リバーシ!

文月

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十章 ネルという特別な子供

2.忘れていた「嫌な気持ち」と‥「新たな予言」

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(side カタル)


 その運命の星が幸せに暮らしていたならば、おそらくリーダたちはその「自分たちには手に負えないであろう大きすぎる予言」には関わらなかっただろう。
 
 だけど、運命の星は‥(お人よしな)リーダーの心をとらえるくらいに‥不幸そうだった。
 この先、この選択をきっと後悔するだろう‥って頭では分かったけど、リーダーは‥そういうの無視するの‥無理なタイプなんだ。‥この性格で今まで散々苦労してきたのに‥この人は‥「懲りないな」としか言えない。
 呆れてものも言えないってよく言うけど、大概その呆れられた人は「呆れた」散々言われてる。‥ああ、「呆れた」って言葉も出ない程ってのは、‥そのさらに上の段階でもはや「呆れた」って言うのもばかばかしい‥って感じなんだろうか。
 もしくは‥
 「呆れた」って言葉すらかけたくない位、その人の事嫌いになったか。
 僕たちはリーダーの事嫌いになんて絶対にならない。だから、その時も散々「呆れた。‥分かってるよ言いたいこと。‥その子を引き取るんでしょ? 」ってリーダーを「弄った」。
 結局その時も、僕たちは‥愛ある「呆れた」を何度も繰り返し‥じゃれ合った。
 その時も、リーダーはちょっと困った「振り」して、苦笑いする「振り」してた。

 リーダーはそういう空気を読む人だった。ノリに答えるセンスがあった。あと‥そうだな‥「甘え慣れてた」って感じ。

 しっかりしてて頼りになるけど、頼ってる「振り」もしてくれる。
 そういうとこリーダーは「わかってた」
 だけど、(頼ってる振りしてるけど)最初から決めてるって感じ。
 頑固だったんだ。でも、その「ブレないところ」もまた頼もしさだったんだから‥ホントリーダーは凄かった。
 まさに、理想の上司って感じ。
 今僕は「真のリーダーのカタル」なんて言われてるけど、「ホントのリーダー」を知ってる僕としては‥恥ずかしい限りだ。でも、そんな話今のメンバーにしたって知ってる人なんていない。
 知らない人に知らない人の話どんなに熱心にしても「同じ温度」で話が出来るわけがないからやらない。
「じゃあ、お前もそうなれよ」
 って言われても、‥到底できないし。
 それよりなにより‥あの「一番大事な思い出」は僕や‥リーダーを知ってる人だけの大事な宝物にしておきたかったんだ。

 話しを戻そう。
 
 リーダーは頑固で、一度「こう」って言ったら、考えを曲げない人だった。

 結局その「かわいそうな子」はで引き取ろうってことになった。
 他のメンバーはリーダー程お人よしじゃなかったんだけど‥多分リーダーの影響受けちゃったんだろうね。「まあ、仕方が無いか~」って誰も反対する者はいなかった。
 ‥あと、好奇心?
 それが大きかったかも。(結局ね)

 確かに「運命の星ってどんなんや‥」‥ちょっと気にはなるよね‥。


「私たちが責任を持って息子さんを育てます」

 交渉役は、組織では一番紳士に見えるタネさん。
 紳士に見えるって地点で、アウトだって思うよね。
 だって、「紳士に見える」ってだけで、紳士じゃないってことだよね。
 胡散臭いよね。
 でもね、世の中「見た目は紳士」って人間の方が実は多いよね。
 ‥今の「組織」にはそんな人たちばっかりだよ。(だけど、そういう話は今はおいて置こう)
 兎に角、交渉には似非紳士(今基準で言えば、十分にいい人)が行くことになった。
 「リーダーじゃ人さらいに見えるかも」‥っていうのは皆の「愛ある軽口」だったけど、「でも、念のため」ってことで皆で決めたんだ。
 あと‥育ちが良かったから‥なんていうか仕草も上品だったし、言葉遣いも綺麗で、口も達者だったしね。
 交渉に向かうのには適任だったんだ。

「リバーシを育てるのはそう容易なことではない。お父さんのご心労お察しいたします。私たち特殊孤児院「子供の家」におまかせくださいませんか? 」
 タネさんが紳士然とした柔らかい笑顔を浮かべ言った。

 そう、僕たちは特殊孤児院「子供の家」を始めたんだ。
 始めたっていうか‥そう申請したって感じ。
 血縁関係にない未成年を多数養育しているので、「そういうことになるだろう」「そう申請しておいた方がいいだろう」と、国に許可を申請したんだ。特殊っていうのは、子供の中には僕みたいに「訳アリ」な子供も多かったからだ。‥あと、魔法使いの素質在りとかリバーシだとか‥社会で「異分子」扱いされてる子供も多かった。そんな子供は苛めや虐待にあいやすかったからリーダーの目に留まったんだ。
 そういう施設って申請して少しすると、産まれて間もない子供を「引き取ってくれ」って連れてくる者も出て来た。
 ‥今まで散々変な目で見てきてたのに‥都合がいいね、って思った。

 ネルの父親は少しは躊躇したものの‥
 結局最後は僕たちの「説得に応じた」
 ‥ま、形ばかり躊躇を見せて、最後は「望み通り」ネルを厄介払いした‥って感じだったけどね。
 
