リバーシ!

文月

文字の大きさ
106 / 248
十一章 特別な人

7.氏より育ちっていう‥実験。

しおりを挟む
(side ラルシュ)


 「協力要請」と「ミチルの教育」
 口に出すと簡単に聞こえるが、‥これはそんなに簡単なことじゃない。
 私が地球の事を知らないように、ミチルもこちらの事を知らない。
 お互いがお互いの住んでいる場所の事を知らなすぎる。
 知らないといけないってことはないが、当たり前だと思って話してはいけないってことだけは頭に留めておかないといけないってこと。

 王は偉いから言う事聞いて当たり前、って常識はミチルにはないってこと。

 ミチルは年の割にいろんなこと知ってるし、礼儀も正しいし考え方も大人っぽい。だけど、生まれ育った環境が違うっていうのは、「当たり前」って思ってることも違うし、価値観も違うってことだ。
 私とミチルは生まれ育った環境の違いに加え、立場も違う。

「王の為に死ね」
 を了とすることが出来る私と、(それが出来ない。‥する必要性を感じない)ミチルが同じなわけがない。

 机にかじりつくように「ミチル教育マニュアル・計画書」を作成していると、
「ラル兄、大丈夫? さっきからずっとその体勢だけど‥。「教育マニュアル‥」ミチルってあの「異世界のリバーシ」だよね。教育するの? また兄上の急な思い付き‥。まったく兄上は自分が出来るからって、人にまで自分と同じ量の仕事を期待するのは間違ってるって思うよね。
 そもそも、兄上と僕たちは年も立場も違うっていうのにねえ」
 ってため息交じりの声が頭上で聞こえた。
 顔を上げないでも、声の主が誰かってことは分かる。
 弟のサラージだ。

 ‥心配はするが、手伝う気はまるでナシって感じだな。まったく‥

 私は顔も上げずに、小さくため息を着いた。

 サラージにはミチルと関われって言われた話をしたことがある。
 話した‥というか、この仕事は同じリバーシであるサラージの方がいいんじゃない? って打診したんだ。
 打診っていうか‥できれば仕事を押し付けよう‥って思ったんだけど。
 そしたらサラージは 

「同じリバーシ同士俺の方が向いてそうなのになぜラル兄が頼まれたか。その理由はラル兄の婚約者がリバーシだから。
 リバーシについて学んで来いってことなんだと思うよ。
 今回は俺が代わってはいけない案件だよね~」
 
 って、さらっと笑顔で逃げたんだ。

 いつもだったら、あんな時「それくらいなら俺がやっておくよ。その代わり‥」って自分向きじゃない仕事(こつこつ系)を私に振ってたのに、だ。
 あの時サラージはあの話の「隠れた面倒さ」に気付いていたのかもしれない。
 
 いつまでたっても、サラージに勝てる気がしない。
 ‥そして、ミチルにも。

 サラージって、「リバーシっぽくない」。それは、ミチルも一緒だ。
 リバーシは白寄り、魔法使いは黒寄りってイメージが定着している。勿論、どちらかと言えば‥だし例外もいる。
 サラージとミチルはその例外って感じ。(つまり小数派ってことだね)
 ミチルもサラージもリバーシだのに「どちらかといえば」黒寄りな考え方をする。
 サラージはだけど、「この国の常識」みたいなものが染みついてるから、基本は「白っぽい考え方」をする。
 ミチルはここで生まれたわけでは無いから、何のこだわりもなく、凄く自由な考え方をする。
 その考え方は、黒の思想みたいに効率重視でありながら、効率だけじゃなく保険や労働基準の設定など、国民の健康や心の安寧にも留意されたものなんだ。ミチルは「俺が住んでるところがそんな感じだから、自然とそういう風な考え方になるのかも。‥法律とかは分からないけど」って言ってた。
 一度留学して学んでみたい、と思ったものだ。

「異世界出身の王妃」が多いこの国。この国は、異世界の技術や考え方を必要としている。
 ‥この国をより良くするために。

 でも、異世界の制度を「そのまんま」真似ることは出来るだろうが、それがこの国にそのまま移行できるわけでは無い。法や生活スタイルの改善っていうのは一朝一夕では出来ない。
 この国の頭の固い「お役人」が新しい法律として認めなければいけないし、国民に納得してもらわないといけない。どんなにいいっていっても、「じゃあ明日から」なんて出来るはずもない。
 元々染みついた考え方ってのは‥なかなか変わらないから。

 変える‥変わるきっかけがいる。
 そのきっかけとしての異世界人だ。

 この国にとって異世界人っていうのは、古い制度に新しい風をいれる存在なんだ。異世界人なら(頭の古い人間にとって)多少変わったことしても「異世界人だからな」で済ませられる。そのうち、その「多少変わったこと」がこの国に受け入れられて、新しい法律になり、新しい生活スタイルになる。

「ミチルの協力要請は‥責任重大だ‥」
 万年筆の手を止めて、大きく伸びをした。
 窓から入ってきた風が気持ちいい。
 もう(飽きたんだろう)サラージはいなかった。

