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九章 ナツミというただの女の子
5.優しい人
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カタルがさっきのネルの言葉に違和感に気付いたのは、暫くしてからだった。
ヒジリは光り星
そして、ネルは影星。
光であるヒジリが前にいて、ネルは影のように控えている‥。
そう思っていた。
だけど、ネルはさっき、「隠さないと」って言った。
隠す‥ということは‥ヒジリ(光)の前にネル(影)がいる?
涙を自分でそっとぬぐって、また一人で遊び始めたネルの背中にカタルは
「その子は‥ネルの影にいるの? 」
って‥独り言のように呟き、首を傾げる。ネルはその小さな呟きを拾い
「ん~。その子の星が「出来た」から僕が皆にも見えるようになった‥っていう感じかなあ‥。皆には僕の星が前にいるからその子の星は見えにくいんじゃないかなあ? 」
振り向いて、カタルと同じように小さく首を傾げた。
「見えるようになった? 」
「僕の星は今までずっと真っ黒だったんだ。だけど、あった。僕の星は皆の星よりずっと大きかったけど、真っ黒だから隠れていることが出来た。
だけど、
光の星が産まれて僕の真後ろで輝いて、僕の星が見えるようになった。
まだ隠れていたかったけど、‥僕が隠れてたら産まれたばかりの星が皆に見つかってしまうね。
産まれたばかりの星が見つかったら、きっと逃げられないよ‥。僕には今はカタルや皆がいるけど、産まれたばかり時は‥不安だった。だから‥そんな不安を産まれたばかりの星にさせるのは‥かわいそうだ。
僕なら大丈夫。皆もいるし、それに、僕だって産まれたばっかりの時より確実に強くなっているからねえ」
ってにっこり笑ったんだ。
「そんな‥ネルに危険が及ぶなんて‥」
ダメだ。
カタルが心配そうに‥咎めるようにネルを見ると、ネルが小さく肩をすくめる。
「僕なら大丈夫だよお。‥だってカタルも‥皆もいてくれるし‥って言ったじゃない」
ふふ、って大人みたいに微笑んだ。「心配ないよ」って。
本当にネルは優しい。
そして、人々はネルよりも少し遅れて夜空の異変に気付いた。
「強大な星が産まれた。一歩間違えれば世界の災厄になりかねない「光り星」だ」
と予言した予言者。
「あんなに巨大な恒星は‥きっとこの星にも何らかの影響を与えうるでしょう」
予言者も天体観測者も揃って、「見えるようになったネルの影星(惑星)」を「新たに産まれたヒジリの光の星(恒星)」と見誤った。
ヒジリの誕生に気付きながら、(ネルの望み通り)ヒジリの星(小さな恒星)を見つけることは出来ず、ネル(影星)を発見した。ただし、ネルの企み通り‥ネルという影星の発見‥ではなく、だ。
人々はその大きさと輝きに驚き‥恐れた。
「希望の光り星」であろうとも、‥自分で輝く光り星であるならば余計に‥あんなに大きな星では‥きっとこの世界の手に負えない存在になるだろう。
そう考えた。
実際には、ネルの影星に比べ、ヒジリの光の星はそう大きくはない。
「希望の光り星」と崇められるであろう、一般的より多少は大きいかな? 程度の星だった。
だのに‥
「‥中途半端なんだよ。二つあることすら分からない中途半端な力で予言だ観測だって‥ホント迷惑」
それになんて滑稽なんだ。
カタルは呆れてため息をつき、だけど、「国のお偉いさん」が「間違った情報」に振り回されている「滑稽な」現実に、意地の悪い笑顔を浮かべた。
少年の頃のカタルは今よりは多少は「人間らしい」表情を浮かべることもあった。
成長したカタル少年は、綺麗で静かな「お手本のような笑顔」を始終浮かべているだけの「感情が読めない大人」になった。
そして、そんなカタルに「育てられた」でも、他の皆が思うほど子供ではない「自我を持った子供」だったネルも、表面上はカタルのような‥綺麗で静かな「お手本のような笑顔」を始終浮かべている‥大人になった。
カタルの本心もネルの本心もお互いには完全には分かることはきっとないが、二人には確かな‥強い絆があった。
それは、でも友達関係ではなかった。
‥カタルにそうする気が無かったし、そんなカタルの気持ちを「正確に」読み取ったネルも、カタルに対してそう接することはなかった。
性格は違っていたが、親に捨てられた者同士、気が合ったのかもしれない。友達になれたかもしれない、だけど、だ。
ネルは常に皆と一線を引いていた。
それは、遠慮ではなかったし、そして、皆を信用していなかったわけでもなかった。
皆を信用して皆を大事に思うが故に‥彼らを自分の信者‥「自分に傾倒‥そそのかされた者‥」と扱った。
勿論「いざという時」皆を守る為に、だ。
そして、カタルは「そんな皆を代表する」、「ネルの一番の信仰者」であり「ネルを見つけだし、組織に連れ込んだ元凶」‥犯罪者となった。
ネルをそそのかし組織の首謀者へと導いた自称予言者と人々を扇動し、そそのかした大罪人。彼らがその罪を被れば皆は「騙された被害者」として見逃してもらえる。
二人はそう思った。
そんな二人の思惑を知ってか知らないでか、人々はカタルを敬愛し、尊敬し‥ネルを神の様に扱った。
ヒジリは光り星
そして、ネルは影星。
光であるヒジリが前にいて、ネルは影のように控えている‥。
そう思っていた。
だけど、ネルはさっき、「隠さないと」って言った。
隠す‥ということは‥ヒジリ(光)の前にネル(影)がいる?
