リバーシ!

文月

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九章 ナツミというただの女の子

4.対の黒い星

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(side ナツミ)


「国にとって災厄になり得るほど大きな影響を与えるであろう「災厄の星」は二つ。
 太陽の光を受けて一際輝く星の後ろに、もう一つ星が見える。‥前にある星が消えない事には、この星は太陽の光を受けて輝くことは出来ない。それ故、この星は輝くことなくひっそりとしている。
 大きさは前の星と同様か‥多少は小さい位。
 前の星を光の星というならば、この星は影星。
 光の星と対立する定めを持っているのか、支える定めを持っているのか‥それは今はまだ分からないが‥まだ定まっていないようだ。
 今言えることは、災厄の星は一つではなく二つということ。
 さて‥国で飼われている予言者は、そのことが分かったかなあ」
 カタル様がうんと小さいときにこう「予言」したという。
 かなりの重大発言だ。
 内容も問題だが、国専属の予言者を軽視し侮辱しているって逮捕されてもおかしくない。
 国なんか関係ない「ここ」だからこそ、できた発言‥ともいえる。
 カタル様だけじゃない。ここでは、誰もがのびのびと自分の意見を発言し、それが共感できる者は相槌を打つし、意見が異なる者は遠慮なく反論した。
「災厄の星? カタル坊は難しい言葉をしってるな。‥ああ、確かに国の予言者がそんなことを言ってるらしいな」
「‥驚いたことに天体観測者も異常を報告しているらしいぞ。なんでも魔素の濃度が異常に上昇している場所があるとか‥」
 組織の大人たちもカタル様の言葉を受けて会話を続ける。
 ここには、カタル様の予言の真偽がわかる人間もいなかったが、その発言を「子供の戯言だ」って一笑に付して、捨ておく者は一人もいない。
 それ程、皆はカタル様の予言を信頼していたし、カタル様には子供の頃から人々を引き付けるカリスマ性‥みたいなものがあった(らしい)。
 カタル様はさらに
「光の星は、きっと気付かれているだろう。だから、僕らは影星の方が欲しいな。少しばかり力は弱いようだけど、なあに、これ位の差は訓練その他でなんとかできる。
 国民の平和と日々の生活の安定が一番大事っていって、保身にばかり力を入れている国はきっと、これら‥強すぎる光を放つ星を国民から遠ざけ、問題が無いように隠してしまうだろう。
 強すぎる力は、事なかれ主義を貫く奴らには無用で厄介なものでしかないからって。
 隠すって‥まさに、宝の持ち腐れだね。勿体ないよ。
 僕らはそうはならない様にしないとね」
 そうつけ加えたという。

「僕らはその星とともに、新しい国を作るんだ」
 ‥こんな窮屈な暮らしはもう沢山だ。

 大人たちが唾をのんだ。
 当時の事を彼らは「そりゃもう、雷に打たれたような衝撃が走ったね」って今でもよく言っている。
 その時までただの社会に不満を持つ「はぐれ者の集団」でしかなかった彼らが、政治を意識し始めたのはその時からだという。
 そして、我々の組織が今の規模にまで大きくなったのは、カタル様のカリスマ性あってこそ、だと思う。



(ナツミが直接知らないカタルと「もう一つの星」のちょっと昔の話)


「僕らは君の事を傷つけたりしないよ」
 チェスの駒を転がしていた幼児にカタル少年が優しい声で語りかける。
「本当? 」
 幼児は涙で潤んでキラキラと輝く大きな瞳を上げてカタルを見る。
 カタルはにっこりと微笑むと、力強く頷く。
「ホントだよ。僕らは君の仲間だ」
 幼児がふわりと花がほころぶ様な微笑みをふわふわな頬っぺたに浮かべる。
 ここにきて幼児は影響状態が良くなった。仲間の中には妻帯者も子供がいる者もいなかったが、皆慣れない育児に奮闘した。人数がいれば出来ることってのもある。
 幼児はリバーシだから夜も寝なかったが、今みたいにチェスの駒を転がしたり‥幼児は一人で黙って遊んでいることが多かった。
 リーダーに引き取られ、ここに連れてこられたときは、常に緊張した‥無表情な幼児だったが、皆が(それこそ鬱陶しい程)構い倒したおかげで、この頃ではこうして幼児らしいあどけない微笑を浮かべるようになってきた。
 そのことにカタル少年は安堵して笑みを浮かべる。
 しばらく二人でニコニコと微笑みあっていたが、しかし、幼児は次の瞬間表情を何かを決意したかのように小さく頷くと、
「じゃあ‥僕の大事な子も助けてくれる? その子が一人ぼっちだったら可哀そう‥。僕にはカタルがいるけど‥その子は‥きっと一人で泣いてる。
 生まれたばっかりだったら、僕より小さいんだ。‥僕の妹みたいなものなんだ。だから、悪い王様がその子を捕まえて閉じ込めないうちに助けてあげないと‥」 
 幼児‥ネルは真剣な表情でカタル少年に訴えた。
「ネルの大事な子? 」
 カタル少年が首を傾げる。

