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八章 未来と過去と
8.24時間ずっと
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(side ヒジリ)
「ヒジリ、俺はそろそろあっちに行くけど‥ヒジリは、大丈夫なのか? 」
いつの間にかシャワーに行っていたらしいミチルが髪をタオルで乾かしながらバスルームから出て来た。
バスルームっていっても、狭い湯船とシャワーが付いているバスルームとトイレがシャワーカーテンで区切れるだけの、マンションにありがちなタイプだ。
深さもなく、ゆっくり足をのばせる広さもない湯船を、一体浴槽といえるだろうかって‥いつだって思う。
実家にいる時は自分は特に風呂好き‥ってわけではないとは思っていたけど、一人で暮らすようになると「今まで」がどれ程恵まれていたのかって‥思い知らされた。
今までの家族の一員としての自分のライフスタイルと、自分自身だけの(オリジナルの)ライフスタイル。
学生時代俺の一人暮らしのアパートを父親が訪れたことがあった。(出張のついでに立ち寄ったんだ)
「どうだ、ミチル。一国一城の主生活は」
ってちょっと揶揄うような口調で言った父親になんか、ちょっと大人になったような気分がしたのを覚えている。
家族と離れ見知らぬ街に住む自分。
自分だけの「特別」を手に入れたような気持がした。
って、なんだか誇らしげな表情を浮かべて語ったミチルを羨ましいような‥恨めしいような気持で見つめたことを思い出した。
俺は、家族と離れて暮らしたことなんてなかった。
俺の事情を知った今なら「仕方が無いな」って思えるけど‥まあ、なんか(両親に心配と迷惑ばかりかけて来た自分が)情けないし‥なんか「損したような気持ち」になるのは‥でもしょうがないだろう。
あんな事情さえなければ俺だって‥
そう思う反面、あんなこともなかったらここ‥地球に来てもいなかっただろうな‥って思ったり。
「ヒジリもシャワー使ってね。知っての通り狭いけど」
いや、お前のバスルームの広さなんて知らない。
ここに来る度に勧められるが入ったことは無い。男女の間にあるような、そういう‥下心的な? 心配はミチルに対して感じたことはない。友人的な気遣いだって分かる。
だけど、それは違うって思う。
あれだ。
親しき間にも礼儀あり。
そういう距離感って大事。
ミチルがウォーターサーバーから水をグラスに入れ、一つをヒジリに手渡す。
それを「ありがと」って軽く微笑んで受け取る。何時もの光景だ。
ここに「ヒジリの身体で」来て以来、水にだけはこだわって来た。
コーヒーやら茶を飲むことはあるけれど、出来るだけ水を口にする。聖の時のように、吉川と飲みに行くこともなくなった。
この身体は「偽物の身体」以上に、口にしたものの影響を受ける。
魔法使い程では無いけれど、自分の属性に随分体調が左右されている気がする。
ヒジリの属性は水と土だから、土で育てた野菜やその野菜を糧にして育てられた動物と水‥。
特に、水に影響を受けることが多い気がする。
カルキの含まれていない水を飲めば体調が良く、逆に添加剤や香料の多く含まれた飲料水を多く摂取したら体調を壊す‥って感じかな。‥寝込むほどじゃない。
(属性なんて大袈裟なこと言ったけど)田舎でおいしい天然水を当たり前に飲んでた子が都会に来て「カルキくせ~!! 」って驚くような感覚のちょっと激しい版‥かもしれないけどね。
「じゃあ、‥俺は」
ヒジリにふわりと微笑みかけて、ミチルがベッドに横になる。
一緒にご飯を食べて、話し込んでいるうちに終電を逃して‥ってことは、この頃では「よくあること」で、もう大騒ぎすることでもない。
男女が同じ部屋に一泊とか問題だけど、俺とミチルの間にそういうのはない。間違いとか? ‥起こらないよ。ミチルはリバーシで、12時以降はここに「いない」んだから。(と、ヒジリは全幅の信頼をミチルに寄せている。つまり、それだけ相手にされてないってことで‥ミチルにとってはちょっと悲しいことなんだけどね)
