リバーシ!

文月

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五章 王家の秘密

5.貧乏くじをあっさりと受け入れるのが、ラルシュ兄って人なんだ

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(side サラージ)


 その後も、鬼畜な三人+自分が一番大事な弟(つまり、俺)の話し合いは続いた。
「ラルシュの攻撃魔法は‥どうだ。使い物になりそうか? 」
 で、話は『暴走した爆弾ゴリラを止める術(すべ)』って話になってる。

 だって、大事だ。(寧ろ一番大事! )

 まあ、ラルシュ兄なら暴走させないだろうけどね。
 なんせ、ラルシュ兄はあれだ‥人を怒らせるような要素がそもそもない人畜無害なタイプだ。
 いくらラルシュ兄が人畜無害っていっても、人によって怒る要素は違う。
 ある人にとっては、おっとりとした癒し系‥でも、ある人にとっては「しっかりせい! はっきりせい! 」って感じられたり‥人によって感じ方は違う。
 でも、‥ラルシュ兄はあれは一種の才能かっていう程、誰の印象にも残らない。結果、腹の立ちようがない。

 怒られるような行動もしないし、本人も怒りやすい人でもない。

 そうそう。これが凄いところで、それでもなめられるようなタイプでもないんだ。会ったことのある人だったら、「こいつは、相手をしたらまずいな」って‥本能的に分かる。
 相手にしないでいいんだったら、相手にしない方がいいって‥思う。
 結果、ラルシュ兄の周りは静かだ。
 誰も手を出さない。
 いいか悪いかって言ったら‥いいのかもしれない。(だって、お互いなんの危害も与えられないわけだし)
 ‥だけど、俺にとって、ラルシュ兄はただの「しょうもない」地味な兄だ。
 (地味なんだけど)「だけど、王子だし」って話なんだろう。
 王子だから舐められないし、(関わったところで)なんか不気味だからそれ以上関わらない。
 容姿も能力もあるんだから、もっと正当な評価をしてもらえるようにアピールしろよ、とか俺なんかは思うんだけど、本人があの暮らしで満足してるんだから、俺には問題はない。そして、父上や、将軍にも。
 そして何より、国的に‥

 ラルシュ兄は、都合がいい人間だ。

 だから、今回の事だって
「そうですか」
「わかりました」
 って受けるんだろう。いつもの、笑顔でだ。

 だからラルシュ兄のことなら問題はない。

 我々がすべきは、何かあったら直ぐ駆けつけるにしても、その間のつなぎをラルシュ兄ができるかって心配だけ。
「ラルシュ様は、剣が出来るから大丈夫だ。攻撃魔法の方も‥火・土・風・水の四つの攻撃魔法を習得済みのようだな。‥属性もその四つだから、それ以上の攻撃魔法を持つことはこれから先もないとスキル指南師は言っておったな‥。魔法については分からないが、スキル指南師が才能があるとしきりに褒めていた」
 剣の稽古を担当しているファー将軍は、報告書を見ながら言った。
 ファー将軍は、剣で今の地位にまで上り詰めた努力の人で、魔力はあまりない。
「私位の魔力でしたら、初めからないものと思った方が安全です」
 と、常に言っているし、どうやら魔法にも向いていないらしい。
「じゃあ、ラルシュ様の事は問題がないですね」
 大臣が頷くと、今度はファー将軍が
「例のリバーシの属性は? 」
 大臣に聞いた。
 ラルシュの戦闘面の情報は、ファー将軍。その他の情報は、大臣にまわってくるわけだから、こういう状態になる。三人で集まるのは、情報交換の意味が大きい。
「水と土みたいですね」
 報告書にちらっと目を走らせる。
 あくまで、確認程度。大臣は一度読んだ報告書は完全に頭に入っている。
「火が無かったのが、せめてもの救いだね」
 思わず‥思った以上に自然な笑顔になった。(いくら俺でも笑うこと位ある)
 腹黒いけど、笑顔は可愛い。‥それ故に、余計に腹黒い気がする。
 さんざん陰で言われてるのは、知っている。
 因みに、影でついたあだ名は「腹黒天使」らしい。提案者は城のメイドさんたちだけど、嫌われているわけではない(と、信じている)。
 そういう、コアなファン層があるって話なだけだ。
 俺にとって、自分にいろいろ寄ってきてお世話を焼いていく彼女たちだって、立派な情報源なわけだ。(嫌われるわけにはいかないのだよ! )

「だけど、これは‥どこかで聞いたんだけど、彼女、魔法の素質はないみたいだね」
 黒い笑いを浮かべる腹黒天使に、ちょっと苦笑いをしながらも、
 ‥相変わらず、さすがの、情報収集力だ。
 ファー将軍が小さく唸る。
 腹黒だけど、‥そういう点は、評価できる。(脳筋なファー将軍は、サラージの腹黒部分については、どうしても評価できない)
「そういえば、神官ラーダールが、「今から土の祝福を学ばせれば、農耕の聖女になれる」といってたらしいよ。魔法は使えなくても、祝福は、スキルの最上位形態。リバーシほどの魔力量があれば、習得可能ってことだろうね」
 大臣は反対に、サラージのそういう腹黒な面は王家のコマとして必要だと認めているようだ。
 子供だからって、天真爛漫がいいってもんじゃない。ましてや、人の上にたつ王家にとっては、「そんなものいらないものだ」が、彼の信条だ。
 でも、‥腹黒な感じが隠せてない様じゃ、まだまだだ。

 ラルシュ様の‥あれが演技だとしたら、たいしたもんだぞ?

