リバーシ!

文月

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十三章 乙女ゲームじゃなくって‥

13.嫌いって言うより残酷。

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(side ナツカ)


 利害が一致してるから、時々は同じような行動をとることもあるだろう。
 例えば、ミチルとヒジリが一緒にいるのを何気なく邪魔したりとかラルシュローレ様とヒジリの「共通の話題」を探したり‥だとか。
 だけど、別に一緒に行動しているわけでも、特に話したりなんてしてない。
 だから、私はヒジリの
「この頃ナラフィス先生とラルシュ様の侍従さん、仲いいんですね? 」
 って言葉に驚いたんだ。
 驚いたっていうか‥動揺したんだ。
 一瞬、「バレた? 」って思ってしまった。
 ‥別にやましいことも何にもないのに、だ。
 やましくは無いけど、ラルシュローレ様に対して「企んでる」って後ろめたさはやっぱりあったんだ。常に。
 だけど、私より肝が据わってる(性格が悪い? )ナラフィス様はケロッとしている。
「そう? 僕は別にいつでも誰とでも変わらずフレンドリーだよ。人間観察は楽しいよね」
 ってにこっと笑って言った。
 いつも通り、何の飾りもない素直な笑顔で。
 そこには、動揺とかそんな感情欠片も感じられなかった。

 いっそすがすがしい程だな! あんた、どんだけ修羅場くぐってきてるんだよ!

 ‥そうか、つまりナラフィス様はこの言葉の通り「いつも通りフレンドリーに誰彼構わず親しく接しているだけ」で、別に私と共同戦線張ってるつもりなんてかけらもなかったってことだ。
 だのに、私だけナラフィス様と共謀して主君に対して‥ある種の情報操作をしているって思ってたんだ。
 ナラフィス様を共謀者だと思ってたんだ。
 ‥ナラフィス様にそんな気は全然なかったってわけだ。
 成程、あっさり納得した。
 私が勝手に共謀者だって思ってただけで、ナラフィス様は「いつも通り」勝手に自分の好きなように行動してだだけなのね。
 なんか自分が恥ずかしい‥。

 恥ずかしいし、ナラフィス様が‥憎い‥っ!