その内、ふわっとミチルの身体が緑の光に包まれる。
この光景は、本当に綺麗だ。
そうだな、丁度、ヒカリゴケだとかそんな感じだ。人工物感はゼロだ。
あ、これ俺の場合は黄色いから丁度蛍っぽい感じになるんだよ。
自分の意識が身体から抜ける感覚が一瞬あって、その時に眠る自分の身体が見えるんだ。
全身が蛍みたいにふわ~と光る様子は
「見てみて! 」
って言いたくなっちゃうくらい、綺麗なんだ。
ちょっと自慢です。
そうこう思ってるうちに、ミチルの身体から緑の光が消え、ミチルが寝息を立て始めた。
ミチルの横顔にちょっと見惚れる。
(そういえば)ミチルの顔をこんなにしみじみ見たことはない。
今頃、夜の国についているんだろう。
寝ることすらない‥必要ない身体。
ミチルは充電の為身体と「思考」の線を今一時的に切っている。
そうしなければ、身体が休めないから。
24時間動いてる「思考」に引っ張られて身体も動こうとするから。身体って‥特に脳だな。
リバーシの本体が「眠る」時、多分脳は「完全に動きを止めている」んだ。(ホントのところは分かんないよ? 医者じゃないんだから)
ミチルは夜の国から帰って来た‥「目が覚めたら」ほっとするって言ってた。
あっちから帰ってこれなかったら‥って怖く思うこともあるって。
ミチルにとっては‥夜の国は「自分の生活の一部ではあるけれど、生活していく世界ではない」国で、「帰ってこれなかったら困る」ところだという。
俺にとっては生まれ育った国だけど、ミチルにとっては、地球が生まれ育った国だから‥それは仕方が無い。
身体をこっちに置いているんだ。それは仕方が無いだろう。
‥言うなれば、免許書とか‥パスポート? そういう大事な何かを預けて出かけてるような感覚なのかな?
ああ、違うな。そういう「人質」的なものじゃなくって‥、「眠り」は俺たちにとって充電だから
「携帯はこちらで鍵をかけて充電しながらお預かりしますから、どうぞ遊園地をお楽しみ下さい。‥息抜きは大事です。しばし、こちらの面倒事は忘れてあちらでゆっくりお過ごしください」
って感じかな。
「こちら」で「お預かり」してくれる優秀な‥信頼できる場所。それが今、ミチルにとってのこの部屋。
俺は‥
身体ごとここにいて、充電することもなくずっと「起きている」俺は‥24時間ずっと「息抜き」することもなく‥。
普通に考えたら「過労死」まっしぐらコースだ。
いくらリバーシだっていって、お勧めできないライフスタイルだ。
ミチルは今「息抜き」出来ているだろうか。
夢の世界 = 現実とは違う世界から俺が来て‥ミチルの日常に境界線が引かれなくなった今‥あっちの世界に行ったミチルは息抜き出来ているんだろうか。
ふと、
自分は今まで「逃げ場がある恵まれた立場」だったっててことに今更なんだけど、気付いた。
今、俺は逃げ場がない。
眠れなくて、でも、あっちの世界に戻ることも出来なくってずっとこっちにいる。
その間、唯一の相談相手であるミチルもいない数時間を一人で奥歯を食いしばって我慢している。
でも、その時間さえ我慢したら、
ミチルは帰ってくる。
だから、我慢すればいい。
簡単に「我慢すればいい」って言っても、それが何よりも苦痛だって今は思う。
それは、俺に限ったことではない。
息抜きが出来ない。‥安心して眠ることが出来ない。
その辛さ。
身体は疲れていて、身体は眠りを必要としているのに、心労から、‥その他理由から眠ることすらできない。
心は常に悲鳴をあげ、身体は限界に近づき‥いつしか、その疲れが‥恨みに変わっても‥ちっともおかしくない。むしろ、当たり前のことにさえ思える。
だけど、その恨みをどこにぶつけたらいいか分からないもどかしさ‥
こころが悲鳴をあげている。
あの時、俺を見たナツミの一瞬見せた懐かしいという感情。だけど、次の瞬間には、それは消えてただ感情のよめない笑みを浮かべていた。