 ネルと名付けられたその少年は、大人しい子供だった。
 喋れるようになったかならないか‥って歳くらいだったって思うけど、ネルは一言も喋らなかった。
 (だから、喋れないんだって思ってたんだ。ネルの父親もそういってたから、ネルの父親の前でネルが喋ることはなかったんだろう)
 表情が全くっていっていい程ない、綺麗な子供だった。

 まるで綺麗な人形みたい‥初めて見たときそう思ったのを覚えている。
 それはネルがリバーシだからだろう。
 リバーシは主に自衛の為に自分の容姿を良くするって聞いたことがある。
 「自分の余分な魔力は容姿に全振りしてますよ」っていうアピールだとか。
 あとは‥「見かけだけでもいいから好きになって」っていう切望‥とかかなあ‥。

 ‥リバーシや魔法使いの卵っていうのは、普通の子供より早熟で、人よりちょっと考える能力があるんだ。そのせいで妙に冷めてる子供が多いし、‥中には「色々諦めちゃって」十代ですでに達観しちゃってるよ‥って子も多い。
 魔法使いはそれでも、普通の子供同様「なんか考えてたけど、寝たら忘れちゃった」ってこともあったけど、寝ないリバーシなんか‥ホント悲惨だと思う。時間が腐るほどある。だから‥色々「いらないことまで」考えちゃうんだろう。
 考えるって言っても、子供だから見当違いも多い。
 ‥大人だったら「常識的に考えてそんなことは考えない」ってことを思いついたりもする。
 例えば‥
 お父さん嫌いだ。妹ばっかり可愛がるし‥。妹も生意気だから嫌いだ。‥寧ろ、妹の方が嫌いだな。
 じゃあ、遠くの山に妹を捨てに行くか。
 妹が泣いて謝ったらもどしてやるか。
 を、即実行に移すのが‥移せるのがリバーシ。

 そういう「普通の人には考えられない」ことをする子供もいるから、リバーシは恐れられて‥嫌われてるんだ。(勿論そんな子供はまれだというのに、だ)

 あんなに小さかったのに‥ネルはもうすでにリバーシらしかったんだ。

 荒唐無稽なことをするサイコ野郎って意味じゃない。妙に達観して「色々諦めちゃって」「人なんて信用しないぞ」って顔してた。

 ネルの母親はネルを産んですぐに死亡し、ネルの父親は生まれて間もない「普通じゃない」ネルの扱いに困窮していた。
 ネルのリバーシ認定。(リバーシに認定されたことによって)明らかに変わった周りの大人の対応。
 妻を失って、初めての育児を一人でしないといけなくなった若い父親の戸惑い、迷い、焦り‥そういった感情は想像に難くない。
 事情は‥分からないでもないけど、だからと言ってネルに冷たく当たるのは違うよね。
 分からないなりに何とかしなきゃいけないだろうし、周りがネルに冷たくしても‥冷たくするなら‥自分だけでもネルの味方にならなきゃいけない‥んじゃない? 僕には子供がいないから分からないけど、母性本能、父性本能ってそういうもんなんじゃないの?

 ‥ま、そう口で言うほど簡単なことじゃないんだろう。

 ‥ネルの若い父親にはそれは無理だったみたい。
 まだ、父親の自覚とかも‥あったかどうか怪しい。
 ネルの父親の幼馴染だっていう女は(ネルの母親亡き後)完璧に彼の後妻の座を狙ってるって魂胆が見え見えだったし‥父親の方にも「満更じゃない」って感じが見て取れた。
 新しい家族(幼馴染の女にとっては「初めての家族」)を作る。‥その為には先妻の子であるネルは邪魔だった。
 だから一緒に話を聞いていた女は、タネさんの提案に「その方が、ネル君の為にもいいと思う」なんて説得の後押しまでしてきた。

 ‥人間ってあさましい‥ってか、‥ネルの周りってろくな人間いないね。
 
 ここにいても、運命の星‥ネルは幸せになれない。
 流石にあれでは‥
 僕らも思った。

 僕たちは、重ねて言うが‥運命の星を手に入れて、どうこうしようなんて「野望」は持ってなかった。
 その「野望」がこの先、「今の幸せな関係」を壊すだろうって‥安易に想像がつくから‥。

 政権の掌握や、国家転覆。
 権力や財力。

 身の丈に合わない望みなんて持たない方がいい。
 皆そう「分かっていたはず」だったんだ。
 大事な大事な宝物のような時間、リーダーとの優しい時間。それが失われるなんて‥考えたくない。
 胸をかきむしるような「嫌な気持ち」。

 だけど、若かった僕の心はある時「新しい予言」でいっぱいになった。
 ‥僕だけが知っている「世界を揺るがすような」新しい‥重大な予言。
 若者っていうのは、ある時やけに「尊大」になるんだ。身体が大きくなって、力が強くなって、‥自分がなんでも出来るような気になるんだ。
 それが、僕の場合は魔法の才能‥予言の才能があったから‥さらに悪かった。
 
 僕は選ばれた人間だ。
 そういう‥高鳴った気持ちと、思い上がった気持ち。‥好奇心。

 僕はその気持ちのまま‥得意になって予言していた。
 あの‥二つの星の予言を‥。
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