リバーシ!

文月

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十八章 ありのままのヒジリ

8.一時の気の迷い

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「‥先生はそうだと思ってる。
 言うなれば‥焦りが高じて‥一時の気の迷いってやつだな。
 あの時はナツミも子供だったから、ことの重大さが分かってなかったんだろう。
 先生はね、ナツミが「ヒジリが死んでも構わない」って思ったとは‥絶対思わないんだ‥」
 教え子だから信じたいんだ。
 ってインテリ眼鏡は眉を寄せた。
 反政府組織によるヒジリ誘拐未遂事件については、聞いていた。
 それに関わっているヒジリの友人の存在についても‥ゴシップ雑誌は嗅ぎつけて、面白おかしく書いていた。
 
 反政府組織に所属してることも知っている。反政府組織がヒジリの事狙っているってことも‥わかる。
 だけど、世間が何と言おうとも、自分まで一緒になってナツミの事悪く言いたくはない。
 だって‥彼女は可愛い教え子だから。

 ナツミのホントのことを知っているわけでは無い。
 そうだと思う‥そうだったらいいな‥そう信じたいって思ってるだけ。
 実際のところ、ナツミはヒジリに対して嫉妬なんかしていない。
 ナツミがヒジリに嫉妬しているのかも‥って思った地点で、彼もナツミのことを誤解しているんだ。
 だけど、ナツミの普段のヒジリに対する態度やナツミの性格からしたら‥それも仕方がないことにも思える。

 ナツミのこと、信じたい。
 その気持ちはヒジリにも分かった。そして、隣で心配そうに俺を見ている仲間たちの気持ちもまた‥分かった。‥ヒジリは「そうですね」とだけ言って頷いた。
「ナツミに‥そうするように影で操った‥というか‥そそのかした奴がいるんだと思う。
 おれ‥いや、私はそれが反政府組織の人間じゃないかって考えてる。
 そして‥罪の意識とかで孤立したナツミに手を差し伸べたのも‥奴ら。
 いや、奴らが孤立させたのかもしれないな」
 ヒジリは思い付きを口にしただけだけど、それがどう考えても「正解」に思えてきて‥腹が立ってきた。
 許さん、反政府組織! って‥証拠もないのに憤った。
「‥何のために? 」
 サラージが冷静にツッコミを入れる。
「何のためにって。だから、俺を拉致するために‥」
 サラージがイラっとした表情を一瞬見せる。
「そこはいい。俺にも「なぜナツミをそそのかしたか」は、分かる。だけど、何のために今も‥「利用価値のなくなったナツミ」をかくまってる? 気になったのは、そこ」
 ああ、‥そういえば確かに。
 面倒だから放っておくよね、普通。
「ナツミが何か奴らの計画を知っていて‥それを誰かに話されない様にするために恩を売って囲い込んで‥見張る‥的な? 」
 ミチルが提案する。
 なるほど、だけど‥子供に「知られたくない秘密」とか語るか? 
 だけど‥恩を売って囲い込んで見張るってのは‥あり得るかも。
 あとの可能性としたら‥
「彼らにとって‥ナツミにその価値があった? 」
 って言ったのはナラフィス。
 そうそれ。
 ヒジリが大きく頷く。
 俺もそれを思った。
「価値‥」
 ラルシュが反芻して‥当時を思い出す。
 あの時‥ナツミがどんな様子だったか‥とかそんなことを思い出しているんだろう。
「例えば‥あ、あれ。
 反政府組織の主要メンバーの内の誰かの専属契約者‥「特別」っていうんだっけ? ‥だった。‥とか? 」
 ボソリ‥とミチルが呟く。
 ミチルはカタルに「特別な相手」認定されてたから、それを思い出したんだろう。
 めっちゃ嫌そうな顔をしている。
 だけど‥すぐに
「あ‥でも違うか。あれって、魔法使いには分かるけど、リバーシ側からは分からないんだっけ? 」
 思い出して、撤回した。
 じゃあ違うか‥
 ヒジリも頷いた。
「単純に、ヒジリと近しいから‥だと思うよ」
 ナラフィスが眉を寄せて、不機嫌そうに言う。
「ヒジリを手に入れる為に騙したんだろうよ。もしあの時失敗しても、紐をつけておいて‥いつかはヒジリを釣る為の餌にするために‥味方だよアピールをして近づいた」
 ナラフィスの意見に同意したサラージも、不機嫌そうに言った。
 そんな二人に頷いて、
「卑怯な奴らだ。‥自分の目的の為に、子供たちの純粋な友情まで利用するなんてな」
 不機嫌MAXなのは「生徒想い」なインテリ眼鏡だ。
 今日一日で、インテリ眼鏡の印象が随分変わった。
 なんだかほっこりするヒジリだった。
「にしても‥今でもナツミがそこにいるとしたら‥他の意味があるのかもしれないな。
 きっかけは、皆がさっき言ったように‥「ヒジリをおびき寄せる餌にする」だとしても、今、その価値がないってなってもナツミはそこにいる」
 ボソリと呟いたのはナラフィスだ。
 ナラフィスは俯き腕を組むと、
「‥ナツミが居る‥のはナツミの意志だとしても、それを許しているのは‥反政府組織。
 カタルとか‥だ。
 ナツミが「居たい! 」って言っても、カタルとかが許さなかったらいることはできないよね?
 だけど、追い出されてないってことは‥」
 何かあるってことだろう。
 と続けた。
 誰に話しかけるでもなく‥だけど、明らかに「誰か答えてくれ」って不特定多数の人間に問いかけている。


 ナラフィスナツミの価値について考える。
 (sideナラフィス)


「魔法の才能が凄いとか? 」
 ぼそっとヒジリが答える。
 ナラフィスが頷く。
「成程? 」
 ヒジリは、ナツミガチリスペクト勢だからね。
 ここは「そんなわけあるか」って突っ込まず、
「魔法学校でそれは調べてみよう。あとは? 」
 兎に角色んな意見が聞きたい。
「さっき言った、誰かの特別だから」
 って言ったのは、「カタルの特別(カタル談)」ミチルだ。
 「誰かの特別」は自分だけじゃないって思いたいんだろう。
「‥それは調べようがないな。でも、可能性としてあるかも」
 取り敢えず、調べようが無いから保留。
 次。
 ちらりとインテリ眼鏡を見ると
「知りすぎた‥的な? 」
 首を傾げて、「つまんない意見」。
 がっかり。
 もうちょっと面白いこと言ってよ。
「‥その先、殺されるとか、捨て駒にされるパターンしか考えられないな。でも、可能性としてありそう」
 だけど、「がっかり、アンタおもろないわ」とは言わないのが僕の優しさ。
 インテリ眼鏡は気を良くしたのか、
「王家の血がちょっと混じってるから? だって‥ナツミは紫の目をしてたもんね? 」
 ドヤ顔ってか‥「そういえば! 」って顔で言った。
 いや、別に今まで誰も気づいてなかった‥とかじゃないよ??
「‥そんな人間は‥でも、そう少なくない気もする」
 僕とかも、普通に城外で暮らしてるでしょ? 母さんん平民だし。
 でも‥
 成績も含めて、ナツミの魔法学校での様子は‥そういえば、調べてないな。
 まずはそこから調べていこう。
 
 表情を硬くするが‥でも、新しいことを調べることが楽しみな根っからの研究者・ナラフィスだった。
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