リバーシ!

文月

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九章 ナツミというただの女の子

7.魂の渇望と起爆剤

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 反政府組織の話。
 ちょっとガチガチのシリアスだから、(7~9)まとめて投稿します。本筋とは直接関係ないので面倒でしたら読み飛ばしてください。
 その後、ナツミの話を書いてこの章は終わりです。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 砂漠で水を求めるように‥。
 からからに乾いたこころが愛を渇望する。友愛、家族愛‥そういった「こころの結びつき」を‥
 そして、知識を渇望する。
 
 自分を認めて欲しい、‥褒めて欲しい。
 って承認欲求‥。

 無いから仕方が無い‥じゃなくて、自分には必要なのに無い、足りないって思うから‥次々に欲しくなる。
 持っている者が羨ましくって‥憎らしくって、次々に欲しくなる。
 持ってないことに、憤り‥焦る。

 持ってる者にはこういう感覚そう分からないだろう。

 地位、権利、「生きがい」なんていう見せかけのものを欲しがるのは「既にある程度持っている者」だ。物理的に何も持っていない彼らがまず欲しいのは、食料であり、住む場所であり、安全に暮らせるための保証、「居場所」だった。
 彼らからすれば、「知識人」が口にする「生きがい」とかは、「よりよく生きるための」プラスα的‥嗜好品的な欲求で、生きるのに直接必要な物でもない。
 今を生きるのに精いっぱいな彼らにとって必要なのは、まずそれ以前のもの‥

 彼らには、圧倒的に何もかもが足りなかった。


 初めから持っていなかったり、持っていたものを奪われたり。
 
 リバーシと認定され家族に売られた者、周りの人間から区別され虐げられた者、そして、そんな「異なる存在」を愛することが出来ない家族の気持ちの葛藤‥。
 魔法使いの素質ありと言われ、だけど「働き手」で「労働力」である子供を学校に行かせたくない親。「魔法の素質がある特別な子供」であるのに金がないことで金がある「普通の子供」より学問の環境に恵まれなかった子供。そして、魔法使いの卵であるがゆえに少ない魔力(魔法使いは全員が全員魔力が少ない。それは、時に「魔法使いではないが魔力を持つ普通の子供」より少ない)。
 奪われた過去がある故に奪われることを恐れ、元から持っていない故に貪欲に欲する。

 白の思想‥「(仲間でなくても)皆と分け合おう」「幸せは皆と分かち合おう」なんて、とんでもないって思う。
 そんなの「綺麗ごと」でしかない、って思う。


「持たざる者で‥もし、向上心を持ち合わせていたとしたら、その者が持っていないものを求めるのは必然。
 向上心を持たない者は、そこで終わる。
 ただ、己の不遇を嘆き、持っているものをうらやみ、憎む。
 それだけ。
 だが、向上心を持っているならば、そこで立ち止まらず、その先を目指そうと努力する。
 その時、己が持たざる者だという自覚はその向上心を呼び起こす起爆剤になるだろう」
 そう‥うっとりとした表情と、「芝居じみた」口調、そしてさらにオーバーアクションで語ったのは、ナツミだ。
 これは、ある人の受け売り。だけど、それは初めっから自分の意見だったかのように、聞いた瞬間すんなり自分の中に落ちて来た。
 まるで乾いた地面に水が染み込むみたいに‥じんわりと落ちて来た。

 まるで、自分のこころを代弁してくれたかのようだった。

 当時をナツミはそう思い出した。

 素直な性格だなんて、間違っても言えない。
 それこそ他人の意見は、まず「そうはあたしは思わない」って反発する程‥ひねくれてるし、好戦的だ。
 それなのに、彼の口から語られた言葉はするっとナツミの心に入ってきた。
 どうせ、自分は何も持っていないから‥今までのどこかいじけていた自分を叱咤された気がした。
 自分の現状‥ダメな点に気付き、そしてなりたい自分になるように努力しろ‥って激励された。
 彼から直接そう言われたわけではないけど、ナツミにはそう感じた。
 自分で感じたから、その言葉はすんなり自分の中に落ちて来た。‥納得できた。

 努力は尊い。努力して自分の生活を少しでも良くしたい。

 組織の仲間もみんなそんな考えを持っていた。
「皆で分かち合おうとか、ありえない。
 俺たちはこんなに努力しているのに、努力もしていない夢ばっかり見てる「恵まれた」奴らと利益を分かち合う? そんなのあり得ないよ」
「気持ちを通わせあうって‥そんなの無理だよ。
 だって、恵まれた境遇にいる奴になんて俺たちの気持ちはきっと分からないだろうし、そもそも、分かろうともしないだろう。奴らは俺たち‥持ってないものをそもそも下に見てるから‥。
 そんな奴らと分かち合えるはずがないだろう? 」
「そうそう。ま、「分かろうと思います 」って言われても腹が立つけどな」
 そう言って頷きあった。
 笑いあった。
 楽しかった。初めて共感しあえる仲間に出会えたって思った。

