リバーシ!

文月

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十七章 お試し「乙女ゲーム」

5.ありがとう。

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(side ヒジリ)


 ナラフィス先生と話すマリアンちゃん。
 マリアンちゃんと話すナラフィス先生。

 マリアンちゃんと話すナラフィス先生は、俺たちに「理想の女の子」の話をするナラフィス先生と違って「もう、可愛いの! 」って感じじゃない。
 マリアンちゃんがナラフィス先生の理想に近い‥ってのは間違いないはずだけど、ナラフィス先生にとってのマリアンちゃんは「好みドンピシャの可愛い女の子」ってだけじゃないように見える。
 まだ、熟練夫婦みたいな「阿吽の呼吸」やら「惰性で一緒にいます」感は勿論なくって、そこにはやっぱり初々しさ‥(なんか年寄り臭い言い方になっちゃった)みたいなもんがある。初々しさと、遠慮かな。やっぱり、男同士でいる時とは絶対に違う。
 男同士なら言えちゃうことでも、女の子が居たら恥ずかしいし、そりゃ遠慮もある。
 例えば、エロ話とか?
 ‥でも、ラルシュ相手には‥絶対出来ないだろうし、サラージも‥凄い淡泊そう(分からんけど)俺がいる時にはそんな話するわけないし‥、ナラフィス先生はそういうので言ったら「真になんでも話せる楽な友達」っていないのかも?? ‥分からんけど。
 ‥ラルシュもサラージも俺のイメージでは「そういう感じ」だけど、案外ムッツリかもしれないから、分かんないよな。
 ‥って何を考えてるんだ。俺‥欲求不満なのか??
 ‥とにかく、
 ナラフィス先生のマリアンちゃんへの対応は、「愛しくってたまらないよ、マイスイートハニー」つまり、ラノベの定番「溺愛」って感じでもなく、「可愛い~!! ホント可愛い~! 」ってペットに対するような‥「猫可愛がり」でもないってこと。
 マリアンちゃんの対応は‥
 政略結婚だから、私はそれに従うまでです。ではないのは確かなんだけど、仲のいい先輩みたいな感じかな~。「旦那様! 大好き! 」って感じでもない。
 俺がいるからかな? ってのもあるだろうけど‥
「‥あの、俺、ちょっと出掛けたい‥かな。ちょっと、気晴らしに散歩とかしてみたい。城の中なら平気だろ? 」
 って聞いてみたら
「一人は止めといて。僕も一緒に行く」
 ってナラフィス先生に気を遣われちゃった。
 ‥違う!! 俺が気を遣ってるの!
 っていうわけにもいかず‥苦笑いしてたら
「私とタツキ様は、いつも通りですよ? ヒジリ様がおられるからどう‥ってことではないですよ」
 ってマリアンちゃんが微笑んで言った。
 あちゃ~って感じだ。
「‥結婚前のカップルってもっと盛り上がってる‥っていうか、イチャイチャラブラブしてるのかと思ってた」
 って呟いたら、
 二人に笑われた。
「ヒジリ。恋に夢見てる君には悪いが、恋愛と結婚は違うよ。恋愛の先に結婚はあるけど、結婚に恋愛しかない‥乙女ゲームの溺愛ルート的なものは現実にはない。‥少なくとも僕はそう思ってる。ああいうのは、「思い込み」だし、「自己暗示」だよね。
 僕はこの子のことが好き、この子のこと以外好きじゃない。この子以外どうでもいい‥。
 ‥人間的にヤバい奴だよね。
 そこそこ需要があるヤンデレなんて、「女の子の人権無視してるだろ、ふざけてんのか」「閉じ込めておきたい‥とか、そんなにてめえの惚れた女に信用無いのか」って思うしね。
 乙女ゲームは、やっぱりお話だから「好きになった切っ掛け」が明確に読者に分からないといけないし、見どころ満載な告白シーンやら、胸キュンなイベントもなくちゃいけない。「ハッピーエンド」が結婚やら、カップル成立だから、それに向けて攻略対象を攻略しなきゃならない。
 逆に言えば、攻略対象以外攻略しなくてもいい。
 モブの好感度なんて気にしなくていいし、‥モブ相手に恋愛感情も持てない。
 だけど、実際はそうじゃない。
 そんなのわざわざ言わなくたって分かってる。
 みんなそれを分かってるから、エンターテイメントとして乙女ゲームを楽しんでる」
 ‥まあ、そうだよね。
 あんな「美男美女だから許される」系のイベント、実際問題不可能だよね。
 モブな聖がマリアンちゃんに壁ドンとか‥許されない。絵面が地味だし、‥そもそも、恥ずかしくって俺が無理。周りの友人たちも「お前‥身の程をわきまえろよ‥」とか言って‥許してくれないだろう。
 ナラフィス先生も、絵面的に地味仲間だ。
 だから、やらない、じゃない。
「イベント‥って程じゃないけど、恋愛してたら「今日、こんないいことがあった。こういうことがあった。こういうとこ行った」ってのはあるし、後から考えたら「もう殺してくれ~! 」って悶絶したくなる程恥ずかしいこと言ってたりする。
 だけど、そんなのきっと、僕本人がもだえる程他人にとっては「それが? 」って感じのことだし、勿論絵面も地味だ。
 多分、恋愛なんて「そんなもの」なんだと思う。
 だけど、人々は「キュン」を求めてる。
 そこで、イケメン登場だ。
 壁ドンだろうが、顎クイだろうが、顔のいい奴がやれば、大抵「キュン」は作れる。
 勿論人の好みはあるから、地味顔が好き! とかはあるだろうし「イケメンの気障とか寒いわ」って子もいるだろう。だけど、そういう子はこの乙女ゲームを選ばない。女の子はパッケージで好みのイケメンを見つけて「よ~し! この人でキュンキュンするぞ~! 」ってハッピーエンドって分かってるイージー疑似恋愛をするんだ。
 ヒジリ。
 それは、乙女ゲームの話で、現実の恋愛やら結婚の話じゃない。
 現実の恋愛は別に人に「なれそめは? 」「どこが好きになった? 」って聞かれたときにすらすらと答えが出てこなくても、「お似合いね」って言われようとも言われなくても、関係ないんだ。
 この人の事一番好きじゃないけど、一番一緒にいて楽だから‥でも、別に性格は合わないし、顔も好みじゃないけど、この人なら一生お金に苦労することなく過ごせそう‥でも、構わないと思う。
 そういう、愛なんだよ。
 それは人がどうこう言う問題じゃないし、「それじゃだめだ‥」って思う必要も無い」

