リバーシ!

文月

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二章 別に生活に支障を感じなかった特異なリバーシ

5.イケメンなのにむっつりって‥。残念ですよね!

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(side 聖)

「‥おい、なんで笑ってる」
 と、口を開いて出た俺の声が、女の声そのもので、それにも焦った。
「いやさ、あっちでのあんたが男だったから、目が覚めたら、‥当然するだろうなって、それ。男の性って奴だ。気にしないでいい」
 笑い過ぎて涙目になったミチルが言い、共犯者‥もう一人の男はまたミチルを睨んだ。
「‥‥」
 俺は、‥睨みはしないが、不機嫌な顔になる。
「でも、後でこいつがいないところでゆっくりやってやってくれ。こいつは初心なんだ」
「‥何をしろ、と。俺は、別に隠れてすることなんぞない」
 何をって、分かるさ。
 もう一人の男は初心だから、目の前でおっぱいもむな
 ってことだろ。
 このむっつり野郎‥。
 わかるが、‥分からない振りしてやる‥。
 俺までむっつりだと思われたらたまらん!

 ミチルは、まだにやにや笑っている。
 このむっつり野郎! (二回目)
 イケメンなのに残念だな!!
 って、もう一人の男もすごいイケメンだし。なんなの、ここ。
 俺、男だし、なんも嬉しくもないんだけど!
 って‥、今現在、「俺」は女なわけなんだけど。さっき、‥あったもんな! 。おっぱい‥。(‥腫れただけかもしれん‥おっぱいだとは限らん‥。でも、さっきの声とか、手足を見た感じとか‥)
 ‥疑いようはない。
 今の俺は‥間違いなく女なんだ‥。
 ‥どうしてこうなった‥?

 ‥! 
 もしかして、あのブレスレット外したから呪いがかかったとかそういうことだろうか?! 
 ‥女になる呪い‥? 恐ろしい‥。
 落ち込む俺に
「ごめん。笑ったりして。‥そりゃ、混乱するよな‥」
 ミチルが眉をひそめて、謝った。
 さっきまでの、にやにや‥じゃない。
 なんだよ‥調子狂うじゃないか。ってか‥そういう顔される方がかえって落ち込むんだけど‥。
「‥顔を確認したりとか‥する? 」
「顔。‥顔も違うのか? 」
 俺は、つい、凄い勢いでミチルに詰め寄ってしまった。
「そりゃあ。全く別人って感じではないけど、まあ、性別が違うんだ。違うわな」
「‥‥‥」
「鏡、みる? 」
 ミチルが近くに居る、メイドちゃんに鏡を持ってこさせた。
 その頼み方が「お願い」っとかじゃない。顎をきゅっと上げて、視線をちょっと向ける、みたいな偉そうな頼み方で、「あ、こいつかなりいいとこの坊ちゃんなんだ。‥感じ悪りぃ」って思った。
 俺は黙ってミチルから鏡を受け取り、それを見る。
「‥‥‥」
 真っ白な形のいいちっちゃい卵型の輪郭。肩を超えるハニーブラウンのふんわりウエーブ。若草色の気の強そうな瞳。すっきりと鼻筋が通った、形のいい鼻。小さな桜貝みたいな唇。柔らかそうな頬は血色のいい桜色。

 はっきり言って、半端ない美少女! がそこに映っていた。

 ‥成程、スリーピングビューティーもさもあらん。
 俺がため息をつくと、その美少女も物憂げにため息をついた。
 その様子は、華奢で、守ってやりたいって気にさせた。

 って、俺だけど。

 そう、俺なんだ。
 ‥どうやら、本当に、これは俺らしい。
 だけど、俺の思い出に残る「ヒジリ」は、将来こんな顔になるような顔じゃなかったはずだが‥。(さっきの回想の、「草」子供だ)
 目と髪の色は、‥同じ。それ位だ。
 こんなに髪も綺麗じゃなかったし、鼻だってどっちかというと低かったし、長い睫毛とは無縁だったはずだし、‥肌もそばかすが悩みだった。
 そうだそうだ思い出した‥。
 毎朝、学校行く前に、爆発する剛毛&毛量に悪戦苦闘してたし、鼻を高くするためにピンチではさんだこともあった。
 あんな見た目だったけど、俺は「そんなの気にしない」って子供じゃなかった。むしろ、人一倍気にしてた。
 ‥だから、ナツミのことが羨ましかったし、なんとかナツミみたいになりたくって努力してたんだ。
 あのころから、ナツミは綺麗だったから‥。

 ‥俺はそうじゃなかった。
 こんなの(鏡に映ってるようなの)じゃなかった。

 大きくなったら綺麗になる子は、子供の時はそうでもない‥って聞いたことあるような気が(← どこで? )するけど‥「これ」はそんなレベルじゃない。
 こりゃあれだ。
 整形レベル。

