リバーシ!

文月

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十六章 ミチル争奪戦!

1.犯罪者心理とロマンチシズム

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(side ヒジリ)


「母さんを殺したい」
 ってカタルは言った‥ってミチルが言ってた。
 それからカタルは
 自分が愛人の子で、本妻は母親の存在を認めてなくて、自分たちは日陰の身。どころか、本妻から命を狙われる危険性もあった。母親はそんな話を自分にしないどころか、父親の話すらしたこともなかった。母親は自分の事だけを溺愛していた。だけど、その愛情‥思いが重くて、苦しかった。
 って、自分の身の上話をしたって。

 初めて会った奴にするかなそんな話、それ程カタルはミチルにこころを許した‥ってことだろうか。

 それとも、誰でもいいから聞いて欲しかった?  
 幼いリバーシが時折飛ばされてくるって「胡散臭い」噂を聞いてダメもとで訪れた湖に、ホントにリバーシが現れてテンションが上がってつい喋っちゃった? 
 それとも、相手がミチルだったから?
 ミチルを見たときに、自分の「特別な相手」だって分かったから? 
 だから、ミチルになら話していいって思った?
 
 でも、
 あんな昼ドラみたいなドロドロな話‥子供(ミチル)が聞いても難解で理解できないかも、って思わなかった? 
 ‥リバーシだから精神年齢が高いってのは常識だから「理解できるだろう」って思ったんだろう。
 ミチルは「普通の子供じゃない」そして、(魔法使いの)カタルも普通の子供じゃなかったんだろう。

 カタルは確かに不幸な生い立ちをしていたかもしれない。
 だけど、それでもミチルに犯罪の片棒を担がせていい理由にはならない。
 ミチルは自分でそう言わないけど、あれからずっと罪悪感を感じ続けているんだ。

 カタルのお母さんを殺す片棒を担いでしまったかも‥
 止められたかもしれないのに止めなかった‥

 ミチルは悪くないのに、‥許されない話じゃないか? 
 俺は
 この前初めて会ったカタルが憎くて仕方ない‥って思った。
 正直ね、一緒にいたナツミの顔もろくに見てない。
 あの時は事情が分からなかったけど、カタルを見たミチルがいつもと違う様子だったことだけで‥「こいつは敵だ」って思った。
 だって、会っただけで言葉も交わしてない相手に対して、あんなに‥紙みたいな顔色に普通なる?
 それ程‥怖いって思ってるんだ。そんなの敵以外何物でもない。

 俺は‥
 狭量な人間なんだ。

 親しい、大事だって認識した人間には幸せになってほしいけど、敵だって思った人間は知ったこっちゃない。それどころか‥目にもの見せてやる。

 自分に物理的に力‥他人に対する生殺与奪の権‥があるって自覚した時から‥俺はずっとそんな思い上がった妄想をしてきた。
「アイツ、もう俺のこころの中で何回か殺されてる」
 って学生時代に言ってた奴がいたけど、まさにそれだ。
 ‥俺にはそれをリアルに実行するだけの力がある。
 いつでもできるって思ったら‥案外
「今じゃなくてもいい。‥アイツの人生は所詮俺の手の内だ」
 って思って‥
 「そんな気」はなくなる。
 それどころか、
「俺の力‥そんな価値の無いことに使う意味ある? 」
 って一周回ってそんなこと思ったりもする。

 まるで、自分が神にでもなったかのように‥。

 ああ、そうか。
 金持ちと一緒だ。
 ホントの金持ちは、金に対して焦燥感を感じないし、他人に対して奢った気持ちも持たない。
 資産運営が上手ってさ、知識があるって言うのもそうだけど‥「それ程金について落ち着いてられる」ってことだ。
 普段持ち慣れて無い者なら‥きっともっと落ち着いていられない。
「有効に使わないと。いや、貯金した方がいいか? それとも、これを元手にもっと増やした方がいいか? 」
 ってなったり、
「このお金を盗まれたらどうしよう‥。アイツもコイツもこの金を狙っているんじゃないか? 」
 って疑心暗鬼になったり‥
 逆に
「俺はこれだけ金を稼げるほど偉くなったんだ! 今まで俺のこと馬鹿にしてきた奴! ざまあみろ! 」
 って気が大きくなったり‥。

