リバーシ!

文月

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十五章 メレディアと桔梗とヒジリとミチル

3.桔梗と弟妹。

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「大丈夫? 」
 桔梗は、桔梗を覗き込む弟妹と目が合った。
 いつものいたずらっ子の顔ではない。
 心配そうに‥ちょっと涙まで浮かべたような目をしている。
 その顔のままで
「よかった~。姉ちゃん死んだように寝てたからホントに‥」
 って言いかけた7歳の弟を8歳の妹が殴る。
「死ぬとか‥言わないでよ」
 ちょっと凄みを聞かせた声で弟を叱っている。
 その顔が、ちょっと「冗談っぽく」なかったから、きっと彼女もちょっとは‥そう思ったんだろう。

 桔梗はリバーシが「渡っている」時、殆ど「息をしているだけ」だってことを知らない。
 しかも、ちょっとした「渡り」ではなく、桔梗は今まで異世界に「渡っていた」んだ。
 動かないし、ゆすっても起きなかっただろう。
 その様子は幼い弟が「よかった」「死んだかと思った」って思ってもきっとおかしくなかっただろう。
 
 
 そのうえ、桔梗が「寝ている」のを今まで弟妹達は見たことが無かったから‥なおさらだ。

「大丈夫だよ。ああ、すっかり身体が軽くなった」
 にこっと桔梗は微笑んだ。
 幼い弟妹を安心させるため‥だけど、確かに「身体が軽くなった」のを感じて‥桔梗は驚いた。
 
 こんなに、身体が軽いのは‥覚えている限り‥初めてかもしれない。

「それに、‥なんだかすごく楽しい気分だわ」
 って‥いい気分のままポツリと呟くと、
「いい夢見たの? 」
 って8歳の妹が明るい声を出した。
「いいな~。米のおまんまたらふく食う夢とか? 俺も見たいな~」
 って言ったのは、7歳の弟より大きな弟、9歳の弟だ。
 弟は来年商家に丁稚奉公に行くことになっている。
「あっちではもう少し飯が食えればいいな」
 って両親に笑顔を見せた弟を桔梗は誇らしく思った。

 佐吉はもうすっかり大人だ。‥それに比べてあたしは‥

 今年16になる桔梗は、まだ家に居る。
 両親は「弟妹の世話をして、家のことをしてくれ、働き者の桔梗が家にいるのは都合がいい」と言ってくれるが‥桔梗はそんな両親に対して、ずっと申し訳ない気持ちを抱えていた。
 後ろめたい。
 ‥恥ずかしい。
 自分だけ‥情けない。
 そう思って来た。

 黒い髪黒い目が当たり前のこの国‥この時代で、兄弟の中一人だけ‥桔梗の目は暗い‥紫色の目をしていた。
 目が開いた桔梗の目を見て、両親は驚き‥でも
「ああ、この子の目は桔梗の花の色だね」
 と言って、その名をつけたのだという。

 そんな「大層な」名前が付いた女の子は、こんな村にはほかにいない。
 皆「たき」だとか「うめ」だとかそんな名前の子供ばかりだ。

 桔梗は、見かけも名前も他の子供とは違っていた。
 村の子供は桔梗の見た目を怖がり、‥苛めた。
 だから、いつしか桔梗は他の子供たちと一緒に遊ぼうなんて思わなくなった。

 一日中田畑の草を取り、薪を集め、水を汲み‥家の仕事を手伝った。
 そうしないと、‥いつか「要らない子」「気味の悪い子」って両親にまで思われるんじゃないか‥って思ったんだ。

「でも、ホントに姉ちゃんの顔色がいいからよかったよ。いつも働きすぎてるから疲れがたまってたんだろう? ‥俺たちのこと心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっとは自分の身体も労われよ」
 佐吉が大げさにため息をついて言った。
「ね、どんな夢だったの? 」
 って言ったのは、8歳の妹「たき」だ。
 たきは、時々子守として庄屋の家に奉公にいっており、聞くところによると庄屋の息子がたきのことを気に入っている‥というのだ。
 
 そうなったら、あたしの存在はたきの邪魔になるかもしれない。

 時々、桔梗はそんな風に考えて苦しい気持ちになった。

 時々、
「大人になったら、あたしも姉ちゃんみたいにキレイになれるかなあ」
 ってたきは頬を赤く染めて桔梗に聞いてくる。
 その言葉は、たきの正直な気持ちなんだろうってわかるけど‥「それは身内びいきで、外で言っては恥ずかしい」って思う。

 それに‥あたしの目は皆と違う「気味の悪い」目だ。‥あたしはちっとも綺麗なんかじゃない。

 そういえば‥夢? の「あの人」の目は、鮮やかな‥紫水晶のような美しい目だっけ。
 髪はキラキラした‥黄金の稲穂のような色で、肌も‥なめらかで白くて‥美しかった。

 そんな美しい人があたしに‥
「美しい人」
 って‥。

 ぼ、っと赤くなった桔梗にたきが「姉ちゃん、好きな人の夢見たの? 」って揶揄ってくる。

 好きな人? 
 ‥そんなんじゃ‥そんなんじゃない。
 ますます真っ赤になる桔梗だった。
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