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178.分からないままでも、いいことはある。
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(コリンside)
‥普通、わざわざ探しにでも行かなきゃ、会わないだろ‥。
パーティー会場とか‥そういう貴族大集合とかならまだしも‥(平民のコリンは、パーティーといえば貴族が全員集まると思っている。‥実際にはそんなことあり得ない)
「‥‥‥」
‥いや、会ったわけでは無いな。
お互いの面識がないから、会うってことにはならない。知ってる方が一方的に「見かけちゃったわ~」になるだけだ。
見かけた、と会った、は全然違う。
そして、
見かけたのは、どうやら僕だけらしい。フタバちゃんたちは幸い‥気付いていない。
なら、僕はどうするべきか。
見なかったことにする。
その一択でしょう。
「どうした? コリン、誰か知ってる人でもいた? 」
変に気が付くロナウを睨みつけたくなったが、ここで視線をエンヴァッハ伯爵に向けさせるわけにはいかない。エンヴァッハ伯爵がこちらを振り向くっていう事態も避けたい。
だから
「‥あの警察。僕をパートナーにって指名した人だ‥」
ロナウの耳元でぼそっと小声で呟いて、足早にその場を離れた。
まるで、ソイツと顔を合わさないためにって風を装って。
「どうやらソロで動いてるみたいだね。僕が断った後、結局誰も見つけられなかったみたいだな。新人の僕ぐらいなら簡単にパートナーに出来るかもって思ったんだろうけど、新人だって人を選ぶ権利はある」
十分に警官から(何よりもエンヴァッハ伯爵から)離れてから、僕はため息と共に呟いた。
「ああ、コリンが前に言ってたあの‥セクハラ警官? 」
ロナウが嫌そうな顔で言い、僕が頷くと、フタバちゃんも嫌そうな顔をした。
「そう言われると嫌~な顔をしてましたわ! 」
その「ホント嫌そ~な」言い方にちょっと笑ってしまう。
嫌~な顔も何も、絶対見てないだろ。って思うのに、‥笑ってしまう。
「警官がみんなそんな奴ではないと思いますが、あいつのせいでコリンにおける警官のイメージが最悪になってしまいましたわね」
心配そうに‥眉を寄せて僕を見上げるフタバちゃん。
フタバちゃんは、表情こそ豊かではないけど、優しい子だ。
‥ってか、表情がもっと乏しい人と普段から居ますからね、僕はもう慣れっこですよ?
それに
「嫌な思いして‥あいつのパートナーにならなきゃならんほど、僕は公務員になりたかったわけじゃない」
心配しなくても、僕は公務員に思い入れなんて、これっぽっちもない。
それにね、別にあいつのことも‥ホントはどうでもいい。(あそこから皆を自然に離れさせる口実にしただけに過ぎないんだからね)
ホントにたまたま! ご本人がいたから、そんな話しただけで、(ホントは)今の今まで忘れてた。
僕にとって「その程度の記憶」にしか残らない「あの警官」。
だけど、思い出したらちょっと腹立ってきたな!
ちょっと不機嫌な顔をした(であろう)僕にロナウが苦笑いする。
で、ちょっと首を傾げると
「誓約士にとって一番花形的な職業って警察のパートナーとして働くことだよね? 僕にはそこら辺のことはよくわからないんだけど」
って聞いてきた。
「花形? 」
僕は首を傾げる。
なんじゃ? 花形って。
警察のパートナーが花形だと思うか? まあ‥公務員で安定職かもしれないけど‥。
ロナウは安定職に憧れを抱くタイプなのかな?
首を傾げ続ける僕に、ロナウはちょっと考えて
「う~ん。例えば、僕らみたいな魔術士から進化させた騎士紋保有者にとっての花形の職業って皇室の護衛騎士団に入ることなんだ。そういう風に、数ある就職先の中でも一番華やか~って感じの職業ってのはあるって思うんだ。
誓約士にとっては、それが警察のパートナーの仕事なのかな‥って
警官と同じ‥もしくはそれ以上の‥立場が与えられるわけだしね」
ロナウの職業論を語ってきた。
う~ん。ロナウは「お役所仕事 = 花形」って思うタイプなのかな?