 カタルもそれに似たような状況だったんだろう。
 思わぬ力を得た。でも、これは「仮の力」で、‥知らないうちに日々消費していってしまい‥なくなってしまうかもしれない。
 日々の魔法を使うのが「いつもより何となく楽~! 」って思ってて、そのうち‥気付かぬうち‥に無くなってる‥とかが一番最悪のパターンだ。
 結局したいこともできず、手には何にも残っていない。
 それが一番最悪だ。
 だから
「今使わねば」
 って思ったんだろう。‥想像に難くない。
 だからって言って、一方的に「勝手に」魔力を奪われたミチルが「カタルの母親殺しの片棒を担いでしまった‥」って苦しむのは‥どうかって思う。
 これってさ、

 Aさんは家に泥棒に入られてBに大金を盗まれた。
 その盗んだ金でBが更なる悪事を働き‥被害者が多数出た。
「俺の金があったから‥俺の金を盗まれさえしなかったらあの人たちは被害者にならなかったのに‥」
 ってAさんが悔やむ‥位「変な話」だ。
 Aさんは何もしてないのに、二重の被害(窃盗の被害と、良心の呵責)を被っている。

 って状況と一緒だ。

 これって‥最悪じゃないか?
 今回の場合はさ、更にカタルがミチルに会って再会を喜んでいる。
 さっきの例だと、悪事を働くもBはまんまと逃げ切り(っていうか、Bの犯罪だってバレなかった)数年後Aに再会したBは「あの時の! 」って再会を喜んだっていう‥更に最悪の結末なんだ。
 ‥Bが再会を喜んだ‥。
 逆恨みをするって想像は容易につくけど‥再会を喜ぶ‥。
 どんな心理状況なんだろう。
 
 因みに逆恨みをするって想像はこれだ。

 Aに偶然再会したBは「俺にも事情はあったんだ」って語りだした。
「あの犯罪は、実は復讐だったんだ。俺はずっとアイツらが許せなかった。だから、アンタの家から金を盗めてしまったとき‥俺は「今なら復習を果たせる」「今やらないといけない」って気持ちになった。‥なってしまったんだ。
 金が無かったら‥諦められたかもしれない。
 だから‥アンタが悪いんだ。アンタが金をもっと厳重に保管してくれてたら、俺は‥」

 身勝手な犯人ならあり得る結論だ。

 ‥再会を喜ぶ‥
「あの時(第二の犯罪)はスカッとしたな! あんなにうまくいくとは! それもこれもアンタの金がなかったら出来なかった! アンタはいわば俺の犯罪のスポンサーだ! 」
 とか?

 ‥ヤバい奴じゃね? 

 そんな推測をナラフィス先生にしたら、ナラフィス先生はしこたま大笑いした後。

「カタルが「ヤバい奴」っていうのは間違いないだろうけど、ミチルに対する想いはもっと単純な想いなんじゃないかな」
 って言ったんだ。俺が首を傾げると、小さく頷き
「カタルは母親殺しについて多分‥何とも思ってない。罪悪感すら感じてない。
 「母親を殺したい」 → 「魔力が今ならある、じゃあ今やろう」ってやっただけに過ぎない。それ以上でも以下でもない。罪悪感を感じてないから「ミチルの魔力があってしまったから‥」ってミチルを逆恨みすることはあり得ない」
 ‥なんか、「理解できる」。
 そういう考え方、俺は共感はしないが‥理解はできる。

「責任転嫁でも、罪の意識をミチルと共有したい‥とも違う。
 それこそ‥もっとロマンチックな感情だ。
 「自分と魔力の相性が合う人間がこの世にいるという奇跡‥ああ、君は俺の運命の人だ! 」
 まさに、これ」
 まるで、「芝居の台詞」のように‥ナラフィスがクサイ台詞を感情をのせて言うもんだから‥
「‥‥‥」
 俺は苦笑いだ。
 面白くて笑ったわけでも、ナラフィスにドン引きしたわけでもない。「在り得そうな異常犯罪心理」に‥心底ドン引きし‥なんか笑いが浮かんだ‥って感んじ。
 一方、更に興が乗ったらしいナラフィスは
「俺の魂の枯渇を潤してくれるのは君だけだ! 俺のこの先の人生、君無しではいられない! 」
 台詞を続けている。

 異常犯罪心理程じゃないけど‥ナラフィスも大概だよな、って思った。

 と、扉が開き
「‥俺は‥お前が本当に嫌いだ」
 悪鬼のごとき顔をしたミチルがナラフィスを睨んだ。

 湖の調査(の後、タイムスリップしたり、カタルたちに遭遇したりした)から一日開けた‥夜明けの出来事だった。
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