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四章 人は自分が思うほど‥
5.見ない振りとか、分かった振りとか、共感とか。
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(side 聖)
「は? 」
‥一瞬ギクッとしちゃったよ‥。
ばれてないだろうな。
‥にしても、なんてこと言いやがるんだこいつは。
俺の顔に‥きっと恐れをなしたんだろう。吉川が「すまん」と謝ってきた。
‥まあ、いいさ。話を聞くとしよう‥。
吉川は、俺の「まあ‥いいけど‥。話を続けて? 」っていう言葉に頷き話を再開させた。
「聖は自分の事を男だといい、男としてあの会社に入って来たし、実際に男なんだろうって思う。
だけど、絶対トイレで会うこともないし、泊りがけの社員旅行にも参加しない。
だから‥正直、‥お前が男なんだか確証が持てないんだ。
それに、‥時々、ホントに時々、お前のことが女に見えることがある。それは‥俺だけじゃない。
国見も言ってた。別に悪口とかじゃない。あいつのことだ‥例のごとく「考えついたまま言ってみた」って感じだった。
「聖先輩て、女装とかしても似合いそうですね! 忘年会ですすめてみよっかな~」って感じだった」
なぬ! 国見! 俺をどんな目で見てるんだ!
‥勧めてこなかったってことは‥流石に「そんなことを先輩様に言うのは間違ってる」って気付いたんだろう。‥危機管理能力はあったんだな。
そんなこと勧めてきてたなら‥怖かったぜ? (← きっと怖くない)
吉川の話‥というか、独り言みたいな話は続く。
「まあ、‥他の奴のことはどうでもいい。俺は‥正直お前を男だと思‥えていない。
特に‥
昨日なんか‥女にしか見えなかった‥。だから、俺は‥」
最後は、少し苦しそうに、俯いた。
‥吉川。苦しそうだな~。そうだよな。‥今までずっともやもやしてきたんだよな。
‥だけど、俺に気付かれないように「何でもないふり」してきたんだ。
‥思えば新人時代、周りのみんながやけに俺に話しかけて来たのって‥「どっちだ? 」って‥好奇心で話しかけてきてたのかもしれない。
俺が男か、女か。
恋愛対象は、女なのか男なのか。
今の時代、「お前って女なの? 」とか聞いたら、セクハラだとか、ジェンダー的な差別問題でいろいろマズいんだろう。
そもそも、「男」で入社してるから男なんだろう。だけど、「男」だけど、男が好きってこともあり得るし、男だけど心は女だってこともある。
‥そういうことが知りたいんだろう。(ホント、悪趣味だよね! (※ ただモテてるだけなんだけど、聖はそういうことに超絶鈍い。ヒロインだから?? )
「‥そ‥っか‥」
机に置いてあった水を取って、ぐいっと勢いよく氷ごと口にふくむと、やっとからからだった喉が潤った。
「皆も‥? 」
たぶんな、と吉川が呟いて頷く。
「空気読まない佐藤さんだけは、思ったまま言ってるけどな」
‥で、周りがフォローと。
もう一口水を口に含む。
「俺は、男だ。戸籍もそうなってるし、今まで自分が男じゃないと思ったことは無い。‥トイレは、‥他の奴と並んでするのが苦手だし、何より家でも座ってしかしないから、立ってする習慣がないだけだ」
それに、‥今まで女に間違えられたこともない。
女の子みたいな服も着たこともないし、女の子みたいな仕草は極力してこなかった。
だって、俺は‥(事実はどうあれ)俺のこと男だって思ってたし、母さんに「男の子でしょ? 」って言われてきたから‥。
それこそ、‥今思えば洗脳かって位ちょっとしつこく言われてきた。
ああいうのも‥理由がわかれば頷ける。‥納得がいった。
両親は俺を隠すために、俺を別人にしないといけなかったから‥。(それこそ、記憶をいじってでも、だ)
「男の子でしょ? 」
って言われても‥「今どき‥」って思ったし、あんまり言われるから反抗して、わざと「女の子でも着れるようなTシャツ」を欲しがったり‥とかもした。
そんなとき母は、「それはちょっと似合わない‥かなあ」って反対しながらも、でも
「仕方ないのかもしれないわねぇ‥」
って、困った顔をしてた。(そういえば)
‥なるほど、記憶をいじってるっていっても、実際は女の子なんだから「仕方が無い」ってことかあ(俺にはそんなつもりはなかったんだけどね!! ただの嫌がらせ‥ってか、ただの反抗だったんだけどね!! )
「‥皆も、俺のこと性別不明って思ってた‥」
言葉を失って、俯く。
吉川が俺を見たのが、でも、空気で分かった。
「だけど、‥そんなことどうでもいい。俺はお前が‥! 」
吉川の苦しそうな声。
絞り出すような、低い小声。
こんな‥熱のこもった吉川の声を‥視線を俺は知らない。
「‥吉川? 」
俺は、そろりと顔をあげて吉川を見る。
「! 俺の気持ちは、お前には聞かせてやらない! お前には関係が無いからな! だけど、お前が知らない男に泣かされるのは、我慢ならない!