まあ‥そういうのは個人の意見だから「それは違う」って僕が言うのも変な話だな。
だけど、
「‥ん~どうだろ。
誓約士はやっぱりソロで活動してる人が一番成功してるって感じするよ。どこにも所属せず、事務所構えて、自分が納得する仕事だけ受けるっていう、ね。
だけど、ソロでやるには実績がいるから‥経験‥実績を積んだり顔やら名前を売ったりするために修行の場として警察のパートナーとして「ひとまず」働く人が多い‥って感じで別に「誓約士的に憧れの職業」って感じではないと思う」
一生、警察の飼い犬みたいな役割に甘んじる奴なんていないよ。
仕事に困らない、とか給料や地位が保証されてる‥とか、そういう安定志向求めるタイプは、誓約士にはあんまりいない。
それこそ、「将来独立するためには、警察だって利用するぜ! 」って感じの人が多いと思う。(そもそも誓約士って協調性皆無なタイプ多いよ)
誓約士はあくまで個人業。(規律や協調性を重んじる)騎士とは本質的に違うからね。
「なるほどね~」
ロナウが大きく頷いた。
そんな話をした。
エンヴァッハ伯爵のエの字も話題に上らなかった。
ロナウたちは、「あの人」に気付いてなかったようだ。
‥よかった。
「エンヴァッハ伯爵? 」
「ええ、さっきすれ違って‥ここにどんなご用があったのかな‥って。
ところで‥エンヴァッハ伯爵ってどんな方なのですか? 」
あの後僕はこっそりフタバちゃんのお義父さんにエンヴァッハ伯爵のことを聞いてみた。
勿論、僕がこんなこと聞いたことをフタバちゃん達には言わないで欲しいって口止めした上で、だ。
フタバちゃんのお義父さんは、詳しいことは聞かずに承諾してくれた。(まあ、そんな話をフタバちゃんにわざわざする必要を感じなかったからだろう)
フタバちゃんのお義父さんは、肩をすくめて
「う~ん。
よく分からない」
とだけ言った。
「分からない? 有名なモテ男でプレーボーイだったんじゃないんですか? 」
僕が「僕らの予想」で‥だけど、勝手に僕らの中では決定事項になっていたエンヴァッハ伯爵像を言うと、ぷっとフタバちゃんのお義父さんが笑った。
「そんな人じゃないよ。むしろ逆。地味~な人だよ? 色男だからかなりモテてたのには違いないけど。
プレーボーイじゃない。そんなことしようものならあの奥さんが怖いだろうね~」
そう言えば、フタバちゃんも鬼嫁って言ってたな。
だけど、あの時確かフタバちゃんは「有名な方」って言ってたよな‥。
「確かに、「よくモテて」有名だった。だけど、伯爵自体は大人しい方だ」
ふふ、とフタバちゃんのお義父さんが笑った。そして、小声で「婿養子でいらっしゃるしね」って付け加えた。
よくモテて有名だったから、鬼嫁がそれに目を光らせていたけど、本人は婿養子だし、奥さんは怖いし‥で地味に過ごしてるって感じ?
それにしても‥
地味だったとは‥なんか、意外。
勝手に、プレーボーイで他所に女作りまくってる奴だと思ってた。
だけど‥ナナフルさんは婚外子‥。奥さん以外との間に出来た子だ。
‥養子に入る前ってこと?
だって、ナナフルさんが「お兄さん」なんだから‥
もしかして‥ナナフルさんのお母さんと元々結婚の約束があった(もしくは結婚していた)けど後から(きっと格上の貴族である)伯爵家から養子の話がきて、断れなかった‥ってこともあり得るのかな?
