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270.ナナフルさんの話(主にside コリン)

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 で、今。

 イルミネーション終了でまだ興奮で目をキラキラさせてる皆の前に現れたのは、「一時的に」自然治癒力が高まって「元気に見える」元魔薬使用者たちだ。元気にそれぞれの家族だったり知人だったりのもとに帰っていく。
 魔術ショーは無事成功した。
「また今回の様に、教会の同窓生が情報交換を目的として会える日が来ることを願っています」
 フタバちゃんが閉会の挨拶をして、同窓会という名の「魔薬使用者救済大会」は幕を閉じた。

 隔離空間の中‥つまり、イルミネーションの中‥で、コリンたちはそれぞれにだけ聞こえるような魔法で、後で自分たちの元に各自で訪ねてくるように伝えた。
 命令じゃない。
 だけど、皆来るだろうって信じている。
 ‥何人かは「何をしたんだ! 」って怒ってくるかもしれないけどね。(そういう人たちは、(ブーストによって強化された)自然治癒力でも治し切れなくって、所謂「薬切れ」の状態になった人たちだから‥ちょっと注意が必要だね)
 反省してる人たちだけじゃないかもしれないねってあの後皆で話したんだ。
 色んな人がいるからね。
 だけど、知り合いだか家族だかは分からないけど‥僕らを人づてに聞いて頼ってくれた紹介者は、その人の事を心配してるんだ。
 ‥そういう人が自分にもいるってことだけは理解して欲しいなって思う。
 そして、「自分や自分の周りにいる人が被害に遭った被害者」だから信用できるって訳で‥コリンたちは協会の不正の話を差しさわりがない分だけ話、今後協会に不用意に情報を漏らさない様に、協会を信用しない様に‥と忠告し要請した。
 協力の要請は‥だけど、止めておいた。(だって、下手に関わらせると危険だからね)
 
 あの後の対処に忙殺され、流石に疲れを隠し切れなかった僕たちがナナフルさんに気付かれ、優し~く問いただされ、「実は‥」って白状させられたのは‥でも、悪いことじゃないって思う。
 だって、ずっと内緒にしてるなんて無理があるし‥そもそも嫌だよ。
 ナナベルさんと会ったことはザッカさんも‥ナナベルさんの人柄が「危険なし」って判断したから‥迷った結果話さなかった。
 僕らは今まで黙ってたことを謝ってからナナフルさんに落ち着いて‥ゆっくりと話した。(言葉を選びながら話さないといけないから、慎重に‥だ)

 最初に話し始めたのはフタバちゃんだった。
「多分ナナフルさんのお父さんはエンヴァッハ伯爵という人で、二人の娘がいる。‥今もご存命です。お会いになったことはありますか? 」
 ナナフルさんは静かに首を振り
「私は貴族のことは何も知りません」
 って言った。
 ナナフルさんがヒュージとして母親の実家コールネンド家で暮らしていたのは家を出る9歳まで。そして、色々彷徨って‥ザッカさんの村に着いたのは10歳の時だったらしい。
 フタバちゃんが頷き、
「なぜそのことが分かったかというと‥外見です。
 ナナフルさんは、エンヴァッハ伯爵ととてもよく似ていらっしゃいます。初めてお会いした時「あれ? 」って思ったんですが‥そのときははっきりと思い出せず‥エンヴァッハ伯爵をよく知っている義父にあわせてしまったこと‥今となっては本当に悔やまれます。‥申し訳ございませんでした。ですが、義父には他言無用ときつく‥念を押しておきましたからその辺りはご安心ください」
 と、半分嘘を交えながら言った。
 実際、エンヴァッハ伯爵とナナフルのことが分かったのは、アンバーがナナベルを知っていたことと、ナナフルを鑑定した時にナナフルの「本名」を見たからだ。
 決して、会った瞬間「この人の顔、見たことある」とか思うレベルでナナフルとエンヴァッハ伯爵が似ているわけでは無い。
 ‥でもまあ、嘘ばっかりでもないからいいか‥。
 ザッカさんがそれに付け加えて
「フタバ嬢に伯爵夫人がかなり嫉妬深い女ならしいって聞いて、やっぱりあの時の刺客は正妻の仕業だったのかって確信した。今までは「きっとそうだろうな」って思っていたものの、ナナフルの父親が誰かわからなかったから用心のしようがなかった。‥そういう意味では父親の名前が分かったのはよかったけど‥ナナフルには知らせたくなかったんだ」
 って肩を落として言うと、ナナフルさんは小さく首を振って
「‥知らない名前だし、別に興味はない。会いたいとも思わないし、‥憎いとも思わない」
 って言った。
 ナナフルさんをザッカさんがそっと抱きしめ、
「騎士見習いの時の仲間にその女の身辺を見張ってもらってるんだけど、今のところ動きはない様だから、安心して欲しい」
 って言った。
 ザッカさん、見張りの指示とか‥そんなことしてたのか。
 なんで僕らにはその話してくれないかな~。
 って思ったのは、僕だけじゃないはずだ。
 ナナフルさんは、ザッカさんからそっと離れて、大きく息を吐くと
「エンヴァッハ伯爵‥そういえば‥母が行儀見習いで働きに行ってたって聞いたことがある‥」
 ‥今思い出した。ってボソリと呟いた。
 そこにいた皆が頷いて、長くなりそうな話を聞くためにダイニングの席に着いた。