涙を自分でそっとぬぐって、また一人で遊び始めたネルの背中にカタルは
「その子は‥ネルの影にいるの? 」
って‥独り言のように呟き、首を傾げる。ネルはその小さな呟きを拾い
「ん~。その子の星が「出来た」から僕が皆にも見えるようになった‥っていう感じかなあ‥。皆には僕の星が前にいるからその子の星は見えにくいんじゃないかなあ? 」
振り向いて、カタルと同じように小さく首を傾げた。
「見えるようになった? 」
「僕の星は今までずっと真っ黒だったんだ。だけど、あった。僕の星は皆の星よりずっと大きかったけど、真っ黒だから隠れていることが出来た。
だけど、
光の星が産まれて僕の真後ろで輝いて、僕の星が見えるようになった。
まだ隠れていたかったけど、‥僕が隠れてたら産まれたばかりの星が皆に見つかってしまうね。
産まれたばかりの星が見つかったら、きっと逃げられないよ‥。僕には今はカタルや皆がいるけど、産まれたばかり時は‥不安だった。だから‥そんな不安を産まれたばかりの星にさせるのは‥かわいそうだ。
僕なら大丈夫。皆もいるし、それに、僕だって産まれたばっかりの時より確実に強くなっているからねえ」
ってにっこり笑ったんだ。
「そんな‥ネルに危険が及ぶなんて‥」
ダメだ。
カタルが心配そうに‥咎めるようにネルを見ると、ネルが小さく肩をすくめる。
「僕なら大丈夫だよお。‥だってカタルも‥皆もいてくれるし‥って言ったじゃない」
ふふ、って大人みたいに微笑んだ。「心配ないよ」って。
本当にネルは優しい。
そして、人々はネルよりも少し遅れて夜空の異変に気付いた。
「強大な星が産まれた。一歩間違えれば世界の災厄になりかねない「光り星」だ」
と予言した予言者。
「あんなに巨大な恒星は‥きっとこの星にも何らかの影響を与えうるでしょう」
予言者も天体観測者も揃って、「見えるようになったネルの影星(惑星)」を「新たに産まれたヒジリの光の星(恒星)」と見誤った。
ヒジリの誕生に気付きながら、(ネルの望み通り)ヒジリの星(小さな恒星)を見つけることは出来ず、ネル(影星)を発見した。ただし、ネルの企み通り‥ネルという影星の発見‥ではなく、だ。
人々はその大きさと輝きに驚き‥恐れた。
「希望の光り星」であろうとも、‥自分で輝く光り星であるならば余計に‥あんなに大きな星では‥きっとこの世界の手に負えない存在になるだろう。
そう考えた。
実際には、ネルの影星に比べ、ヒジリの光の星はそう大きくはない。
「希望の光り星」と崇められるであろう、一般的より多少は大きいかな? 程度の星だった。
だのに‥
「‥中途半端なんだよ。二つあることすら分からない中途半端な力で予言だ観測だって‥ホント迷惑」
それになんて滑稽なんだ。
カタルは呆れてため息をつき、だけど、「国のお偉いさん」が「間違った情報」に振り回されている「滑稽な」現実に、意地の悪い笑顔を浮かべた。
少年の頃のカタルは今よりは多少は「人間らしい」表情を浮かべることもあった。
成長したカタル少年は、綺麗で静かな「お手本のような笑顔」を始終浮かべているだけの「感情が読めない大人」になった。
そして、そんなカタルに「育てられた」でも、他の皆が思うほど子供ではない「自我を持った子供」だったネルも、表面上はカタルのような‥綺麗で静かな「お手本のような笑顔」を始終浮かべている‥大人になった。
カタルの本心もネルの本心もお互いには完全には分かることはきっとないが、二人には確かな‥強い絆があった。
それは、でも友達関係ではなかった。
‥カタルにそうする気が無かったし、そんなカタルの気持ちを「正確に」読み取ったネルも、カタルに対してそう接することはなかった。
性格は違っていたが、親に捨てられた者同士、気が合ったのかもしれない。友達になれたかもしれない、だけど、だ。
ネルは常に皆と一線を引いていた。
それは、遠慮ではなかったし、そして、皆を信用していなかったわけでもなかった。
皆を信用して皆を大事に思うが故に‥彼らを自分の信者‥「自分に傾倒‥そそのかされた者‥」と扱った。
勿論「いざという時」皆を守る為に、だ。
そして、カタルは「そんな皆を代表する」、「ネルの一番の信仰者」であり「ネルを見つけだし、組織に連れ込んだ元凶」‥犯罪者となった。
ネルをそそのかし組織の首謀者へと導いた自称予言者と人々を扇動し、そそのかした大罪人。彼らがその罪を被れば皆は「騙された被害者」として見逃してもらえる。
二人はそう思った。
そんな二人の思惑を知ってか知らないでか、人々はカタルを敬愛し、尊敬し‥ネルを神の様に扱った。
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