リバーシ!

文月

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十五章 メレディアと桔梗とヒジリとミチル

15.ミチル争奪戦開幕・序章

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(side ヒジリ)


 ‥そうだよね~。しかも、ミチルはこの二人が誰かすら分からないんだよね~。

 困惑の一文字だよね。

 急に知らない世界に飛ばされて、知らない二人の生ぬるい恋愛劇場を見せられる‥。
 なんの罰ゲームだよって感じだよね。
 意味わからないよね。
 ‥この場合、俺はどういう反応をするべき?

 ① ミチルと同じように「何が何やら」って反応をする。
 ② ミチルに差しさわりの無いところだけ説明する。

 ②として‥「差しさわりの無いところ」ってどこまでだよ。
 二人の名前? ‥は、いらんわな。二人の状況説明? は‥もっともダメな気がする。

「ヒジリは驚いてないね。‥つまり、ヒジリはここに来たのが初めてじゃない。そして‥もしかして、前回もこの二人の焦れ焦れ劇場を見たってことかな? 
 今回ここに来た理由はヒジリが勉強中急に、別の場所に飛ばされた。「なぜ飛ばされたのか」「どこに飛ばされたのか」だったと思うんだけど‥。あれ、もうひとつ検証しようとしてたんじゃない? 
 この場所自体は俺も知ってるんだけど、今俺たちがいる「この場所」は俺が知ってる「この場所」じゃないよね? ヒジリもそのことに気付いた。だから、この場所がどこか調べに来ようと思った。そして、「この場所」で見かけた二人についても‥ヒジリたちはこの二人が誰なのか見当がついてる‥ってことじゃない? それで、この二人の何かを調べようとしている‥違う? 」

 ‥流石にミチルは鋭かった。
 二人のことを知っているってこと、それは正しい。
 この場所が、一般的に俺たちが知ってる「この場所」とは違うってことも。
 そして、俺たちがここにそれを調べに来たことも‥。
 合ってる。
 でも‥
 二人のことは、名前も背景ももうすでに分かってる。調べたいとかは、ない。
 そして、俺たちは「今回ここでまたこの二人に会えるなんて思ってなかった」。俺たちがここに今回来たのは、「俺が前回来たのは、本当に「過去のこの場所だったのか」ってことを調べるためだ。そして、結論として、俺は前回(今回も)やっぱり、過去のこの場所に「来ていた」。残留思念みたいな感じで、この場所に残された記憶を見せられたわけではなく、だ。
 俺は、
 やっぱり、タイムスリップ的なものをしていたんだ。
 俺にそれが出来るのは‥俺が史上災厄の魔力量を持っているリバーシだから、それだけ「時の属性」の力が強かったからってことだろう。
 ミチルは‥
 俺と一緒にいたから巻き込まれたのに過ぎないんだろうけど、ミチルもリバーシだから「巻き込まれてここに一緒にこれてしまうだけの力」はあったのだろう。
 
 なんで、「続き」が見れたんだろう。
 一体、「誰か」は、「続き」を俺に見せて‥どうしたかったんだろう。なんの目的があるんだろう。
 そして、その「誰か」って誰なんだろう。

 黙ったままの俺に、ミチルは話を続けた。
 それは、初めから答えられないことを知っているかのようだった。
「あの男の方は、ラルシュの血縁者かなんかだよね? なのになんで、ここにラルシュがいないんだろう」
 言って、ミチルが首を傾げた。
 俺は、ギクっとした。
 確かに‥血縁者です。はい。でも、血縁者‥っていうか‥祖先です。すんごい昔の‥。
 とは‥言えないけど。
 で‥結局まだ黙ったままの俺に、ミチルは気にしていないように、更に言葉を続ける。
「そもそも、あの男の事、ラルシュは知ってるの? ラルシュが知らない親戚かなんか‥王族になれなかった従兄弟的な感じ? 王家に隠匿された不遇の王族って奴? 」
 ‥はずれです。
 従兄弟とかじゃないです。
 従兄弟は‥ナラフィスさんです。ナラフィスさんは自分から進んで王族だって事隠してます。きっと言うことはないだろうし、王族じゃないことを悲しく虚しく思ってるってことも絶対なさそうです。
「‥なんでラルシュの血縁者って? 」
 俺は、やっとのことで‥言葉を絞り出した。
 言っていいこと悪いこと‥考えながら、選びながら‥口にする。
 ミチルが俺を見る。
「同じような顔してるじゃん。しかも‥紫の目って王族にしかいないんだろ? 」
 ミチルの目は、俺のことを探るような‥否、既にすべてを見透かしているような‥目だ。
 今は、ミチルの透き通った目が怖い。
「紫の目‥」
 そういえば、ナラフィスさんがそんな話してたな。
「あの男は‥ラルシュの従兄弟なの? ヒジリは‥知ってるんでしょ?  ナラフィスに口止めされてるかもしれないけど、それくらいは教えてよ。気になって今晩寝られないかもしれないじゃん」
 ミチルが「ね? 」って微笑む。‥そんな顔とか、ズルい。
 あざとい、ってか‥「嫌」って言えなくなるような‥顔。といって、女の子のする「拗ねた顔」とかじゃない。アレにだったら、勝てる。「そういう顔してもダメ」って、突っぱねられる。だけど‥ミチルみたいな歴戦の色男に‥そういう顔されると‥男の俺でも、ぐらっとくる。きっとこんな手管で今まで沢山の女の子落として来たんだろう。
 ‥恐ろしいぞ、ミチル。
 ってか‥そのセリフ‥

 「今晩寝れない」って‥俺たちは今晩どころか毎晩寝ないじゃん。

 ってか、ちょっとした好奇心位で‥首突っ込まない方がいいと思いますよ~。俺だって、わざわざ関わりたくて関わったわけでもないんだもん‥(´;ω;`)

