リバーシ!

文月

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十八章 ありのままのヒジリ

7.ナツミとヒジリとインテリ眼鏡。

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 学生時代のこと聞かせて! 

 とか‥自分でよく言ったな。
 ってインテリ眼鏡が話し始めて数分ってか‥秒で思ったね。
 学生時代のことなんて‥ほとんど覚えちゃいないけど、覚えてる分で既に黒歴史だっただろ?! なんで俺は皆が居る前で聞きたいとかぬかしたんだ!!
 あとでこっそり聞けば済むことだろ?! 
 さっきちょっと感動して‥そこらへんのとこ馬鹿になってた。
「お~し! オッサン、今日は気分がいいから皆に奢っちゃうぜ~! 」
 って大盤振る舞いして、あとで嫁さんに叱られるやつやん。

 その場の勢い、良くない。

 初めはね、そりゃ悪くなかった。(別にいい話だったわけでは無い。問題が無かったってだけだ)
 正直‥「予想通り」だったし「想像つくわ~」って感じだった。

 他の生徒たちが怯えるから‥&普通に(魔力にあてられ? )調子が悪くなる者続出&ナツミが喧嘩売った‥で、教室を「追われるべくして」追われた俺とナツミ。
 初めは‥正直勉強にならなかった。
 なんせ、リバーシと魔法使いだ。
 普通の子どもは、基礎学力を全部勉強し終えて10歳になったら魔力測定を受けて適正を調べる。そこで「魔法の素質あるかも」って分かれば‥その後魔法の勉強をする。
 調べないと魔法の素質ってのは絶対分からないんだ。
 その後、簡単な‥ホントの基礎の魔法‥例えば火の属性だったら「小さな火をつける」方法‥を教えてもらい、それを立ち合いの下で練習して、自分の素質を「自覚する」。
 つまり、自分なりの「コツ」を掴む‥的なモノらしい。
 ここで‥「調子に乗って魔法を悪用する」のを防ぐために、何かしらんんが偉い人がその子の魔法を封印する。‥これが魔法学校に入学した後にすること。
 インテリ眼鏡も俺も勿論魔法学校に入学したことなんてないからここら辺のことは「そういうもんらしい」としか知らない。
 だからナツミは正式に言うと当時は魔法使いだったわけでは、勿論ないんだ。
「魔法使いの才能がある子供」ってだけ。
 だけど、これはかなり凄いことなんだ。
 生まれた時に「魔法使いの才能」が既に分かる。それは、結構「ちゃんとした」神官が調べたって証拠。
 そこらの(っていったら悪いけど)見習いに毛が生えた程度の神官だったら、そこまでのことは分からないからね。
 ナツミが生まれた時、ナツミの家には「ちゃんとした」神官が調べに来た。
 それは、ナツミが王家にも連なる紫の瞳をしてたってことがきっと関係してる。
 俺の場合は、父親が「時の属性」を持ってたからだろうね。
 だけど、きっと俺の場合だったら‥見習いに毛が生えた程度の神官でも「こいつは‥普通じゃない! 」って分かっただろうな。
 で、無駄に大騒ぎして上にめちゃ叱られる‥っていうね。