 私が密かに心の中で悶絶していると‥
「そう言われてみるとそうだな。‥何悪だくみしてるんだ? 」
 サラージ様がじっとナラフィス様の方を見て、にやりと笑って言った。
 ‥この悪い笑顔。
 サラージ様は‥ナラフィス様の笑顔と反対で「実は何も企んでないのに」「何かを企んでいるような」顔をする。
 この笑顔、何の得にもならないから止めるように‥と再三言ってきたのに、サラージ様は「うんうん」って頷きながらも、全然直す気なんてないんだ。
 それどころか
「腹に一物ある風に見せてると、悪い奴が「こいつ使えるかも」って思うかもしれないだろ? 敵を欺くって奴だ。そういう囮的な役割なんだ、俺はね」
 なんて言ってる。
 悪ぶって‥隙を見せて‥周りの出方を見て、様子を伺って‥じっと獲物(← 悪い奴のことらしい)が釣れるのを待っている。
 そんなサラージ様をナラフィス様は咎めない。それどころか
「サラージの立場でしか出来ないことだ。好きなようにやらせとけばいい」
 って笑ってる。
 友人として個人の意思を尊重しているのか、関心がないのか‥
 私にはナラフィス様の真意が未だ分からない。
 もっとも、今まで平民だとばかり思ってたから「平民には貴族の駆け引きが分からないから‥」って思ってた。それは‥でも今でも思ってる。「自由に‥好きなように過ごして来たナラフィス様には貴族の駆け引きは分からない」って‥。
 何も考えていないようで、でも無様なことは‥そういえばしたことがない。
 ナラフィス様はホントに「読めない」人だから。(そういうの、一番怖いよね)
「失礼な。人を腹黒みたいに言わないでほしいなあ。僕はラルシュの友達だから、友達の為に行動することは別に不思議じゃないし、ラルシュの侍従殿がラルシュの為を想って行動するってのも普通だ」
 へらりと笑ってその「怖い人」はサラージ様に言った。
 ヒジリは「俺とラルシュ様との共通の趣味を探すのが? ラルシュの為? 」って呟いて、首を傾げた。そして、「もしかして‥」って呟いてナラフィス様を見る。
「‥つまり、友達として俺とラルシュ様の距離が遠いのが気になる‥ってこと? 俺とラルシュ様が形式上「婚約者」だから。共通の趣味でも持って仲良くなれよ! って言いたいの‥かな? 」
 ヒジリが苦笑いをする。
「距離が遠いのが気になるんじゃなくて、一足飛びに「もっとラルシュの事意識して! 」「特別な関係になって! 」って言ってるんじゃない? ナラフィスさんたちは。だから、いつも近くにいる俺が邪魔ってことだな」
 にこやかにヒジリに言ったミチルの目が笑ってない。
 冗談っぽく言ってるけど‥全然、そんな感じじゃない。‥目がマジだ(ヒジリはいつものごとく気付いてないみたいだけど)
 ‥ミチルはずっと前から我々の妨害に気付いていたんだろう。そして、気付かないふりしてきたんだ。
 わざわざ話題に出したら、ヒジリが意識するかもしれないから。
 そんな「もしかしたら」っていう危険性だって、ミチルは見過ごさない。
 気をつけて、気をつけて‥ヒジリをかこっている。
「ラルシュ様が俺と親しくなろうって努力してくれてるのに俺はこんな調子で‥。ナラフィス先生はラルシュ様と友達だから、俺の不誠実さ‥努力不足かな‥が許せないんだろうね。ごめんね‥。
 でも、俺は不器用だし‥こんなだから、かえって「ラルシュ様に恋愛感情を持とう」って意識したら、変な感じになっちゃうって思うんだ。それに、‥そういうのって違うよね。ラルシュ様に対して失礼だよね。「そうなろうと思う」とか‥そういうのって、違うよね。そういうのって、思ったから出来るってもんじゃないよね。
 だから、俺でも出来ることから始めようって思って‥。
 まず友達になろうって思ってる。お互いの事知って、信用できるようになって‥将来それが親友って感じになって‥そういうのが俺の限界かなあ‥って」
 へらって‥赤面しながら話すヒジリ。「恋人同士とか、なんかよくわかんないんだよね」って付け加えて、苦笑いする。ミチルがそんなヒジリに微笑みかける。
 ホントに自然に‥だ。
 ヒジリの視線の先にいて‥ヒジリの頬を赤く染めている原因になっているのは‥「無意識に惹かれている人」ミチル。

 「恋する乙女」な表情をしたヒジリがラルシュローレ様
「親友が自分には限度」
 って言い切る。
 それって
 すごく残酷だ。

 ミチルに対して、ヒジリは恋愛感情(親友以上の感情)を持っている。でも、ヒジリはそれに気付いていない。‥少なくとも「気付いていないふりをしている」。きっと、気付いたって‥ヒジリはそれをミチルに言わないだろう。「気付かない」振りしたまま、「自分は恋愛なんて分からない」って言うのだろう。
「自分は恋愛音痴」って自己暗示をかけて‥。ヒジリはミチルに対する恋心を封印するんだろう。

 それは‥ヒジリの勝手だって思う。だけど、ラルシュローレ様のことを憶測するのは許せない。
 ‥ラルシュローレ様を不幸にするのは許さない。

 ラルシュローレ様は、「親しくなろうと努力してる」んじゃない。「本心から、親しくなりたいって思ってる」んだ。

 ラルシュ様の感情を「気付かない」振りして、自分の感情に「知らない振りする」。
 ラルシュローレ様との結婚を、ヒジリは義務だって「諦めてる」。世界の災厄としての自分の使命だって。
 ヒジリは不幸だろう。自分の意思ではなく世界の災厄って言われて王室に解禁される運命‥確かに不幸だ。それは分かる。だけど‥
 ヒジリは「義務だ」としか思ってない。(口ではああ言いながら)本当の意味でラルシュローレ様を分かろうとなんて‥してない。
 ヒジリがしている努力は「ミチル(恋愛)に対する自分の心をあきらめる努力」と「自分の心に折り合いをつける努力」で「ラルシュローレ様を本当に知ろうとする努力」ではない。

 私は‥

 ヒジリを許すことは‥出来ない。
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