そして、呆れたって、失望したって言葉を繰り返した。
言いながら、ナツミの瞳は、今思えば、寂しそうだった。
俺なら‥自分の苦しみが分かるかもしれないって‥少しはあった想い‥微かな望みを、平和ボケした俺によって裏切られて、ナツミは‥あの時、完全に一人ぼっちになった。
‥当時は眠れなかったのかもしれない。
自分が原因で友達が死にかけたことに対する純粋な罪悪感で‥
いくらナツミがしっかりしていたっていっても、子供なんだ。
眠ったまま目覚めることもない俺‥幼馴染の姿は、子供の頭と心にどれ程のショックを与えただろうか‥。
だけど、慢性的な寝不足は、その内深い心労となって‥きっとその時、『反対勢力』につけ入れられて‥罪悪感も心労も全部、‥恨みにすり替えられた。
でもそれは、洗脳じゃない。‥普通の感覚だ。
だって、ナツミは苦しかったんだ。‥辛かったんだ。
俺が羨ましくて憎かった‥だけど、きっと好きだったから‥苦しかったんだ。
愛憎が表裏一体って言われる。
強い思いは、愛であれ憎であれ辛い。成長の為には、苦労も苦悩も時には必要だけど、‥その気持ちだけでずっといていいわけがない。
息抜きだっているし、‥気持ちの整理をする必要がある。
疲れたこころに必要なのは、十分な休養と栄養(美味しいもの)とか‥愛情? 。
誰かが(何かが)与えてくれる、そういう「いいもの」
安心できる言葉や「誰か」
‥俺は、たとえ俺を憎ませるための手段だとしても、当時のナツミの傍にいてくれた人‥反政府組織に感謝しているんだ。
あの時、俺に何が出来たんだろう。‥ナツミに俺は何って言えばよかったんだろう。‥ナツミは俺にどんな言葉を求めていたんだろう。
でも、何を言っても俺の言葉はナツミには届かなかっただろう。
俺は‥。
これからどうすればいいんだろう。
どうすればナツミに許してもらえる? ‥ナツミを助けられる?
‥ナツミ。
俺は、‥どうしょうもない臆病者だ。
弱虫で、‥弱くって。「甘ちゃん」で‥。
ホントは、怖いし、逃げたい。
正直‥戦いたくない。
でも
戦うしか、戦って俺が勝つしか、‥仕方が無いんだろう。
勝って無理矢理でも、話を聞いてもらって、どんなに時間がかかっても、‥時間をかけて話をしなければいけないんだろう。
勝とう。
‥逃げてたって、仕方が無い。
俺は‥勝つしかないんだ。
「ヒジリ、俺はそろそろあっちに行くけど‥ヒジリは、大丈夫なのか? 」
いつの間にかシャワーに行っていたらしいミチルが髪をタオルで乾かしながらバスルームから出て来た。
バスルームっていっても、狭い湯船とシャワーが付いているバスルームとトイレがシャワーカーテンで区切れるだけの、マンションにありがちなタイプだ。
深さもなく、ゆっくり足をのばせる広さもない湯船を、一体浴槽といえるだろうかって‥いつだって思う。
実家にいる時は自分は特に風呂好き‥ってわけではないとは思っていたけど、一人で暮らすようになると「今まで」がどれ程恵まれていたのかって‥思い知らされた。
今までの家族の一員としての自分のライフスタイルと、自分自身だけの(オリジナルの)ライフスタイル。
学生時代俺の一人暮らしのアパートを父親が訪れたことがあった。(出張のついでに立ち寄ったんだ)
「どうだ、ミチル。一国一城の主生活は」
ってちょっと揶揄うような口調で言った父親になんか、ちょっと大人になったような気分がしたのを覚えている。
家族と離れ見知らぬ街に住む自分。
自分だけの「特別」を手に入れたような気持がした。
って、なんだか誇らしげな表情を浮かべて語ったミチルを羨ましいような‥恨めしいような気持で見つめたことを思い出した。
俺は、家族と離れて暮らしたことなんてなかった。
俺の事情を知った今なら「仕方が無いな」って思えるけど‥まあ、なんか(両親に心配と迷惑ばかりかけて来た自分が)情けないし‥なんか「損したような気持ち」になるのは‥でもしょうがないだろう。