 ナツミは物心ついたときにそのこと‥自分が魔法使いの素質があるってこと‥を知り、初等科に行く前に「絶対魔法使いになる! 」って決心して独学で魔法の勉強なんかを始めてたような「意識高い系」の危険な子供。
 そこには勿論「正しく知識を理解し、順を追って学ぶ」っていうプロセスなんてない。なぜって、子供だから。‥別にナツミの性格が悪かったわけではない。
 子供だから、怖いもの知らずで、好奇心が旺盛だった。そして、ナツミは子供なのに、飽きっぽくなく集中力が高めで、向上心が高かった。
 出来そうって思うことを片っ端から試し、勿論失敗しまくって怪我したり、時には家に大穴を開けたり、近所の犬に吠えられまくったり(※怪しい人物がいれば、吠えまくるのが犬ってもんだよね)‥っていう超問題児だったらしい。(← 想定内)
 勿論、犬に吠えられようが、元々ぼろな家に(ナツミ談)穴が増えようが‥ナツミには関係なかった。(ナツミ談)「出世払いすれば問題なしだわ」(ナツミ談)らしい。
 かたや俺は‥「取り扱い注意な危険リバーシ」として、初等部で勉強するより前に、魔力操作だけを徹底して家庭教師に教えられてた。その家庭教師ってのが‥「理論とかいいから、とにかく変なことはするな。魔力をとにかく出すな」ってことだけを集中して教えた様だ。まあ‥怖いだろうしね(← これも想定内)
 そんなヤバい奴らが出会ってしまってさあ大変。
 だけど、それは偶然ではない。‥近づいたのはナツミからだろう、とインテリ眼鏡は予想しているらしい。
 当時から大分打算的で計算高かったナツミは「これは使える」って思ったのだろう。(インテリ眼鏡考)

「そんな感じ‥ヒジリにも感じた? 」
 ミチルがヒジリに聞く。
 ヒジリが首を振る。
「ナツミは可愛い子だったよ」
 ‥可愛いは、関係ない。だけど、性格も含めて‥だろうな。この場合。
「でも、‥確かに計算高いタイプではあった」
 計算高いってか、賢かった。 
 ヒジリが言うと、インテリ眼鏡が頷く。