 ナナフルさんが席に着くと、シークさんが人数分のお茶を用意するために席を立った。
 ナナフルさんは小さく息を吐くと、
「実は‥エイミ(市役所の友達)が私の実家の戸籍を最近閲覧した女がいるって教えてくれたんだ。‥この前、エイミと会ってたのはその話を聞くためだったんだ」
 って言った。
 初耳だった。
 エイミさんって人は、ナナフルさん、否「ヒュージ」さんの実家のことを知ってるってことだ。そしてそれはつまりそのことをナナフルさんがエイミさんに教えたってこと。つまり、ナナフルさんにとって、エイミさんはそれほど信用できる人だってことなんだ。(ザッカさん曰く、あの村でもヒュージ = ナナフルって知っている人はそんなにいない、らしい。当時の遊び友達でさえも「ヒュージは母親と一緒に死んだ」って知らされているらしい。ヒュージがナナフルになった後は、「嫁は攫われない様に結婚するまで外に出さない」って村の風習により‥ナナフルさんはザッカさんの家から出ていない‥らしい。因みに、「ナナフルさんの友達」フミさんは、ナナフルさんの子供の頃は知らない)
 エイミさんはザッカさんとも知り合いだってザッカさんから以前聞いてた。だけど‥今、ザッカさんが「初耳だ」って顔して驚いて‥めちゃショックって顔してるってことは‥エイミさんはザッカさんにその話をしなかったってことなんだろう。
「ごめんね。ザッカ。別に秘密にするつもりはなかったんだ。何もなかったら言う必要もないから、ことの真相が分かって何か問題があるようだったら相談しようって思ってた」
 って言ったナナフルさんにザッカさんは再び「ガーン」って顔してる。
 ‥ザッカさんとしたら、何もなかったらそれでいいし、事件だろうが何でもないことだろうが‥何でも相談して欲しいって思ってるんだろう。
 何でも知っていたいって思ってるんだろう。
 だけど‥それを言うならザッカさんだって「お互い様」だからね。(ナナベルさんの事黙ってたわけだしね)
 それは言いっこなしだって思う。
「お互い秘密なしに情報全部出し合ったら? 」
 って呆れ顔で言ったのはアンバー。
 ザッカさんとナナフルさんが顔を見合わせて‥次の瞬間困ったように‥苦笑いした。


 ナナフルさんの話。
 ナナフル(ヒュージ)のお母さんミナは行儀見習いに行った先で当時まだ独身だったそこの家の坊ちゃんと出会ったらしい。(その坊ちゃんがのちのエンヴァッハ伯爵だったってわけだ)その坊ちゃんから一方的に求愛を受けたけど、当時ミナは「自分は行儀見習いに来てるだけだから」「おば様(ミナの母親とそこん家の母親は知り合い)にご迷惑がかかるから‥」って断っていたらしい。
 ナナフルがその話を知ったのは勿論ミナからではなく‥8歳位まで暮らしていたコールネンド家のメイドたちの噂話だった。
「ホント、迷惑な話よね。世間知らずな坊ちゃんが‥。貴族の結婚なんて恋愛感情だけでなんとかできるわけないのにねぇ」
 って、ミナのことを慕うメイドたちは、お嬢様を「振った(別にミナは振られたわけでは無いんだけど、皆からしたらそういう認識になっている)」「名家の坊っちゃん」のことを悪く言っていた。
 ミナがコールネンドの皆に大事にされていることは子供心にも分かったという。

 坊っちゃんの政略結婚が決まった時と丁度同じくらいの時期に‥ミナは実家に帰ってきた。
 だけどそれは、坊っちゃんが結婚したからではない。ミナには坊っちゃんが結婚してショックなんて気持ちは全然なかった。だけど、坊っちゃんの結婚した妻は悋気持ちで、ミナと坊っちゃんとの仲を疑っていた。だから、ミナに特別つらく当たった。それもあったが、ミナはその時身体の具合が悪かったのだ。
 体の具合も悪いし、坊っちゃんの嫁も鬱陶しい。
 別にミナが何か悪いことをしたわけでは無い。一方的に求婚していたのは坊っちゃんで‥ミナから言い寄ったことは一度もない。
 ミナにはそこに居心地悪い思いしてまで居る必要性なんて全くなかった。噂を聞いた家族も「早く帰っておいで」と言ってくれている。だから、母親の知り合いである「おば様」にだけ謝って、ミナは実家に帰ってきた。
 その後だった。ミナが自分の妊娠に気付いたのは。
 父親は‥坊っちゃんだ。
 ホントに‥「気の迷い」としか言えない‥一度だけの関係だった。ミナは焦ったが‥「もうやめたし、どうこう言われることもないだろう」って思った。勿論誰にも言う気はなかった。母親や伯母夫婦にさえ、ミナは父親が誰かということを伝えることはなかった。
 だけど、どう言うわけかそれは坊っちゃんの悋気持ちの嫁に伝わってしまった。
 勿論証拠なんかない。だけど「そう思うから、そう」だとエンヴァッハ伯爵夫人は決めつけた。‥そういう性格だったんだ。
 当時のメイド仲間からミナが疑われていることを聞いた‥ミナは焦り‥恐れた。
 ミナは家族に迷惑を掛けない様に‥息子を連れてこっそり家出した。
 知られていないことを祈って。

「これが家出の全貌だよ」
 ナナフルが言って、丁度シークさんが淹れてくれたお茶をシークさんにお礼を言い、飲んだ。
「「「‥‥」」」
 僕も、ロナウもシークさんも声が出なかった。
 ザッカさんはあらかじめ知っていたんだろう。静かにナナフルさんの肩を抱いた。
 フタバちゃんは無言で涙を流し、アンバーは「ムカつくなそいつ」ってボソリ‥と呟いた。

「その後、私たちは見つかり‥母さんは殺されたんだ‥」
 眉を寄せて‥静かに呟いたナナフルさんに‥僕ら皆心臓をぎゅっと握りつぶされた思いがした。
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