リバーシ!

文月

文字の大きさ
83 / 248
九章 ナツミというただの女の子

5.優しい人

しおりを挟む
 カタルがさっきのネルの言葉に違和感に気付いたのは、暫くしてからだった。

 ヒジリは光り星
 そして、ネルは影星。
 光であるヒジリが前にいて、ネルは影のように控えている‥。
 そう思っていた。
 だけど、ネルはさっき、「隠さないと」って言った。
 隠す‥ということは‥ヒジリ(光)の前にネル(影)がいる?

 涙を自分でそっとぬぐって、また一人で遊び始めたネルの背中にカタルは
「その子は‥ネルの影にいるの? 」
 って‥独り言のように呟き、首を傾げる。ネルはその小さな呟きを拾い
「ん~。その子の星が「出来た」から僕が皆にも見えるようになった‥っていう感じかなあ‥。皆には僕の星が前にいるからその子の星は見えにくいんじゃないかなあ? 」
 振り向いて、カタルと同じように小さく首を傾げた。
「見えるようになった? 」
「僕の星は今までずっと真っ黒だったんだ。だけど、あった。僕の星は皆の星よりずっと大きかったけど、真っ黒だから隠れていることが出来た。
 だけど、
 光の星が産まれて僕の真後ろで輝いて、僕の星が見えるようになった。
 まだ隠れていたかったけど、‥僕が隠れてたら産まれたばかりの星が皆に見つかってしまうね。
 産まれたばかりの星が見つかったら、きっと逃げられないよ‥。僕には今はカタルや皆がいるけど、産まれたばかり時は‥不安だった。だから‥そんな不安を産まれたばかりの星にさせるのは‥かわいそうだ。
 僕なら大丈夫。皆もいるし、それに、僕だって産まれたばっかりの時より確実に強くなっているからねえ」
 ってにっこり笑ったんだ。
「そんな‥ネルに危険が及ぶなんて‥」
 ダメだ。
 カタルが心配そうに‥咎めるようにネルを見ると、ネルが小さく肩をすくめる。
「僕なら大丈夫だよお。‥だってカタルも‥皆もいてくれるし‥って言ったじゃない」
 ふふ、って大人みたいに微笑んだ。「心配ないよ」って。

 本当にネルは優しい。


 そして、人々はネルよりも少し遅れて夜空の異変に気付いた。
「強大な星が産まれた。一歩間違えれば世界の災厄になりかねない「光り星」だ」
 と予言した予言者。
「あんなに巨大な恒星は‥きっとこの星にも何らかの影響を与えうるでしょう」

 予言者も天体観測者も揃って、「見えるようになったネルの影星(惑星)」を「新たに産まれたヒジリの光の星(恒星)」と見誤った。
 ヒジリの誕生に気付きながら、(ネルの望み通り)ヒジリの星(小さな恒星)を見つけることは出来ず、ネル(影星)を発見した。ただし、ネルの企み通り‥ネルという影星の発見‥ではなく、だ。
 人々はその大きさと輝きに驚き‥恐れた。
 「希望の光り星」であろうとも、‥自分で輝く光り星であるならば余計に‥あんなに大きな星では‥きっとこの世界の手に負えない存在になるだろう。
 そう考えた。
 実際には、ネルの影星に比べ、ヒジリの光の星はそう大きくはない。
 「希望の光り星」と崇められるであろう、一般的より多少は大きいかな? 程度の星だった。
 だのに‥

「‥中途半端なんだよ。二つあることすら分からない中途半端な力で予言だ観測だって‥ホント迷惑」
 それになんて滑稽なんだ。
 カタルは呆れてため息をつき、だけど、「国のお偉いさん」が「間違った情報」に振り回されている「滑稽な」現実に、意地の悪い笑顔を浮かべた。
 少年の頃のカタルは今よりは多少は「人間らしい」表情を浮かべることもあった。

 成長したカタル少年は、綺麗で静かな「お手本のような笑顔」を始終浮かべているだけの「感情が読めない大人」になった。
 そして、そんなカタルに「育てられた」でも、他の皆が思うほど子供ではない「自我を持った子供」だったネルも、表面上はカタルのような‥綺麗で静かな「お手本のような笑顔」を始終浮かべている‥大人になった。
 
 カタルの本心もネルの本心もお互いには完全には分かることはきっとないが、二人には確かな‥強い絆があった。
 それは、でも友達関係ではなかった。
 ‥カタルにそうする気が無かったし、そんなカタルの気持ちを「正確に」読み取ったネルも、カタルに対してそう接することはなかった。
 性格は違っていたが、親に捨てられた者同士、気が合ったのかもしれない。友達になれたかもしれない、だけど、だ。

 ネルは常に皆と一線を引いていた。
 それは、遠慮ではなかったし、そして、皆を信用していなかったわけでもなかった。
 皆を信用して皆を大事に思うが故に‥彼らを自分の信者‥「自分に傾倒‥そそのかされた者‥」と扱った。
 勿論「いざという時」皆を守る為に、だ。
 そして、カタルは「そんな皆を代表する」、「ネルの一番の信仰者」であり「ネルを見つけだし、組織に連れ込んだ元凶」‥犯罪者となった。
 ネルをそそのかし組織の首謀者へと導いた自称予言者と人々を扇動し、そそのかした大罪人。彼らがその罪を被れば皆は「騙された被害者」として見逃してもらえる。
 二人はそう思った。

 そんな二人の思惑を知ってか知らないでか、人々はカタルを敬愛し、尊敬し‥ネルを神の様に扱った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...