「‥祝福程度で満足するような魔力量だとも思えんがなあ」
 くく、とファー将軍が面白そうに笑った。
「そればかりは、本人の性格と、生活環境にもよりますね。好戦的な生活をさせないことが必須ですね」
 ふふ、と大臣も微笑んで頷く。
 ふうむ‥、と腕を組んで何かを考えているのは、国王だ。
「‥さっさとラルシュと結婚させて、城に住ませて慈善事業程度に農耕の聖女として働いてもらう位が一番いいかな」
 ふう、と小さく息を吐く。
「そうですね」
 にやり、と悪い微笑みで腹黒天使(サラージ)が同意の意を示した。
「では、すぐに国に保護の手続きを」
 と言うファー将軍に、大臣はいい笑顔で首を振り
「彼女が10歳になる直前位に、お忍びで城下を訪れた王子の目に偶然止まって、王子が一目惚れしたとでもしましょうか。いい話題にもなりますし、‥リバーシの危険性の説明も国民にしないで済みます」
 さらさらと、手元の報告書の空欄にメモをする。
 10歳。
 魔力の成長期が終了して、魔力量のバケツに魔力がいっぱいになるのが丁度この年なのだ。
 そして、この年を迎えた魔力を持つ子供は全員、高位のスキルマスターや魔術師の立ち合いの元、自分の魔力量の限界を体験する大掛かりな儀式がおこなわれる。
 貴族は、社交界デビューが成人式的なデビューになるが、貴族以外の魔力を持つ者にとっては、これが成人式的なデビューになる。
 これを受けないと、魔力持ちとして就職活動が行えないので、就職を希望する者にとっては、もっとも大事な儀式だ。
 自分の魔力量がどのくらいか。
 どの位の魔力を使えば枯渇寸前になるのか。
 回復にかかる時間はどれくらいか。
 自分だけでやれば、命の危険さえある。それ故に、専門職の立会いの元、だ。
 念のために、周りに対する危険防止の為に結界も張り巡らされるが、そうそう魔力が暴走して‥ってことはない。 一般人であったら、魔力持ちと言えど、せいぜいが、生活に便利な程度のスキルを発動する程度だ。
 リバーシは違う。
 魔力があるってわかってるリバーシにとってこの場は、まあ、「リバーシとしてのお披露目的な場」で、ちょっと派手に見える魔法を披露したりする場なのだ。
 そのために(国民に万が一でも危害を与えない様に)リバーシたちは専門の先生をつけてもらい練習をするんだ。

 派手に見えるけど、絶対に安全なパフォーマンスを。

 聖女だったら、祝福でその場に花畑をつくったり、(その前から種をまいたりする準備は自分でしなければいけない)雨を降らせたっていう魔法使いもいた。
 そしてこの年に、学生は義務教育(10歳で小学部は終わりなんだ)を終え、リバーシは神殿か城に抱えられる。そういう丁度節目の年なのだ。

 だけど‥あのリバーシに‥パフォーマンスをさせるわけにはいかない‥。

 しかしながら、国が「君はしなくていい」というわけにはいかない。
 リバーシは国民の税金で保護されている存在で、‥国民はリバーシのことを知る権利がある。普段は、保護されて情報が国民に流されることはなく、この場が最初で最後の情報公開の場となるのだ。
 だから、国民は関心を持つ。
 だのに‥この子だけはなし。ってわけには‥。
 『特別扱い』に気付かれたら、‥反対勢力に、あのリバーシが国の災厄だということを知らせることになるやもしれない。
 そうなると、反対勢力は、あのリバーシをほっておかないだろう。奴らはリバーシの魔力を只の「動力源」として使うのを厭わないし、‥そうできる技術を持っている。リバーシの意志関係なく、最悪、生きたまま動力源として意志を伴わないまま利用されるという事もあり得る。
 (協力する様にと)説得はするだろうが、‥説得に失敗したところで、利用価値はある。

 もっとも‥説得に成功した場合が一番マズいな。

 ‥そんなわけだから‥
 国としては例のリバーシについて、10歳までは普通のリバーシとして見守り、本人には「宝の元腐れ」であろうともラルシュ兄と形だけの結婚をして、穏やかに生活‥「魔力の平和的利用」に留めてもらうのがベストの選択なのだ。
「ラルシュの婚約者の発表で、そのリバーシに魔力の披露をさせよう。そうだな、内容は、最初の計画通り、農耕の聖女‥大地の祝福にしようか。結界という結界を張って魔力が外に漏れるのを防ごう」
 国王が相変わらず腕を組みながら難しい顔で呟くと
「で、国民には、結界内にお花畑ができるのを見てもらう‥ということですね。‥おまけに虹でも出させましょうか。派手にお披露目しましょう」
 大臣は少し面白そうに、ふふっと目を細めた。
「そうだな、それがいい」
 いい笑顔でファー将軍が頷く。
「とにかく、10歳を過ぎるまでは、変に手を出さずに‥監視だけは滞りなく‥だな」


 そんな風にラルシュ兄本人のいないところで、勝手に計画は決まったのだった。
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