あんな事情さえなければ俺だって‥
そう思う反面、あんなこともなかったらここ‥地球に来てもいなかっただろうな‥って思ったり。
「ヒジリもシャワー使ってね。知っての通り狭いけど」
いや、お前のバスルームの広さなんて知らない。
ここに来る度に勧められるが入ったことは無い。男女の間にあるような、そういう‥下心的な? 心配はミチルに対して感じたことはない。友人的な気遣いだって分かる。
だけど、それは違うって思う。
あれだ。
親しき間にも礼儀あり。
そういう距離感って大事。
ミチルがウォーターサーバーから水をグラスに入れ、一つをヒジリに手渡す。
それを「ありがと」って軽く微笑んで受け取る。何時もの光景だ。
ここに「ヒジリの身体で」来て以来、水にだけはこだわって来た。
コーヒーやら茶を飲むことはあるけれど、出来るだけ水を口にする。聖の時のように、吉川と飲みに行くこともなくなった。
この身体は「偽物の身体」以上に、口にしたものの影響を受ける。
魔法使い程では無いけれど、自分の属性に随分体調が左右されている気がする。
ヒジリの属性は水と土だから、土で育てた野菜やその野菜を糧にして育てられた動物と水‥。
特に、水に影響を受けることが多い気がする。
カルキの含まれていない水を飲めば体調が良く、逆に添加剤や香料の多く含まれた飲料水を多く摂取したら体調を壊す‥って感じかな。‥寝込むほどじゃない。
(属性なんて大袈裟なこと言ったけど)田舎でおいしい天然水を当たり前に飲んでた子が都会に来て「カルキくせ~!! 」って驚くような感覚のちょっと激しい版‥かもしれないけどね。
「じゃあ、‥俺は」
ヒジリにふわりと微笑みかけて、ミチルがベッドに横になる。
一緒にご飯を食べて、話し込んでいるうちに終電を逃して‥ってことは、この頃では「よくあること」で、もう大騒ぎすることでもない。
男女が同じ部屋に一泊とか問題だけど、俺とミチルの間にそういうのはない。間違いとか? ‥起こらないよ。ミチルはリバーシで、12時以降はここに「いない」んだから。(と、ヒジリは全幅の信頼をミチルに寄せている。つまり、それだけ相手にされてないってことで‥ミチルにとってはちょっと悲しいことなんだけどね)
その内、ふわっとミチルの身体が緑の光に包まれる。
この光景は、本当に綺麗だ。
そうだな、丁度、ヒカリゴケだとかそんな感じだ。人工物感はゼロだ。
あ、これ俺の場合は黄色いから丁度蛍っぽい感じになるんだよ。
自分の意識が身体から抜ける感覚が一瞬あって、その時に眠る自分の身体が見えるんだ。
全身が蛍みたいにふわ~と光る様子は
「見てみて! 」
って言いたくなっちゃうくらい、綺麗なんだ。
ちょっと自慢です。
そうこう思ってるうちに、ミチルの身体から緑の光が消え、ミチルが寝息を立て始めた。
ミチルの横顔にちょっと見惚れる。
(そういえば)ミチルの顔をこんなにしみじみ見たことはない。
今頃、夜の国についているんだろう。
寝ることすらない‥必要ない身体。
ミチルは充電の為身体と「思考」の線を今一時的に切っている。
そうしなければ、身体が休めないから。
24時間動いてる「思考」に引っ張られて身体も動こうとするから。身体って‥特に脳だな。
リバーシの本体が「眠る」時、多分脳は「完全に動きを止めている」んだ。(ホントのところは分かんないよ? 医者じゃないんだから)
ミチルは夜の国から帰って来た‥「目が覚めたら」ほっとするって言ってた。
あっちから帰ってこれなかったら‥って怖く思うこともあるって。
ミチルにとっては‥夜の国は「自分の生活の一部ではあるけれど、生活していく世界ではない」国で、「帰ってこれなかったら困る」ところだという。
俺にとっては生まれ育った国だけど、ミチルにとっては、地球が生まれ育った国だから‥それは仕方が無い。
身体をこっちに置いているんだ。それは仕方が無いだろう。
‥言うなれば、免許書とか‥パスポート? そういう大事な何かを預けて出かけてるような感覚なのかな?