 この人は理屈ばっかりだけどね。
 だけど、マリアンちゃんとの関係が理屈をこねまわした結果の関係だとも思えない。
 激しい「分かりやすい」愛じゃないけど、そこには確かにこの人たちなりの愛があったんだろう。
 「そういう、愛」だったんだ。

「俺‥
 その人のこと、良く知らない」
 言ってしまおうか、
 って思った。
 この先どうなるか分からないし、「それは愛じゃない」って言われるかもしれない俺の拙い想い‥。
「うん」
 ナラフィス先生が頷く。
 誰の事いってるのか? って探りながら聞くのかな? って思ったけど‥どうやらナラフィス先生にそんな気はない様だ。
 ただ、静かに聞いてくれている。
「でも、その人のことは好きなんだ。尊敬もしてる。
 何でも出来るのに、変に自信が無くて、‥影で凄く努力してて、無理ばっかりしてて、でも、いつも笑ってる‥」
 ナラフィス先生がまた頷く。
 その顔がふわりと優しくなった‥気がした。
「だけどその笑顔は、実は癖みたいなもんなんだ。ずっと無表情な人と同じ、ずっと笑顔な人。でも、よく見ると「ホントに」笑ってるときもある。‥笑えない訳じゃないし、笑いたくない訳でもないんだ。
 だけど、不器用だし、慎重にならなければならない立場だから、表情を表に出さないで、頭では必死に考えてる。
 その人の言った言葉の「ホントの意味」だとかその人の「ホントの気持ち」だとか‥、「どう答えるべきか」だとか。NOっていうにしても「どういったら相手を怒らせず‥なるべく傷つけないようにできるか」って考えたり‥。
 優しい人なんだ。
 真面目で、優しくって、‥俺をきっと幸せにしてくれる人」
「きっと大丈夫だ。‥付き合いが20年を超えた僕が保証するよ。‥アイツは、ヒジリをきっと幸せにしてくれるし、ヒジリならきっとアイツを幸せにできる」
 ああ、‥分かっちゃったんだ。
 俺の‥人間観察は付き合い20年の人から見ても‥訂正は無い感じかな?
 でも
「でも、‥なんでラルシュなのか分からないんだ。
 俺は‥きっとミチルのことが好きなんだと思ってた。
 ミチルといると楽しいし、話も合う。
 でも
 ミチルのこと、カタルに取られたらいやだって思ったとき、ラルシュのこと考えた。
 ラルシュも魔法使いで、俺という特別な相手がいて、カタルと立場が同じだから。
 俺が特別な相手のラルシュとではなくミチルと結婚して、ビジネスパートナーとしてラルシュの魔力供給源になるってパターンを想像したんだ。
 ‥これは、カタルが提案してきたんだ。
 自分とはビジネスとして付き合ってくれればいいって。‥どういう言い方して来たかはあんまり腹が立ったから忘れちゃったけど‥
 ビジネスパートナーっていうのは、でも自分とラルシュの間にも言えるんじゃないか? そうすれば俺が誰と結婚しても国益を損ねない‥って思ったんだ。
 でもね、
 想像したら、凄く嫌な気持ちになった。
 ラルシュの気持ちを考えたら、自分の事を殺したいくらい嫌な奴だって思ったし、ラルシュの妻の気持ちを考えたら、俺のこときっと殺したいって思うだろうし‥
 それ以上に‥
 俺は‥ホントに急なんだけど‥ラルシュ以外と結婚したくないって思ったんだ。
 ‥変だよな」
 ナラフィス先生を見たら、ナラフィス先生は困惑したように‥苦笑いして、
「変じゃないって言ってもらいたいんだろ? そういういい方はズルいぞ、ヒジリ。
 まあ‥結論から言えば、
 別に変じゃない。
 それは単に「お気に入りのおもちゃを取られそうになって急に惜しくなった」じゃなく、「お気に入りの一つに過ぎなかったおもちゃが実は一番大事なものだって気付いた」っていうことだって思う。
 ‥ヒジリが色々考えてくれてよかった。
 マリアンちゃんや俺の話を自分の事として‥聞いてくれてよかった。
 あんまりマリアンちゃんと普通に遊んでるだけだから、「現実逃避か? 」「‥そもそも、無理だったのか? 」って思ったけど‥よかった。
 ヒジリにはちょっと急がせたかな感があったけど‥今はこういう事態だからね‥」
 って言ったんだ。
 ちぇ、相変わらず口悪いの!
 でも

 こういう事態なのに、俺の気持ちを考えてくれてありがとう。
 色々考える時間をくれて、ホントにありがとう。
 色々教えてくれてありがとう。

 ‥ホントに、有難う。
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