リバーシ!

文月

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十八章 ありのままのヒジリ

6.どうせそうなんでしょ? って決めつけて‥いじけてたのは寧ろ自分だった。

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「ナラーク先生! どうされたんですか? 」
 思わず弾んだ声が出て、自分でも驚いた。
 インテリ眼鏡がヒジリの頭をぽんと軽くたたくと
「なんでって。城に呼ばれたから」
 って肩をすくめる。
 そりゃそうだ。そんなことでもなけりゃ来ないわな。
 ヒジリが振り向いてラルシュを見ると、ラルシュが視線だけでナラフィスを見た。
 ああ、ナラフィス先生が呼んだのか。
 ‥なんで? 
 って考えてたら
「学校に「初等科時代のヒジリのことを一番知ってる人」って依頼したんだ」
 ナラフィスが言い、
「自分史を書くって言っても、ヒジリここでのこと忘れてること多いんじゃない? 」
 って付け加えた。
 ‥そうかも。
 って納得した。
 ナラフィスは更に
「いい機会かなって」
 って付け加えた。
 絶対‥俺の為とかじゃない。「面白そう」とか思ったんだろ?
 苦笑いするヒジリに
「何? ヒジリ自分史を書くの? ‥遺書か‥? 」
 ってインテリ眼鏡が真剣な表情で‥縁起でもないことを言った。
 そりゃね、おりゃあ皆さんの嫌われもんですよ。世界の災厄って恐れられてますよ‥。
「いや、‥嫌われてても強く生きろ。お前ひとりが犠牲にならなきゃいけないとか考えちゃ、ダメだ」
 まだいうか。
 (てか、何笑ってる。やっぱりさっきの「真剣な表情(笑)」はフェークだったか)
 でも、まあ‥。
 ‥「巷で言われて」は、ホントだろうな。
 分かってるけどねえ‥
 でも、‥いい気はしないねえ。
「‥ヒジリは巷ではどんな風に言われてるんですか? 」
 って‥ヒジリの気持ちを代弁するように‥聞いたのはミチルだった。
「君は? 」
 インテリ眼鏡がミチルを見る。
「ミチル。地球生まれのリバーシで、ヒジリの友達です」
 ミチルはにこりともしないで、軽く会釈して自己紹介した。
「そうか。ヒジリに友達が‥。そうか‥」
 小声で‥それこそ独り言のようにしみじみと呟くと、ヒジリを含めた周りの人たちを視線だけで見まわし‥
 ふわりと微笑んで、
「よかった‥」
 ホントに、しみじみと呟いた。
「‥ナラーク先生、老けましたね。昔はそんな顔するの‥見たことなかったです」
 ヒジリが呆れたように言った。
 が‥
 それが「ふり」ってことは、分かる。
 心配してるんだけど、それを素直に表情や言葉に出せないんだ。
 近しい人ほど、それが出来ない。
 ヒジリは素直じゃないんだ。
「そうだな~。お前があっちの世界に行っちゃってから、なんか「もう教師はやり切った」って感じがして‥そしたら、もう人生も「あとはボチボチ隠居するか‥」って感じになっちゃってなあ」
 インテリ眼鏡が苦笑いして肩をすくめる。
 なんそれ。
 隠居て。
「‥そんな年でもないでしょうに」
 ヒジリが眉を寄せると、
「年とかじゃなくな。
 ‥なんていやあいいかなあ。
 お前たち程面白い生徒はもう教えることがないって思うと‥教師してるのがなんか辛くなってきてな。
 なんていうか‥退屈でもあったし‥、なにより「こんな気持ちでこれ以上教えてても他の生徒に失礼だな」って思ってさ」
 燃え尽きたって奴か。
 ミチルはぼんやりそんなことを思った。
 ‥だからっていって、教師を辞めるのはどうかって思うけど‥。
 とも。
「‥教師辞めてどうしてたんですか? 」
「図書館職員。これ以上にない天職だって今は思ってる。なんせ、空き時間本が読み放題、研究し放題だ」