「魔力の基礎を話せば‥ナツミはすいすいと理解するのに対して‥ヒジリは全然理解できなかった」
 う‥と固まるヒジリ。「想定つくわ~」な思い出話が、「黒歴史暴露」に変わっていく予感がして‥ヒジリはインテリ眼鏡にそれとなく「まあ‥その話はもういいじゃん」と促そうとした。
 インテリ眼鏡は気にせず話を続ける。(きっとヒジリの訴えには気付いただろうが‥だ)
「コイツは頭が悪いのか‥と内心ウンザリしてたんだけど、次の日にはちゃんと覚えて来る。一回で覚えるタイプではなかったけど、努力は出来るタイプだった」
 それは‥まあ。ね。今でも、そう。大事なのは努力だよね。理解力とかは‥あれだ。生まれつきのもので仕方がないからね。
 ヒジリが苦笑いする。
「ナツミとヒジリは時間の概念ってものがまるで違ってたね。ヒジリは「この場で覚えきれなくても時間は山ほどある」って態度がやっぱりどこかに見られたけど‥ナツミは「今覚えなければ」って‥学習に対する熱意から違ってた」
 ‥それは‥ちょっと否定できないかなあ‥。
「それはでも、ヒジリがリバーシでナツミが魔法使いである以上仕方がないことなんだ。
 リバーシは、時間も魔力も有り余るほどあるけど、魔法使いはそれらが両方少ない。だからより時間と魔力を効率よく使うかが最重要課題となる。ナツミは常にそれを考えてた」
 それは‥ラルシュもそんなこと言ってたなって考えながらミチルは頷いた。
 時間も魔力も無いけど、頑張っちゃう。無いからこそ、頑張っちゃう。どっちも無限にあったら「いつでもいいか」って思っちゃう‥よね。
 ミチルは自分を振り返りちょっと反省した。
「二人は全くタイプの違う生徒だった。
 ナツミの場合は「失敗した。もう一度やり直してみよう‥」「そもそもなんで失敗したんだ? 」って成功するまでチャレンジするタイプ。そして、失敗したことから何かを得ようとしてた。一方のヒジリは「失敗した」「じゃあ、次」「方法を変えてみよう」ってタイプだった。一つのことにこだわらなかったね」
 う‥。それは‥まあ。そう。根気強い‥ってタイプでは無かったな。色々考えることは好きだけど、どちらかというと「より新しいこと」を発想する方で‥俺は失敗から学ぶってことしない子どもだった。
 ヒジリが再び苦笑いする。
「だけど、それもリバーシと魔法使いの違いから来ている。
 魔法使いは何かをしようとした時‥初めから「これはこういうもんだ」っていう答えが分かる‥らしい。分かるけど、それがなぜそうなるかは分からない。「なるほどそういうことか」って風に、それが自分の中で腑に落ちたらそれを自分のモノにできる。逆に、自分の中で腑に落ちない知識は自分のモノとして使えない‥らしい。先生は魔法使いではないから、そういう感覚は分からないが、魔法使いはそういうものらしい」
 そうなの? って全員の視線がラルシュに集まる。
 そういえば、このメンバーでラルシュだけが魔法使いだから。
 ラルシュが「‥そういうところはあるかも」って頷いた。
 インテリ眼鏡が話を続ける。
「リバーシも含めた魔法使いではない者はそういうことがない。「答え」を知らない。
 というか‥「答えを知っているから」魔法使いは魔法を使えると言える。
 魔法使いが特別なのはその為だ。
 だけど、魔法使いはそれ故、新しい発想を考えるって発想がない。
 正解が分かっているのに、それ以上何を考える必要がある? そんな魔力は‥ないってことなんだろう」
 ラルシュがまた「そういえばそうかも」と頷く。
 ‥そうなんだ。
 ラルシュ以外のメンバーは全員「へ~知らなかった」って風に納得した。
「ナツミの実験は「あらかじめ知っている答えにたどり着くための過程」で、ヒジリとは根本的に違っていた。ヒジリ答えを考えることがスタートだったんだ」
 そんな風に聞くと‥魔法使いはカンペで答えをあらかじめ渡されてるように聞こえるな。
 ズルい!
 でも、‥あんまりおもしろくないかも。
「魔法使いとリバーシの違いはそれだけ? 」
 ミチルは「リバーシと魔法使いの違い」に興味を持ったらしい。話はいつしか思い出話から大きく脱線していくのだった。
 だけど‥まあ、思い出話とか恥ずかしいから、ヒジリ的には「welcome! 」なんだ。
「欲望の持ち方っていうか‥欲望の性質が違う。
 魔法的な欲望は「直接的」なのが特徴なんだ。「これをこうしたい」。「直接的」でかつ「現実的」。そういう強い願いじゃないと魔法は発動しない。
 こういうことしたい、っていう「ふわ~」っとした欲望じゃダメ。
 だけど、新しい発想っていうのは「こういうのしたらおもしろいんじゃない? 」「こういうことしてみたい」ってふわ~とした欲望から生まれる。「この世にはまだない」ことを発想する‥そういう想像力から生まれる。
 魔法使いはそういうことが苦手なんだ。
 だけど、魔法使い以外がそれを確立し、魔法使いもそれが新しい真理だって認めたら知識として吸収できるんだけどね。
 発想の柔軟性は魔法使いにはないね。
 子供の頃のヒジリは魔法を万能のものだって思ってたみたいで、努力すれば魔法は使えるって信じてたよ。だけど、ヒジリが発想した「魔法っぽいもの」は全部スキルっぽい状態異常だった」
 何もないところから水を出すのが魔法。「空気中から」水を精製すること‥原子の変化は状態異常で、それをシステム化すればスキルになる‥そういう感じ。
 ヒジリは魔法を使おうと思って努力して‥いっぱいの「魔法っぽい」スキルを発明した。
「ヒジリがいろんな発明をすることが出来たのは、魔法使いのナツミのマネがしたかったからだし、ナツミが沢山の知識を得ようとしたのは‥ヒジリに負けたくなかったからだ。
 お互いにいい影響を与え合ってた‥いわば「いいライバル関係」だった。
 ヒジリはナツミが常に一歩前にいるって感じてただろうけど、ナツミはずっとヒジリにがっかりされたくないって焦ってた。
 その焦りを先生は‥甘く見ていた」
 ナツミはインテリ眼鏡がに、ヒジリに負けたくなかったし、負ける恐怖におびえていた。そして‥あの凶行にでた。
 そして、すぐに自分の行動を後悔しラルシュに助けを求めた。
 
 これが、あの「ナツミの裏切り」の背景だったんだ‥。
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