リバーシ!

文月

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六章 思えば‥フラグだったんだ。

9.引き続き、母さんと俺。

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(side ヒジリ)


 だけど、あれこれ反省したりそういうのは自分一人でするものだ。
 特に俺はそういうタイプ。
 あれこれ話すのがまず恥ずかしい。だって自分の弱さを他人に晒すんだろ? それがそもそもいや。
 話てるうちに悲しくなったりとかしたら‥他人がいる前で泣いちゃったりするかも‥とか、そういうのが‥いや。
 愚痴って、そもそも相手が聞いてる‥とか関係なくって「傍にいて欲しい」とか、何となく「話せばスッキリ、自分の中で整理がついたわ~」的なもんなんでしょ?
 アドバイスを相手に求めてる‥とか、相手に自分の考えが正しいか確認を求めてる‥とかじゃないんでしょ? それは、愚痴じゃなくて「相談」っていうよね。
 そういうのじゃないんだったら相手がいなくてもいいんじゃないかな‥って俺は、俺はね? 思うの。
 恥ずかしいし、面倒くさいし‥そもそもそういう話出来る知人‥って「愚痴る相手」の人選から始めなきゃならない。
 この人にこんな話するのは妥当か? とか、この人ならこんな話したららこういう返事が返ってきそう‥とか、相手の反応まで想像しちゃう。
 あれこれ考えちゃう。
 そのうち、‥無理無理。誰かに話すのとか無理、ってなる。

 苦しさを吐露するのも大変だって話。
 だから、俺は今日も愛想笑いでごまかした。
 母さんみたいに「心配させたくない」とかじゃない。ただ「面倒くさいから」


「添加物って、あっちにはないものだったからね」
 母さんはちょっと困ったみたいに笑って、話をつづけた。
 ‥そっとしといてくれたんだろう。
「ね」
 兎に角駅に出ようって話になった。
 駅に近いっていうのは、結構便利だ。あっちに帰って、この便利な生活捨てるのは‥ちょっと考えるなあ。
 俺はこの国から見たら「異世界人」なんだけど、今まで異世界人だって忘れてたから(記憶がなくなってたから)あっちがむしろ異世界って感じ。
 だけど、身体はがっつり異世界人なわけで‥
 こっちに100%適応できてるかどうか‥ってのは分からない。
 水が合わないとか、そういうのはあるかもしれない。
 そういうのって‥そういえばあった。
「そうなんだよね。なんか、(自分が異世界生まれだって)知ってからかえって納得したっていうか‥」
 真っ青なアイスとか食べるとお腹を壊す俺は、「無添加箱入り息子」と呼ばれていたのだった。
「さて、出掛けるとなると‥。父さんのご飯が‥。さっき吉川さんにお出ししちゃったから、父さんの分何か作らないと。こっちは、いいわね。「醤油」とか、もう最強って感じの調味料があるから。味噌とか、絶対あっちで作ろう。絶対売れるわ」

 あ。これ。異世界転移あるある。
 異世界にはないおいしい料理で、食革命。
 こういうの、俺だけ来ててもきっとできなかっただろう。

 それにしても‥
 ‥味噌。それは、結構好みが分かれるか、と。
 俺は、服を着替えながら適当に相槌を打った。
「あと‥。豆板醤!! 」
 ‥俺は、辛いの苦手です、止めて下さい。
 また適当に相槌を打つ。
「豆腐で、麻婆豆腐美味しいわよねえ。‥絶対こっちにいる間に豆腐をマスターするわ」
 母さんは、冷蔵庫を開けながらうきうきと話す。
 あっちに帰るの、楽しみにしているんだろうなあってのが、伝わってくる。
 しかし、豆腐をマスターって‥。
 ‥豆腐は、素人がレシピ見て簡単に真似出来る様なもんでもない気が‥。
「そうそう。お豆腐、今日買ってきたから、お醤油で冷やっこにしましょう」
 バタン、と冷蔵庫から豆腐を出して、まな板に置く。
「と? 」
 半分は、切って小皿に載せ、
 半分は、さいの目に切る。
「ご飯。それから、ミラクル調味料味噌の味噌汁」
 さいの目に切った豆腐は味噌汁に入るらしい。
 具は、わかめと豆腐だ。
「だけ? 」
 俺も、隣でネギを切ったりを手伝う。
「だけ」
 母さんが、ネギをつまんで冷や奴の小皿にのっけ、ラップをかけ、にっこりと微笑む。
 だけ。
 俺たちはさっき、生姜焼きと大根と人参のなますを食べた気が‥。
 ちょっと、扱いが‥。
「ほうれん草‥さっき、冷蔵庫にあった‥しわしわの。‥‥! ちょうどいい‥。これをスキルで戻してみてよ! 」
 俺は、冷蔵庫からほうれん草を出して、母さんの前に突き出す。
「これ? 」
 俺からほうれん草を受け取りながら、母さんが首を傾げる。
「はいはい‥」
 面倒くさそうに、母さんがほうれん草を両手で捧げ持つように持ち直した。
「おお」
 次の瞬間、俺は目を見張った。
 微かな‥金茶の母さんの瞳みたいな光が母さんを包む。
 ‥綺麗‥。
「微かだけど光ってるね」
 ほう、とため息をつきながら思ったままのことを言うと、母さんに睨まれた。
 ん? なんか、変なこと言った?
「一言余計よ」
 首を傾げて眉を寄せていると
  低い声でボソリというと、母さんが俺を下から睨み付けた。
「わずかで悪かったわねぇ」
 と下唇をちょっと尖らせて拗ねなれた。
 いや、そんな意味では言ってないよ?? そもそも、「わずかに光る」ぐらいでいいと思うよ? ぴか~とか光ったらそれこそマンガじゃない??
 俺が首を傾げると、母さんは
「ヒジリのはもっとキラキラしてるしね」
 拗ねた顔のまま付け加えた。
 そうこう言ってるうちに、母さんの手の上のほうれん草は、買ったばかりの様にシャキシャキに戻っていた。
「魔力の色って、目の色と似てるよね。この色って‥属性と関係あるのかな」
「う~ん。そうだとしたら、水の属性しかない私は青とか水色の目の色してなきゃおかしい気もするから‥ないんじゃないかなあ‥」
 鍋に水を張り、それを火にかけようとしたら、どうやら俺が邪魔な様だ。
 スミマセン‥。
 鍋を受け取って
「ああ‥。それいうなら、俺の属性も水と土だけど、青い目ではないね」
 鍋になみなみと張られた水をじっと見た。

 ‥湯、今でも沸かせられるかな?