 仕事は嫌いじゃない(寧ろ好きだ)
 特にこういう、良い未来を築くことにつながるような「前向きな仕事」は面白い。
 だけど、「積極的に取りに行ってまで」してもいいものでは無い。仕事量が増えて、自分本来の仕事をおろそかにするなんてありえない。
 サラージは好奇心旺盛に色々探ってるようにみえるが、(積極的に仕事を取りに行っているわけではなく)あれは「自分のところに持ってこられそうな厄介ごとをいかにしてふられないようにするか」「いかにして事前につぶすか」っていう作業だ。
 ヒジリとの婚約の件もしかりだ。
 でも、サラージだって何でもかんでも私に振って来るわけではない。「自分たちがしなければならないことで、自分の方が向いている仕事」は自分でさっさと片付けている。
 サラージは要領がよく他の者に仕事を手伝わせることもうまいし、結構仕事も早いんだ。
 丁寧さはないけど、早い。
 さっさと仕事をするから、チェックに時間と人が回せる。
 以前の私は人に仕事を任せたり‥とかそういうのが苦手で結局自分でやってしまって、時間が無くて徹夜もしょっちゅうだった。そのうえ、チェックも自分だったから、何日徹夜しても「時間がない」っていつも仕事に追われていた。

 以前は‥っていうのは、ミチルに働き方を指摘される以前は、って話だ。

 ミチルに顔色が悪いことを指摘されて仕事の話をして、そのことを言われたんだ。
「自分しか出来ないこと以外で、他の人でも出来るようなことは他の人に手伝ってもらった方が効率がいい。時間が短縮できて、チェックする時間も十分にとれるし、結果的に正確度が上がると思う」
 って。(そういえば、あの時はミチルはまだ15歳にもなってなかったと思うが、なんでそういうことが分かったのだろうか。リバーシはホントに分からないことばかりだ)
「皆に悪い」
 って私が言ったら、
「そんな顔色してる方が皆に悪いと思うけど」
 って厳しい口調で言われたっけ。
 それで、私は自分が空回りしてることに気付いたんだ。
 それからはサラージの仕事の仕方を客観的に見ることもできた。
 以前の私は「サラージは何でも人任せで自分で仕事をしていない」って思ってた。だけど‥そうじゃなかったんだ。サラージは効率よく仕事をしていたんだ。

 ミチルに出会ったから、サラージの仕事の仕方もわかったし、自分の仕事の仕方も見直すことが出来た。
 冷静にならないと「効率いい働き方はできない」って気付いて、休息時間もとるようになった。
 休息時間をとったら、頭が冴えて効率が上がった。
 全部「いいように」まわるようになったんだ。
 それと(これがきっと一番大きいんだろう)

 サラージと同じは無理、って割り切ることが出来るようになった。

 ミチルは私にあの時こうも言ったんだ。
「ラルシュは人がいいから、頼まれたら断れないでしょ? だから、なるだけ厄介ごとには首を挟まない方がいい。
 あと‥こいつになら何振っても大丈夫感を出しちゃダメだ。弟君はそこらへん結構しっかりしてる。
 ラルシュは損してるって思うよ。
 俺のこと(世話)も押し付けられちゃった感じなんだろ? 」
 
 そんなに私は‥分かりやすい性格をしているだろうか? 

 私にとって王の言う事は全てだ。
 だから、時々私に仕事を振って来るサラージに憤りを感じていたんだ。
 不敬‥っていうか、「在り得ない」って思ってた。
 サラージが自分の性格から考えて「これは向いてない」って仕事だから断ってるって分かっても、「向いてなくてもやるべきだろ」って思ってた。
 でも、弟のカバーは自分がしなくちゃいけないって‥当たり前の様に思ってた。

「自分が苦労すればそれでいいや、って思うのは、効率を考えるのを放棄してるし、それだけじゃなくって、適材適所‥人材の発掘の機会をも逃してる。
 サラージはさ、自分が楽をする為だとしても、人の事よく見て「こいつなら大丈夫」って奴を見極め仕事を振ってる。頼まれた者も王子に信頼され頼られたら悪い気はしないし、仕事をやりきれたらきっと自信になるだろう。そうやって人材って育っていくんだと思うよ。
 発見や技術の進歩もきっかけは「より快適に」「より容易に」だ。
 楽をしたいって思うのは悪いことじゃない」

 それを聞いてすべて自分で責任もって完璧に‥は「最良な方法ではない」って自分の今までの考えを改めたんだ。
 適材適所の見極め、人材育成‥は、まだ無理にしても
「厄介ごとには首を挟まない。自分の仕事じゃない物まで引き受けない。時にはサラージに振る」
 から始めよう‥。
 
 それで、サラージにミチルの事を押し付けようとして失敗したわけなんだけど‥
 今回は「失敗して当たり」だったみたい。
 絶対厄介なだけだって思ってたのに‥

 得られたことの方が多かったんだから。


「異世界からの協力者に協力を仰ぐ‥つまり、私も国政を手伝うってことか‥」
 私と、ミチル(異世界からのリバーシ)と、私の未来の結婚相手のヒジリ(リバーシ)
 ‥ヒジリは関係ないか。

 あの時は関係ないって思ってたのに‥。
 「あの後」ヒジリが「偶然」異世界に行くことになった。
 国民であり、国の災厄と呼ばれるほど魔力量が多いリバーシで、私の婚約者であるリバーシが、だ。
 そして‥多分ヒジリは‥白のインフルエンサーだ。

 それは、果たして本当に偶然だったんだろうか。

 兄は、ヒジリを「異世界で育てなおそう」としているのではないだろうか。
 ミチルを巻き込んで‥
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...