしたぜ」なんていったら、キレて殴りかかってくるのがセオリーって奴だろうが」
 シークの返事なんて関係ない‥とばかりに、アンバーが言葉をかぶせて来る。
「セオリーって‥。
 でも、怒ってたし、勿論ショックだった、で、気持ちを落ち着けようと素振りして‥」
 シークの方は、アンバーの言葉が終わるのを待って、それに応える。
 アンバーも今度はシークの答えを最後まで聞いて‥
 暫く無言で‥ニ三度瞬きをしてから‥
 はじめて、ちらっとシークを見上げる。
「‥気持ちを落ち着けなくていいんじゃん? 俺にしたって、怒られて殴られた方が良かったよ。
 だから、わざとあんな口調で言ったみたいなところあるし‥」
 シークはちょっと目を見開いて
 ふう、とため息をついた。
「‥やっぱり煽ってたのか‥」
 呆れた、って顔だ。
 やっぱり煽っていた。
 でも、「宣戦布告」じゃなくって、「怒ってくれ後生だから」だったのか。
 ‥それならそうと、そういえばよかったのに。
 と思いかけて、でもそんなこと言われて、「わかった殴ろう! 」とは‥言わなかった‥だろうなあ‥。
 だから、誘いボケならぬ、誘い怒りした‥と、
 だけど結果不発で、俺は怒るどころか、冷静な感じだった‥ってこと。
 ‥まあ、な。アンバーの性格なら、本気で略奪するって決めたんだったら、ライバルにわざわざ宣戦布告‥とかめんどくさいことせずに、ぐいぐい行くわな。

 ‥そんな感じする。

 付き合いそんなに長くないから、そんなにわかんないし、そもそも友達少ないから、人の気持ちを押して図るとか、そんな器用なこと出来ない。

「シークの「心底軽蔑してます」‥って目見たらさ、これはもう二度と友達に戻れないのかな、って‥ってのは思ったな」
 アンバーは再びシークから視線を外し、そのまま俯いて、ボソリと呟く。
「友達に戻れないって‥
 去られて困る様な友達だと思ってくれるなら、ああいうことするなよ‥」
 シークは、本日何度目かともしれないため息をつく。
 ああいうこと、って‥
 つまり、「友達の恋人とキスする」ってことだ。
 アンバーは「いや、あれはさ~」と苦笑いして
「いや‥あの時は、ついっていうか‥
 ここは、しとかないと駄目でしょ‥的な感じでね。
 あるでしょ? そういう時」
 て、ちらっとアンバーを見上げる。
 同意を求められても‥
「わからな‥」「いや、あるはずだ。あれは、そういう感じのときだった」
 苦笑いするシークの言葉に被せて、アンバーが断言する。
「目の前で弱ってる獲物がいたら、取り敢えず喰っとくのが礼儀でしょう!? 」
 目が、
 怖い。
 そんな「常識」みたいに言われても!
「そんな馬鹿な!? 」
 完全にドン引きなシークにアンバーが一歩近づき
「据え膳的なあれでしょう?! 」
 強い口調で迫る。

 迫力が‥

 シークが苦笑いして一歩下がる。
「いやいやいやいや! 絶対と違うと思うぞ!? 」
 苦笑いで後ずさるシークと
 ぐいぐい前進してくるアンバー
 そんなアンバーをぐいっとシークから引き離したのは‥

「アンバー!! 君って人は、僕にあんなことしたくせに、‥実はシークさんを狙ってたんだな!? 
 だから、僕たちを別れさせようと!! 」

 コリンだった。
 ぱちくり
 アンバーとシークが目をしばたかせる。
 
 一瞬の沈黙の後、

「「コリンは、もう、黙ってて!! 」」
 二人の声が、みごとにハモった。
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