‥そんなお前の姿見たくない!
お前は男なんだろう? じゃあ、いつもみたいに「俺は男です」って顔でどーんと構えてろよ!
妙に、弱みなんか他の奴に見せるなよ! 俺の‥理性を無駄にしないでくれ‥! 」
怒る様な口調。
苦し気な、表情。
吉川の気持ちは、いくら俺が鈍いって言ったって、分かった。
「吉川‥」
何て言えばいいか分からない。
「俺は、誰も好きじゃない」?
いやいやいや。吉川は俺のこと、一言も好きだなんて「言っていない」。
それに、吉川は言った。「お前に関係がない」。多分、吉川は、俺に気持ちを伝えたいわけじゃないし、(それに対する)俺の返事をききたいんじゃない。
俺がOKするなんて思ってないだろう。
俺と‥
気まずくなったり、友人じゃなくなるのが嫌なんだろう。
「‥ありがとう。そうだな。らしくなかったな。
‥ってか、勘違いするなよ。あの時泣きそうだったのは、ミチル‥あの時前に居た男で、俺じゃない。
俺は、あいつを慰めてただけだ。
‥ちょっと感情移入はしそうになったけど」
そう、‥ほんのちょっと‥
感情移入しちゃったんだ。
俺って、ほら「熱い男」だから。
「感情移入? 」
吉川が首を傾げる。
俺は頷く。
「あいつの話をペラペラしゃべるのは‥どうかと思うからしゃべらない。
‥まあ、知らないやつだからいいか。
まあ、‥あいつはあの時フラれたんだけど、あいつが落ち込んだのは‥フラれたってことじゃない。
フラれて泣く男には‥流石に友達想いの俺でも感情移入して、泣くことはない。
一緒にやけ酒でも飲みながら「まあ、他にもいい奴がいるさ」っていうだけだ。あいつが落ち込んでたのが‥俺にも言えることだった‥って感じかな」
吉川は頷きもしなかったし、何かいうこともなかった。
部外者があれこれ知らないくせに話すべきことではないってわかるんだろう。
‥その通りだ。
「同じ境遇‥所謂‥似た者同士なんだ、俺とミチル。
だから、共感したというか‥単純に「気持ちが分かった」だから、‥自分の事の様に悲しくなった」
‥誰にも自分を見てもらえない、って気持ち。それはそのまんま自分にも言えてて、なんか泣けてきた。
「だけど、‥まさか、俺自身も‥皆から気を遣われて、取り扱いに困られていたとは思わなかった」
俺だけじゃなくって、皆も俺の取り扱いに困ってた。
‥気を遣われてた。
気を遣わないって思ってた、吉川にも、だ。
「気を遣うの‥やめた方がいいか? 」
吉川が、眉をちょっと寄せた。
「う~ん。それは‥俺が言うと変じゃないか? 俺が頼むってことは、‥お前の意思で‥とは違うってことだし。
今までお前の意思で「気を遣わない」振りしてきたんだから、‥これからも‥って思うんだったら、寧ろ言わないでおいてほしかった‥っていうか‥。
だけど‥聞かなかったことにしろって言うならする。
俺が聞かなかったって記憶にふたをして、そのほうが吉川が俺と接しやすいって言うなら俺はその方がいい。
俺はね。
別に思うように扱ってくれたらいい。
気まずいから‥明日からは、会社であっても見ない振り‥とかは、キツイ」
吉川が力なく
へらって笑った。「すまん」って顔だ。
「俺が‥今まで通りって言ったら、そうしてくれるってこと? 」
「うん」
俺は頷く。
俺は心が広いから、そんなこと「わけない」。
「‥じゃあ、俺が、俺のこと意識して、って言ったら?
恋愛って意味で、お前の事、好きだって言ったら?