 影星であるネルの大事な子? それは光の星ってこと?

 それをネルに確かめても無駄だと思ったカタルは、黙って首を傾げたままネルの次の言葉を待った。
「だって、僕が産まれた村の‥大人たちが言ってたの。ネルみたいな「普通と違う」子たちはみんなお城に閉じ込めるって。ネルたちは皆と違って危険だからって。ネルたちは生まれた瞬間から皆と違うってわかるんだって。だから、城の人たちもネルのことに気付いて迎えに来るんだって。隠れてたって迎えに来るんだって。ネルたちはそれ程危険なんだって。だから、皆‥村の人たちはネルにいてほしくないって言ってた」
 そういいながらまた涙を瞳に溜めるネルをカタル少年が抱きしめる。ネルは素直にその胸に抱きこまれながら、
「だから、その子も王様に隠されちゃうね。隠されちゃったら、可哀そうだね。僕だったらそんなことしないよ。一緒に遊んであげるよ」
 って涙声で続けた。

 優しい子だ。
 自分も周りの大人たちに辛い目にあわされてきただろうに他者を心配することが出来る‥。

 優しいけど、弱い子。

 ネルに対して感じていたそういう印象は改めてやらないといけない。
 ネルは今は子供だから弱い。だけど、強くなろうとしている子なんだ。強くなろうと思っている子供は、きっと将来強い子になれる。

 弱いのは周りの大人だ。‥ネルの父親がその筆頭かな。

 ネルの母親はネルを産んですぐに死亡し、ネルの父親は生まれて間もない「普通じゃない」ネルの扱いに困窮していた。
 ネルのリバーシ認定。(リバーシに認定されたことによって)明らかに変わった周りの大人の対応。
 妻を失って、初めての育児を一人でしないといけなくなった若い父親の戸惑い、迷い、焦り‥そういった感情は想像に難くない。
 そういった人の弱さに組織は付け込んだ。

 私たちが責任を持って息子さんを育てます。

 紳士的な対応、そして十分すぎる金を渡して、我々の組織はネルを引き取った。

 ‥ネルの父親は我々にネルを売った。

 ネルは幼すぎて何も覚えてないって思ってたのに‥そこはやっぱりリバーシだ。ネロはすべて分かっていたんだ。
 周りの大人たちの言っていることも、父親の困窮も‥全部。その上で我々に「ついてきた」んだ。
 その事実に衝撃を受け‥また、胸が締め付けられた。

「そうだねえ。隠されちゃったら可哀そうだねえ」

 出る杭は打たれる。
 手に余る強すぎる力が悪用される前に‥
 きっと、光の星は捕まるだろう。
 そして、特に有効利用法も考えられないまま、飼い殺しにされるだろう。
 ‥なんて
 もったいない。
 それに‥人間を何だと思っているんだ。
 産まれて来た総ての命は、平等に幸せになれる資格があるんじゃないのか? 他の皆‥大多数の為に犠牲になれって、そんなの‥酷いよね。
「じゃあ、僕らが助けてあげようね」
「そうだねぇ。僕らが助けようねぇ」
 ネルとカタルはにっこりと微笑みあった。

 さっき感じた違和感は‥でもそのときは「うっかり」忘れていたんだ。


 ネルの大事な子は、産まれたばっかりで‥つまりネルより幼い。
 ネルが影星なんじゃなくって‥もしかして、産まれたばっかりの子が‥影星ってこと?


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