‥そう言う事もあり得るかも‥。
だから、伯爵夫人(元伯爵令嬢)はナナフルさんのお母さんのことを知っていたし‥邪魔に思っていた。そう考えたら‥
「うう~ん‥」
あまりにもしっくりくる仮説に、僕は唸ってしまった。
「あの人‥きっとナナフルさんのホントのお父さんです。だけど‥」
今はフタバちゃん達には何も言わないで欲しい。それに、これからもできれば出会わない様に‥協力してほしい。
フタバちゃんのお義父さんに僕が頼むと、
「そうだね。他人が口を挟むことじゃない」
穏やかに微笑んで快諾してくれた。
なんでも分からないより分かった方がいい。
そう思ってたけど‥全部がそうってわけでもないんだなって、その時思った。
‥普通、わざわざ探しにでも行かなきゃ、会わないだろ‥。
パーティー会場とか‥そういう貴族大集合とかならまだしも‥(平民のコリンは、パーティーといえば貴族が全員集まると思っている。‥実際にはそんなことあり得ない)
「‥‥‥」
‥いや、会ったわけでは無いな。
お互いの面識がないから、会うってことにはならない。知ってる方が一方的に「見かけちゃったわ~」になるだけだ。
見かけた、と会った、は全然違う。
そして、
見かけたのは、どうやら僕だけらしい。フタバちゃんたちは幸い‥気付いていない。
なら、僕はどうするべきか。
見なかったことにする。
その一択でしょう。
「どうした? コリン、誰か知ってる人でもいた? 」
変に気が付くロナウを睨みつけたくなったが、ここで視線をエンヴァッハ伯爵に向けさせるわけにはいかない。エンヴァッハ伯爵がこちらを振り向くっていう事態も避けたい。
だから
「‥あの警察。僕をパートナーにって指名した人だ‥」
ロナウの耳元でぼそっと小声で呟いて、足早にその場を離れた。
まるで、ソイツと顔を合わさないためにって風を装って。
「どうやらソロで動いてるみたいだね。僕が断った後、結局誰も見つけられなかったみたいだな。新人の僕ぐらいなら簡単にパートナーに出来るかもって思ったんだろうけど、新人だって人を選ぶ権利はある」
十分に警官から(何よりもエンヴァッハ伯爵から)離れてから、僕はため息と共に呟いた。
「ああ、コリンが前に言ってたあの‥セクハラ警官? 」
ロナウが嫌そうな顔で言い、僕が頷くと、フタバちゃんも嫌そうな顔をした。
「そう言われると嫌~な顔をしてましたわ! 」
その「ホント嫌そ~な」言い方にちょっと笑ってしまう。
嫌~な顔も何も、絶対見てないだろ。って思うのに、‥笑ってしまう。
「警官がみんなそんな奴ではないと思いますが、あいつのせいでコリンにおける警官のイメージが最悪になってしまいましたわね」
心配そうに‥眉を寄せて僕を見上げるフタバちゃん。
フタバちゃんは、表情こそ豊かではないけど、優しい子だ。
‥ってか、表情がもっと乏しい人と普段から居ますからね、僕はもう慣れっこですよ?
それに
「嫌な思いして‥あいつのパートナーにならなきゃならんほど、僕は公務員になりたかったわけじゃない」
心配しなくても、僕は公務員に思い入れなんて、これっぽっちもない。
それにね、別にあいつのことも‥ホントはどうでもいい。(あそこから皆を自然に離れさせる口実にしただけに過ぎないんだからね)
ホントにたまたま! ご本人がいたから、そんな話しただけで、(ホントは)今の今まで忘れてた。
僕にとって「その程度の記憶」にしか残らない「あの警官」。
だけど、思い出したらちょっと腹立ってきたな!
ちょっと不機嫌な顔をした(であろう)僕にロナウが苦笑いする。
で、ちょっと首を傾げると
「誓約士にとって一番花形的な職業って警察のパートナーとして働くことだよね? 僕にはそこら辺のことはよくわからないんだけど」
って聞いてきた。
「花形? 」
僕は首を傾げる。
なんじゃ? 花形って。
警察のパートナーが花形だと思うか? まあ‥公務員で安定職かもしれないけど‥。
ロナウは安定職に憧れを抱くタイプなのかな?
首を傾げ続ける僕に、ロナウはちょっと考えて
「う~ん。例えば、僕らみたいな魔術士から進化させた騎士紋保有者にとっての花形の職業って皇室の護衛騎士団に入ることなんだ。そういう風に、数ある就職先の中でも一番華やか~って感じの職業ってのはあるって思うんだ。
誓約士にとっては、それが警察のパートナーの仕事なのかな‥って
警官と同じ‥もしくはそれ以上の‥立場が与えられるわけだしね」
ロナウの職業論を語ってきた。
う~ん。ロナウは「お役所仕事 = 花形」って思うタイプなのかな?