お前は、俺のこと「そんなふうに」意識してくれる? 」
「‥‥」
‥お前、言わないつもりじゃなかったのかよ‥。
そういうことに慣れない俺は、答えに窮して、苦笑いするしかできなかった。
「は? 」
‥一瞬ギクッとしちゃったよ‥。
ばれてないだろうな。
‥にしても、なんてこと言いやがるんだこいつは。
俺の顔に‥きっと恐れをなしたんだろう。吉川が「すまん」と謝ってきた。
‥まあ、いいさ。話を聞くとしよう‥。
吉川は、俺の「まあ‥いいけど‥。話を続けて? 」っていう言葉に頷き話を再開させた。
「聖は自分の事を男だといい、男としてあの会社に入って来たし、実際に男なんだろうって思う。
だけど、絶対トイレで会うこともないし、泊りがけの社員旅行にも参加しない。
だから‥正直、‥お前が男なんだか確証が持てないんだ。
それに、‥時々、ホントに時々、お前のことが女に見えることがある。それは‥俺だけじゃない。
国見も言ってた。別に悪口とかじゃない。あいつのことだ‥例のごとく「考えついたまま言ってみた」って感じだった。
「聖先輩て、女装とかしても似合いそうですね! 忘年会ですすめてみよっかな~」って感じだった」
なぬ! 国見! 俺をどんな目で見てるんだ!
‥勧めてこなかったってことは‥流石に「そんなことを先輩様に言うのは間違ってる」って気付いたんだろう。‥危機管理能力はあったんだな。
そんなこと勧めてきてたなら‥怖かったぜ? (← きっと怖くない)
吉川の話‥というか、独り言みたいな話は続く。
「まあ、‥他の奴のことはどうでもいい。俺は‥正直お前を男だと思‥えていない。
特に‥
昨日なんか‥女にしか見えなかった‥。だから、俺は‥」
最後は、少し苦しそうに、俯いた。
‥吉川。苦しそうだな~。そうだよな。‥今までずっともやもやしてきたんだよな。
‥だけど、俺に気付かれないように「何でもないふり」してきたんだ。
‥思えば新人時代、周りのみんながやけに俺に話しかけて来たのって‥「どっちだ? 」って‥好奇心で話しかけてきてたのかもしれない。
俺が男か、女か。
恋愛対象は、女なのか男なのか。
今の時代、「お前って女なの? 」とか聞いたら、セクハラだとか、ジェンダー的な差別問題でいろいろマズいんだろう。
そもそも、「男」で入社してるから男なんだろう。だけど、「男」だけど、男が好きってこともあり得るし、男だけど心は女だってこともある。
‥そういうことが知りたいんだろう。(ホント、悪趣味だよね! (※ ただモテてるだけなんだけど、聖はそういうことに超絶鈍い。ヒロインだから?? )
「‥そ‥っか‥」
机に置いてあった水を取って、ぐいっと勢いよく氷ごと口にふくむと、やっとからからだった喉が潤った。
「皆も‥? 」
たぶんな、と吉川が呟いて頷く。
「空気読まない佐藤さんだけは、思ったまま言ってるけどな」
‥で、周りがフォローと。
もう一口水を口に含む。
「俺は、男だ。戸籍もそうなってるし、今まで自分が男じゃないと思ったことは無い。‥トイレは、‥他の奴と並んでするのが苦手だし、何より家でも座ってしかしないから、立ってする習慣がないだけだ」
それに、‥今まで女に間違えられたこともない。
女の子みたいな服も着たこともないし、女の子みたいな仕草は極力してこなかった。
だって、俺は‥(事実はどうあれ)俺のこと男だって思ってたし、母さんに「男の子でしょ? 」って言われてきたから‥。
それこそ、‥今思えば洗脳かって位ちょっとしつこく言われてきた。
ああいうのも‥理由がわかれば頷ける。‥納得がいった。
両親は俺を隠すために、俺を別人にしないといけなかったから‥。(それこそ、記憶をいじってでも、だ)
「男の子でしょ? 」
って言われても‥「今どき‥」って思ったし、あんまり言われるから反抗して、わざと「女の子でも着れるようなTシャツ」を欲しがったり‥とかもした。
そんなとき母は、「それはちょっと似合わない‥かなあ」って反対しながらも、でも
「仕方ないのかもしれないわねぇ‥」
って、困った顔をしてた。(そういえば)
‥なるほど、記憶をいじってるっていっても、実際は女の子なんだから「仕方が無い」ってことかあ(俺にはそんなつもりはなかったんだけどね!! ただの嫌がらせ‥ってか、ただの反抗だったんだけどね!! )
「‥皆も、俺のこと性別不明って思ってた‥」
言葉を失って、俯く。
吉川が俺を見たのが、でも、空気で分かった。
「だけど、‥そんなことどうでもいい。俺はお前が‥! 」
吉川の苦しそうな声。
絞り出すような、低い小声。
こんな‥熱のこもった吉川の声を‥視線を俺は知らない。
「‥吉川? 」
俺は、そろりと顔をあげて吉川を見る。
「! 俺の気持ちは、お前には聞かせてやらない! お前には関係が無いからな! だけど、お前が知らない男に泣かされるのは、我慢ならない!