 何も持っていない俺たちの気持ちは俺たちにしか分からないし、
 何も持っていない俺たちだからこそ分かることもある。
 持っていないが故に、「無いことに」気付くことが出来た。そして、持っていないが故に向上心を持つことが出来た。
 そんな自分たちに対する誇りと、持っている者たちに対する厳しい視線と‥偏見。
 敵対心。
「自助努力、自己責任」
 優しさより厳しさ。
 そして、助け合いより努力。
 
 一緒に頑張ろうね。

 ってかって一緒に努力してきた‥幼少期‥ヒジリとの思い出を時々思い出したりはするけど「ダメダメ。弱気になってちゃ‥甘いこといってちゃダメだ。他者は所詮他者。自分は自分。皆仲良しとか、甘い」って自分を叱咤激励する。

「魔力が少なくてよかった。努力する理由が明白だ。
 魔法使いでよかった。
 努力が無駄にならないし、ずっとずっと高みを目指せる」

 穏やかで強く、誰よりも美しい人‥ナツミが最も尊敬している人の姿が浮かんで、自然に頬が熱くなった。

 彼はきっと黒のインフルエンサーなんだろう。

 稀有な存在のインフルエンサーっていうのは、魅力にあふれていて人を引き付けるっていう。
 人を自然に引き付ける魅力だ。
 それは、百の言葉でも百の行動でもない。
 それ以前の問題なんだ。
 生まれつきの‥天性の魅力。
 それをインフルエンサーは生まれつき持っている。

 美味しいお菓子みたいな嗜好品を求める気持ちじゃなくって、砂漠で水を求めるような生理的な衝動。
 抗うことのできない欲求。
 是が非でも彼と共にありたいって‥こころが切望する。
 
 ヒジリはきっと白のインフルエンサーなのだろう。彼と同じく「選ばれた」天性の魅力を持つ人間。
 ミチルやらサラージがヒジリに無意識の内にひかれているのもそのせいってのもある。
 チャームの魔法やら狂信にも似た‥抗いがたい魅力‥っていう感じだろうか。

 だけど、あたしにとって、彼はヒジリより、もっと素晴らしい。

 もって生まれた才能だとか、美貌だとか、カリスマ性だとか‥そういったものに加え、彼は向上心が高く、また親切だった。
 向上心ってのは、そもそも黒の思想の根底みたいなもんだ。
 科学を進歩させたい。経済を発展させたい。すこしでもいい暮らしをしたい‥。そういう考えは普通だし、健全な考えだ。
 皆の平和、皆の利益っていっても、他人の気持ちなんて他人には分かりようがないわけだし、きっと人それぞれ違う。だから、各自で自分の利益を求めていけばきっと社会は今よりもっと発展する。
 いい暮らしをしたい‥って目的が一緒であれば、結果的に皆が同じ方向を向いて努力することになる。
 そりゃ、人のものを盗るとか、人を殺すってのは良くない。それは、だけど常識だ。
 どんな理由があろうとも、人の心身や財産を脅かした者は、法によって裁かれるべきだ。

 私たちは、別に白の思想を信じている者たちの心身を害したり、意見を変えるよう求めたり‥そういうことを望んでいるのではない。
 (まったく共感する気はないが)個人の主義志向として尊重するつもりだ。

 まったく分かり合える気もしないし、理解しようなんて思わないから、関わる気もない。だから、私たちの邪魔をしないでくれ。

 そう思うだけだ。
 
「邪魔をしないでくれるならどうでもいいんだけど‥我らの邪魔をするなら‥我らもそれなりに対処せざるを得ない‥だな」
 ふう、とカタル様がため息を着いた。
 手にされているのは、白の思想信仰者による我々に対する抗議文だ。
 ‥抗議文と言いながらそれは、一見するにただの‥誹謗中傷だ。みっともないやっかみだ。
 それに加えて組織に対する一方的な破壊行為や嫌がらせ‥。
 (それに対応する為に奔走して)気忙し気なご様子を見ていると、おいたわしい‥って思う。
 お互い「他人は他人」で下手に関わり合わなければ無駄な争いも起きないだろう。‥それが大人ってもんだろう。
 ‥本当に腹が立つ。

 あたしたちが理解できない、腹立たしいって言うならば、あたしたちと一緒の立場になってみればいいんだ。
 白の思想がいうみたいに‥気持ちを分かち合うには結局そうするしかないって思う。

 すべてを捨てて‥奪われて‥身一つになってみればいい。

 初めから持っていないあたしたちには失うもの‥失って困るものなんてそんなにない。
 ‥持っていて当たり前のあいつらが、失って初めて「自分たちが持っていたもの」に気付き、嘆く。

 きっと、あたしは‥同情なんてしない。
 いい気味だって思うだろう。
 
 初めから持ってるくせに、(持っていない故に努力する)あたしたちを害した報いを受けさせたい‥
 羨望や憎しみ‥それらも全てあたしたちにとっては「明日への起爆剤」なのだから。
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