まあ‥そういうのは個人の意見だから「それは違う」って僕が言うのも変な話だな。
だけど、
「‥ん~どうだろ。
誓約士はやっぱりソロで活動してる人が一番成功してるって感じするよ。どこにも所属せず、事務所構えて、自分が納得する仕事だけ受けるっていう、ね。
だけど、ソロでやるには実績がいるから‥経験‥実績を積んだり顔やら名前を売ったりするために修行の場として警察のパートナーとして「ひとまず」働く人が多い‥って感じで別に「誓約士的に憧れの職業」って感じではないと思う」
一生、警察の飼い犬みたいな役割に甘んじる奴なんていないよ。
仕事に困らない、とか給料や地位が保証されてる‥とか、そういう安定志向求めるタイプは、誓約士にはあんまりいない。
それこそ、「将来独立するためには、警察だって利用するぜ! 」って感じの人が多いと思う。(そもそも誓約士って協調性皆無なタイプ多いよ)
誓約士はあくまで個人業。(規律や協調性を重んじる)騎士とは本質的に違うからね。
「なるほどね~」
ロナウが大きく頷いた。
そんな話をした。
エンヴァッハ伯爵のエの字も話題に上らなかった。
ロナウたちは、「あの人」に気付いてなかったようだ。
‥よかった。
「エンヴァッハ伯爵? 」
「ええ、さっきすれ違って‥ここにどんなご用があったのかな‥って。
ところで‥エンヴァッハ伯爵ってどんな方なのですか? 」
あの後僕はこっそりフタバちゃんのお義父さんにエンヴァッハ伯爵のことを聞いてみた。
勿論、僕がこんなこと聞いたことをフタバちゃん達には言わないで欲しいって口止めした上で、だ。
フタバちゃんのお義父さんは、詳しいことは聞かずに承諾してくれた。(まあ、そんな話をフタバちゃんにわざわざする必要を感じなかったからだろう)
フタバちゃんのお義父さんは、肩をすくめて
「う~ん。
よく分からない」
とだけ言った。
「分からない? 有名なモテ男でプレーボーイだったんじゃないんですか? 」
僕が「僕らの予想」で‥だけど、勝手に僕らの中では決定事項になっていたエンヴァッハ伯爵像を言うと、ぷっとフタバちゃんのお義父さんが笑った。
「そんな人じゃないよ。むしろ逆。地味~な人だよ? 色男だからかなりモテてたのには違いないけど。
プレーボーイじゃない。そんなことしようものならあの奥さんが怖いだろうね~」
そう言えば、フタバちゃんも鬼嫁って言ってたな。
だけど、あの時確かフタバちゃんは「有名な方」って言ってたよな‥。
「確かに、「よくモテて」有名だった。だけど、伯爵自体は大人しい方だ」
ふふ、とフタバちゃんのお義父さんが笑った。そして、小声で「婿養子でいらっしゃるしね」って付け加えた。
よくモテて有名だったから、鬼嫁がそれに目を光らせていたけど、本人は婿養子だし、奥さんは怖いし‥で地味に過ごしてるって感じ?
それにしても‥
地味だったとは‥なんか、意外。
勝手に、プレーボーイで他所に女作りまくってる奴だと思ってた。
だけど‥ナナフルさんは婚外子‥。奥さん以外との間に出来た子だ。
‥養子に入る前ってこと?
だって、ナナフルさんが「お兄さん」なんだから‥
もしかして‥ナナフルさんのお母さんと元々結婚の約束があった(もしくは結婚していた)けど後から(きっと格上の貴族である)伯爵家から養子の話がきて、断れなかった‥ってこともあり得るのかな?
‥そう言う事もあり得るかも‥。
だから、伯爵夫人(元伯爵令嬢)はナナフルさんのお母さんのことを知っていたし‥邪魔に思っていた。そう考えたら‥
「うう~ん‥」
あまりにもしっくりくる仮説に、僕は唸ってしまった。
「あの人‥きっとナナフルさんのホントのお父さんです。だけど‥」
今はフタバちゃん達には何も言わないで欲しい。それに、これからもできれば出会わない様に‥協力してほしい。
フタバちゃんのお義父さんに僕が頼むと、
「そうだね。他人が口を挟むことじゃない」
穏やかに微笑んで快諾してくれた。
なんでも分からないより分かった方がいい。
そう思ってたけど‥全部がそうってわけでもないんだなって、その時思った。
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