‥そんなお前の姿見たくない!
お前は男なんだろう? じゃあ、いつもみたいに「俺は男です」って顔でどーんと構えてろよ!
妙に、弱みなんか他の奴に見せるなよ! 俺の‥理性を無駄にしないでくれ‥! 」
怒る様な口調。
苦し気な、表情。
吉川の気持ちは、いくら俺が鈍いって言ったって、分かった。
「吉川‥」
何て言えばいいか分からない。
「俺は、誰も好きじゃない」?
いやいやいや。吉川は俺のこと、一言も好きだなんて「言っていない」。
それに、吉川は言った。「お前に関係がない」。多分、吉川は、俺に気持ちを伝えたいわけじゃないし、(それに対する)俺の返事をききたいんじゃない。
俺がOKするなんて思ってないだろう。
俺と‥
気まずくなったり、友人じゃなくなるのが嫌なんだろう。
「‥ありがとう。そうだな。らしくなかったな。
‥ってか、勘違いするなよ。あの時泣きそうだったのは、ミチル‥あの時前に居た男で、俺じゃない。
俺は、あいつを慰めてただけだ。
‥ちょっと感情移入はしそうになったけど」
そう、‥ほんのちょっと‥
感情移入しちゃったんだ。
俺って、ほら「熱い男」だから。
「感情移入? 」
吉川が首を傾げる。
俺は頷く。
「あいつの話をペラペラしゃべるのは‥どうかと思うからしゃべらない。
‥まあ、知らないやつだからいいか。
まあ、‥あいつはあの時フラれたんだけど、あいつが落ち込んだのは‥フラれたってことじゃない。
フラれて泣く男には‥流石に友達想いの俺でも感情移入して、泣くことはない。
一緒にやけ酒でも飲みながら「まあ、他にもいい奴がいるさ」っていうだけだ。あいつが落ち込んでたのが‥俺にも言えることだった‥って感じかな」
吉川は頷きもしなかったし、何かいうこともなかった。
部外者があれこれ知らないくせに話すべきことではないってわかるんだろう。
‥その通りだ。
「同じ境遇‥所謂‥似た者同士なんだ、俺とミチル。
だから、共感したというか‥単純に「気持ちが分かった」だから、‥自分の事の様に悲しくなった」
‥誰にも自分を見てもらえない、って気持ち。それはそのまんま自分にも言えてて、なんか泣けてきた。
「だけど、‥まさか、俺自身も‥皆から気を遣われて、取り扱いに困られていたとは思わなかった」
俺だけじゃなくって、皆も俺の取り扱いに困ってた。
‥気を遣われてた。
気を遣わないって思ってた、吉川にも、だ。
「気を遣うの‥やめた方がいいか? 」
吉川が、眉をちょっと寄せた。
「う~ん。それは‥俺が言うと変じゃないか? 俺が頼むってことは、‥お前の意思で‥とは違うってことだし。
今までお前の意思で「気を遣わない」振りしてきたんだから、‥これからも‥って思うんだったら、寧ろ言わないでおいてほしかった‥っていうか‥。
だけど‥聞かなかったことにしろって言うならする。
俺が聞かなかったって記憶にふたをして、そのほうが吉川が俺と接しやすいって言うなら俺はその方がいい。
俺はね。
別に思うように扱ってくれたらいい。
気まずいから‥明日からは、会社であっても見ない振り‥とかは、キツイ」
吉川が力なく
へらって笑った。「すまん」って顔だ。
「俺が‥今まで通りって言ったら、そうしてくれるってこと? 」
「うん」
俺は頷く。
俺は心が広いから、そんなこと「わけない」。
「‥じゃあ、俺が、俺のこと意識して、って言ったら?
恋愛って意味で、お前の事、好きだって言ったら?
お前は、俺のこと「そんなふうに」意識してくれる? 」
「‥‥」
‥お前、言わないつもりじゃなかったのかよ‥。
そういうことに慣れない俺は、答えに窮して、苦笑いするしかできなかった。
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