ああ、違うな。そういう「人質」的なものじゃなくって‥、「眠り」は俺たちにとって充電だから
「携帯はこちらで鍵をかけて充電しながらお預かりしますから、どうぞ遊園地をお楽しみ下さい。‥息抜きは大事です。しばし、こちらの面倒事は忘れてあちらでゆっくりお過ごしください」
って感じかな。
「こちら」で「お預かり」してくれる優秀な‥信頼できる場所。それが今、ミチルにとってのこの部屋。
俺は‥
身体ごとここにいて、充電することもなくずっと「起きている」俺は‥24時間ずっと「息抜き」することもなく‥。
普通に考えたら「過労死」まっしぐらコースだ。
いくらリバーシだっていって、お勧めできないライフスタイルだ。
ミチルは今「息抜き」出来ているだろうか。
夢の世界 = 現実とは違う世界から俺が来て‥ミチルの日常に境界線が引かれなくなった今‥あっちの世界に行ったミチルは息抜き出来ているんだろうか。
ふと、
自分は今まで「逃げ場がある恵まれた立場」だったっててことに今更なんだけど、気付いた。
今、俺は逃げ場がない。
眠れなくて、でも、あっちの世界に戻ることも出来なくってずっとこっちにいる。
その間、唯一の相談相手であるミチルもいない数時間を一人で奥歯を食いしばって我慢している。
でも、その時間さえ我慢したら、
ミチルは帰ってくる。
だから、我慢すればいい。
簡単に「我慢すればいい」って言っても、それが何よりも苦痛だって今は思う。
それは、俺に限ったことではない。
息抜きが出来ない。‥安心して眠ることが出来ない。
その辛さ。
身体は疲れていて、身体は眠りを必要としているのに、心労から、‥その他理由から眠ることすらできない。
心は常に悲鳴をあげ、身体は限界に近づき‥いつしか、その疲れが‥恨みに変わっても‥ちっともおかしくない。むしろ、当たり前のことにさえ思える。
だけど、その恨みをどこにぶつけたらいいか分からないもどかしさ‥
こころが悲鳴をあげている。
あの時、俺を見たナツミの一瞬見せた懐かしいという感情。だけど、次の瞬間には、それは消えてただ感情のよめない笑みを浮かべていた。
そして、呆れたって、失望したって言葉を繰り返した。
言いながら、ナツミの瞳は、今思えば、寂しそうだった。
俺なら‥自分の苦しみが分かるかもしれないって‥少しはあった想い‥微かな望みを、平和ボケした俺によって裏切られて、ナツミは‥あの時、完全に一人ぼっちになった。
‥当時は眠れなかったのかもしれない。
自分が原因で友達が死にかけたことに対する純粋な罪悪感で‥
いくらナツミがしっかりしていたっていっても、子供なんだ。
眠ったまま目覚めることもない俺‥幼馴染の姿は、子供の頭と心にどれ程のショックを与えただろうか‥。
だけど、慢性的な寝不足は、その内深い心労となって‥きっとその時、『反対勢力』につけ入れられて‥罪悪感も心労も全部、‥恨みにすり替えられた。
でもそれは、洗脳じゃない。‥普通の感覚だ。
だって、ナツミは苦しかったんだ。‥辛かったんだ。
俺が羨ましくて憎かった‥だけど、きっと好きだったから‥苦しかったんだ。
愛憎が表裏一体って言われる。
強い思いは、愛であれ憎であれ辛い。成長の為には、苦労も苦悩も時には必要だけど、‥その気持ちだけでずっといていいわけがない。
息抜きだっているし、‥気持ちの整理をする必要がある。
疲れたこころに必要なのは、十分な休養と栄養(美味しいもの)とか‥愛情? 。
誰かが(何かが)与えてくれる、そういう「いいもの」
安心できる言葉や「誰か」
‥俺は、たとえ俺を憎ませるための手段だとしても、当時のナツミの傍にいてくれた人‥反政府組織に感謝しているんだ。
あの時、俺に何が出来たんだろう。‥ナツミに俺は何って言えばよかったんだろう。‥ナツミは俺にどんな言葉を求めていたんだろう。
でも、何を言っても俺の言葉はナツミには届かなかっただろう。
俺は‥。
これからどうすればいいんだろう。
どうすればナツミに許してもらえる? ‥ナツミを助けられる?
‥ナツミ。
俺は、‥どうしょうもない臆病者だ。
弱虫で、‥弱くって。「甘ちゃん」で‥。
ホントは、怖いし、逃げたい。
正直‥戦いたくない。
でも
戦うしか、戦って俺が勝つしか、‥仕方が無いんだろう。
勝って無理矢理でも、話を聞いてもらって、どんなに時間がかかっても、‥時間をかけて話をしなければいけないんだろう。
勝とう。
‥逃げてたって、仕方が無い。
俺は‥勝つしかないんだ。
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