 俺は関わりたくなかったけど、あっちから「来た」って感じ。
「ええと‥ミチルが言うように、王族で間違いはない。だから‥王族のことだから‥俺もナラフィス先生から詳しいことは聞いてない。‥なんか事情があるんだろうけど、どうせ俺には何も出来ないだろうし、関わりたくもない。
 今回は、俺が「自分の意思とは関係なくトリップしたこと」が初めてだったから、その理由を調べるのと、この場所が俺が以前来た記憶と違っていたから、「今のここ」に来てそれを確かめるのが目的だった。
 ‥さっき、ミチルが感じた違和感は俺も感じたってことだ。それをさっきナラフィス先生に伝えてた。
 それと、「ここで見た男性」がラルシュと似ていたってことは‥俺も思った。そして、それも既にナラフィス先生に報告している。ナラフィス先生にはその男性に「心当たり」があったらしいが、‥誰なのか俺も聞いてない」
 俺がこの件に関わりたくないって部分はホント、この場所に違和感を感じたこともホント。
 ただ一つ、あの男性が誰だか知らされてないってことだけは‥嘘。
 ゴメン。
 ‥俺の意思だけで全てをミチルに知らせていいかって判断は出来ない。
「‥ふうん。で‥違和感の原因は分かったみたいだったけど、それについては教えてくれるの? 」
 ‥ああ、ミチルにはなんか「隠したの」バレてるみたい‥。
 でも、多分あれだ「名前は知ってるんだろうけど、聞いてもどうせ仕方ないし」ってことだろう。
 ホント、ミチルの‥こういうとこ苦手だ。
「ここがどこかというのははっきりとは分からない。だけど、「俺の記憶にあるこの場所」とも「現在のこの場所」とも違う「この場所」だってことは分かる」
 あ、現在の‥とか言っちゃった。これ‥マズいんじゃないかな~。バレるか? バレないでくれ‥
「現在のこの場所じゃない‥、つまりは「異次元のこの場所」もしくは‥「過去のこの場所」ってこと? 」
 はい‥アウト~!
「‥分からないって言っただろ。なんでそんなこと俺が知ってるんだよ‥」
 もう‥冷や汗で背中が冷たい。
「ふうん‥ってことは、アイツはラルシュの御先祖様的な人ってことか‥」
 ‥何勝手に納得してるんだよ‥。
「そういえば、歴代、王様のお后様は異世界から来るリバーシって聞いたことがある。
 で、今の次王には「異世界からのリバーシ」がまだ来てないって‥。
 城では、「異世界に行っていたヒジリが次王のお相手なのでは」って話も出ているらしいが、それは違う。
 だって、ヒジリはラルシュの特別な相手で婚約者だ。‥仮のね。特別な相手ってのは‥覆されない事実だけど、婚約者ってのは、今後解消されることもあるだろう。例えば、ヒジリに別に結婚したいって人が出来たなら、ラルシュは、無理に結婚するってことはしないだろう」
 ‥何の話をしてるんだ。
 ってか、初耳だぞ俺が次王のお后候補ってか‥お后かもって噂があるとか初耳なんですけど。‥何それ怖い。ラルシュの婚約者ってだけでも「恐れ多い」のに王様とか‥考えただけでこのまま湖に飛び込みたくくなる。
「その顔は‥聞いてなかったってことだね。ナラフィスもそんな話はしなかったんだね」
 俺は黙って頷く。
 聞いたことないし‥聞きたくないや‥。
 ガクブル‥。

 ってか‥
「ってか‥「異世界からきたリバーシ」って‥、俺というよりはむしろ‥ミチルじゃないか‥」
 俺は、「異世界に行ってた自国民」。「異世界から来たリバーシ」って言うなら‥ミチルだろう。
 何都合よく話を変えてるんだ。

 ミチルの顔色が一気に蒼白になる。
「‥その話‥またするのか‥」
 また? 今回が初めてですけど? 
 そう、‥俺は初めてなんだけど、どうやらミチルにとっては「初めての話」ではないようだ。
 もしかして冗談で言ったけど、「マジな話」だった??
 ‥う~ん。男同士だけど、魔法のある国だから‥跡取り‥子作りとか‥何とかなる‥とかなのかな?? その場合お后様はやっぱりミチルなんだよね? 次期王様ってラルシュのお兄さんなんだよね? ってことは、ああいう優しい感じの美形さん‥反対の方が‥あ、でも、お兄さんはサラージ様系の「俺様タイプ」ってこともあり得るなあ‥。う~ん、異世界もののボーイズラブ‥。腐女子の皆さんが飛びつきそう‥。
 絶対、絵面的に、綺麗だよね。

「俺は断固拒否する!! 」
「いや、でも会ってみてから考えたら? 案外一目で恋に落ちたりするかも‥」
 メレディア王と桔梗の身分差婚みたいに‥案外障害がある方が燃えるのかも。
「怒るぞ! 」
 真っ赤な顔して‥本気に怒るミチルが‥面白い。
 俺が「はいはい」って言って‥そろそろ揶揄うのをやめようとした時‥

「何訳の分かんないこと言ってるんですか? 彼は‥僕の特別な人だ。
 まさか結婚することは無いですけど、彼は僕と一緒にいることが決まってるんだ。次期王にだろうが、彼を渡すことは‥絶対にない」
 
 突如現れたすっごい美形がミチル強奪宣言をして来たんだ。

「貴女にもね」
 っていって、氷の花が咲く様な‥艶やかで冷たい微笑を浮かべた。

 ‥ふうん? 俺に宣戦布告しちゃうんだ? 言っとくけど、どんなに美形でも、俺、男には容赦しないよ?
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