リバーシ!

文月

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五章 王家の秘密

3.王家の定め ~貧乏くじは誰が引く? ~

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 ラルシュは3人兄弟だ。
 歴代、王家には、跡取りである長男の他に、リバーシが一人、魔法使いが一人「必要とされている」。
 王の血筋であれば、いずれかの特徴をもって生まれることになっているから、一番少なくて三人でそろうことになる。
 だけど、大概は長男、魔法使い、魔法使い‥と続いたりすることも多かったから、今回はそこそこ特殊な例ともいえよう。
 因みに今代は、長男:サイダラール(次期国王)
        次男:ラルシュローレ(魔法使い)
        三男:サラージ(リバーシ)
 ということになっている。

 そう、三男はリバーシなんだ。
 だから、夜通し起きてるのも勿論苦にならないし、普通だったらヒジリたちリバーシの面倒を見るのはリバーシであるサラージが適任だろう‥と思われるのに、サラージにはそんな気はさらさらない。

「ヒジリさんは、ラルシュ兄の婚約者だから、兄さんが面倒を見るのは当たり前でしょ。あと、異世界のリバーシのミチルさん? 俺は将来王になるわけじゃないから、異世界人とわざわざ関わんなくっていいんだよ。
 ラルシュ兄は‥物好きだよね。
 ‥異世界人と話したら新しい魔法のヒントが浮かんでくるんだ! って‥魔法の研究開発とか王族がすることじゃないだろ‥」

 サラージは利己的な、すご~くシンプルな性格だった。
 白か黒‥っていったら、純粋な黒でもないけど、ほぼ黒寄りって感じ。そして多分インフルエンサーじゃない。
 リバーシだから全員インフルエンサーではないし、インフルエンサーだからって言って全員リバーシか魔法使いだってわけでもないんだ。

「俺たちには俺たちの仕事。俺たちの役割‥
 俺たちに国民が、王が何を期待しているかってことが大事‥」

 とはいえ、
 この国って、長男以外、結構要らないって‥そういう扱いが隠せてないんだよなあ‥。
 俺たちには、この家(城)に置ける価値は無いけど、利用価値はある。
 もっとも、裏切らない家臣。
 それが、多分俺たちの位置づけ‥。


(サラージ 回想)

「西に、強大な力を持つリバーシが産まれたとの報告があった。膨大な魔力は、歴代一とのことらしい。‥敵に回っては、それこそ一大事だ。常に監視を付けて、少しでも疑わしい動きを見せたら、その時は‥
 いや、それより‥完全に育ち切る前に殺して置いた方が‥」
 隠れるように、ぼそぼそと低い話し声が聞こえた。
 なんの悪だくみだ、城で悪だくみとはいい度胸だな。
 とはいえ、普通の人間にはこの話し合いは聞こえないだろう。
 これは、俺のスキル‥最上位 情報収集のスキルがあるからこそ聞こえるものだ。
 でなければ、俺の部屋のある二階から、父親の執務室(一階)で話す声が聞こえるわけがない。
 しかも、執務室には勿論の事ながら、声が漏れないように結界が張り巡らされている。
 それを潜り抜けられるようになったのは、俺ほどの天才であれ、結構最近だ。
 密談をしているのは、父上である国王と‥軍部のトップ、ファー将軍だった。
 ‥おっと、軍と父上(王)が密談って、穏やかじゃないね。
 ‥もう一人いるようだ。三人目は‥誰だろう。
 内乱でも起こってるのか? そっと、聞き耳のスキルを強化する。
「そんなに危険なのか? 」
 三人目は大臣の様だった。
 中の様子は見えない。(俺のスキルは音声だけなんだ。映像も‥とかいう情報収集スキル保持者には今のところお目にかかったことはない。そもそもいるのかな。‥音声でさえ膨大なデータだのに映像持って考えたらきっと無理だろう)
 声だけで判断する。
 多分‥とか推測は許されない。
 聞き逃した‥とかは、問題外だ。
 性別だとか、年齢だとか‥その会話の主の精神状態やら健康状態。音声からいろいろな情報を収集し、整理する。
 全てのフェイク(偽装魔法)を取り去って、偽りない情報を‥。そういう鍛錬がもっとも必要になる。
 スキルの鍛錬に、ゴールは無いな。
 と、スキル鍛錬オタク気味の王家の三男坊・サラージは、小さく頷いた。
 密談は続いている。
「感情で魔力を使われたら、それこそ国家滅亡の可能性だってあるとのことでした‥」
 ファー将軍の言葉に大臣が短く「ひっ」と声を上げた。
 ファー将軍と大臣、国王は幼馴染で、三人だけの時だったら割とフランクに話したりするようだ。
「成長して魔力を扱えるようになったら‥。‥否、それよりも精神状態が安定しない今の方が危険‥。感情が高まって魔力が爆発したら危険‥ってことか‥? 」
 大臣がファー将軍に詰め寄った。
「そうだな」
 慌てている大臣に対して、ファー将軍は、どっしりと落ち着いている。
 頼れるおじさんって感じで、俺はファー将軍を尊敬している。大臣は‥でも、別に頼りないとかじゃない。確か、年もファー将軍や国王より若いし、気さくな感じで俺の相談相手にもなってくれるいい奴だ。
 落ち着きも、‥おいおいついていくだろうと思う。
 ‥それにしても‥
 大臣じゃないが、‥とんでもないな。今度生まれたリバーシ。
 ‥国家滅亡レベルってどんなだ。それも、気分次第でってことだよな?
 ‥どんなんだ。一触即発の爆弾か。
 導火線に火をつけたら、どか~んか?!
 絶対、一生会いたくないね。
 機嫌損ねないように、相手の顔色見ながら話すとか、ホント無理。
 ポーカーフェイスもまだまだだって家庭教師に呆れられてるのは、‥でも、情けないから引き続き練習しようとは思ってるけど‥。
 ‥まあ、俺には関係ないと聞き流そうとしたら、

「ラルシュ様かサラージ様の婚約者として‥国に保護することが得策かと」
 という大臣の声が聞こえた。
 

 は? 俺か、兄上?