 まさしく魔法だ‥。

「見惚れるなよ‥」
 ミチルが呆れ声を出す。
「‥見惚れてねえし‥。‥寧ろ、自分の顔だって感じがしない」
 実感がわかないし‥
 むしろ‥
 なんか怖いってのが本心。
 俺がぼそっとつぶやくと、ミチルが首を傾げた。
「そうでもないだろ。現に俺は、あんたをあっちで見た時わかったからね。‥こっちでのあんたの目を覚ましたところを見たことがなかったから、目の色までは分からなかったけど、こうやって見たら、まんまって感じじゃないか」
 いや、「聖」と今の「ヒジリ(女)」の話をしてるんじゃない。
 それも‥確かに違うんだけど‥。

 ‥あっちの俺と、こっちの俺なら‥確かに、そう違わない。色味も同じだし‥。

 あっちでも俺の色素はもともと薄かった。
 ここでの姿は、それがさらに全部ワントーン明るくなったような‥そんな感じだ。
 ‥そこらへんはミチルと同じだ。
 ミチルもあっちにいるときより明るい色味をしているもんな。

 はちみつに若葉を溶かした様な色の目‥綺麗ね。

 俺の日本人離れした色の目を、そんな気障ったらしい言葉で表現した女子もいた。
「瞳はハチミツみたいだし、髪はキャラメルみたいだし、肌はしっとりしててふんわりしてて‥高級なマシュマロみたい」
 って。(‥今思えば、なんかおいしそうだな)
 

 髪の色、目の色、肌の色。‥俺の顔は異質だ。
 両親と比べてっていうか、周りと比べて‥。
 でも、そういえば、両親とも茶目で茶色い髪をしてる。そのおかげで「遺伝だね」ってみんなに認められて、学生時代「髪を染めてるだろう」って言われたこととかもなかった。
 外国人みたいな髪の色、目の色。
 それって‥両親もこっちの人間だったから‥ってことかな。

 にしても、だ。
 性別が違うとか‥。

 でも‥思ったほど、驚きはない。‥逆に驚きすぎておかしくなってるだけかもしれないけど。
 まあ‥もともと、「俺は男だ!! 」って主張するほど、自分が男であることに自信をもってたわけでもない。‥そもそも「俺って‥ホントに男? 」って考えたりする程、自分の性別に関心とかもなかった。

 ‥自分の性別について考えるのって‥どういうときなんだろう。

 顔?
 体つき?

 あの頃から‥そういえばどっちかというと女顔だった。
 体つきは‥別にそう違和感はなかったと思うよ。マッチョではなかったけど、別に女の子みたいな体つきしてたとかでは無かったし。身長も170センチはあったし。

 周りの反応?
 好きになる子の性別?

 でも、今ってさ。周りの子も昔ほど「男のくせに」とか「女らしく」とか言わないよね。ボーイッシュな女の子も、中性的な男の子も普通にいるし。
 好きな子の性別‥。
 そもそも、好きな子‥とかいなかった。(そういえば)
 好きって‥相手から恋愛対象として、みられることもなかった。
 女子からは「聖って女子の私たちより綺麗なんだもん‥男の子って感じしない」って恋愛対象にされなかったし‥。(きっとそれだけが原因ではないんだろうが)
 ‥まあ、俺も何となく「女子と付き合うのは違うかな」とか思ってたからいいんだけど(いや、ほんと負け惜しみじゃなくて)
 女の子は可愛くて好きだけど、エッチする‥とかは違うって感じ。

 ‥頭の奥‥根底では、自分がホントは女だって知ってたから‥なのかな‥やっぱり。

 でも、男子を見てときめくとか(ときめく!? あるか! 気色悪い!! )なかったから、ただ単に恋愛に興味がなかっただけかも‥。
 それか、「お前程度の顔で俺と付き合うとか? は? 鏡見て出直してこい」的な?? 

 ‥根底で俺がそんなこと思ってたとしたら‥引くわ~。

 ‥てか、俺自身自分が男だって思ってたから‥よけいに男とエッチするとか‥考えただけで「ないわ」って感じだ。(なにそれおそろしい)
 そもそも‥男子にとっても俺はいくら女顔だろうと男なわけだしね。
 ‥男とエッチ‥。実は女だったってわかった今でも「ない」な。
 例えばミチルとどうこうって‥。

 ‥気色悪‥っ!

 そんなことを悶々と考えて首を小さくふったら‥
「‥いつまで鏡で自分の顔を見続けてるんだ?? 聖ってめっちゃナルシスト?? 」
 あきれ顔のミチルと目が合った。

 ん? 顔?

 いや、見てないけど?
 ‥そんなドン引きって顔で見るなよ‥落ち込むわ~。
 胸に手を当てて、心が痛いアピールしたつもりが‥
「だからおっぱいもむなって‥」

 ‥もんでないって言ってんだろ!!?  このむっつりが!!

 さらにドン引きって顔で俺を見るなよ!!
 ‥共犯者(← ラルシュ)もそこで真っ赤にならない!! あんたも大概むっつりだな!!?
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