リバーシ!

文月

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十三章 乙女ゲームじゃなくって‥

7.サラージ様の「恋愛特別講習(笑)」は続きます。

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(side ナツカ)


「‥いや、そうじゃない。そうか、女の子ってのは、男のそういうパーツにきゅんと来るもんなのか‥」
 ヒジリがようやく講習受講態勢に戻って、「成程」って腕を組んで‥深刻そうな表情をつくる。

 もう、どうでもいいんですけど‥
 純粋に「この二人の恋愛観」の情報収集として聞かせていただきましょうか。
 この二人がどんな恋愛観を持ってて、どんな「フェチ」があって、どんだけへっぽこか‥知っとく必要はありますよね。
 これからの方針を考えるうえで。

「らしいぞ」
 うんうん、とサラージ様が頷く。
 あんたも分かってないのに、分かった振りで流すと‥あとあとヤなことになりますよ?
「サラージ様、なんかきゅんとさせてください。例えば、‥首の筋を見せてください」
 じ、っとサラージ様を(身長的な問題で)上目遣いで見て、ヒジリが言った。

 ‥ほら、さっそくなった。
 ヒジリ、‥色気ないですね~。
 煽ってる感ゼロ。

「首の筋‥ねえ‥」
 サラージ様がカッターシャツの襟首のボタンを外して、「ん」とヒジリに見せる。
 ‥びっくりした~! サラージ様! 急にそんなことするとか! 
 ‥痴漢ですか。
「わ~、サラージ様、肌白~。綺麗な肌~」
 ヒジリはサラージ様の襟首を覗き込み、感嘆の声をあげた。
 ‥ヒジリ、赤面すらしないわ~。(サラージ様‥哀れ~)
 ‥キュンと感じてる様子、ゼロ。
 ヒジリの顔が近い。普通なら「ヒジリ、そんなに近寄られたら‥俺‥」ってなるだろうけど‥サラージ様は
「ヒジリ‥息が首にかかってくすぐったい‥」
 こうだ。
 ‥いや、(「ヒジリ、そんなに近寄られたら‥俺‥」って)なってるね。
 サラージ様は‥顔真っ赤ですね。
 分かります、好きな子がこんなに接近してたらね、ドキドキしますよね。
 その距離、腕を伸ばしたら、抱きしめられちゃう距離ですものね。
 だけどサラージ様は「ヒジリ‥そんなに近づいたら‥どうなるか位、分かるだろ? 」ってならないんですよね。ヘタレが。
 ‥いや、わかりますよ? 「相手ヒジリだぞ? 」ですよね? 
 
 ‥ヒジリの素な対応が余計に辛いですよね。
 でも、この様子‥ちょっと‥

「ヒジリ! お前は!! 男にそんなに近づいちゃダメなの! 相手がラルシュの弟さんだからいいものの、普通の男だったら勘違いするだろ!? 全く! 」
 ばん、と扉が開いて、男が乱入してきて、ばり、とサラージ様からヒジリを引っぺがして、自分の腕の中に抱き込んだ。
 そして、サラージを睨む。
 怒ってる。
 すっごい怒ってる。
 そして、凄い勢いで説教してる。
 小学生の男の子相手みたいに「ノー色気」な方向で。
 普通ならヒジリに「男の怖さ」を教えるだろ‥。「お前にそんな気はなくても、男ってのは危険なんだぞ」って教えるだろう。でもしない。(絶対わざとだよね、この人腹黒いよ。ヒジリにサラージ様の事「男として」意識させないようにしてるんですよね)
 ヒジリに対する優しさ、じゃなくて、自分の為に教えない。

 しかし、この態度‥問題しかない。王子を王子と思わない態度!

