リバーシ!

文月

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八章 未来と過去と

6.10畳一間のミチルの世界の全て (2)

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(side ヒジリ)


「どうかした? 俺のベッドが気になる? 」
 蕩ける様な視線を向けられると、‥照れくさい。
 本当の性別はどうあれ、ずっと男として生活してきた俺は、そういうのに面識がない。

 考えれば、男女問わず、自分に向けられた好意にときめくときは、今までにあった。

 でも、‥女性に対しては、何故か、愛情を返すことはできなかった。
 そして、男性に対しては、理性がストッパーを掛けた。

 俺は、男だから。

 そう思ったら、驚く程冷静になれた。
 そうしているうちに、男性であれ女性であれ、恋愛感情をもって付き合うことが億劫になった。
 というか‥ただ、怖かった。

 背徳感が、どちらに対しても‥あった。

 今俺は男じゃない。絶世の美女(笑)って言われる顔だけは綺麗な女だから、ミチルにこんな表情で見上げられてもおかしくはないんだけど、‥生憎俺には女の自覚がない。
 完全にないのか? と言われると、‥実はこの頃自信がない。
 だけど、だ。そう、割り切れるもんでも‥ない。

 複雑なんだ。

 吉川に告白された時にも、困ったけど(告白だったよな?? )ミチルに、こういう目で見られるのは‥あれ以上に、緊張する。ミチルは男だけど、男の色気っていうんだろうか、そういうのがあって、ちょっと目のやり場所に困る。

 ドキドキした‥から、胡麻化した。

 ミチルから目をちょっと逸らすと、息を大きく吸い込み
「普通の人にとってさ、‥ベッドってさ、一日の疲れをとってくれる一番大事な場所じゃない? だから、皆寝心地だとか、大きさだとか気を配る。‥でも、俺たちって、そもそも寝たら動かないから、寝相悪くてベッドから落ちることもない。ぶっちゃけ、どんなベッドでもいいわけだよな」
 それをため息と一緒に吐き出した。

 長台詞言い切ったぜ‥っ!
 言ったら‥自分で口から出まかせで言った言葉だのに、‥なんだか腑に落ちた。
 だから‥
 
 ‥ただ、‥身体を預けているに過ぎない場所だ。「寝心地がいい」も、「寝違えて身体が痛い」も関係ないんだよな‥。
 つい、独り言のように続けたおまけの言葉は、‥完全に本音だ。

「そんなこと考えてたの? 」
 ミチルが、ちょっと驚いた表情のあと、ぷっと小さくふきだした。
 (吹き出す顔もカッコイイとか腹立つ。普通ならめちゃ間抜け面になるとこだぞ! )

 でもよかった。色っぽいムード脱却だ!
 
 って思ったのに‥

 ミチルは俺の目を見降ろしたまま、改めて丁寧に微笑み直し、逸らしたはずの視線を改めて捕らえた。
 視線に熱を絡められて、じっと、見つめられる。

「‥別に、充電するだけのものでも‥ないよ? 」

 ‥色気全開で俺を見るんじゃない。
 怖いから!!

「? うん‥」
 多分、俺の顔は‥とんでもないことになっていただろう。
 さっきから、顔が‥とんでもなく熱い。
 そして、はっとする。

 ‥そういえば、ミチルに告白っぽいこと言われてた気がする。
 そんな相手のベッドじっと見るとかって‥煽ってるような感じじゃないか?? 

 その‥「そういうことしてもいい」って意味に取られちゃうんじゃ??

「いや、ほんと、何でもないです! 」
 俺は、わたわたと立ち上がった。
 正確には、‥立ち上がろうとした。

 腕に、重さを感じて、恐る恐る視線を落とすと、
 真剣な目をしたミチルの手が俺の腕を掴んでいるのが見えた。

「‥ミチル‥」
 ミチルがもう少し力を入れたから、俺の身体は驚く程あっさり元の場所に縫い付けられた。

 勿論、力で無理やり座らされたわけではない。ミチルは、俺にそんなことしない。
 俺は、俺の意志で、‥ミチルから目が離せない。

 怒っている、とは違う、‥焦った様な感情のこもった瞳。
 切ない程、真剣で、ただ焦がれる様な‥悲しくなるような視線。

 これは‥恋愛感情じゃない。
 ミチルは‥寂しいんだ。
 寂しくって、俺を求めてる。
 俺じゃなくて、‥傍にいることが出来る人間を‥求めているんだ‥。

「大丈夫だよ。‥俺がついてるから」

 だから‥俺は。
 ミチルを安心させたくて、笑った。
 なるだけ‥優しい顔をしたつもりだ‥けど、出来てるかな? 
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