 ‥この人、ナラフィスと話しが合いそうだな。
 研究狂で学者馬鹿って感じ? 
 ミチルはこっそり呆れた。
 ふと‥
「先生は、どうしてヒジリとナツミだっけ? 魔法使いの女の子‥二人の教師を引き受けたんですか? 」
 それを聞きたくなった。
 だって、どう考えても当時から疫病神扱いされてたヒジリの先生とか‥貧乏くじ引いた~って感じに違いなかったはずだ。
 ‥きっと彼自身も教師仲間の中で浮いてて、押し付けられた‥とかに違いない。でも変わり者の彼は、案外「なんか面白そうだからいいか」って引き受けた‥って感じかな。
 それとも‥「あんな態度だけど、実は」で、可哀そうなヒジリたちを同情して‥かも。(こっちの方が、「お為ごかし」で嫌)
 そんな風に思ってた。
 だけど、インテリ眼鏡は思いの外真剣な表情でミチルを見ると
「私が魔力全調和タイプだったからっていうのが一番大きな理由だと思います。
 じゃないと、ナツミとヒジリを教えるのは無理でした」
 って言ったんだ。
 インテリ眼鏡が魔力全調和タイプってこと。
 ヒジリは勿論そのことを知っている。
 魔力全調和タイプってのは、つまり、何の魔力にも中てられない特殊なタイプってことだ。
 ‥そうだよね。先生が魔力全調和タイプじゃなかったら、この部屋なんて‥リバーシでも魔法使いでもない一般人には絶対いられないもんね。
 ヒジリは高濃度で大量の魔力の保持者。魔力量は落ちるが、それはミチルも同じ。そして、同じくリバーシのナラフィスとサラージ。高位魔法使いのラルシュだ。
 普通の人とか、ここに入った瞬間、絶対気絶する。(以前、ヒジリの両親が城に来た際は、空気清浄機ならぬ「魔力調整機」で凄く調整したが、今はしていない)
 因みに調整してもらったにも関わらず‥両親は帰ってから二三日調子が悪かった。‥あの時は大変だった。
 苦笑いしたのは、ヒジリだ。
 インテリ眼鏡は、ミチルを真っすぐ見ると、
「ヒジリとナツミを教えるのは、あの頃‥貴方が想像してるような「不運職」じゃなかったんですよ」
 口元に微笑を浮かべて言った。
 因みに目は全然笑ってない。
「‥そういう風な決めつけは、ヒジリに失礼ですよ」
 って付け加える。
「あと、当時の同僚にもね。
 地球生まれのリバーシである君が、地球で今までどんな嫌な目にあって来たかは‥私は知りません。
 リバーシであるという理由で君を「そういう目」で見る人たちがいたのは‥気の毒だとは思います。だけど、私や当時のあの学校の教師たちは少なくともそうじゃなかった。
 寧ろ、争奪戦‥みたいなところはありましたよ。
 だって、何より興味があるじゃないですか。そりゃあ、学問を生業にする者たちですから!
 だけど、物理的に「普通の人」には無理ですからね」
 にっこりと微笑む。
 その時ミチルは
 ‥そうか、この国でリバーシはあっちの国(地球)とはちがって普通に認識されてるんだ。
 って思い出した。
「そりゃね。今も巷ではヒジリのことを恐れてる人たちも多い。当時も確かに‥生徒たちはヒジリのことを恐れていた。‥でもそれは、物理的に「魔力が強すぎて怖い」ってことだ。別に、噂に惑わされて‥とかじゃない。
 だけどね、私たち教師にとっては、ヒジリは可愛い生徒の一人でしたよ」
 それを聞いて、ボロボロと涙を流したのはヒジリだけじゃなかった。
 ミチルもまた
「よかった‥良かったな! ヒジリ」
 ってボロボロ泣きながらヒジリの手を取った。
 お互いに手を取り合いそのままひとしきり二人で大泣きした後(その間他のメンバーはあっけに取られて? 見守っているだけだ)

「ヒジリの「私の‥学生時代のことを聞かせてください」」
 ミチルとヒジリがインテリ眼鏡を真っすぐ見つめながら言った。
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