 乱入者は、サラージ様のライバルその2、ミチルだった。
 ミチルはこの国の人間じゃない。(だからっていって、王子たちにため口なのは、許しがたい)
 だけど、まだ正式に発表されていないが、いずれはラルシュ様の仕事の補佐的なもの‥相談役の一人? になるらしい。未来の「重鎮候補」って奴だ。(だからといって、だ)
 地球人で、夜12時にならないとこれない「時間限定」だから、常時ってわけでなく、何か有事の折の相談役の一人で、意見を出したり、知恵を出す役割‥みたいな感じかな。
 地球人のミチルは、地球の知識だけでなく、考え方とか、この国の人間とは全く違うものを持っているから価値があるってことなんだけど、そもそも地球出身のリバーシっていうのが、この国には特別な意味があるんだ。
 地球出身のリバーシは希少で、貴重だ。
 王妃がそうだ。
 王妃は地球からの転移者で、リバーシがなるって決まってる。
 だから、ミチルがこの国に来たとき皆ミチルが男なことに驚き、また‥時間限定だってことに驚いたんだ。(あと、「時期」も「ちょっとおかしかった」)
 王妃になる方は、勿論時間限定ではなく、完全なる(異世界)転移者の‥女の子だからね。
 異世界の乙女って呼ばれてる。
 異世界の乙女は、王が結婚するって頃になると、現れる。(ミチルが来た時期がおかしいって言われたのはこのせい)
 それは、偶然ではなく、王自身が引っ張るから‥らしい。よく意味は分からないけど、「そりゃ、偶然ではないわな」とは思う。そんな偶然ってありえないよね。一回ならまだしも、毎回とか‥ありえないよね。
 方法やらメカニズムは分からないけど、「そういうこと」ってのは理解できるって感じかな。(王ならあり得るよね、って感じで全部納得)
 異世界の乙女は美人かって? 
 ‥この国に転移してきて、リバーシだって認定されて、気が付いたら「美人になってる」って感じかな。結婚や国民へのお披露目は「美人になった後」だから、元々どうだったか、なんて誰も知らないよ。
 でも、整形レベルで変わるわけじゃないよ? リバーシだからそういう風に魔力を使うこともできるだろうけど‥今までそんな子はいなかったな。異世界の乙女は皆ちょっと変わり者だし、謙虚? な子が多いから、「ここにきて、使えるようになった魔法みたいなもの」をそんな風に使うって考えにはならないらしい。
 皆「この国の為に」「愛する人(王)の為に」使うようだ。 
 でも、確かに綺麗になるんだ。だけどそれって、「今まで綺麗なんて言ってくれる人がいない」って不遇な境遇で生きて来ただけで、多分、「愛されて綺麗になった」「今までかけてこなかった身なりに手を掛けるってことによって、普通に綺麗になった」ってことなんだ。本人はだけど、「ドレスや化粧‥魔法ってホント凄い」って思ってるみたい。

 因みに、次期王(サイダラール殿下)にはまだ「異世界の乙女」は現れていない。まだ現王はご存命だし、まだまだご健勝だから、そんなに直ぐに決めなくてもいい‥ってことなんだろう。
 私もその「奇跡の出会い」を見られたらいいな‥って思う。

「あ、ミチル。仕事中じゃなかったのか? 」
 ミチルに抱きしめられたままの‥ヒジリの間抜けた問い掛けに、我に返った。
 そうそう‥乱入者を許してしまった。
 まあ、全然危険がないのを分かってたから騎士たちも許したんだろうけど。(私も)
 危険があれば、気配だけで排除するからね。
「終わった。もう帰る」
 ミチルがヒジリに蕩ける様な笑顔を向ける。
 こいつ、ヒジリにメロメロなの隠す気ないな。ラルシュローレ様の友達なのに‥。(倫理観どうなってるんだ‥)
「帰る時間か? ん? まだ3時だぞ? 」
 ヒジリが首を傾げる。
 嫉妬されてるって思わないんだ。「嫉妬されてる? ドキ! まさかミチル‥? 」とかないんだ。「嬉しい‥」とか「そんな‥私はラルシュローレ様の婚約者なのに‥」以前の問題だ。

 ミチルも‥
 ヒジリに相手にされてないっぽい。

 ‥でもないか。ヒジリがちょっと「照れ隠し」に「困った様な顔」しながら‥それとなくミチルの腕から抜け出そうとしている。
 ヒジリはさっき、サラージ様に抱き込まれるような距離にいたのに全然照れたりとかしてなかった。
 つまり、そういうこと。
 ミチルはサラージ様より「男として」意識されてる。

 サラージ様、残念!!
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