「? どうしたの鍋なんて見つめて? 」

 ぼこり、
 ボコりボコり。

「え! ヒジリそれ‥! 」
「よかった。まだ使えるみたいだ」
「‥‥‥」
「母さん? 」
 俺が声をかけると、母さんの肩がびくりと揺れた。
 ‥どれだけ驚いてるんだ。
 俺の方を、ギギって錆びた音がしそうなくらい緩慢な動作で振り向いて
「ヒジリ‥。火の属性もあったの? 」
 恐る恐るって感じで聞いた。
 ‥ん?
 何言ってるんだ? 家族の属性は、家族みんな知ってるだろう? 
「ん? ないよ? 俺は、水と土だけ」
 そうよね‥と母さんが小声で呟く。
「だって。火と水の属性がないと、火と水の混合スキルつかえないわよ? 」
「ああ‥そういう考え方もあるのか、‥湯を沸かすって。違うよ、俺の湯は、水の状態異常。今は、沸騰で止めたけど、気化させる‥蒸発させることも出来るよ」
 俺が何でもない風に言うと、母さんは「ほう‥」とため息をついた。
「‥流石、リバーシねぇ。そんな特別なこと出来ないわあ‥。状態異常‥。温めるだけじゃなくて、冷やすことも出来るの? 」
 俺は頷いて、グラスに注いだ水を凍らせた。
「凍らせることも出来るの! ええ! ‥これは混合スキルでも出来ないわねぇ‥」
 そういえば、インテリ眼鏡が「氷も出来るのか」って驚いてたっけ。
 普通は、氷の属性がいるらしい。
 う~ん、俺ってつくづくチートの無駄遣い。

「それにしても‥ヒジリは何も知らないのね。学校では何を覚えて来たの? 」
 母さんが、俺が沸かした湯にほうれん草を入れながら、ちょっと首を傾げた。
 ‥何って。
 そういえば、短い時間だったからかなあ。学校通ったの。学校行き始めても色んなことがあったし‥。
「‥授業はあったし‥インテリ眼鏡も熱心な先生だったんだけどねぇ‥」
 熱心は間違いない。教科書を読んでおわり、みたいな退屈な授業はしなかった。
 どんな授業してたっけ。
 ああ、そうだ。あの時思い出したアレ‥あんな感じの授業が主流だった、
「自分オリジナルのスキルを考えて発表しましょう」
 って。
 で、発表したスキルをインテリ眼鏡が見て、改良点とかをアドバイスしてくれるの。
「それは、こうした方がいいかなあ」
 ってアドバイスが的確だったなあ。技術もその時、「これを使ってみたら」って感じで教えてもらった。
 一歩先行く授業って感じだったな。丁度、小学校中学校とかの授業って感じより、大学の授業って感じ。
 誰でも出来たわけでは無いだろう。
 でも、‥これは意識の違いだろう。ナツミも普段から魔法のことばっかり考えてて、常に皆より一歩も二歩も前を歩いてた。
 そういえば、あの二人は似てたんだ。そういうところが。
 だから自然と俺も、「型通りの勉強」じゃなくってより実用的って感じになっていった‥って感じ。
 というか‥
 俺の場合は意識とかいうより、もっと死活問題的な感じで‥。ナツミからの愛の鞭で常に命の危険にさらされてたから‥(生き延びるために)新しいスキルを日々開発してた。
「う~ん。基礎も教えずに実践‥貴女が無事だったのが‥奇跡って気もするわ‥」
 母さんが苦笑いする。
 ‥うん、俺もそんな気がしてきた。
 大きな事故を起こさなくってよかった‥。
「‥魔法使いやリバーシのこと、皆よく分かってない。分からないから、変に怖がったり、‥過度に期待したり‥」
 過度に期待して「出来るだろ? 」って無茶振りしたり、
 怖がって‥見ないようにしたり。
 かと思ったら、勝手に神聖視したり‥。

 妬み、やっかみ、羨望。‥異質なものに対する偏見。興味。そして、生理的な居心地の悪さ。恐怖。
 ナツミ以外の学生が俺に対して抱いてきた感情。
 孤独や、怒り‥蔑み。
 俺がナツミ以外の学生に抱いてきた感情。
 
 孤独だったのは、ナツミも一緒。否、魔法使いはもっと稀有な存在だったから、ナツミは俺よりもっと孤独だっただろう。
 ‥それに、ナツミの両親は、魔法についても詳しくなかったし、相談にも乗ってもらえなかっただろうからね。余計‥。
 自分が魔法使いだと知って、勉強する機会を得られたことに対する喜び、‥初めてもてた目標と言えるものだって言ってたっけ‥。魔法に対する計り知れない愛。
 だけど、それは全部なくなてしまった。
 俺を逃がすことで敵対組織に追われることになったであろうナツミは‥。

 どんな気持ちで俺を‥守られている俺を見ただろう。

「俺、ナツミを探す」
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