 固まった。
 俺は嫌だよ、そんな危険なゴリラみたいな奴のお守。
 大臣‥俺はお前に何かしたか? 何かうらみでもあるのか? 
 恵まれているとはいえない境遇の俺たち(ラルシュ兄と俺)にいつも親切にしてくれてたじゃないか?
 所詮、‥大臣は俺たちより国家‥父上の方が優先ってことか‥。そりゃあ、‥そうだよな。分かってるけど、ちょっと‥落ち込んだ。
 まあ、今はそんな場合じゃない。
 爆弾ゴリラの婚約者の話だ。
 ‥生れたばかりってことは、俺とは5歳差、ラルシュ兄とは7歳差か。
 うん、7歳差なら、ある。
 俺はまだ子供だから、婚約とか無理‥(いや、相手はもっと小さいんだけどさ‥)
 ラルシュ兄は、人当たりもいいし、短気じゃないし、‥それどころか人を怒らせてるのも怒ったのも見たことないし、爆弾のお守には適任じゃないか!
「見えているぞ、サラージ。さっきまでの話聞いていたんであろう。‥サラージであったら、5歳差で」
 ふう、と小さくため息をついて、父親である国王がサラージを「見た」。
 おお‥見つかった。
 最高位の 危険察知。いや、これは心眼‥かな? まあ、兎に角、父親に隠れて情報収集が無理なこと位‥分かってるさ。
 ファー将軍も小さく頷く(ファー将軍も軍人だけあって、こういう能力に長けている)。将軍は見えていないだろうが、気配を察知していたのだろう。大臣だけは、ちょっと驚いた顔をした。
 大臣は、ワンフロア分突き破る程の気配察知のスキルはない。
 そのかわり、常時攻撃結界が張っている。
 つまり、自分で気付かなくても、結界の方が自動的に敵意を持って近づく他人を攻撃してくれるのだ。
 ちょっとうっかりしている大臣にはぴったりのスキルだと思う。
 このスキルを取得するには、「自分はちょっとうっかりだ」って自分のダメさをまず認めないといけないから、‥そういう点では偉いと思う。(自分の欠点ってなかなか認めたくないよね)
 物理攻撃の将軍と、知力で防御&攻撃する大臣。
 大臣は体力より知力って感じなんだ。そういうところは、俺も同じだ。俺は、‥情報至上主義だけど。
 そうしている間も、階下からの威圧が半端ない。
 国王だろう。
 この威圧。兄も勿論俺も持っているが、‥意外にも、三人のなかでラルシュ兄が一番強い。穏やかな兄だから、本当に意外って感じがする。

 ‥現実逃避しててもダメらしい。

 階下からじりじり来る威圧に、俺は眉をしかめて
「今そこに参りますから、お待ちください」
 と、小声で呟いた。
 ‥俺には、父上の声が聞こえるけど、父上に俺の声が聞こえたかどうかは分からない。
 俺はため息をついて、重い足取りで階段を降り、国王の前で片膝をついて頭を下げた。
 跪くと、父上はまるで大男のようにも見える。
 遥かに遠い、‥神にも等しい存在。
 国のトップである国王に従い敬う、国家第一の臣下。国王の息子とはいえ、王位継承の無い俺たちの存在。‥俺たちの血には、国家服従の呪いが掛かっている。
 国王が俺に起立を促し、発言を認める。
 俺は小さく頷き、
「リバーシの婚約者には、ラルシュ兄がいいと思います。私は人間的にまだまだ未熟で‥しかも、私の属性は火。‥火の属性持ちは、‥他の属性もちに比べ、穏やかな性格ではありませぬ故‥。国の災厄の機嫌を損ねかねません」
 国王に進言した。
 父親が黙って頷く。
「国の災厄‥それは、此度生まれたリバーシのことか‥? そのような呼び方をしては、‥気の毒であろう」
「だって、そうではないですか。私は王家に生まれた以上、国のお役に‥とは常日頃考えてはおりますが、私の性格から考えてその役目は、‥不適任かと」
「‥口ばかり立つのう‥」
 はっきりと断言するサラージに、国王が苦笑する。
 まだまだ子供っぽさが目立つサラージのこういう発言を、国王は心配してもいるが、また、快いとも思っている、
「しかし、サラージ様のおっしゃることは‥正しいかと」
 幼い頃からサラージの一番の遊び相手になってくれていた大臣が苦笑いする
「確かに。サラージ様にはちょっと向かないかもしれませんな。サラージ様は少し、短気ですね」
 こう頷いたのは、ファー将軍だ。
 散々な言い様だな。
 ‥王家の王子だというのに、一番上では無いから、‥この扱い。
 王位継承者(長男)以外は、一臣下。
 今更、そんなことで怒らないし、落ち込みもしないけどね。
 他人に期待なんかしない。‥失望もしない。
「では、ラルシュに任せるとしようか」
 自分の立場は自分で守らないと。
 より、平穏かつ、充足感と向上心の持てる境遇を自分で手に入れないと。
 その為には、誰かが犠牲になろうと‥気にしない。

 それが、自分の兄であろうとも、だ。
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